12.5事件からしばらくして、年末に差し迫ってきたある日。
「祐輔君、お疲れ様」
「お疲れ様です、明日奈さん」
その日は執務が滞りなく進み、更には珍しく緊急出撃も無かったために何時もよりかなり早く。具体的には、定時たる午後9時には書類は机の上から無くなっていた。その光景に祐輔は、内心で
(……もしかして、初めてじゃあ?)
と首を傾げた。
すると明日奈が
「祐輔君。私、先に戻ってるね」
と言うと、執務室から去った。祐輔はそれを珍しいと思いつつ、明日奈を見送った。そして立ち上がると
「あ、酒保で飲み物を買わないと……」
と呟いてから、酒保に向かった。そして買い物が終わると、家に向かった。ドアを開けて、中に入り
「明日奈さん、飲み物買ってきましたよ」
と居間に入るが、姿は無いし返事も無い。はて、と首を傾げつつも祐輔は買ってきた飲み物を冷蔵庫に仕舞い、寝室に入って、固まった。
「……箱?」
何せ、寝室のど真ん中に、大きな箱がドンと置かれてあったのだから。祐輔は不思議に思いつつ、制服をハンガーに掛けた。そして、意を決して箱の蓋を僅かに持ち上げた。その直後
「祐輔君、メリークリスマス!」
と中から明日奈が飛び出し、祐輔をベッドの押し倒した。そんな明日奈の格好だが、いわゆるビキニサンタと呼ばれる物だった。
「明日奈さん……それ、どうやって入手したんです?」
「え、えっとね……軍の女性士官向きの通販で……」
明日奈の返答を聞いた祐輔は、内心で軍は大丈夫なのか、と思ってしまった。そして箱の方は、明石が用意したらしい。とりあえずは、今度こんな箱を持っていた理由を問いただそうと心に誓い
「メリークリスマス、明日奈さん」
とある意味で定型の言葉を言いながら、明日奈を抱き締めた。日付は、12月24日。つまりは、クリスマスイブ。実は初音島鎮守府では駆逐艦や海防艦娘達には祐輔が全員分プレゼントを渡しており、それは事前に欲しい物を聞いていたのだが、祐輔は明日奈にも聞いたが、なんだかんだとうやむやにされて、教えられなかったのだ。
そして祐輔は、改めて明日奈の姿をよく見た。赤を基調にして、白い縁取りが施された水着で、色白な明日奈にむしろ似合っている。
「あのね、祐輔君……私ね、祐輔君との子供が欲しいの」
「……明日奈さん……」
結婚してから、祐輔と明日奈は何回か交わってきた。しかし、受け持っているのが防衛の要衝とあって、危険な時には避妊していた。
「ねえ……祐輔君はさ、何年間も誰かの為に頑張ってきた……だからさ、そろそろ自分の幸せの為に生きてもいいんだよ……」
明日奈はそう言いながら、祐輔の頬に手を添えた。まだ半年程だが、明日奈は祐輔は自分の事を二の次にしていることに気付いていた。何時も、誰かの為に動いてきた。確かに、美徳足り得るだろう。しかし、それは同時に危うさも内包している。
自分が二の次、つまりは自分の命にも頓着しない、ということに繋がる。
多少暴論かもしれないが、祐輔は結構危険な役割を担うことが多い。
提督が戦術機の衛士というのも異例だが、先陣切って敵陣に突入し、後退する際には自らが殿を勤めている。
恐らくは、部下を死なせたくないと思っているのかもしれないが、最高指揮官が死んでは元も子もない。
だから明日奈は、祐輔が自分を大事にする理由を色々と考えた。そして行き着いたのが、子供だった。
決して、今が幸せではないとは言わない。それは祐輔も一緒で、古参の里佳曰く、以前より自然な笑顔が増えたとのこと。
そもそも、明日奈達が着任してきた時、その人数の少なさに驚いた。第一初音島鎮守府に居た艦娘以外の正規軍人は、約二十人程だった。
それ程の少人数で、鎮守府を運営していた。今なら分かるが、大本営からの嫌がらせに他ならないが、祐輔はなるべく他の人員が休めるようにと、自分一人に書類を集中させていた。それが、日付が変わるまでの書類の山だった。
今では人員も増えて、300人を越えている人数が在籍しており、時間により交代要員も確保出来ている。
そこに明日奈も手を入れた班長制の導入。それにより、書類を捌く人員が増えて、書類が祐輔に一極集中することが無くなった。今やそれは功を奏し、段々と祐輔の執務時間が短くなり、今日は定時たる21時前には書類は終わっていた。
(うん。これも一種の改革になるのかな?)
明日奈はそう考えつつ、祐輔とジッと目を合わせ
「祐輔君……」
「あ、明日奈さん……」
ゆっくりと、祐輔が着ていたワイシャツを脱がし始めた。そして見えるのは、無駄なく鍛えられた肉体と歴戦の証たる数多の傷痕。
明日奈はゆっくりと、傷痕を撫でる。
「……本当に、頑張ったんだね……」
「……そうですね。何回も、死にたくなった時もありました……」
明日奈がポツリと呟くと、少し目を逸らしながら祐輔は同意の言葉を口にした。しかし、明日奈の頬に手を添えて
「けど、今こうして生きてます……無様に這いつくばり、この手を血に濡らし、罪を重ねながら……生きています……」
少し、どこか遠くを思いながら、そう呟いた。
しかし、優しく微笑みながら
「そんな迷い続けてる人間の僕ですが……そんな僕の子供……身籠ってくれますか?」
「……はい」
祐輔の問い掛けに、明日奈は笑みを浮かべながら頷き、唇を重ねた。
交わるのは次回になります
その次は、直哉が襲われます(え)
どういう話を書いてほしいですか
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