大晦日、ドンチャン騒ぎの講堂の端で、明久と結華はぼんやりとしていた。料理もそれなりに楽しみ、後はゆっくりと年を越すだけになる。
「まさか……無事に年を越すことになるなんてね……」
「だな……衛士は、戦死する確率が高いからな……」
実を言うと、新任衛士の初年度戦死率は平均値で約3割に達する。特に、初出撃の8分以内が一番高い。故に、死の8分と呼ばれている。
「しかも、海軍かぁ……」
「まあ、着てる制服は共通の衛士用のBDUだけどな」
衛士が着用する
「しかも、この初音島は防衛の最前線にして新型機や新兵器の試験も行う場所……」
「本当なら、腕利きが集められるだろうにな……」
衛士の人数は、漸く二個中隊。20人になったばかり。しかも、明久と結華は新任衛士。それなりに腕には自信はあるが、他の面々に比べると、見劣りするのは事実であった。
しかし、二人もそこで満足するつもりは微塵もなく、規定されてる訓練だけでなく、暇さえあればシミュレーター訓練を繰り返し行っては、直哉や唯依に指導してもらっている。
その甲斐あってか、着任当初に比べれば上達してきているのは確かだ。功績も、少しずつだが上げてきている。
「気付いたんだけどさ、陸に居た時より功績上げるの早いよね」
「確かにな……特に、アタシらが居た基地だと、隊長がある程度実機訓練した奴じゃないと、出撃させなかったしね……」
ふと何か気付いた様子で明久が呟くと、結華は明久の言葉に同意した。そこに
「明久さーん、食べてるぅ?」
と少し舌足らずな声音が聞こえた。視線を向けると、両手と頭に料理を乗せたトレイを乗せた文月が居た。
「わーお……」
「器用だね、文月ちゃん」
それを見た結華は驚きの声を漏らし、明久は素直に感嘆していた。
「んぅ? 慣れれば簡単だよぉ? あ、頭のやつ挙げるぅ。卯月、弥生に落とされてたから」
卯月は一体、何をやったのか。大方、イタズラをやり過ぎたのだろう。
「あ、うん。ありがとう」
文月の言葉に従い、明久は文月が頭に乗せていたトレイを取った。乗せられているのは、和菓子。
「芳野博士がぁ、差し入れてくれた和菓子だってぇ。さっき一つ食べたんだけど、美味しかったよ?」
「あ、それは期待出来そうだね。ありがとう」
「またねぇ」
結華がお礼を言うと、文月はトテテと去っていった。そんな文月を見送った二人は、文月から貰った和菓子を食べ始めた。和菓子は、桜餅とおはぎだ。
その二つを半分子にして食べていると、明久が
「ねえ、結……結も子供欲しいの?」
「ぶふっ!?」
明久の唐突な問い掛けに、結華は吹き出した。まあ、吹き出すのも無理からぬことかもしれないが。
「あ、アキ!?」
「いや、その……時々だけど、駆逐艦娘や海防艦娘を見る表情が、眩しそうだったから……」
結華が顔を真っ赤にしながら顔を向けると、明久は頬を掻いた。普段から結華は、駆逐艦娘や海防艦娘と接する時は優しく接していた。結華は口調が少々荒いが、面倒見が非常に良く、一部からは姐さん、と呼ばれている。
少しの間、結華は恥ずかしいからか顔を覆っていたが、一回咳払いし
「まあ、欲しくないって言ったら、嘘になる……アタシだって女だ……自分と好きな人の子供の顔を見たい……だけど……」
「まあ、今はね……」
結華がどう言うか予想し、明久が短く言うと、結華は頷いた。
先にも述べたが、今居る初音島は防衛の要衝だ。しかも衛士は貴重。先に結婚した提督と明日奈もまだ子供を授かってないのに、恋人とは言えども結婚してない二人が先に授かる気にはなれなかった。
授かったら授かったで、鎮守府の一同は純粋に祝福してくれるだろう。
だが、衛士の中では一番の新任たる自分達が、先にというのは、どうにも気が引けたのだ。
「まあ、今すぐではないが……何時かな……」
「うん……」
結華の言葉に頷くと、外からポンポンと軽い音が聞こえた。窓から外を見ると、ドイツの艦娘達が手持ちで打ち上げ花火を打っていた。
それを見た明久は、時計を見て
「ああ……0時か……明けましておめでとう、結」
「ああ。明けましておめでとう、アキ」
二人は、静かに拳をぶつけた。
静かに、時は流れていく。
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