「君の名は?! ジャギ!!」略して「君ジャギ」 西… 作:高尾のり子
また、この作品は既にR18としておりますが、今回はよりマニアックな性癖の表現が含まれますし、これらを否定していません。
読んでいただけることは励みになります。よろしくお願いします。
2020年10月18日の夕方、市町村合併の是非を問う糸守町町議会議員選挙の投票日に、三葉は夫の勅使河原克彦と選挙事務所にいた。事務所は普段は農業倉庫になっているけれど、俊樹が町長選挙のさいに使うこともあって選挙事務所としての立派さは他の候補をしのいでいる。多数のパイプ椅子が並び支持者と運動員が談話しつつ時間を過ごしている。テーブルには本来は公職選挙法違反の疑いがもたれる寿司の出前やヤカンに入ってお茶のようにカモフラージュされている酒もあり、すでに軽い飲み会の雰囲気になっていた。
「「…………」」
ひな壇の上に置かれたパイプ椅子には三葉と克彦が座っていて、まるで結婚式を思い出すような位置関係だったけれど、これが結婚式ではないのは背後が金屏風ではなく、必勝と書かれた応援メッセージと三葉の笑顔を撮って修正加工もした選挙ポスターが並び、片目のダルマが鎮座していることで痛いほどわかるのに、それでもやっぱり町民たちは結婚式のことを思い出してヒソヒソと会話している。話題は東京で結婚式をあげた四人が、すぐに離婚してしまい、今は三葉と克彦が夫婦となっていることで、これまで何度も何度も世間話の話題になったことだった。町の人間全員が三葉と早耶香、克彦の三人が子供の頃から仲が良かったことを知っているし、不倫のことも知っている。
「あと一時間か」
俊樹が腕時計を見てつぶやいた。夜8時で投票は終わり即日開票となる。人口の少ない町なので1時間もなく当確が出るはずで、定数7に対して8人が立候補し、うち三葉を含む4人が合併に反対、残り4人が賛成という、まさに町を割る選挙だった。事前の予想では合併反対が8割を超えるものの、三葉の不倫や俊樹の多選に対する批判票と選挙運動中の入院などの不安要素が大きくなっている。
「長い一日やな……」
克彦が居心地悪そうにパイプ椅子から立ち上がり、やや離れたところにいた俊樹に近づいて耳元で問う。
「お義父さん、ずいぶん豪華な寿司が並んでるけど、腐敗や言われんでしょうか」
「それは大丈夫なはずだよ。他の候補もやっていることだから。三葉だけ吊し上げるわけにはいかないから、問題にすれば、すべての候補が選挙違反ということになる」
「………それを腐敗、言いませんか? 何年か前、富山県の議員もえらいことなって、辞職の連発でしたやん。ヤカンの中、お酒なんでしょ?」
「うむ、あれは誰かが勝手に持ち込んだもので、私たちは感知していない。持ち物検査をしているわけではないからね」
「えぇぇ……裏で、オカァが日本酒を入れてるの見たんですけど」
「見間違い、記憶違いだと思いなさい。田舎の選挙とは、こういうものなのです。胸を張って堂々としていれば大丈夫」
俊樹の表情は穏やかなのに目が怖いので克彦は黙ることにした。克彦がパイプ椅子に戻ると、動いたことで町民たちの話題も克彦のことになる。
「テッシー、お前、なんで、そんなボロボロなん? 夫婦喧嘩でもしたんか?」
かつての同級生が笑いながら訊いてくる。克彦は顔や腕、全身にアザがあり、どう見ても殴られたり蹴られたりしたような様子で絆創膏などを貼っていた。
「階段で転んだだけや」
本当は4日前の朝、登校中だった四葉とすれ違ったさい、眉毛が気に入らないという理由でタコ殴りにされたのだったけれど隠している。ただ、すれ違っただけなのに四葉は、貴様のその眉毛が弟に似ている…と忌々しげに言ってきた。義妹から弟に似ていると言われて、何が何だかわからないうちに立てなくなるほど打ちのめされていた。むしろ、克彦と司は兄弟なので顔は似ているけれど、眉毛だけは違うというくらいで、太い眉の克彦と細めの司は有名だったのに四葉は蹴ってきた。克彦は蹴られながら、たぶん三葉と不倫の末に再婚したことが気に入らないのだと解釈して誰にも被害は訴えていない。克彦の反応が面白くないので町民たちの話題は別のことへ移る。
「それはそうと最近、四葉ちゃんの様子おかしなかったかいな」
「しーっ…3日前から入院しとうよ。意識不明やて」
「あれま? 入院しようとは三葉先生の方やないとか? 今は座ってはるけど、やつれてはるし。選挙ちゅーんはプレッシャーなんやねぇ」
「やつれはって高校生やったころみたいにシューとしてはるね。この前までは、ちょっと太りすぎやったけん選挙ポスターも修正されとるけど、今なら無修正で絵になるわ」
町民たちはヒソヒソと話しているつもりだけれど、なんとなく何を言われているか、三葉たちの耳にも響いている。
「三葉先生、いっときは危篤やてドクターヘリが来とったらしいよ」
「ああ、あのときのヘリ」
「ほんで、次は四葉ちゃんが入院て、かわいそうにねぇ。お母さんも早かったし。家系なんかねぇ」
「いやいや一葉さんはピンシャンしてはるし。そういや一葉さん、やっぱり事務所に顔だしはらへんね。町長選のときも知らん顔しはるし」
「四葉ちゃんも姉ちゃんの立候補が気に入らん顔してはったらしいよ。えらい荒れてたて」
「まあ、高校生ちゅーんは、そんなもんじゃろ。三葉先生かて、その時期はツンとしてはったし」
「四葉ちゃんの荒れようは、ひどいらしいて。男の子とまでケンカしたり、うちの子が言うてたけど、授業中も机に足あげて教師を睨んでたて」
「あの子て、学年トップやんね」
「勅使河原さんとこの司くんとトップ争いしとうくらい賢い子ね」
「よっぽど、姉ちゃんの立候補が気に入らんかねぇ」
「立候補だけやのうて、不倫ちゅーのが若い女の子には許せんやろ。気難しい時期やもん」
「いやいや、ここだけの話、うちの爺さんが見よったんやけど、糸守神社で、その司くんと四葉ちゃんがチョメチョメしとうたらしいで」
「チョメチョメか?」
「チョメチョメや、神社で」
「ええのぉ、巫女さんとかぁ」
「あんた、なにアホなこと言うてんの!」
少しでも面白い話題は、すぐに町全体に広まる。こんな風に集まって時間をつぶすことしかできないときは、とくにだった。
「………」
三葉は黙って前を見ている。今は選挙の結果より、四葉の容態が気にかかる。息をしなくなった妹へがむしゃらに人工呼吸したおかげなのか、すぐに自発呼吸は取り戻してくれたけれど、いまだ意識は戻らない。もう3日になる。入れ替わりのようなものなら、せめて24時間で回復してくれるかと期待したけれど、2日目になっても、3日目になっても呼びかけても、頬を撫でても起きてくれない。当初、何かと戦っているかのように手足をバタつかせて殴ったり蹴ったり掌打を放つような動作がみられたけれど、今は手足に力はなく、ぐったりと動かなくなっている。
「………四葉…」
毎日、少しは見に行っているけれど、選挙期間中ということもあって一葉と沙耶香、司が見ていてくれる。今も見に行きたい気持ちを耐えて座っている。そして、もう一つ、駆けつけたいところがあった。
「……サヤチン…」
謝りたい。謝りに行きたい。高校時代に入れ替わった男性と東京で再会した日、感極まってキスをして、キスをするうちにお互いの服を乱し合って、路上で性交しかけていたところを通りがかりの女子高生に笑われて、最寄りのラブホテルで交わった。その日のうちに結婚しようと言い合って式場巡りもしたけれど、東京の素敵な式場は予約が埋まるのが早くて見つからなかった。そんなとき、すでに予約していた克彦と早耶香が、いっしょに挙げないかと提案してくれた。二人も占いでは来年に延ばした方がいいと言われたらしいけれど、東京のせわしなさと冷たさ、それぞれに部屋を賃貸する家賃の高さに疲れていたこともあって早めていた。四人で最高に幸せな結婚式をして、その翌日に克彦と早耶香はハワイへ発ったけれど、三葉たちはパスポートが間に合わず、予算的にも厳しかったので、来年行こうね、と約束して、それぞれの会社へ出勤した。そして三葉は寿退職する都合もあって帰りが遅くなり、10時過ぎに新居へ戻ったら、タバコの匂いがした。あえて質問はしなかった。けれども翌週にも同じことがあって追求するとミキが遊びに来ただけだと開き直られた。その後の記憶は、あまりない。日に日に険悪になっていく夫婦関係と生活リズムや習慣の違い、ろくに交際期間もなく同居を始めたので、すぐに二人とも口をきかなくなった。必要なことは朝夕にメモを残して伝え、入れ替わっていた時よりも意思疎通しなくなった。最後のメモは乱暴な字で、出て行け、と書かれていて返事は書かずに飛び出した。行くあても現金もなくて相談した早耶香と克彦のマンションに泊めてもらった。二人とも優しかった。
「……私は……最低だ……」
優しい二人に甘えて何泊もするうちに、早耶香がいないとき克彦と手を握り合ったり、キスをした。昔から好きだったと言われて嬉しかった。あの日、変電所を爆破するほどの決断をしてくれたことも今も忘れていない。だから、早耶香が帰宅してきた気配が玄関からしてもキスを続けた。口で言うより、見せた方が早い、そんな計算をして。
「………刺し殺されたって……おかしくない…」
キスしていた二人を見たときの早耶香の目は脳裏から消えない。驚きと怒り、深い哀しみ、そして諦め、その瞬間から早耶香は声が出せなくなった。罵られたり怒鳴られたり泣かれたりするかと覚悟していたのに、何も言われず、あとは弁護士に任せて終わった。
「8時になりました。皆様、今しばらくのお付き合いをお願いいたします」
俊樹が投票が閉め切られたことを告げた。
「三葉、お前も何かご挨拶を申し上げなさい」
「……はい」
三葉は立ち上がってマイクを持ち、支持者たちを見る。町の運命がかかった選挙なので有権者には票割りがされている。合併反対派の候補について町を4区画にわけて票割りがなされているので、ここにいる支持者は三葉個人を支持しているわけではなく、糸守町の合併に反対している人たちという方が正確だった。逆に、ここにいないということは賛成派で、すなわち町を売った人間というレッテルが貼られることになるので、通常の町議選よりも何倍も人が集まっている。ただ、近所に家のある名取家の人間は、さすがに誰もいない。そのことについて、誰も批判しないし、名取家の代表者は他の反対派候補の事務所にいるという話は聞いている。
「みなさん、こんな私を支持していただいて………」
常套句で始めた三葉は下を向いた。
「こんな私を……」
「三葉」
俊樹が小声で指示を送ってくる。もっと胸を張りなさい、と仕草で示しているけれど、三葉は深く頭を下げる。
「本当に私は最低です」
さすがに謙遜としても表現がおかしいので事務所内が少しざわついた。
「みなさんもご存じの通り、私は名取さんに対して、何の申し訳も立たない、最低の女です」
「三葉、そんなことは、今はいいから…」
「いえ! 今! 今すぐ! 私は彼女に謝りに行きます! 許されないとしても、謝りに!」
そう言ってマイクを置いた。そして事務所を出て行こうとする娘の手首を俊樹が捕まえた。
「これから開票というのに、何を言ってるんだ!! だいたい、どうせ謝るなら選挙中にすればいいだろうに!」
「そうやって何もかも選挙につなげて考えるから! 8時までに謝りに行ったら、また選挙向けのパフォーマンスだってなるでしょ?! だからよ!!」
父親の手を振り切って三葉は事務所を飛び出した。小さな町なので名取家まで200メートルもない。走って辿り着くと、庭に湯上がりで涼んでいた沙耶香と、犬の散歩から戻ってきた早耶香がいた。
「ハァっハァっ…」
「……」
早耶香が三葉に気づき、沙耶香も気づいた。
「何しに来たのよ?!」
沙耶香が詰問して、姉を守るように背中にかばった。
「ハァ、ハァ、…ご…ごめんなさい!! ごめんなさい!」
三葉が頭を下げて謝り、膝が震えて座り込むと土下座になる。
「本当に、ごめんなさい!! 私最低でした!! ごめんなさい!!」
「ちょっ……今さら…」
沙耶香が不倫関係についての当事者ではないので対応に困り、姉を振り返った。
「…………」
早耶香は土下座している三葉を静かに見ている。
「ごめんなさい!! どうか、謝らせてください!! 本当に、申し訳ありませんでした!!」
「…………」
「ごめんなさい!! ごめんなさい!! 本当に、本当に…」
三葉が地面に額を擦りつけて謝っている。早耶香が口を開いた。
「それで許すとでも、思うの?」
「っ、いえ、許されるなんて思ってません。ただ、ずっと謝りたかった! ごめんなさい!! どうか、どうか、この通りです! 申し訳ありませんでした!!」
土下座を続ける三葉と、それを見下ろす早耶香と沙耶香、そんな光景に近所の町民や、さきほどまで事務所にいた支持者たちも野次馬として遠巻きに視線を送ってくる。三葉は涙を零しながら謝り、早耶香は静かに見下ろしている。三葉を追ってきた克彦も土下座を始めた。
「すまなかった!! 申し訳ない!! どうか、どうか、三葉のこと許してやってくれ!! オレのことは憎んでも、どうか、三葉のことは!! この通り!」
「だから、許すわけないやん。どれだけのこと、自分ら私にしたと思ってるの?」
「「………」」
もう言葉が出なくなって三葉と克彦は、ただ地面に額を押しつけている。早耶香が震える手で力一杯に三葉の肩をつかんだ。
「許さへんよ。一生」
「「………」」
「ずっと、ずっと許さへん。一生恨み続ける」
早耶香が言いつのる。
「この先、ずっと。来年も、再来年も、私が誰かと結婚しても、ずーーっと、恨み続けて言い続ける。この町で顔を合わす度に、この町で暮らして、この町で歳をとって、80歳になっても、90になっても。もう、ええ加減許してよ、って言う頃になっても、ずっと、ずっと、ずっと、あの時ひどいことしたね、って語りぐさにしてやるんよ。だから、覚悟しておき」
そう言うと早耶香は肩をつかんでいた手を離した。
「二人とも顔をあげてみい」
「「っ、はいっ…」」
三葉と克彦が涙と嗚咽でグチャグチャになった顔をあげた。心から詫びて、泣いている顔だった。
「クスッ…、アホみたいな顔して」
「ううっ…うあううっ、ごめんなさい、ごめん、ごめん」
「うぐうっ、ごめんよ、ごめんよ、オレが悪かった! あぐうっぅぅう!」
「泣きたいのは、こっちやのにね」
早耶香が二人から目をそらして空を見上げたときだった。
「こちらは糸守町選挙管理委員会です。開票の結果、当選者は糸田邦男さん。守田六左右衛門さん。古川誠さん。大和茶太郎さん。勅使河原三葉さん。帰雲白乃介さん。遠藤半径さんの以上7名となりました。繰り返します…」
名取家の長女の声で放送が流れ、そこに三葉の名前があった。当選者の構成も合併反対派が多数を占め、安堵の空気が流れる。早耶香がタメ息をついた。
「ハァァ………とりあえず、当選、おめでとう」
「さ……サヤチン…」
「もう立って。事務所に戻って、せいぜい胸はって挨拶してき。そんな泣き顔、もう見てとうないわ」
トンと背中を押されて、三葉はヨロヨロと事務所へ戻っていく。克彦も申し訳なさそうに頭を垂れてついていき、遠巻きに見ていた野次馬も事務所での飲食を再開するために戻っていく。人がいなくなって、沙耶香が姉に問う。
「お姉ちゃん、あんなんでいいの?」
「さあ……どうやろうね……よう、わからんよ」
「………」
「ただ、こんな小さな町で、これからも暮らしていくのに通りで顔を合わせる度に、こっちは無視して見ないふり、むこうは頭さげて小さくなってやりすごす。そんな関係つづけるくらいなら、正々堂々イヤミの一つも言える。挨拶くらいする、そんな方がええから」
「お姉ちゃん…………大人なんやね……」
「ここまで気持ちを落ち着けるのに、ものすごい時間かかったから」
またタメ息をついて、そして妹に告げておく。
「あんたは後悔せんようにね。司くんのこと好きなんやったら、ちゃんと言うくらい言うた方がええよ」
「っ…」
沙耶香が赤面して目をそらした。
「言うなら早めにね。アホのテッシーみたいに、もう言うたらアカンときになってから言うてるようでは歴史の繰り返しやわ」
「………」
もう遅いよ、と沙耶香は思った。そして時間を見る。
「もう9時前、病院に行かないと」
入浴を早めたのは病室にいる四葉を見守りに行くためだった。父と姉が忙しく、一葉は高齢なので昼間付き添い、夜間は若い沙耶香と司が行っている。さっと身支度をして沙耶香は病院に向かい、玄関ロビーで司に出会った。
「よう」
「早いね」
「四葉の姉さん、当選したな」
「……。その言い方は、うちの前での事件、知らんね?」
「何かあったの?」
「うん、まあ……」
どう言うべきか、迷っている。
「何があったんだよ?」
「謝りに来はってん。四葉ちゃんのお姉さん。うちのお姉ちゃんに」
「……あの件で?」
「それ以外に無いやん」
「そっか………このタイミングで?」
「そう! そうやんね! やっぱ、そう思うよね!」
「う…うん、まあ…そんな力説しなくても……、そんなことより、あ、いや、そんなことってわけでもないんだけど、四葉、今日こそ意識もどるかな……」
司が心配そうにすると沙耶香も胸が痛くなった。選挙の結果も不倫の結果も、四葉の安否に比べれば、二人にとって些事だった。
「四葉ちゃん………きっと、何かのために頑張って、それで……うまくいったのかな? うまくいかなかったのかな?」
「どうだろう……四葉は、うまくいっても、うまくいったことがわからないかもしれない、とも言ってたから。ただ、ボクらが、こうして生きてるってことは……うまくいってると思いたい」
「そうだよね。でも、そのために四葉ちゃんが……犠牲になったんじゃ……」
沙耶香が思い詰めた顔をすると、司は優しく頭を撫でた。
「そんな顔するなよ。きっと、大丈夫、きっと大丈夫だって」
そう言って励ます司の顔にも不安が強く浮かんでいる。もう3日、まったく意識が戻らない。医師は原因不明だと言うし、ジャギとしてでさえ目覚めてくれない。このまま、ずっと意識が戻らないのではないか、という不安は司も沙耶香も持っているし、一葉や三葉も口にしないけれど、考えていないわけではない顔を見せている。
「四葉ちゃん………」
「きっと大丈夫だって……ぅぅっ…」
励ましていた司の方が泣きそうになってしまい、沙耶香が背中を撫でる。
「男が泣いて、どうするのよ」
「泣いてない」
「泣いてるじゃん…ぐすっ…」
強がっている司の肩へ、自分も泣きそうになってしまい顔を隠すために沙耶香が額をつける。司が涙を乱暴に拭いた。
「もう病室に行こう。お婆さん、疲れてるだろうし」
「……うん、そうだね。ちゃんと、お昼寝してきた? 明日は、学校あるから仮眠も交代でとらないとね」
「ああ、周りに心配かけないようにしないとな」
二人とも選挙活動とは無関係なので日中に休み、これから一葉と交代する。病室に入ると、一葉が四葉の手を握っていた。四葉は意識がなく、心拍と呼吸を診るためのモニターが胸に装着され、左腕には点滴がされ、食事の代わりになる栄養を与えるためのチューブが鼻の穴から胃まで挿入されているし、当初ひどく暴れたこともあって医師の判断で身体と手足を精神病者などの拘束に使うベルトで固定されている。
「こんばんは。お婆さん、交代するから、もう休んでください」
沙耶香が声をかけると一葉が顔を上げ、礼を言う。
「ありがとうよ。四葉、お友達が来てくださったよ。はよう起きてあげなさいよ」
祖母が話しかけても四葉は何の反応もしない。
「「「………」」」
三人が、つい黙り込むと雰囲気が暗くなる。司が気を遣って言う。
「お婆さん、もう帰って休んでください。お婆さんまで倒れたら大変だから」
「そうやね。ありがとう。ほな、頼むね。四葉、私が代わってやれたら……二葉のときも、どんなにか思ったけど、まだ高校生の…」
それ以上を口にすると泣いてしまいそうになった一葉は愛おしそうに四葉の頬を撫でると、病室を出て行った。
「…………」
「………」
「何か話せよ。サヤボボ」
「黙ってるより賑やかな方が、四葉ちゃんも起きてくれるかもしれないもんね」
沙耶香が四葉の左側に座り、司は右側へ座って、なるべく楽しい話題を選んで会話する。病室は先日まで三葉が入院していた院内で一番高価な個室なので夜に談話していても問題はなかったし、宿泊の付き添いも可能だった。
「四葉、そろそろ起きろよ、な」
司が握っていた四葉の右手を撫でる。沙耶香も握っている四葉の左手を撫でた。
「………」
「…………」
いくら楽しい話題を選ぶといっても限界があり、夜も更けてくると黙りがちになってしまう。心配そうに四葉を見つめる二人が少し眠気を覚えた頃だった。
スーーーっ…
音もなく気配もなく存在感さえも曖昧に、ジャギが無想転生を使いながら入ってきた。二葉との約束通り四葉の意識を戻すため、北斗神拳による刺激を与えるためだった。
(久しぶりだな、沙耶香、テッツー)
ジャギにとっては30年以上を経ての再会だったけれど、二人は無想転生のおかげでジャギに気づかない。すでにジャギは初老といっていい年齢で、頭髪を剃り僧衣を着ていた。
(とくに沙耶香、お前のおっぱいも変わってないな。そうか、そういえば、沙耶香に似てる女ばっかりだったな……オレ、けっこうお前のこと気に入ってたのか)
ジャギは北斗七星にちなんで7人のキャバ嬢との間に39人の子供をつくっていたけれど、その7人が沙耶香と似ていることに今さらながらに気づいた。
(とはいえ、二葉さんとの約束だからな。もう、お前たちには関わらない。でないと、糸がからまって毛玉になるとかなんとか。会えば必ず不幸になって、くっついても磁石が反発するみたいになるとか言ってたし。まあ、時間を隔てて入れ替わってた人間関係で、本来、結ばれちゃいけないってのは常識で考えても、どんなアホでも、なんとなくわかりそうなもんだからよォ。あれだけの厄災をチャラにできただけで、満足しとくべきだよなぁ。にしても、無想転生は都合がいいぜ)
ジャギは二人に認識されないまま、四葉の頭部に触れる。
(こんなもん…かな……弱めにしとこう。いまだに、この手の手加減は苦手だからな。最後の最後に四葉を殺しちまったら、シャレにならねぇし。じゃ、あばよ、四葉。テッツー、沙耶香)
やや弱めに秘孔を刺激してジャギは立ち去った。
「え……、ちょっと、テッツー、今、私のおっぱい、触った?」
「どうやってボクがサヤボボのおっぱいを触るんだよ」
司はベッドを挟んで反対側にいるので物理的に不可能だった。
「けど、今、確かにモミモミって…ハァ…」
沙耶香が熱っぽい吐息を漏らした。ほんの2回だけの愛撫だったけれど、かなり絶妙な手業だったので身体が熱くなってしまった。
「気のせいとは……思えんけど……。四葉ちゃんの手は握ってるし………」
沙耶香は四葉を見つめる。
「まだ起きないの? 四葉ちゃん」
耳元で囁きかけてみる。顔を近づけると四葉の匂いがした。もっと顔を近づけて、沙耶香は耳にキスするほど接近すると、小さな小さな声で問いかける。
「あんまり寝てると、私がテッツーを盗っちゃうかもよ?」
その声は確かに四葉の耳には届いたけれど、やっぱり反応はない。司には聞こえていないので、不思議に思って問われる。
「サヤボボ、何をしてるんだよ?」
「四葉ちゃんと内緒話♪」
「ふーーん……じゃあ、ボクも」
司が四葉の右耳へ囁きかける。
「起きないと、おっぱい揉むよ」
「……テッツー、内緒話は、もう少し小さな声でしぃな」
「うっ…聞こえてた?」
「おっぱいの話してたやろ」
「うぅ……」
「意識のない女の子にセクハラって最悪やん」
「うぐっ……、いっそセクハラついでにキスしたら起きないかな?」
「眠り姫のセオリーではあるけど………二人って、そこまで関係進んでたの?」
「……うん……まあ…」
「じゃあ、神社でエッチしてたってウワサ、本当なんだ?」
「っ?! なんで、知ってるのさ?!」
「………わかりやすい反応、ありがとうございます」
「くっうう……。自分こそ、保健室で四葉と変なことしてたろ?」
「っ……べ、別に、何も」
「あのときジャギさんだったけど、何をしてたんだよ? 二人のパンツ、置いてあったし」
「蹴られながら、そんなこと見てたんや」
「で、何をしてたんだよ」
「………だから、別に。何も」
「何もないのに二人ともパンツ脱ぐって、どういう状況だよ?」
「……………うーー………あ、そうそう! トイレに行ったとき女の子は、どうすればいいかを教えたの!」
「それ今、思いついた言い訳っぽいけど」
司は疑いつつ、四葉の耳元に囁きかける。
「四葉、早く起きないと、またサヤボボに変なことされるよ」
「テッツーこそ、キスしようとか言うてたくせに」
「キスか……それで起きてくれるなら……キスしてもいいか? 四葉」
「………。それは、ダメ」
「なんでだよ?」
「だって………一回、エッチしたかもしれないけど、だからって意識のないときに勝手にキスなんかされて女の子が傷つかないとでも思うの?」
「…………サヤボボだったらイヤか?」
「私は……………相手による」
沙耶香が目をそらして、それから思いついた。
「いっそ、私とテッツーがキスするフリしたら、四葉ちゃん、それはダメっ! って慌てて起きるかもよ」
「サヤボボと……」
「フリよ! フリ!」
言い募って、恥ずかしくて司を見ていられないので沙耶香は四葉に言う。
「いつまでも寝てると、テッツーとキスしちゃうよ」
ついでに頬をつついたけれど、やっぱり四葉は起きない。病室のドアが開けられて看護婦が入ってきた。
「キスとかエッチとか、友達が生きるか死ぬかってときに、のんきなもんね」
「「っ……」」
司と沙耶香が廊下まで声が漏れていたことを深く後悔して下を向く。看護婦は医療材料を載せたカートを押してベッドまで近づくと、点滴の残量を確認して、心拍のモニターを看護記録に書き込む。ごく事務的に作業をしていると、ナース服のポケットにあったスマフォが鳴った。
「もしもし、っていうかさ、仕事中に電話してくるなって言ってるじゃん」
そう言ったのに電話を終えず話し続ける。
「うん、そう、これから夜勤。いやいや、飲み会とか無理だって言ってるじゃん。私、お酒は1滴も飲めないの。飲んだら吐くの。なのに、割り勘じゃ合わないしパスパス。じゃあね」
電話を終えると、また事務的に四葉の腋に体温計を入れる。
「はい、じゃあ、身体を拭いて、オムツも替えるから。見てたいなら、どうぞ。この子のウンチって超臭いよ。吐くほど臭い」
「「………」」
追い出すように言われて司と沙耶香が立ち上がった。意識不明なのでオムツに排便することは仕方ないとしても、そんな姿を親友や恋人に見られたくないだろうというのはわかる。そして、この看護婦がやたらと刺々しい理由も知っている。看護婦は顔の真ん中に大きな絆創膏を貼っていた。入院初日に四葉が左腕で急に掌打を放ち、運悪く看護婦の顔面に直撃し、鼻の骨にヒビが入ったと聞いている。イヤミの一つも言いたくなる気持ちと、事務的な看護なのもわからなくもない。
「「…………」」
少し心配そうな顔で司と沙耶香が病室の外へ出て行くと、看護婦は周囲を見回した。高価な個室なので広いしソファも液晶テレビも机もある。
「………隠しカメラとか無いね。最近、虐待してると撮られてるらしいから…」
室内を見回したのは隠しカメラを気にしたためで、一葉が居たときと変化があったのは司がコンビニで買ってきていた夜食用のオニギリくらいでカメラや録音機の類は無かった。
「よし」
心おきなく虐待できるとなり、まずは身体を拭くための熱いタオルを四葉の顔に投げつけた。
ベシッ…
熱いタオルが鼻へチューブが挿入されている四葉の顔に命中して拡がる。火傷するかしないか、通常は少し冷ましてから身体を拭くためのタオルが四葉の顔を覆い、呼吸を妨げる。四葉は右の鼻の穴へチューブを挿入されているので、左の鼻の穴でしか呼吸ができない。それがタオルで邪魔されると、苦しくなるはずなのに四葉は苦しがる様子もなく動かない。
「…………このままだと死ぬかな…」
だんだん脈拍が早くなり、手足の血色も悪くなっていく。さすがに死亡すると虐待が発覚するかもしれないので、タオルをどけた。
「はい、顔、終了」
きちんと顔を拭くのではなく、タオルを投げつけただけで終わり、手と足も見えるところだけ軽く拭いて本来は拘束具を解いて全身くまなく拭かなくてはいけない手間を省いた。
「オムツは……」
看護婦は寝間着をめくって四葉の股間を見る。四葉が着けている大人向けSサイズのオムツは股間が膨らんでいて排泄物が溜まっているように見えた。
「コイツのウンコ、マジで臭いのよね。大腸癌の婆でも、ここまで臭くないってくらい。久しぶりに排泄看護で吐いたし」
手袋をした指先でオムツを引っ張って中を見ると、べったりと四葉の大便がオムツと尻の間に付着していた。
「う~……汚っ…」
息を止めていた看護婦はオムツを交換せずに、グリグリとオムツの上から四葉の股間を押してねじった。おかげで柔らかかった大便が四葉のお尻と女性器の方にまで付着していく。
「このまま朝まで、ほっとけば、ひどいオムツかぶれになって傑作よね」
すでに少し赤くかぶれかけているのに、あえて放置する虐待を選択し、さらに証拠が残りにくい虐待を続ける。四葉の若々しく上を向いた乳房を握ると、指先で絞るように捻った。
「これ、めちゃ痛いはずなんだけど」
同じ女性なので、乳房を潰すように絞られるのが、どれだけ痛いか想像はつくのに、まったく四葉は表情を変えない。
「あ~……顔、殴りたい。鼻、折ってやりたい」
やっぱり自分が殴られた鼻を思いっきり殴りつけてやりたいけれど、さすがに事件になることはわかる。何より痛めつけても、まったく反応がないと虐待のやりがいがない。思いっきり頬を叩いたり、腹を殴ったりしたいけれど、アザが残ってしまう。
「アイアンクロォ~!」
せめて、グリグリと頭部を拳で押した。たとえアザができても頭髪で見えないはずなので、容赦なくグリグリと押し、たまたま偶然、ジャギが弱く刺激したところも追加で押した。
「ぅぅ……」
「え? 意識が…」
「……、ここは、どこ?」
四葉が目を開けて問うてくる。
「意識がもどって。先生に……」
当直の医師に報告しようと駆け出そうとして、看護婦は思いとどまった。せっかく意識を取り戻したのだから、何か虐待したい。
「あの、ここは、どこですか? 私は宮水四葉ですよね?」
「………」
「今は何年ですか? 2020年?」
「……………」
「私は、どうして動けないの?」
四葉は精神病者を拘束する頑丈なベルトで固定されていて、手足はおろか首も動かせない。真上を向いていることしかできないでいる。眼球だけ動かして看護婦を見つけ、質問してくるけれど、とても不安そうだった。
「あの、すいません。私は……誰ですか?」
「誰なんでしょうね」
意地悪く看護婦が微笑むと、ますます四葉は不安そうになる。
「わ、私は……す、すみません。鏡を見せてもらえませんか」
「顔が見たいの?」
「はい」
「……………。見ない方がいいわ」
「ど、どうして?」
「………………」
医療従事者に意味ありげな沈黙をされると、四葉は不安で胸が張り裂けそうになった。
「…そ……そんな……どうなって……全部、ちゃんと終わったと……思ったのに……ここはどこ?! 今は何年なの?! 私は誰なの?! 戻ってないの?! 全部っ全部っちゃんとやりきったと思ったのに! どうして?!」
もう、なんとなく入れ替わりは起こらない感覚があり、おかげで神がかった精神状態から、ごく普通の高校2年生に戻っているのに、看護婦の冷たい対応と拘束された身体のおかげでパニックを起こしかけている。
「ハァ…ハァ…ぅうっ…、すみません。この鼻に入ってるの、何ですか? ぅぅ…」
四葉の視界には病室の天井と自分の鼻に挿入されているチューブくらいしか見えない。そのチューブは鼻の穴から奥で喉まで曲がり、さらに食道を通り過ぎて、胃に直接栄養を運ぶ医療器具だったけれど、意識が戻ると異物感が大きくて、どうにも苦しい。激しく話したせいか、喉にひかかって嘔吐衝動が湧いてきた。
「ううっ…うぇ! …ぅ…く…苦しい…う…うえ! す、すみませ…ぅえ!」
「吐くと窒息して死ぬから我慢しなさい」
「ぅぅうっ…あううっ…うえ! うえ! うげええぇ!」
とうとう嘔吐するけれど、チューブから流動体が送られていたのは夕方で今は胃に何もない。胃液だけが食道を逆流してきて、喉に溢れる。
「ゲホッうえっうう!」
しかも横を向くこともできないので喉と口いっぱいに胃液が拡がり、息もできない。
「うええう! ゲホっ! ヒュッ…ゲホッ! うええおうええ! ヒュッ…ゲホッ!」
嘔吐し続けながら四葉は短い変な呼吸をしている。気管にも胃液が入って焼けるように痛い。せめて下を向いて嘔吐しきれば楽になるのに、上を向いたまま、手足を動かすこともできないので苦しくて苦しくて意識が再び無くなってしまいそうだった。
「この拘束と経鼻栄養管の組み合わせって、医療事故で訴えられたら負けそうね。判断したのは医師だから、私の知ったことじゃないけど」
もう四葉は聞いていても認識できていなさそうな様子なので、看護婦は冷笑しながら窒息死しかけているのを楽しみ、とうとう四葉の身体から力が抜けていく。わずかに動かせた手の指でシーツをつかんでいたのに、その指からも力が抜け、涙を流していた目からも光りが消えていく。
「はいはい、死なないでよ。ドーレンしてあげるから」
看護婦が別のチューブを四葉の口の中に突っ込んでくる。
ズズズズウズ!!
歯医者で血や唾液を掃除機のように吸ってくれるのと同じ種類の機械で四葉の口と喉にあった胃液と唾液が吸い取られ、呼吸が確保された。
「ハッ! ゲホッ! ハァ! ハァァ! ヒュッ! ヒハッ!」
死にかけていた四葉が呼吸を取り戻した。けれども、まだ鼻から挿入されたチューブは胃まで伸びている。喉に異物がある感覚のために、また嘔吐衝動が襲ってきた。
「うええっ! おえええ! た…助け…おええ! これ抜いてくださ…うえええ!」
今度は胃液もない、嘔吐衝動だけの空嘔吐をしている。
「おえおえおええぇ! 死、しぬ…おええ! うえええ!」
「ドレーンしてるから息はできるでしょ」
看護婦は四葉の喉に胃液と唾液が溜まると機械で吸い取ってくれるけれど、鼻から挿入しているチューブはそのままなので空嘔吐が続いて死ぬほど苦しい。
「うげおおえうええ!」
「きゃははは♪ 面白い声」
「うえおえ! ヒュッ…おええ! うおええ!」
あまりに苦しくて四葉は発狂しそうになってくる。わけがわからない。なぜ、こんな目に遭っているのか、ここが、どこで、いつで、自分が四葉である自信もない。もしかして、これは夢なのか、タチの悪い予知夢なのか、また口噛み酒を商品化してしまった世界に似た地獄のような末路なのか、あのときも鼻から水を入れられて死ぬほど苦しかったし、あれは溺れるような苦しみだったけれど、今は嘔吐地獄で、なにより、もう思考がまとまらない。ただ、鼻から喉にあるチューブのために嘔吐だけを繰り返して下水口が逆流して溢水しているような音を吐いている。
「おえ…おえ…うえ…うおええ…」
もう腹筋に力も入らなくなってきて、嘔吐さえ弱々しくなってきた。
「…おえ……うえ……うう……うえ……」
だんだんと喉の粘膜がチューブがあることに慣れてきて嘔吐衝動が消えてくる。
「ハァ……ハァ……ひっ……ひっぐ……ハァ…」
あまりにも苦しかった時間が終わって、四葉は泣けてきた。
「…ハァ…ひっ…ひぅう…ハァ…」
「あ、もう慣れた? 残念」
そう言うと看護婦はカートから別の薬剤を出してきた。それは単なる生理食塩水の入った汎用パックだったけれど、涙も拭けない四葉の目には、はっきり見えない。
「あなた、もう死になさい。これ、楽に死ねるお薬だから、このチューブから流し込んであげるね」
「っ?!」
驚いている四葉は何の抵抗もできない。看護婦はチューブを接続し直して、生理食塩水を流し込んできた。
「ひっ…イ…イヤ!」
四葉の目にチューブ内を流れ落ちてくる透明な液体が見える。それが死ぬような薬だと言われていると、恐怖で顔がひきつっていく。
「きゃははは♪ 死んじゃえ」
「ひっ…ひィィ…」
逃げたくても身体を動かすこともできず、飲まないようにしようと思っても勝手に鼻から喉を冷たい感触が流れて込んできて、胃に拡がる。吐きたくても、今度は嘔吐するための筋肉が疲れ切っていて吐けない。四葉は恐怖してガタガタを小刻みに震えて泣いた。
「……た……助けて……イヤ……お母さん……お母さん…」
「クスっ…カアさんカアさんってリアルに言うヤツはじめて。きゃはは♪」
「ひっ……ひくっ……ううっ…」
「そろそろ死ぬかな」
わざとらしく看護婦はペンライトで四葉の涙で濡れた瞳を覗き込む。
「まだ生きてる。あ、薬を間違えたからね。ごめん、ごめん、ただの水だった。殺す薬は、こっちだったわ」
看護婦はカートから本来流し込むべき栄養剤を取り出した。オレンジ色のペーストがパックに入っていて、ビタミン、ミネラル、カロリーすべて補給できる理想的な栄養剤で意識不明や嚥下障害などで食事がとれない病人に与えるものを毒薬と称して四葉に流し込む。
「イヤ! イヤ! やめて!」
ゆっくりとチューブ内をオレンジ色のペーストが降りてくると、とても怖い。しかも手順では体温と同じくらいに温めてから流し込むものなのに、あとで四葉が下痢でも起こせば面白いと考えているので、常温のまま使用しているおかげで、降りてくるのが遅い。
「ひっ! ひい!」
首を振って逃げようとしても、それさえできない。がっちりと顎や頭部が革ベルトで固定されていて数センチも動かせない。さきほどの透明な生理食塩水よりもオレンジ色のペーストは見た目が恐怖心を強く刺激してくる。
「もうすぐ死ぬね」
「ぃ…ィや……なんで……どうして……私……一生懸命……頑張ったのに……世界の……ために……」
「世界のため? また、そんなこと言ってるんだ。頭のおかしさは姉といっしょね」
「姉……? やっぱり、私は四葉なの?」
「ちっ」
うっかり情報を与えてしまったことで看護婦は舌打ちした。
「こ…ここは、どこなの? 病院? 町の病院?」
「……。いいえ、警察病院よ。あんた逮捕されたの。わけのわからないこと言って暴れるから」
「警察……病院…」
「あんた姉と同じで人格障害あるでしょ。覚えてないかもしれないけど、連続殺人やって捕まったの。通行人へ言いがかりをつけて次々殺して逮捕よ」
「っ……そんな……ジャギさんが、そんなことするはず……ない……」
「もう一人の人格はジャギって言うの。ふーん……どうでもいいわ。ということで死刑執行」
看護婦はペーストの入っているパックを強く握った。なかなか降りなかったペーストがチューブ内を一気に進んでくる。
「っ……イヤ! イやあ!! 助けて!! 誰か助けて!!!」
「四葉っ?!」
「四葉ちゃん?!」
病室に司と沙耶香が駆け込んでくる。
「ちっ…」
「司っ?! サヤボボ?! いてくれたの?! ここ、どこ?!」
「町の病院だよ!」
「今は何年なの?! 二人がいるってことは2020年だよね?!」
「2020年だから安心して。四葉ちゃん、意識が戻ったんやね! よかった!」
沙耶香と司は喜んでいるけれど、四葉は必死に頼む。
「これを抜いて!! 私、殺される!!」
「え……これって?」
司が何のことかわからず迷う。もうチューブから胃に何か拡がっている感触があるので四葉は青ざめている。
「この鼻に入ってるチューブを! 早く抜いて! お願い!!」
「…………これは……栄養を入れるチューブだって聞いてるけど?」
「毒なの!! 早く早く抜いて!!」
「…………」
司が看護婦を睨むと、お腹を抱えて笑い出した。
「きゃはははは♪ ウケるぅ! 超ウケる!!」
「四葉、落ち着いて。このオレンジ色のは、栄養だから害はないよ」
「だって、さっき、この人が……」
「きっとウソだよ」
「ウソ……」
「四葉、ここは町の病院で、四葉は3日間、意識がなかった。今は10月18日だよ。この看護婦は……まあ、ちょっと意地悪だけど……それには、少し理由があるし…」
司が言葉を濁したので、沙耶香が四葉の耳元へ囁く。
「四葉ちゃんが意識をなくした後、少し暴れることがあって運悪くこの看護婦さんの顔を殴ってしまったらしいの。それで、すごい怒ってはるの」
「顔を……」
言われて看護婦が大きな絆創膏を顔に貼っていることに気づいた。今までは半分パニックだったので、業務として着けているマスクなのかと思っていたけれど、しっかり見ると鼻全体を覆うように絆創膏が貼られている。おかげで人相も表情もわかりにくいので怖い。
「それは……すみませんでした。ごめんなさい」
「ちっ」
舌打ちして看護婦はカートを片付けて出て行った。
「四葉ちゃん、意識が戻ってよかったぁ」
「ああ、四葉、おかえり。よかったよ」
「うっ…ううっ…ごめんね……心配かけて…ごめん……よかった……私、どうなってるのか、わからなくて……二人がいてくれて、よかった」
「ごめんな、ほんの少し離れてる間に……怖かっただろ? 毒なんて言われたらビビるよな」
「ううっ…あうううっ…はうううっ…」
慰められると安心したおかげで泣けてくる。沙耶香がハンカチで涙を拭いてくれる。
「目が覚めて何もわからへん、この状況で毒とか言われたら最悪やんね。いくら何でもひどすぎるわ」
「うううっあうううっ…ぐすっ…」
四葉の鼻水も拭いてやってから、司と相談する。
「テッツー、四葉ちゃんの意識が戻ったことの連絡どうしよ?」
「今は11時過ぎか……お婆さんには明日の朝の方がいいだろ。電話したら起きて来るだろうけど、けっこう疲れてる様子だったし」
「お父さんとお姉さんの方も今頃は祝勝会やんね。……明日の朝の方がいいかな」
「あの二人も相当に疲れてる様子だったから、連絡すれば祝勝会の後、無理してでも顔を出すだろうけど、お父さんの方は、とくに年齢もあるし、やっぱり二人への連絡も明日の朝の方がいいかも」
「そうやね」
「ううっ…ぐすっ…はううっ…」
まだ四葉は泣いている。すべてが終わったと感じて目が覚めたのに、地獄のような目に遭わされて殺されるかと思ったので、かなり深く傷ついている様子だった。
「よしよし、もう大丈夫やよ。それにしても、このままやと可哀想やね。これ、外せへん?」
沙耶香が拘束具に触れると、司も触ってみる。
「うーん……ダメみたいだ。金具の重要なところに鍵がかかっていて外せない」
四葉の手足と胴体、頭部を拘束している革ベルトは鍵が無いと外せないようだった。
「しょうがない。ナースコールしようか。あまり気が進まないけど」
「そうやね」
「ぐすっ…ううっ…これも抜いてほしい」
四葉が鼻に挿入されたままのチューブのことを言う。喉の粘膜は慣れてくれたものの、常に違和感はあるし、何より鼻の穴に挿入された姿を恋人と親友に見られているのも苦痛だった。司がナースコールを押し、別の看護婦が来てくれることを三人で期待したけれど、あの看護婦が入室してきた。
「何か用?」
普通は高価な個室にいる患者には、へりくだった対応をするはずなのに、この看護婦はスマフォをいじりながら面倒臭そうに訊いてくる。司がムッとしつつ言う。
「これ外してやってよ。もう意識も戻ったから」
「無理」
「なんで?!」
「また暴れるかもしんないじゃん」
「もう四葉だから大丈夫なんだよ」
「は? そんな保証が、どこにあんの? コイツ、ちょくちょく人格が変わるってカルテにあったし」
「もう大丈夫なんだって! な、四葉?」
「うん、すべてが終わったと思うから。もう入れ替わりは起こらないはず」
「はず、とか言われても、私、ただのナースだし」
「じゃあ、先生を呼んでやってくれよ」
「今夜の当直はK医科大卒のバカ医者だよ」
「うっ……あそこか…」
司が困った顔をすると、沙耶香が問う。
「なにか問題があるの?」
「私立医大で全国一の偏差値が低い医大なんだよ。その分、学費が6千万くらいして、大金持ちか開業医の息子しか入らない。一応、偏差値50以上ではあるけど、だいたい想像がつくだろ、どういう人材か」
「ふ~ん……でも、その先生しかいないなら頼むしかないんとちゃう?」
「……まあ、……サヤボボの言う通りだけど……。先生、呼んでもらえますか?」
「はいはい」
面倒そうに看護婦が消え、しばらくして医師と戻ってきた。
「何?」
医師はPSPをいじりながら訊いてきた。響いてくるBGMから信長の野望というゲームだと司にだけはわかったけれど、どうでもいい。
「………。この拘束してるのと、栄養チューブを外してあげてほしいんです」
「あ~……ボク、眼科志望なんだよ。精神科とかイミフ」
「イミフって……いや、もう意識も戻ってるから」
「ふーーん……君、どう思う?」
医師は看護婦に問い、看護婦は顔の絆創膏を指した。
「この患者に殴られました」
「うわっ、怖っ」
「危険だと思います」
「だね。はい、継続。経鼻管は……君、どう思う?」
「明日、担当医が判断されるのを待った方がよいかと思います」
「だよね。じゃ、ボク、忙しいから。………さて、帰雲城の防御を…」
若い医師はPSPを操作しながら消えた。
「ほらね」
看護婦が勝ち誇ったように言い、沙耶香が悔しそうにつぶやく。
「完全に誘導しとるやん」
「こんな町の夜間当直にくる医者なんて、あんなもんよ。あいつ、国家試験に合格したから、もう勉強しないって決めてて、あとは夜勤バイトか、コンタクトレンズ屋の隅っこでゲームして一生過ごすプロニートになるのが夢らしいよ」
「プロニートなのか、それ……努力と怠惰の配分がすごいというか……人生を本気で舐めてかかる気満々というか……他に先生はいないのかよ? K医科大だって、いい先生は、いいだろ」
「あれだけ。むしろ、この町に夜、医師がいるだけラッキーな夜。死亡診断書なら書いてくれるよ。ちなみに看護婦も私だけ。だいたい意識不明なんて状態なのに、この町の病院に入院するって言い張ったのは、この子の家族だし。普通、麓の病院に入れるよ。案外、この子の家族も、ちゃんとした治療を望んでなかったのかもね。精神病患者の家族には、よくあることだけど」
「「「…………」」」
四葉たちには俊樹や三葉、一葉が町の病院にこだわってくれた理由はわかるけれど、それを看護婦に説明する気力もなく黙る。
「じゃ、よっぽどのことでない限り呼ばないでよ。私も忙しいから」
そう言ってスマフォをいじりながら消えていく。
「四葉……ごめん」
「四葉ちゃん……ごめんな」
「ううん……二人が悪いわけじゃないから…」
不自由なまま四葉が微笑をつくり、憐れに思った沙耶香が問う。
「せめて、何かしてほしいことある?」
「そう言われても、この状態で………」
四葉は何もできない状態で、お願いしたいことを考えてみて、股間の痒さに気づいた。
「……………」
気づいてみると、とても股間が痒い。
「何でも言うてよ」
「…………」
背中や頭なら掻いてもらいたいけれど、さすがに股間を掻いてほしいとは言えない。けれど、気づいてしまうと股間の痒さは猛烈で我慢できなくなってくる。
「……ハァ………ふ~……」
少し身じろぎしてみて、自分がオムツを着けられていることがわかった。この痒さは、そのオムツが汚れていることからくるものだともわかる。女子なので毎月の月経でナプキンをあてたときも汚れてくると痒くなるのは体験しているけれど、その痒さと比にならないほど強烈に痒い。
「……ぅぅ………ハァ……くぅ………」
「四葉ちゃん、どうかした?」
「四葉、大丈夫? なんか顔が赤いけど」
「平気……何でもない……」
「「………」」
「……平気……」
二人に知られるのも、あの看護婦にオムツを替えてもらうのもイヤなので隠して耐えようとするけれど、どんどん痒くなってくる。まるで股間を何百回も蚊にさされたように痒い。それを我慢していると、さらに股間がチリチリと痛いくらいに痒くなってきて四葉は小刻みに身じろぎして、手でシーツをつかんで耐える。
「四葉ちゃん……大丈夫に見えないけど……どうかした? どこか痛い?」
「………大丈夫だから……今、何時?」
「12時だよ。四葉、本当に大丈夫? 顔が苦しそうだよ」
「平気……平気……ぅ~……ハァ……ハァ……」
このまま朝まで我慢すれば看護婦も交代してくれるはずと思うけれど、とても耐えられない。痒みが痛みと熱に変わってきて、まるで股間を炙られているような気さえする。お尻の穴まわりだけでなく、女性器の方まで熱く痒い。膣のあたりやクリトリスにまで大便が着いているようで痒さは股間全体に拡がっていて、あと8時間も耐えるとなると気が遠くなってくる。
「……ああ~………うーっ……」
もう声が出てしまうほど痒くて痛い。赤ん坊がオムツが汚れたとき、大声で泣く理由がよくわかって、自分が母親になったら絶対に気づかってあげようと誓うものの、今は自分の痒さが、どうにもならないほどで四葉は身じろぎを続ける。それを見ていて司と沙耶香は心配になってくる。
「なあ、絶対、大丈夫じゃないだろ、これ」
「そうやね。……どうしよ」
「うーーっ……平気……何でもないから……二人とも、もう遅いから帰っていいよ。私も寝るし……ぁ~あっ……」
「四葉を一人にしたら、あの看護婦に何をされるかわからないよ」
「うん、あの人、ひどすぎやもん」
「……う~……く~……」
「もしかして、鼻のチューブが痛いのか?」
「……うん、そう! それでナースコールして!」
四葉はオムツのことを知られたくないのでチューブのことにしてナースコールしてもらう。
「気が進まないけど、仕方ないよな」
司がボタンを押すと、5分以上してから看護婦が現れた。
「何か用?」
「鼻のチューブが痛いみたいなんですよ」
司が説明したけれど、四葉は看護婦が顔を覗き込んでくると、目くばせしてオムツが汚れていることを伝えてみた。
「……」
それは、すぐに伝わったけれど、もともと看護婦は四葉のオムツが何時間も前から大便で汚れているのを知っているし、わざわざ痒くなるように性器にまで押しつけている。思春期の少女が恋人と親友に知られたくなくて、たとえ意地悪な看護婦でも同性なのだから悟ってくれるかもしれないと最後の望みを託して頼ってきたのを感じ、そして無視する。
「別に異常はないみたいよ」
「っ……ぅ~……」
「明らかに苦しがってるから」
「そう言われてもねぇ……宮水さん、どこか痛みますか?」
わざとらしく問い、潤んだ四葉の瞳を見る。
「……ぅ~……ハァ……」
四葉は目線で伝えようとするけれど、やっぱり無視されてしまう。
「何もないみたいですよ」
「あうぅぅ…」
思わず四葉は言葉にならない声をあげた。
「クスッ…そんな赤ん坊みたいな声を出して。たしか、高校生ですよね?」
「……ぅ~……」
「言いたいことがあるなら、ちゃんと言ってもらわないと、わかりませんよ」
言いたくないのがわかっていて意地悪く微笑んだ。
「宮水さん、どうかされましたか? どうもしないなら戻りますよ」
「……あ…あの………」
このままでは看護婦が去ってしまいそうなので、四葉は言葉を選んで言ってみる。
「…か…身体が……汚れてる……みたい……なんです」
「身体なら、さっき拭きましたよ。入浴は先生の許可がないと無理です」
「ぃ…いえ……そうじゃ……なくて……」
四葉が涙目になって真っ赤になる。
「そうじゃなくて、何? 私、忙しいんですけど。早く言ってくれない?」
「…ォ……オムツ……」
「オムツが、どうかしたの?」
四葉が小さな声で言ったのに看護婦は大声で問い返した。
「っ……オムツが……汚れてる……みたい……なんです」
「汚れてるみたい、って自分のことでしょ。ウンチしたの、オシッコしたの? オシッコなら3回は吸収できるから、すぐ交換は無理ですよ」
「……すぐ……お願い……します…」
「ウンチなの? ウンチもらしたの?」
「……はい……ひっく…ううっ…ううっ…ぐすっ…」
恥ずかしくて四葉が泣き出すと、司と沙耶香が気づいてあげられなかったことを後悔しつつも、看護婦に対して怒りが湧いてくる。
「そんな言い方ないだろ」
「女の子なのに、ひどいやん」
「何が? 人間、ごく普通のことでしょ」
「そうかもしれないけど、配慮とかあるだろ」
「四葉ちゃんの気持ちを考えてあげてくださいよ」
「はいはい、いい友達がいてよかったですね。そんなに言うなら、あなた達が替えてあげればいいじゃない。この子のウンコ、すっごい臭くて最悪なのよ」
「っ、うっううっ…うううっ…」
容赦ない看護婦の言葉は四葉の羞恥心と自尊心を握りつぶしてくる。まるで熟れたトマトを握りつぶすように、ぐしゃりと乙女心が圧壊されて汁が垂れるように涙が流れる。
「四葉ちゃん……こんな看護婦、明日にでも町長のお父さんに言うて、追い出してもらおな。この病院が町立なこと、忘れん方がいいですよ」
「ボクの方でもオヤジに言っておくよ。いくら顔を傷つけられたからって、あまりにひどい対応だから」
「うるわしい友情と彼氏の優しさってところ? けどさ、あんたたち二人、この子が目覚めるまで、キスとかエッチとか言ってイチャイチャしてたよね?」
看護婦は四葉のオムツを交換するために脚を拘束している革ベルトの鍵を開けて調節する。まっすぐに寝ていた状態の脚をM字に開脚させて再固定して鍵をかける。膝を立てると病人用の寝間着がはだけてオムツが丸見えになった。司は病室を出ようかと迷ったけれど、看護婦を放置しておけないので四葉の身体から目をそらして残り、反論する。
「イチャイチャなんてしてない。四葉が目を覚ましてくれるように、面白い話をしてただけだ」
「そうよ、そうよ」
「はいはい、よくあるのよね。病院では。若い子が事故や病気で意識不明で運ばれてくるとね、お見舞いが同性だけのときは平穏に終わるけど、彼氏や彼女がいてさ、毎日お見舞いに来て、けど、他にも異性がいっしょに見守るパターンだと、だんだん意識の戻らない人より、手近な二人でくっついちゃうパターン。残念だったね、こんなに早く目が覚めて。とくに、名取の末娘、あんた、好きなんでしょ、こいつが」
「っ…で、でまかせ言わんといてよ!」
沙耶香が赤面して怒るけれど、看護婦は淡々と四葉の両脚の再固定を終えて、新しいオムツとウェットティッシュを出している。
「ホント、おしかったね。あと二日、いえ、あと一日でキスくらいできそうな雰囲気にもってきてたのにね」
「何の根拠があって、そんなこと言うのよ?! 私が四葉ちゃんを裏切るようなマネするわけないやん!!」
「だってほら、玄関ロビーで抱き合ってたでしょ。交代のとき準夜勤のナースがラインで送ってくれたよ。私たち、二人が何日でくっつくか賭けてるから」
看護婦はスマフォを操作して画像を見せつけてくる。その画像は病院の玄関ロビーで司と沙耶香が出会ったとき、なかなか意識の戻らない四葉のことを心配して不安になり、それを慰め合ったときのもので、沙耶香の手が司の背中にあったり、司の肩へ沙耶香が頭をつけていたりして、抱き合っているように見えなくもない写真だった。それを天井を見ることしかできない四葉の眼前につきつけて嗤う。
「ほらほら、いい雰囲気でしょ? きゃははは♪」
「っ…」
濡れていた四葉の瞳が画像を見て凍りつき、沙耶香と司は慌てて否定する。
「こ、これは違うんよ!」
「誤解しないでよ、四葉!」
「……うん……、…二人を……信じてるから……ぅうっ……ひっく…」
そう言いつつも涙が溢れるのを看護婦が嗤う。
「きゃはは♪ 信じてるなら泣かなくていいじゃん。ホントはもう半信半疑っていうか、ほぼ黒だと感じて泣いてるくせにさ。だいたいのパターンで、ここまで来てると、もう捨てられるよ。結局さ、男って病気でガリガリの女より、健康で元気な女の子の身体を選ぶから。おっぱいも段違いだしね!」
「っ…司には……私より…うぐっ…はうっ…ううっ…うわあああん!」
四葉が声をあげて泣き出した。意識が戻ったとき、ちゃんと達成感もあったはずなのに看護婦から地獄のような虐待をされて、さらに今は股間が痒くて気持ち悪くて、知られたくなかったのにオムツへ大便を漏らしていたことを知られて、なのに司と沙耶香が仲良くしていた写真を見せられて、司のためには長生きできない自分より沙耶香の方がいいのかもしれないと考えたりもするけれど、それでは自分があまりに報われなくて苦しくて、そして手足も首も動かせずにM字開脚で固定されてオムツ姿を晒されている状況が発狂しそうなほど苦痛だった。そんな四葉の心が、とうとう折れて大声をあげて泣き出している。もう、泣くことしかできなくなっていた。
「うわああん! ああああん!」
「四葉ちゃん、ごめん! ごめん!」
「謝るってことは認めるんだ」
「っ、違う! 違うから、四葉ちゃん!」
「うえええん! ふええええ! ふええええ!」
「きゃはは♪ ホント赤ん坊みたい! ウケるぅ! ウンコ漏らしてビービー泣いて。そりゃ彼氏も引くって」
「お前いい加減にしろよ!」
女性に暴力を振るうタイプではない司が怒り心頭で看護婦の胸倉をつかむ。つかまれて看護婦は薬剤の入っていない注射器で司の手首を刺した。
「痛っ?!」
思わず司は手を離す。看護婦は最後の仕上げに入った。
「えらそうに彼氏ぶるなら、彼女のオムツ交換ぐらいしてみなさいよ。臭い、気持ち悪いって投げ出さなければ、ちょっとは信じてあげるよ。できるかな? ボクちゃん」
「するさ!! お前にさせるより、ずっといい!!」
「はい、どうぞ。オムツ交換は医療行為じゃないから、あんたらにさせてもOKなの。よろしくね」
これが狙いだった看護婦は素早く司に新しいオムツを押しつける。もう司は引っ込みがつかないし、何より四葉にとって最大に恥ずかしくて苦痛なのは、病院のスタッフや同性である沙耶香に交換されるよりも、彼氏である司にオムツを替えられることだとわかっていての誘導だった。
「ほら早くしてあげなよ。かぶれて気持ち悪いって」
「うええええ! うえええん!」
もう四葉は泣いているだけで何も言えず、何も考えられない。
「四葉、泣かなくていいよ。ボクが優しく替えてあげるから」
「私も手伝うよ」
司と沙耶香がオムツを外すために、サイド部分を破いていく。看護婦は嗤いながら見ている。
「臭いよ。超臭いよ。マジで吐くほど臭いから」
「四葉ちゃん、すぐにキレイにしてあげるからね」
沙耶香がオムツを開いて四葉の陰部を丸出しにした。べったりと柔らかい大便が股間全体に貼りついている。茶色い大便が四葉の白い肌を汚して、わずかな陰毛にもからみつくように貼りつき、陰唇の中にまで入っている。肛門のまわりは、とくに大量の糞塊が溜まっていて、お尻は赤くなっていた。オムツを開いたことで匂いが部屋中に拡がる。
「う~っ…臭っ……最悪……ホント、異常に臭い。……うっ…吐きそう……ォェ……あと、よろしく」
四葉を蔑むための演技ではなく本当に青ざめた看護婦は口元を押さえながら出て行った。
「あいつ、職場放棄しやがった」
「プロ意識がないよね。っていうか、そんなに臭くないし」
司と沙耶香は優しくウェットティッシュで四葉の股間を拭いていく。拭いていくと、うっかり手に四葉の大便が着いてしまったりするけれど黙々と続ける。
「ふえぇ…うっ…ううっ…ぐすっ…ひっく…」
大泣きしていた四葉の涙が少し止まりつつある。
「もう少しやよ。四葉ちゃん」
「ぐすっ……ごめん……ごめんね」
みじめな気持ちでお尻を拭かれている四葉は、せめて二人に謝った。
「ええんよ」
「ああ、四葉の意識が戻って本当によかったよ。こんなことくらい何でもない」
四葉のクリトリスにまで着いている大便を拭き取り、完全にキレイにすると新しいオムツを着ける。
「四葉ちゃん、お尻を少しあげて」
「うん…」
ほとんど胴体も動かせないけれど、四葉は身じろぎしてお尻をあげた。司と沙耶香がタイミングを合わせてオムツをお尻の下へ滑り込ませる。
「はい、いいよ」
「…ごめんなさい……ぐすっ…」
「だから、謝らんでええよ」
「そうだよ。ボクは平気だから」
「平気どころかテッツー、さっきからエッチなこと考えてるみたいよ」
沙耶香がジト目で司の股間を見るとズボンの前が、もっこりと勃起して膨らんでいる。
「しょ、しょうがないだろ!」
「……司の……バカ…」
四葉は別の恥ずかしさを覚えて赤面する。沙耶香がオムツを閉じてサイドを止めた。
「はい、おしまい」
「ぐすっ……ありがとう…」
「鼻も拭いてあげよ。目も」
四葉の顔は涙と鼻水で濡れているので、ティッシュで沙耶香が拭いてやる。
「他に、どこか気持ち悪いところ、痒いところある? 遠慮せんと言うてよ」
「……」
四葉が迷う。
「はい、その顔はあるんやね。どこ? 恥ずかしがらんと言うて」
「……ありがとう……耳の中、……涙が入って、気持ち悪い」
「了解よ。私は左、テッツーは右を拭いてあげて」
「わかった」
二人で四葉の耳の穴もキレイに拭いた。股間も顔もキレイに整え、沙耶香と司は達成感を共有しつつ四葉を見下ろした。
「うん、キレイな可愛い四葉ちゃんになってるよ」
「そうだね。いい感じだ。……っていうか、オムツ姿の四葉も、なんか可愛い」
「クスッ…それ私も思った。四葉ちゃん、小柄やし不思議とオムツ似合ってる」
「四葉、赤ちゃんを産むって張り切ってたけど、四葉が赤ちゃんみたいで可愛いよ。それに入れ替わりが起こってから神さまみたいな雰囲気だったのが、もう普通に戻ってるのも安心したし」
「うん、一時は、ものすごい上から目線でお父さんにまで命令してたもんね。それが、さっきは赤ちゃんみたいにフエフエって泣くんやもん。もう、すっかり普通の女の子やね。四葉ちゃん、可愛いでちゅよ」
「っ…二人とも、ひどいよ! からかわないで、こんな姿、どれだけ恥ずかしいと思ってるの?!」
「「ごめん、ごめん、つい」」
謝りつつもクスクスと笑ってしまう二人の顔が酔ったように赤くなっている。
「あの看護婦、吐くほど臭いなんて言ってたけど、ぜんぜん平気だったよな」
「うん、むしろ慣れてくると、甘い匂いやったかも」
沙耶香が四葉の開脚されたままの左膝に触れる。
「四葉ちゃんの身体って、不思議と美味しそうな匂いするよね」
「そうそう、ボクも、そう思う」
司も四葉の右足首に触れた。
「この匂い。私、けっこう好きよ」
沙耶香が左膝から内腿を触っていく。
「ああ、ボクも大好きな匂いだ」
司が足首から爪先まで触っていきキスをする。沙耶香も左膝にキスをした。四葉は自分の下半身を見ることができないので何をされているのか、皮膚感覚で知ることしかできない。どう感じても爪先と膝にキスをされている気がして訊く。
「ちょっと、二人とも私に何してるの?」
「ん~、四葉ちゃんの味見ぃ」
「四葉から、あんまりいい匂いがするから」
もう単なるキスではなくて、二人の舌がペロペロと舐めてくる。
「く…くすぐったいから、やめて。私の身体、ずっとお風呂に入ってないから汚いよ」
四葉は逃げたいけれど、少しも動けない。そのうちに沙耶香が膝から腿まで舐めてくるし、司は足の指を吸ってくる。
「あんっ…く、くすぐったいから…二人とも聞いてる?」
「美味ち~」
「四葉の足、すごく不思議な味がする」
「やめて、司。ホント汚いから。たぶん、私、一週間もお風呂に入ってないよ」
思い返せば月曜日から入れ替わりが始まり、今日まで丸一週間、ちゃんと入浴したことはない。四葉の足は看護婦が雑にしか拭いていないので指のまたに垢が溜まっていたし、内腿も汗や垢でベタついている。なのに二人は熱心に舐め回してくる。
「四葉ちゃんの味って最高やよ」
「うん、すごく美味しい」
もう二人とも酩酊したような口調で四葉が嫌がっているのにやめることができない。そして、舐められているうちに四葉も身体の奥が熱くなってくる。開脚したままの恥ずかしい姿勢で親友と恋人に舐め回されていると、不本意ながら息が乱れて膣が熱くなってくる。
「ハァ…ハァ…もう、やめて…んっ…」
さらに四葉は困ったことに気づいた。オムツ交換のために下半身を丸出しにされたためなのか、それとも点滴が続いているからか、オシッコをしたくなってくる。
「ううっ…」
尿意を我慢するために内腿に力を入れているのに、沙耶香と司が力が抜けそうなほど舐めてきて困る。
「あううっ……やめて……おしっこ出そうなの…」
「しちゃえばいいよ。オムツなんだし」
沙耶香がオムツの上から下腹部に触れてくると圧迫されて尿意が高まる。
「はっうぅぅ! 出ちゃうから押さえないで!」
「無理に我慢しないで出しちゃえば。そのためのオムツなんよ」
「そ、そうだけど…」
言われた理屈は合っていても羞恥心が尿意を堰き止める。
「せっかく二人に替えてもらったばかりなのに、また汚したら申し訳ないよ」
「「また替えてあげるよ。さあ、出して」」
二人が何か期待したような顔で言ってくると、余計に我慢しないといけない気がして四葉は抜けそうだった力を頑張って入れる。
「ハァ…ハァ…ぅぅ…」
「もしかして、四葉ちゃん、オムツにシーシーするの恥ずかしいのかな?」
「そうみたいだね。でも、いつまでも我慢できるものじゃないよ、四葉」
「ぅぅ…」
「四葉ちゃんの力が抜けるように。お耳をペロってしてあげる」
そう言って沙耶香は脚を舐めるのをやめて、今度は四葉の左耳を舐めてきた。
ペロ…
「はぅ…」
四葉が逃げようと反射的に首へ力を入れたけれど、まったく動けない。沙耶香の舌先が耳の穴まで入ってきた。
ぬちゅ…ちゅぱちゅぱ…
「あぁ…あぁ…」
四葉は背筋がゾクゾクとして声を漏らして、オシッコも漏らしそうになっている。そんな様子に沙耶香が耳元でクスクスと笑う。
「四葉ちゃん、耳が弱いよね。さっき掃除してあげたときもビクンって何度もなったから、すぐわかるよ」
「や…やめて……おしっこ……出ちゃう…」
「出していいんだよ、四葉」
司も沙耶香の真似をして四葉の右耳に囁いてくると、舐めてきた。
ぬちゃ…
「あうぅぅ!」
男の舌は沙耶香の舌とは、また感触が違って大きくて動き方も違って繊細な沙耶香の動きと大胆な司の舌使いは四葉を敏感にさせた。
「はあっ! はう! 漏れちゃうからやめてぇ!」
「クスっ、四葉ちゃん、可愛い。もう一回」
ぬちゅ…ちゅるる…
また沙耶香が耳へ舌を入れてくる。司も続けているので四葉は左右から耳の穴へ舌を入れられて声だけでなく少し尿も漏らしてしまう。
ジョッ…
両耳を舐められて力が抜けて、四葉はオシッコを一噴きしてしまった。そのまま全部漏らしてしまいそうになるのを必死に我慢して止める。
「ああっ…くううっ…止まってぇ…」
もじもじと四葉が身じろぎして尿意に耐えている。開脚したままなので、とても我慢しにくい。四葉の内腿に筋肉の筋が浮いてプルプルと震えていた。
「フフ、四葉ちゃん、チビったのかな?」
「オムツの中から音がしたよね。四葉はオシッコの音まで可愛いな」
「ハァ…ハァ…」
「でも、四葉ちゃん、何のために我慢してるの?」
「わ…わかんないよぉ」
もう四葉自身、どうして我慢しているのかわからない。全部出してしまえば楽になったのに、羞恥心が邪魔するのか、歯を食いしばって額から汗が流れるほど頑張って我慢している。沙耶香は囁きながら息を四葉の耳へ吹きかける。
「力を抜いて」
フー…
「あぅぅ…」
唾液で濡れた耳の穴が少しヒンヤリして四葉は身悶えする。いつのまにか、左の乳首を沙耶香の指先がつまんでくるし、司まで寝間着に手を入れて右の乳房を揉んできている。
「困ったねぇ。なかなか出ないねぇ。四葉ちゃんが素直にオムツにシーシーできるよう、私が魔法をかけてあげる。私の声で魔法をね」
「ハァ…ハァ…」
「私の名前は名取沙耶香だったよね。パパとママが沙耶香にするか、早耶香にするかで、名前の取り合いをしたから、名取りなんて冗談を言われるけど本当は違う。名取家だって宮水家と勅使河原家とともに、この町を守ってきた御三家の一つ。この話はね、私たちが20歳になったら聞かされるけど、私はお婆ちゃんがお姉ちゃんに話してるのを聞いてしまったの。でね、宮水家に巫女としての力があったり、勅使河原家に金運があったりするみたいに、名取家には声に力があるの。声って大切だよね。歌も放送も口伝も、みんな声の力。かけ声も鬨の声も。こんな山奥の村が2400年も前から、ずっと途絶えないで生き残ってこられたのは御三家が協力していたから。巫女と金運と声、その三種の神技で」
「ハァ…ハァ…サヤボボ?」
「そう。私たちは家族の間でも本名で呼び合ったりしない。サヤチン、サヤボボって別の名前を使う。だって、お互いの声に力があるから、本当の名前なんて呼び合ってケンカしたら大変なことになってしまう。ね、宮水四葉」
沙耶香がフルネームで呼びかけてくると、四葉は不思議な力を感じた。よくわからないけれど、自分のすべてを沙耶香の掌にのせられたような感覚がする。
「名取家は、声で人の名を取ったり、ときには声で勇気を与えて名声を取らせたりする。だから、名取。今から宮水四葉の名前を取ります」
「え? え?」
「もう、あなたは宮水四葉じゃないの。ただの……そう、ミーちゃん」
「…みー…」
「もう今のあなたはミーちゃんだから、何をしても大丈夫。恥ずかしいことがあっても、それはミーちゃんに起こること」
沙耶香の美声が耳元で囁いてくると、四葉は脳が痺れるような気がした。もう言われるまま、身を任せたくなる。沙耶香はオムツの中へ手を入れて四葉のクリトリスに触れた。そこは、すでに小水以外の粘液でも濡れていてクリトリスも勃起している。ずっと司は四葉の身体を舐めているし、沙耶香も囁きながら指先で乳首を刺激していたので自然な反応だった。
「さあ、あなたの名前は?」
「……ミー?」
「そうだね。ミーちゃんだね。いい子、いい子」
「ミー♪」
四葉は頭を撫でられると嬉しそうに鳴いた。
「さあ、ミーちゃん。ずっと、おしっこを我慢してると、つらいから、もうしてしまいましょうね」
「ミー……」
「大丈夫。ミーちゃんはオムツをしてるから、シーシーしても平気だよ。ううん、平気なだけじゃない、とっても気持ちいいの」
沙耶香が囁きながら、四葉のクリトリスを指先で擦る。
「ぁ…ミー……ミーんっ…」
四葉が気持ちよさそうに喘いだ。もう人間の言葉を使うと脳が恥ずかしさを思い出すので、幼児か猫のようにミーミーと声をあげるだけになっている。
「可愛いね、ミーちゃん。さあ、とっても気持ちいいオシッコしようね。私がね、こうやってミーちゃんのクリトリスをクルクルしてあげてるから、ミーちゃんはオシッコすると同時にイってしまうの。私は指でミーちゃんのオシッコを少し押さえてクリトリスに当たるよう流れを変えるから、ミーちゃんは自分のオシッコシャワーでイクの。イキまくるの。オシッコが止まるまで何度も何度も」
「…ミー……ハァ…ハァ…」
「うん、期待してる顔してるね。気持ちいいオシッコして何度もイこうね。もう、ミーちゃんは私の掌の上。指先で踊るの。名取の力、言の葉の庭は言葉で人の心を庭のように掌握する。さあ、もう出ちゃいそうだよね。我慢するのつらいよね」
「ハァ…ハァ…ぅぅ…」
「あと10秒でミーちゃんに限界が来る。おもらしまで、あと9秒」
「ハァ…はぅ……ミー…」
「8秒。まだ出しちゃダメ。我慢して、7秒」
「ミー……ミーんっ…」
「もう、あと6秒。気持ちいいよ。さあ、5秒。ずっと我慢してたオシッコ全部しちゃおうね。4秒」
「ハァ…ハァ…ハァ!」
「3秒。もう出る。出ちゃう出ちゃう、2秒。さあ、オムツにおもらし、しちゃおうね。赤ちゃんみたいにシーって。あと1秒。何度もイっちゃうエッチなミーちゃん、おもらししなさい。ゼロ」
「はミーーーィんっ!!」
絶叫すると同時に四葉の尿道から、オシッコが噴き出してくる。
しょわぁぁぁぁぁ!!
その熱い奔流を沙耶香は指先で押さえて流れを変え、クリトリスへ当たるようにした。
ビビッビイビィ!
「みぅぅぅん!!!」
自分の小水が激しくクリトリスを責めてくる。満杯だった膀胱から放尿する快感と、クリトリスを熱い放水で打たれる快感が重なり、四葉はブルブルと震え何度も絶頂していく。あまりの快感で嬉し涙が零れ、口が半開きになってだらしなく笑っているような表情になり、目が恍惚としていく。
「はぁぁぁあはぁぁぁ」
「イってる。イってる。もう何回目?」
「ハァ…はぁぁぁ…あ! あはぁあ! ぁぁあ…ハァ…ミィィ…」
「ミーちゃんのアヘ顔、可愛いね。熱いオシッコが私の手に当たってるよ。こんなにいっっぱい出して、よく我慢したね、えらいえらい」
「…ハァ……ハァ……あぁ……」
ようやく小水を出し切り、ぐったりと四葉は弛緩する。ずっと頑張って我慢していた緊張から解き放たれ、快感まで与えられて、もう頭が真っ白になっている。
「さあ、ミーちゃん。そろそろ元に戻ろうね」
沙耶香が少し意地悪な声で言う。今までと声のトーンを変え、やや男性のように問いかける。
「君の名は?」
「…え? ………ミー…」
「違うよね。君の名は?」
「……………」
四葉の瞳が質問から逃げるように左右へ彷徨う。
「さあ、君の名は?」
「……ううっ…」
「君の名を、言ってようか」
「………ううん…」
四葉がイヤイヤするように首を振ろうとして動かせないので瞳だけが揺れる。
「さあ、教えてよ。オムツに、たっぷりおもらしした、君の名は?」
「……ううっ………ミー…」
四葉が顔を真っ赤にして恥じらって誤魔化そうとしている。
「ミーじゃないよね。本当の君の名は?」
「………ぐすっ…」
泣きべそになって四葉が唇を尖らせている。
「言えないのかな?」
「…はい…」
「そうだよね。言えないよね。高校生にもなってオムツにおもらししたなんて。しかも、おもらししながらイっちゃったよね。何度も。エッチなくせに、おもらしなんて赤ちゃんみたいなことして、なのに何度もイっちゃって」
「はぅぅ……」
四葉のオムツは大量の尿で膨らみ、重くなっている。沙耶香はオムツの中から手を抜くと、四葉のオシッコで濡れた手をペロリと舐めてから、四葉のオムツを外から押さえてみる。
「ほら、こんなに大量に」
オムツを押さえつけられると、まだ温かい濡れた感触が股間に押しつけられ、おもらしした実感を強制的に味あわされた。四葉は恥ずかしくて涙が流れる。
「ぅぅ……」
「君の名は?」
「……お願い……許して…」
「ミーのままでいたいの?」
「うん」
「そうだよね。恥ずかしすぎるよね。宮水四葉」
「っ……」
四葉がギュッと目を閉じた。けれど、沙耶香は言葉責めをやめない。
「宮水四葉。おもらししたのは宮水四葉」
「あうぅぅうぅっ…」
「あうあう赤ちゃんみたいな声で誤魔化してるのも宮水四葉。高校生なのに、あうあう言ってます」
「っ…………」
「誤魔化さないで、ちゃんと言いなさい。君の名は?」
沙耶香は問いながら、手で司の肩を叩いて意思を伝える。それだけで司も悟り、いっしょに反対の耳から問いかける。
「「君の名は?」」
「……ぅぅ…」
「学年トップだったよね」
「しっかり者の妹さんだよね」
「町でも評判の」
「学校でも高評価」
「神社の巫女様」
「みんなのアイドル」
「…ゆ……許して……もう許して…」
しっかり者に育ったのは母を早くに亡くしたこともあれば、姉が頼りなく高卒で出て行ってからは神事の多くをこなしてきたこともあり、けれど本当は甘えたりずに育った心理を知っている二人から言葉責めさせると、四葉は羞恥心と自尊心と誰かに甘えたい気持ちが綯い交ぜになっていく。
「「君の名は?」」
「ああ……ち……違うの……これは………ミー……が…」
四葉は目を閉じて、耳も塞ぎたいけれど、耳は塞げない。その耳に沙耶香と司が言ってくる。
「「宮水四葉」」
「ううっ……」
「おもらししたのは四葉ちゃん」
「四葉のおもらし可愛かった」
「さあ、自分でも言いなさい。おもらししたのは宮水四葉です、って」
「っ……そんな……」
「言わないと、終わらないよ」
「ぅうっ……」
「さあ、君の名は?」
「君の名は?」
「………み…みや……む、無理……もう許して…お願い」
「そう。じゃあ、もう少しだけ優しくしてあげる。赤ちゃん言葉で言ってみようか、おもらちしちゃったのは宮水四葉でちゅ、って」
「あううっ…」
「うん、いいよ。あうあう言ってもいいの。だって、今だけは四葉ちゃんは赤ちゃん」
むしろ、ハードルをあげた沙耶香は、もう冷たくなってきたオムツを再び四葉の股間に押しあてる。
「ほら、言いなさい。おもらちしちゃったのは宮水四葉でちゅ」
「あうぅぅ……」
「はい、おもらちしちゃったのは?」
「……四葉……でちゅ…」
「クスッ、もう一回」
「……うう……」
「おもらちしちゃったのは宮水四葉でちゅ。クスクス、私の声で囁かれると、どんどん恥ずかしくなるよね。言葉にして声に出されると、人の心に深く入り込んでいく。いいのかな? ちゃんと言えるまで終わらないよ。何度も何度も、私は言ってあげるけど、いいの?」
「あうぅぅ…」
「さあ、おもらちしちゃったのは、誰でちゅか?」
「…うっ……ううっ……お……おもらち……しちゃったのは……み……宮水……………………四葉……でちゅ……あああ! ああああ!」
恥ずかしすぎて四葉は叫んでしまう。沙耶香は満足したように微笑み、また問う。
「さあ、そろそろオムツを替えてあげないとね。どっちがいい? 私か、それとも」
沙耶香が司を指した。同性の自分がいいか、交際を始めたばかりの司がいいか、あえて本人に選ばせている。
「……ぅぅ……」
「そのままでいると、また痒くなるよ」
「四葉、ボクが替えてあげようか」
「…うう…」
どっちも恥ずかしいので答えが出せないでいると、また沙耶香が言葉責めしてくる。
「おもらしした上、自分の意思も言えないなんて、本当に学年トップなのかな?」
「あぅぅ…」
「また、あうあう言う。赤ちゃんのままがいい?」
「……ぅぅ…」
「学校でも町でも、しっかり者で有名な宮水四葉が本当は、こんな赤ちゃんみたいなんて、みんな知ったら、どう思うかな? 言っちゃおうかな。放送しちゃったりして」
「っ…言ったらイヤだ! ヤダよ!! 絶対言わないで!!」
「クスッ…言わないよ。私たちだけの秘密」
やや意地悪な声だった沙耶香は一転して優しく囁きかける。
「可愛い可愛いミーちゃんがいることは私たちだけの秘密」
「……本当に誰にも言わない?」
「安心して」
「…ぐすっ…」
「はい、じゃあ、二人でオムツを替えてあげるね」
「………お願いします」
動くこともできない四葉は身を任せて二人にオムツを交換してもらう。沙耶香と司の手でオムツが開かれた。濡れたオムツから、ふわっと匂いが立ち上った。
「…いい匂い…」
「…なんて香りなんだ…」
沙耶香と司が陶然として四葉の股間に顔を近づける。四葉は二人から股間を舐められて驚いた。
「ちょっ?! イヤだ! 舐めちゃダメ! 汚いから!」
「汚くないよ、美味しいよ」
「うん、すごく美味しい」
「二人ともお腹壊すよ! ヤダよ、もう! 正気に戻って! おかしいよ!」
四葉が怒っても二人とも舐めるのをやめない。やめないどころか舐め続けてくるので、そのうち四葉も甘い快感に負けて何度も絶頂させられてしまう。沙耶香と司は何を言っても四葉を舐め続けてくる。両腕を固定されて動かせない四葉の腋へも舌を入れてきた。
「ハァ…ハァ……ヤダよ……一週間もお風呂に入ってないって……言ってるのに…イヤな匂いするでしょ……毛も伸びてるからイヤなのに…」
「美味ちいよ」
「四葉の身体は、どこだって最高だよ」
もう二人の目は酩酊しきっていて四葉は自分の身体に何か二人を酔わせる成分があるのかもしれないと考え、もう満足するまで舐めていてもらおう、どうせ動けないし、気持ちいいし、と諦めて思っていたけれど、お腹が不穏な音を立てた。
キュルゴロゴロ!
「ううっ…痛いっ…」
お腹が痛む。四葉の腹部が激しく痛み、鳴った。
「ハァ…ハァ…こんなときに…」
四葉は動けないまま鼻に挿入されているチューブを見上げた。ずっとオレンジ色のペーストが一定速度で落ちてきていたけれど、もうパックは空になっている。すべて四葉の胃に流し込まれていて、おかげで空腹感はないけれど、お腹が痛くなっている。
「ううっ……ふ、二人とも聞いて!」
今にも肛門から排泄してしまいそうな腹痛に襲われながら、沙耶香と司が股間を舐めているので告げる。
「お腹が痛いの! たぶん、この栄養剤のせい!」
看護婦が温めずに流し込んだために四葉は下痢になりかけていた。
「だから、そこから顔をどけて! オムツをはかせて!」
「ミーちゃん、オムツをはきたいでちゅか?」
「サヤボボお願い目を覚まして! 今にも出そうなの! ううっ! うっ!」
「クスっ、四葉の我慢してる顔、可愛いな」
「司、ひどっ…ううっ…ハァハァ! 聞いて! 私の筋力、たぶん半分に落ちてるの! もう3日経ってるから! さっきもオシッコ我慢してて感じたけど! 身体に力が入りにくいの! きっと、北斗神拳のせいで筋力が半減してるの! だから……だから、ああ! ううっ! もう無理……ハァハァ! 出ちゃうの! 見ないで! 舐めないで! オムツをはかせて! あっ! あ! ああああっ!」
筋力が落ちていることもあって肛門の括約筋も、すぐに腹痛に負けてしまった。
ブリッ! ブブブリブリィ! ぼたぼた…
四葉の肛門から軟便が吹き出し、沙耶香と司の顔にかかった。
「……美味ちい」
「あ~…うまい」
二人が自分の便を口に入れたり舐めたりしている気配がするので四葉が困惑する。
「ちょっ、ちょっと?! 何してるの?! ねえ! まさか、食べてないよね?!」
見えないけれどペチャペチャという音や、汚れたお尻を舐められる感覚でわかりたくないのに、わかってしまう。
「やめて! そんなもの食べないで!」
いくら四葉が叫んでも二人は食べ続け、残らず食べきってしまった。
「もうないの?」
「また出してよ、四葉」
催促するように肛門を二人が舐めてくる。
「ううっ……ごめん……私の身体に変な成分があって……きっと二人を、こんな風に…」
「四葉、もう無いならさ。今度は、これ」
司がズボンのチャックを開けて勃起した男根を出した。
「司………うん、それならいいけど」
自分の大便を食べられるより、ずっといいので四葉も了承したけれど、司がポケットからコンドームを出すと残念そうな顔をする。
「司、そんなの使わなくていいよ。それって中学のとき習ったけど、たしか妊娠しなくなる物だよね?」
「使わなくていい?」
「うん、無しで直接、お願い」
「わかったよ」
司はコンドームをポケットに戻すと、もう開脚したままで準備OKな四葉へ正常位で覆い被さりつつ、男根を四葉の肛門に挿入する。
「あうっ?! ち、違う! 司、そっちじゃないよ!」
「四葉のこっちの処女もほしいんだ」
「司……」
四葉が見上げて司の瞳を見ると、やっぱり酔っているような色合いが残っている。四葉は直腸に入ってくる男根を感じつつ、まあいいか、と思った。
「司、こっちの穴なら、さっきの使ってくれた方がよかったかも」
「ううっ!」
司が3回目のピストン運動で射精してくる。
ビュルビュル!
四葉は腸内に、かすかに温かい感触を覚えつつ、男根が萎えていくのも感じた。
「………」
「………」
四葉と司が黙っていると、沙耶香が淋しそうに四葉の爪先を自分の股間にあてがってくる。四葉は足の親指が沙耶香の膣に包まれた感触がしたので驚く。
「ちょっ?! サヤボボ?! 何してるの?!」
「だって二人だけ……私も気持ちよくなりたいんやもん」
沙耶香はスカートのまま四葉の足を跨いでショーツをよって膣で爪先を咥えている。
「私の爪先なんか大事なところに入れちゃダメだよ!」
「四葉ちゃんの親指ちょうどいいよ」
「そういう問題じゃなくて…ぅうっ!」
また四葉に腹痛が襲ってきた。
ゴロゴロ! キュルル!
「うううっ!」
「また出るの?」
「また出るんだ」
沙耶香と司が期待した目で問うてくる。
「ダメ! ダメだから! 変なもの食べないで!」
「四葉ちゃんのウンチ、最高に美味しいよ」
「四葉のウンチは変なものじゃないよ」
「ううっ……正気を……取り戻して、お願い……ああっ…くううっ……力が…」
二人に食べられたくないので我慢しようとしても筋力が半分になっていて力が入らない上、沙耶香と司が両手で四葉の尻肉を拡げてくる。下痢便を我慢しようとしている肛門を4つの手で開くように拡げられると、開脚している四葉はなすすべなく失禁した。
「イヤ…出ちゃう…ああぁっ!」
ブリ! ブブブ! ぼた…ぼた…
軟便と司の精液が噴き出してきた。
「わああ、美味しそう」
「……ボクの…」
自分の精液が混じっていた司は引く。沙耶香が一人で食べ始めた。
「あああ! 美味ちぃぃ、美味ちにゃ~」
四葉の大便と司の精液を舐めとって飲み込み、幸せそうにしている。
「「……………」」
「美味ちにゃ~」
沙耶香が正気を失った笑顔で食べ終えたときだった。病室に再び看護婦が戻ってきた。
「臭っ……ホント臭いわね」
看護婦はエアコンを最大換気モードに操作してから、四葉たちを見る。司は気づかれないように男根をズボンに片付け、沙耶香もショーツを脱いでいなかったので、そのまま座り直して誤魔化した。けれど、看護婦は液晶テレビの近くに目立たないように置いておいたスマフォを手に取ると、データーを確認して、ほくそ笑む。
「きゃははは♪ 信じられない! やっぱ勅使河原の血筋って変態よね! ほら、見て見て」
看護婦が四葉にスマフォを見せつけてくる。そこには四葉たち3人が映っていた。ちょうど最初のオムツ交換を始めるときから、今までの動画が盗撮されていた。
「まさか…スマフォを…ずっと…」
四葉が問い、看護婦が冷笑する。
「そうよ! エロガキどもが何かするかと思って置いておいたの! まさか、ここまで変態だとは思わなかったけど! いい映像が撮れたわ! これ週刊紙に売ったら最高よね?!」
「…………」
「あとさ、あんたのオヤジ、東京に出張へ行くとホテルにデリヘル呼んでるよ」
「………………」
「ほら、証拠写真もあるし」
看護婦がデリヘル嬢と俊樹がビジネスホテルへ入っていく写真も見せつけてくる。娘として少し残念だったけれど、あまりショックを受けていない様子の四葉に、看護婦も残念そうにしたけれど言い募る。
「このネタで叩けると思って週刊紙に売り込んだのに掲載されないから、もっとインパクトあるの狙ったら、ここまで変態プレイするとは思わなかったわ! いい! 最高よ! これ週刊紙よりユーチューブにあげた方が世界中に広まっていいよね?! これで勅使河原も宮水も終わりよ! ついでに名取も! 御三家全部、終わらせてやる!! きゃはははははは!!」
「…………あなた……誰なの?」
明らかに三人のことを知っている看護婦の口ぶりに四葉が問うと、看護婦は笑うのをやめて迫ってくる。
「私の名をいってみなさい」
「………」
四葉が看護婦の顔を見る。大きな絆創膏のおかげで目くらいしか個人を判別するヒントがない。鉄仮面をかぶった状態で自己誰何するよりマシだと思うものの、わからない。四葉だけでなく、換気されたおかげで正気に戻った沙耶香と司も状況を認識して、看護婦が誰なのか考える。
「……私……この人、見たことあるような……」
「ボクも……そんな気が……」
「それは私もなの」
四葉も見たことがある気はするけれど、思い出せないでいる。
「もう一度だけチャンスをあげるわ。私の名をいってみなさい」
「「「…………」」」
「そう。社会的に死にたいのね。この動画、アップしたらどうなると思う?」
「そ、そんなことしたら、お前だってクビになるぞ!!」
司が脅し返しても、看護婦は引かない。
「いいわよ、どこか遠くで再就職するから!」
「くっ……お、お願いだ! 待ってください! さっきのボクらは、どうかしてんだ!」
司が土下座して頼むと、沙耶香も土下座する。
「どうか待ってください! お願いします!」
「フフ……いいわ。最高に気分がいいわ。勅使河原と名取が私の足元にひれ伏してる。なんて、いい日なの」
「あなた、本当に誰なの? なぜ、私たちを恨んでいるの?」
動くことのできない四葉が問い直すと、看護婦は顔の絆創膏を剥がした。
「この顔の傷、3日経っても治るどころか、まだ膨らんで疼くのよ」
看護婦の顔には四葉の掌打を受けた傷があり、そこは肉が内部から破裂しかけたように膨らんでいる。
「医者は単なる打撲だっていうけど明らかに変よね。この傷が治らなかったら、どうしてくれるか」
「………ごめんなさい」
四葉は北斗神拳による傷跡を見て、あまりに申し訳なくて謝ったけれど、看護婦は唾を吐きかけてきた。
「ごめんで済むかっ!!」
看護婦は美人というわけではないけれど、年齢は三葉と同じくらいで女性の顔にある傷跡としては、あまりに痛々しい。動けるなら四葉も土下座して謝りたい気分になったけれど、M字開脚で下半身裸のまま何もできない。
「さあ、この顔を見ても誰だかわからないの?」
「え……でも、それは3日前に私が当てた傷で……あなたが私たちを恨んでいるのは、もっと前からじゃ……」
「そうよ! だから、この傷がない顔を思い出してみなさい! 私の名を!!」
「傷が無かったら………あ! えっと!」
「ボクも思い出した!」
「私も!」
三人が看護婦を思い出した。
「えっと……あの……ほら、お姉ちゃんと同じ学年の……」
「そうそう、お姉ちゃんと同じ学年の………えっと……」
「兄貴と同じ学年だったはず……名は……えっと、……名前は…」
小さな町なので、お互いに知っているはずなのに名前が思い出せない。看護婦が業を煮やしたように足元にいる司を蹴った。
「あんたら家持ちは、いつもそうだ!! 私らを人間と思ってない!!」
「うぐっ…」
「とくに御三家!! あんたらに私たちは顎で使われ、この町で生きてきた!!」
そこまで言われて沙耶香が気づいた。
「あなたは、町営の…」
「町営の子?! それって名前?!」
「……すみません…」
この町では町営住宅に住んでいる住民のことを、単に町営と呼んだり、その子供を町営の子と習慣的に呼んでいた。田舎なので、ほとんどが広い一戸建てに住む中で、町予算による補助があって家賃が割安だけれど、狭くて長屋造りの町営住宅に住む階層は生活保護受給家庭だったり、母子家庭だったり、父親が居てもアル中だったりと事情のある世帯ばかりで、町の人間も付き合い方を選んでいる。あまり関わらないし、関わっても可哀想なので野菜を施したりする程度だった。町の治安は良く空き巣などいないので、どの家も鍵をかけないのが普通だったけれど、町営住宅から100メートル以内の家では鍵をかけているし、町営の子が遊びに来ると、ほぼ無意識で町民は財布などの貴重品をさりげなく管理している。そして、町で唯一のコンビニで万引きが起きてパトカーが来ると、ほぼ100%町営の子が捕まっていた。
「思い出した。あなたはお姉ちゃんと同じ学年で……お父さんの選挙のとき……」
四葉も小学校時代のエピソードの一つを思い出した。父の選挙のさいに登校中、三葉と克彦がそろって登校していることを、土建屋と町長はその子供も仲がいい、と揶揄してきたグループにいた子だと気づく。学生の時期は一見して平等で、むしろ家柄のいい子の方がおとなしく、町営の子が何でも言えるけれど、大人になって町内で就職すれば、もう勅使河原にも宮水にも逆らえない、それが本能的にわかっていて、せいぜいの野次を飛ばしていただけの一人だった。
「さあ! 私の名を言ってみなさい!」
「…………すみません……知りません」
この小さな町で名を知らないというのは、相手にしてない、人と思っていないということと同義だった。それぞれに家のある町民同士は名字で呼び合う、宮水の旦那、勅使河原の息子さん、と家族内のポジションで親しく呼ぶ。けれど、町営住宅に住む人間のことは一括して町営、そして子供は町営の子だった。町内会組織でも、それぞれの集落は仲良くしているけれど、町営住宅だけは役場直轄でゴミ捨て場も別、子供会も別だった。そのために四葉たちも意図して差別しているわけではないけれど、ごく自然に看護婦の名前は知らなかった。その無自覚の差別が許せないようで看護婦が沙耶香も蹴る。
「きゃっ!」
「私らにだって! 名前はあるんだよ! とくに御三家! 調子に乗りやがって!! 私たちと何が違うっていうのさ!!」
町のヒエラルキーの中で経済は勅使河原家、宗教と政治では宮水家が頂点に立ち、名取家はサポートとして声かけ役をしている。お金の流れも、まずは地方交付税交付金が町役場に入り、町長が差配する。その中で旨味の多い土木建設系の随意契約などは、勅使河原家に振り分けられ、その勅使河原家が下請けや孫請けに、ごく当然にピンハネして仕事を与える。そして宮水家には氏子からの集金と賽銭、祈祷料、各事業所からの上納金が入り、名取家は町役場勤務の職を回してもらえる。底辺の町営の住民には日雇いの交通整理や危険な高所作業が回ってくるだけで、それもピンハネを繰り返した挙げ句の末端被用者なので旨味は何もない。炎天下に一日立って7300円、目のくらむような山間の崖で作業して1万6500円だった。完全に固定化された格差社会が小さな町の中にできている。たとえ、努力して資格をとっても差はなかなか埋まらないし、大きく出世して大手ゼネコンに就職しても、町がからむ仕事だと地元理解の名の下に、なぜか下請けになるはずの勅使河原建設に頭が上がらないという力関係で格差は永遠だった。
「私の親は、あんたらの親にこき使われて生きてきたんだ!! 搾取されまくって!」
さらに看護婦が司を蹴る。
「それがイヤで私は看護師になったのに!! 高校卒業した途端に母さんの生活保護を打ち切りやがって!! バイトしながら資格とるのがどれだけ大変かわかる?! なのに就職してからも奨学金の返済!! 夜勤しないと生活していけない!! あんたらと私で何が違う?! なに東京で優雅に学生してんの?! あんたらの金だって、もとは税金でしょ?! 宮水!! お前なんか乞食と同じよ!!」
「あなた、あのときも……」
そう言われて四葉は子供の頃にあったことを思い出した。大晦日の夜、年越しの神事が終わり、午前1時頃に御賽銭箱を開けてお金を集めているときだった。この看護婦が他の男子とグループでやってきて5円玉を三葉の肩に投げつけながら言った、お前らって乞食と同じだな、この金ネコババできていいな、と姉は反論して、きちんと集計して神社のお会計に入れています、ご参拝ありがとうございます、よいお年を健やかにお過ごしください、と目を伏せて静かに言ったけれど、じゃあお前らが喰ってる飯代や生活費はどうなってるんだよ、と追求され、お給料として神社のお会計からいただいています、と答え、結局ネコババといっしょじゃん、と罵られるともう姉は黙ってお金を専用の箒で集めていった。そばにいたお年寄りが三葉を可哀想に思って、あれは町営の子らやから相手にせんとき、と励ましてくれた。それが言葉として、町営の子を四葉が認識した最初だった。まだ子供だった四葉にとって、いまだ忘れていない記憶だったけれど、やっぱり看護婦の名前は知らない、そういう人間関係だった。
「この乞食が!!」
看護婦が動けない四葉の腹部を殴ってきた。
「うっ!」
ブリ…
お腹を殴られると、わずかに残っていた軟便が肛門から零れた。
「なにが巫女よ! 同じ人間じゃない!! 奇跡なんか起こせない! ウンコ垂れのゲロ女! ゲロ酒でも造って売ってろ! この売女!」
もう虐待の発覚など気にしなくなった看護婦が四葉の顔面を狙って殴ってくるのを司がかばって背中で受け止める。女性の手で男の背中を殴ることになったので、むしろ看護婦の方が痛いけれど興奮しているので止まらない。司の背中を殴り続ける。
「この変態ども!! この町の頂点から引き摺り下ろしてやる!!」
「司……」
「大丈夫……このくらい…」
「もうやめてください!!」
沙耶香が看護婦にとりついて止めるけれど、振り払われる。
「ゲロ酒であきたらずウンコまで喰う手で触らないで!! 気持ち悪い!!」
「お願いです、どうか、やめてください! 私たちが何をしたっていうの?!」
「何をしたか?! 何もしないで優雅に暮らしてるヤツらに私らの苦労がわかるもんか!! お前ら毛布2枚で冬が越せるかァ?! いつも小便を便器でしてるヤツらに!! 水道代の節約だって言われて住宅の外に追い出される女の子の気持ちがわかる?! 小川で済ませるミジメさが!! 指さして笑いやがって!! 人を人とも思わないお前らに復讐してやる!! この動画を世界中にバラまいて!! ド変態の御三家を! この世界から消し去ってやる!!」
幼い頃から色々と町社会に不満をためて成長してきた看護婦は、沙耶香と司への暴行を続け、動けない四葉は泣きながら謝ってやめてと頼んだけれど嘲笑される。
「きゃははは♪ いいカッコね! ザマアミロ!!」
「ぅぅっ…ぅっ…」
「このオオボラ噴きのキチガイが!!」
看護婦が四葉の鼻へ挿入されているチューブを痛いようにグリグリと動かしてくる。
「ううっ!」
「お前も! お前の姉も! 母親だってそう!! この町を救ったとか! 意味不明なことを垂れ流して!! 町民も騙されて!! ただのゲロ女が調子に乗りやがって!!」
「ゴホッ! ケハッ! うえぇ!」
鼻から喉、胃まで挿入されているチューブを乱暴に動かされると苦しくて咳き込むし、再び嘔吐しそうにもなる。
「ただのキチガイ家系のくせに!!」
「うっオエぇ! ゴホッ! ゴホッ! んああ! 痛っ!」
「お前の母親なんて死ぬ前に何度も人格が変わって、狂い死にしたみたいなもんでしょうが!! お前もきっとそうなる!! 人格障害は遺伝するのよ!!」
母親を侮辱された瞬間、四葉の目の色が変わる。
「お母さんを悪く言うなァ!!」
四葉が怒鳴り、手足に力を入れて拘束具から抜け出そうとする。
「きゃははは♪ 無理無理! それはね、薬中のジャンキーが暴れても千切れない丈夫なヤツなんだから! きっと、お前の母さんも、こんな風に拘束されてたんだよ! キチガイゲロ女ども!!」
「ぬあああああああああああ!!!」
筋力が半減している四葉が雄叫びながら怒り狂うと、筋肉がモコモコと海綿体のように膨らんでいく。
ブチブチ!!
四葉の腕が筋肉で隆々になり頑丈な革ベルトが千切れていく。
「なっ…」
「うわああああああああ!!!」
さらに首や胴体、脚を固定していた革ベルトも引き千切る。四葉の腹筋が割れるほど隆々になり、脚の筋肉も何倍にも膨れあがった。点滴の針が皮膚から飛び出し、鼻に挿入されていたチューブを引き抜くと、すでに寝間着も破れ飛んでいて、全身筋肉隆々の四葉が全裸で立っていた。胸に装着されていた心拍を診るモニターの痕は、まるで北斗七星のように並んでいる。
「…あ…あの……拘束ベルトを……千切るなんて……バカな……」
驚いている看護婦の前に四葉が立った。
「北斗巫娼拳、撫那死目路!!」
ズンッ…
四葉が指先で看護婦の頭部を突いた。
「秘孔、末岳を突いた。あなたは自分の名前も忘れるほどの認知症になる。どんな記憶も3分と続かない。恨みも逆恨みも、妬み嫉みも喪い、忘却の恍惚を彷徨うといい」
「え…?」
「あなたの名は?」
四葉が問うと、看護婦は首をかしげる。
「私の名……名前……あれ、……何だったかしら…?」
「今は何年?」
「え……? ……何年だったかしら……ねぇ?」
「ここは、どこ?」
「どこ? ………どこなのかしら……」
何もかも忘れている様子の看護婦を、四葉は廊下の方へうながした。
「さようなら。この部屋から出て行って」
「あ…はい……さようなら」
看護婦は老婆のような足取りで病室を出て行った。
「よ……四葉、その筋肉は……」
司が驚きつつ問い、四葉も考える。
「あれから3日………筋力は半減していたけど……北斗神拳のことは忘れてない。秘孔もわかる。たぶん、ずっと意識不明だったから身体に定着してくれたのかも……」
「そ……その身体は、そのままなのか?」
司が筋肉隆々の四葉の身体のことを問い、四葉も自分の手を見る。胸筋も肥大化していて、もともと乳房が小さめなので、おっぱいが胸筋のオマケのようになっている。
「うーん、たぶん、あと少しで元に戻る感じ。元というか、半減状態に」
「そっか……よかった…」
「さてと、あと一人、懲らしめなければならない人がいるよね」
四葉が拳をバキボキと鳴らしながら、沙耶香に近づく。
「え? え? な、なんで?! わ、私? と、と、友達だよね? わ、私たちさ!」
青ざめた沙耶香は後退りしたけれど、そう広い部屋ではないので、すぐに壁に追いつめられた。