※この作品はR-18です。

ヴィラン、夢を観る   作:偏在読者

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第二話

 ――――遠くから電子音が聞こえる。

 深い水底から浮かび上がるような浮遊感と共に、少しずつ大きくなるアラームの音。まだ寝ていたいと反抗する重い瞼をなんとか開き、音のする方へと手を伸ばす。

 

 何度かの葛藤の末目覚まし時計を止め、ベッドから脚を投げ出して体を起こし大きな欠伸をする。ぼやけていた思考が少しずつクリアになっていくと、ふと股座に違和感と不快感を覚える。

 

 ――――ああ、まただ。

 

 履いているパジャマのズボンにはお漏らしをしたようなシミが出来ていて、ぺっとりと体に貼り付いている。パンツなんて少し触っただけで滲み出るほどだ。幸いなのか布団のほうは少し濡れてはいるが自然乾燥でどうにかなりそうなレベルで済んでいた。

 

 ここ数日、毎日のように夢を見る。学校の最寄駅近くのお店で働いている男の人とエッチなことをする夢。初めて見たときは特別記憶にも残らなかったし、街ですれ違う通行人と同じ程度としか認識していなかった。

 

 けれど彼は毎日のように夢の中に現れ、様々なシチュエーションで私に告白をしてエッチをする。まともに会話さえしたことがない相手なのに何故か私は強く拒むこともできず、夜眠る前には彼のことを考えながら一人エッチもするようになってしまった。

 

 もしかしたらこれが好きっていう気持ちなのかもしれない。そう考えるだけで夢で見た彼の顔がチラつき、顔が燃えそうなほどの熱と共にお腹の奥がズキズキと何かを訴えてくる。体の奥が求めている何かを探るように夢の中での出来事を思い出しながら、恐る恐る股間に手を伸ばす。

 

「三奈ー!? まだ寝てるのー? 早く起きなさーい!」

 

 一階から聞こえた母の声で熱くなっていた頭が冷水を浴びせられたように一瞬で冷え、自分が行おうとした行為を認識して桃色の肌が羞恥で赤く染まる。

 

 慌てて時計を確認すると、長針がいつもより30度以上も傾いている事実に驚愕し、急いでパジャマを――もちろん湿っている下着も併せて――脱いでいく。ベッドから起き上がり履いているズボンを下ろすとずっしりと重く、寝ている間にどれだけ濡らしてしまったかが分かってしまうのがとてつもなく恥ずかしい。

 

「三奈ー!! いい加減にしなさーーい!!」

 

「起きてるって! 今着替えてるからちょっと待っててようるさいなー!」

 

 こうなってしまった初日は恥ずかしさが限界突破しなかなか一階へ降りることができなかったが、幸いと言っていいのかここ数日はほぼ毎日こんな状態なので母への言い訳も慣れてきているのが恐ろしい。

 

 そのうち何かしらの対策を取らないと毎日パジャマを洗濯していてはすぐダメになってしまいそうだ。……それにお漏らしが治ってないみたいで非常に恥ずかしい。

 

 ボーッとしすぎたせいで時計の長針がさらに進んでいる。このままではまずいと頭を切り替え、急いで新しいショーツを履いて学校の制服に着替えると、寝汗とは別の液でぐしょぐしょになったズボンとショーツをできるだけ小さく包んでカバンを手に取り急いで一階へ降りる。

 

 ドカドカと階段を飛ばし飛ばしに降りて洗面所へ向かうと、急いで歯を磨き、寝癖を整えてリビングへと向かう。机の上には好物の納豆と湯気の立つ白米に味噌汁が添えてあるが、今から食べ始めては電車の時間に間に合わないと誘惑を振り切り、台所にある食パンを1枚手に取ると適当にジャムを塗りたくって玄関へと向かう。パンを口に咥えながら鞄の中身を確認し終える頃に母が玄関まで見送りに来る。

 

「行儀悪いわよ三奈。一流のヒーローになるんだったら私生活からしっかりしなさい。朝はちゃんと起きて、しっかりと朝ご飯食べて……あとちゃんと個性もコントロールして」

 

 ここ数日毎朝言ってくる母の煩い小言を聞き流しながら靴を履いてたのだが揶揄うような声音で告げられた最後の言葉にビクリと体を硬直させる。途端部屋の温度が上がったかのように体中が熱を帯び、顔を背けながら母の声を塗りつぶすように言い訳を紡ぐ。

 

「わかってるってば!! 雄英で個性の練習したら出るようになっちゃったんだからしょうがないじゃん!! アタシだってヤだよ!!!」

 

 ――――そう。母への言い訳として個性が強化されまだ扱いきれてないということで誤魔化してはいるが、この言い訳を初めて口にした時のあの生暖かい全て分かってると言いたげなにやけた顔で見られるとどうしても面と向かって抗議することが出来なくなってしまった。

 

「いってきます!」

 

 怒りを露にしたような声音であいさつを済ますと、心の中で母に呪詛を吐いて振り返ることなく扉を開き、駅に続く道へと走り出した。

 

 

***

 

 

 家から全力疾走してギリギリ電車に飛び乗った三奈は、何とか遅刻しない時間に雄英高校前駅に到着することが出来た。ここまで来れたならばこれ以上急ぐ必要もないとゆっくりと雄英高校へ向かっていると、夢に出てくる彼が働いているお店が目に入る。まだ開店前なのかシャッターが下り、立て看板も仕舞われて閑散としている。

 

 彼の顔が見られなかったことに少しばかりの寂しさを感じつつも視線を前方に戻すと、見覚えのあるキューティクルが特徴的な黒のおかっぱが欠伸をしながら歩いているのを発見する。

 

 確か今日はヒーロー基礎学があったはずだと気合を入れなおし、同じクラスの友人のもとへ走り寄って声をかける。

 

「おはよう耳郎ちゃん! 眠そうだね、夜更かしでもしてたの?」

 

 後ろから三奈に声をかけられた響香は、目に涙を浮かべながら何かを誤魔化すかのように目を逸らした。

 

「ん、おはよ。いやちょっと音楽聴いてただけ! ホント!」

 

 三奈から見ても動揺しているのが手に取るように分かったが、この話を続けて自分にも追及の矛先が向くと良い結果にならないだろうと話の内容を変える。

 

「そっか、居眠りしないよう気を付けないとね! それよりも今日のヒーロー基礎学ってまた模擬戦かな? 前回はヒーロー側だったから今度はヴィラン側やってみたいなー!」

 

「うーん、次やるとしたら戦闘以外の訓練の可能性もあるよね。レスキューの訓練とかありえそうじゃない?」

 

 追及が無かったことに安堵した響香は夢の中で見た災害現場での訓練風景を思い出す。妙にリアルな夢だった気がする。確か山岳地帯で人質を取られて手も足も出なくなって、結局人質を救出する前に目が覚めてしまった。実際にあの場面に遭遇した場合、自分はどうするべきなのかをしっかり考えておくべきかもしれないと思索に耽る響香。

 

「レスキューかぁー……戦闘以上に難しそうでちょっと心配だなぁー」

 

 自分の個性で出来ることを考えながら難しい表情をする三奈。二人とも考えに沈んでしまいそうになった瞬間、彼が自転車に乗ってこちらへ向かってくるのに気付き思考を辞め無意識に目で追ってしまう。まるでシンクロしたかのように二人の首の動きは揃っていた。

 

「……ねぇ耳郎ちゃん! 帰りまたあのお店寄ってこ! 他の女子も連れて」

 

「いいよ。あそこのお菓子美味しいよね。」

 

 示し合わせたかのように視線を合わせ、放課後の約束を取り付けた二人であったが、この日雄英ヒーロー科1年A組はヒーロー基礎学の時間にヴィランの襲撃を受けることとなる。

 

 ヴィラン相手に苦戦しつつも勇敢に立ち向かう生徒が居た中、全てを知っていたかのように隠れて電波障害を起こしていたヴィランを拘束し、教員へ応援要請を行う貧乳の少女の姿があったとか。




お久しぶりでございます。

コメントをくださった皆様、お待ちいただいた皆様ありがとうございます。
遅くなってごめんなさい!
なかなか文を書くのが難しくて書いては消しを繰り返した結果、えっちな部分がなくなりました。

短いですがこれ以上書くことが思い浮かばなかったのでこれで勘弁してください……
1話で何万文字も肉付けされる作者さんは凄いです。書いて読んで無駄な部分を消すとどうしてもスリムになってしまう……
そこらへんにコツがありそうなんですが、私が掴むのはかなり長い道になりそうです。

次こそは耳郎ちゃんを予定してるのでまた気長にお待ちいただけると幸いです。
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