年が明けて、三日目。ようやく、鎮守府も通常態勢で仕事を再開していた。なお、一日目に鎮守府の各掲示板には
榊原祐輔 中将に昇進
という見出しで、日刊青葉が貼られていた。これに関して、祐輔は
「まあ、秘密にする内容じゃないからいいけど。ちゃんと、事前に許可を取るように」
と青葉を注意していたりする。
閑話休題。
そしてその三日目に、ある人物が鎮守府に来た。
「本日付で、第一初音島鎮守府戦術機部隊に配属となります、神田尚人中尉です。よろしくお願いいたします」
「久しぶり、神田中尉……二年振り……かな?」
「はっ。二年前に、合同演習でお会いした以来です」
実はこの神田尚人も、近衛軍所属だが配置は技研厰で、唯依の篁家の部下の家の出にあたり、近衛軍全体の中では珍しいことに唯依のことを尊敬していると公言している一人だ。
「今回より、こちらの鎮守府にて新型機……天枷研究所製第二世代戦術機。隼鷹の試験運用を行います……こちらが、その書類になります」
尚人はそう言って、机の上に書類の入った封筒を置いた。祐輔はその封筒から、書類を出して
「これが、さくらさんが開発した戦術機……試製03式」
と呟いた。噂には聞いていた、さくらが心血を注いで開発した戦術機。それが、隼鷹だ。
分類では、軽量級第二世代戦術機にあたり、書類を見ると機動性が高く作られているのが分かった。
「中々の性能のようで……貴官の技量にも期待しています」
「はっ! ご期待に添えられるよう、尽力します!」
尚人が敬礼すると、祐輔はまだ封筒の中に書類が有ることに気付いた。
「まだ書類が……」
「そちらに関しまして、巖屋少将からでして……新兵器の試験運用を任せる、データ収集を頼む。と言伝てを預かっており、既に物は引き渡し済みとなっております」
尚人の説明を聞きながら祐輔は、その書類を確認した。
「ひとつ目は……新型の局地迎撃機……蒼莱……なるほど、高高度迎撃機……こちらは、基地配備だな……二つ目は、艦娘用の対潜兵装のヘッジホッグ……三つ目が、戦術機用の新型兵装……高周波短刀?」
「そちらの高周波短刀につきましては、隼鷹にも装備されることになっております。試験運用の評価によっては、戦術機の標準装備として採用される可能性が高いと思われます」
祐輔が首を傾げると、尚人が高周波短刀の書類の一部項目を指差して説明した。その項目を見た祐輔は
「確かに……この書類の通りなら、理論上は戦艦級の装甲だけでなく、姫級にも有効だけど……よく、開発出来たね、これ」
と呟いた。
「はっ。何でも、偶然から新たなカーボン、通称Eカーボンが開発され、そこに小型化された大容量バッテリーの技術が合わさり、開発に漕ぎ着けたと聞きます。詳しい技術に関しましては、技術研究厰の第二開発室にお問い合わせください……あ、そうだ。こちらを、貴方に渡してほしい、と頼まれていました」
尚人はそう言って、脇に抱えていたバッグから二つの封筒を取り出して、祐輔に差し出した。
「これは?」
「は。大本営参謀本部から預かりました、次作戦……陽光作戦に関する書類と、新たな補充衛士と聞いています」
祐輔がその二つの封筒をヒラヒラとさせると、尚人はそう告げた。確かに、ひとつには参謀本部の判子が捺されている。そしてもうひとつには、人事部の判子が捺してあった。
「なるほど、ありがとうね。神田中尉。君は以後、篁中佐の指揮下に入ってもらうから、そのつもりで」
「はっ!」
尚人が敬礼した時、ドアがノックされ
「失礼する。何やら新しい衛士が来たと聞いたが……む、神田中尉か?」
と調度よく、唯依が現れた。
「あ、調度よかった。新しく君の指揮下に入れるから、よろしくね」
「お久し振りです、篁中佐!」
祐輔が説明すると、尚人は直ぐに唯依に敬礼した。唯依は返礼しながら
「久しぶりだな、神田中尉。技術研究厰以来か」
「はっ! その通りです! 本日より、自分もこちらで新型機の試験運用を任されることになりました」
「その性能は、これに」
尚人が説明すると、祐輔が隼鷹の書類を唯依に差し出した。唯依は受け取ると、暫く無言で読み
「なるほど、HI・LOWミックス構想のLOW側の機体となるわけか……この性能ならば、不知火と弐型にも十分に追随出きるな……提督、その試験もするべきでは?」
と祐輔に意見を述べた。
「うん。複数機が搬入されたみたいだし……今度新しく配属予定の新人達をその機体に割り振って、中隊を編成しようと思ってる」
「その方がいいな……その時は、指導の手伝いを頼むぞ、中尉」
「未熟者ですが、粉骨砕身させていただきます」
尚人が意気込みを述べると、ドアがノックされて
「失礼します。中尉のお部屋の準備が終わりました」
そう言いながら、吹雪が入ってきた。
「ありがとう、吹雪ちゃん。セットを渡してから、部屋に案内してあげてね」
「はい!」
「セット?」
「要は、この鎮守府で過ごすためのルールが書かれた本と地図が一緒にされた奴だね……改めて、最前線にようこそ」
最早御決まりの言葉を言いながら、祐輔は尚人に手を差し出したのだった。
そして、吹雪による案内が終わった後だった。
「篁中佐、こちらを」
と尚人は、一通の封筒を唯依に差し出した。
「これは……」
「篁栴納様より、お預かりしました……中に附いては、自分にも分かりません」
「母様が?」
唯依は不思議そうにしながら、封筒を開けて、中から便箋を取り出した。そして、読んでいくうちに顔を赤くしていく。
「篁中佐?」
「……これを読んでみろ」
「よろしいので?」
「構わない。というより、お前にも重要な話だ」
「はあ……」
容量を得ずに、尚人は唯依から手紙を受け取り、目を通していく。そうしていく内に、目を見開き
「え、自分と中佐が!?」
「ああ……既に、両家で決められたらしい……確かに、私もお前も、既に当主だからな……後継を作らないといけない立場だ……」
その手紙の内容は、要するに篁家と神田家の間で婚約が取り決められ、唯依と尚人が夫婦になる。ということだった。
本人達を抜きに、何を勝手に決めている。という話だが、二人は互いの事は知り尽くしている。それこそ、互いの小さな頃から知っているのだ。
何せ、尚人は唯依の護衛役でもあり、更に言えば一時期は一緒の家で過ごしたこともあるのだ。
互いの癖も知っているし、悪感情も無い。そういう意味では、うってつけだろう。
「……なんと言うか、気恥ずかしいな……」
「そうですね……しかし、本家の意向を無視も出来ませんし……」
「確かにな……なんだ……不束者だが、宜しく頼むぞ中尉……いや、これはおかしいな……尚人」
「そうですね……唯依……なんだか、この呼び方も久しぶり過ぎて、違和感を感じますね」
互いの名前を呼び会うなど、最後は何時だったか。と二人は振り返り、それが近衛衛士訓練校に入った頃だと気付いた。
「数年振りですね……」
「確かに、そうだな……私がまだ、髪も短かった頃だからな……」
実は昔、唯依は髪が短かったのだ。しかし、初めての実戦を越えてから伸ばすようになった。それは、誓いからだ。失った同期達に対する、儚い誓い。
「吹けば飛ぶような、儚い誓いだが……忘れる訳にはいかない……決して忘れるものか」
唯依はそう言いながら、右手を強く握り締め、その拳に重ねるように尚人が手を置き
「その誓い、自分にも手伝わせてください……まだ弱いかもしれませんが、唯依の力になれる筈です」
と真剣な表情で告げた。
「感謝する、尚人……」
唯依は感謝の言葉を言って、唯依は尚人の手に自身の手を重ねた。
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