初音島鎮守府の任務がCSARに変わり、少し時は経つ。ある日のこと。
「祐輔くん……大事な話があるの」
「どうしました、改まって」
執務中の祐輔の前に、何やらモジモジした様子の明日奈が現れた。その様子から何やら大事な話と思った祐輔は、机のパソコン横のボタンの一つを押した。
今祐輔が押したのは、執務室に青葉が仕掛けた盗聴器に対する電波妨害装置である。
この直後、巡洋艦寮の一室で姉妹によるおいかけっこが始まり、後に寮長の神通により制圧されるが、余談である。
「えっとね……これ、見て……」
明日奈はそう言って、一つの細長い何かを祐輔の前に置いた。それを初めて見た祐輔は、首を傾げて
「明日奈さん、これは……」
「えっとね、妊娠検査薬って言うんだけどね……ここ、見て」
明日奈は説明しながら、その細長い妊娠検査薬のある場所を指差した。そこには、一本の線が表示されている。
「えっとね、これが意味するのはね……」
「もしかして……」
「うん……私と祐輔くんの子供……出来たみたいなの……」
明日奈のその言葉に、祐輔は少しの間固まった。その意味を理解した祐輔は、笑みを浮かべて
「そうですか……明日奈さん……ありがとうございます」
「こっちの言葉だよ、祐輔くん……ありがとう……」
二人は嬉しそうな表情を浮かべながら、抱き合った。それから数日後、祐輔と明日奈は揃って休暇を取って水越病院に来ていた。もちろん、受診科は産婦人科だ。
妊娠検査薬とはいえ、その確率は100%ではない。
そして、機器による診察の結果
「おめでとうございます、妊娠約一ヶ月というところですよ」
「本当ですか!?」
「はい、ここを見てください。本当に小さいですが、確かに見えますよ」
明日奈の問い掛けに、医師はモニターの一ヵ所を指差しながら教えた。教えられても、素人の二人からはよく分からない。しかし、医師が言っているのだから間違いないだろう。
「一応言っておきますが、激しい運動や体への強い負荷は控えてくださいね。後、飲酒や喫煙もです」
「分かりました」
「ありがとうございました」
水越病院から出た二人は、そのまま初音島の市役所に向かい、母子手帳の発行手続きを行った。後日配達されると聞き、更に二人は移動。さくらが居るだろう、天枷研究所に向かった。予想通り、さくらは天枷研究所に居ると確認出来た。
そして二人はそのまま、さくらの研究室に入った。
「あれ? 二人共、どうしたの? 何か、来る用事でもあったっけ?」
突然来た二人を、さくらは困惑しながらも出迎えた。
二人は、さくらの机の前に並んで立ち
「さくらさん、大事な話があります」
「うん? なにかな?」
「……僕達に、子供が出来ました」
「……それって、あのユイちゃんって子の事じゃなくて……」
「はい……先ほど、水越病院で確認しました……約一ヶ月だそうです」
明日奈がそこまで言うと、さくらは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。
「おめでとう! まさか、こんなに早く見れそうになるなんて、思わなかったよ!!」
そう言ってさくらは、二人に駆け寄った。
「ありがとうございます、さくらさん」
「一番にお知らせに来ました」
「ありがとう! 嬉しいよ! あぁ、でも予想してなかったから、何もプレゼント出来ないや!」
慌てるさくらを見て、祐輔と明日奈は
「慌てなくて大丈夫ですよ、さくらさん。普段から、お世話になってますから」
「はい。戦術機もですが、最近色んな物を送ってくれて、ありがとうございます」
と二人して、頭を下げた。陽光作戦前から、さくらは何かと色んな物を祐輔や明日奈宛てに送ってきてくれていたのだ。一番最近では、明日奈宛てに送っていて、祐輔は知らなかったが送られたのは編み物に関する本だったりする。
「けど、やっぱり何か挙げたいなぁ……今度までに考えておくね」
「ありがとうございます、さくらさん」
「あ、今日は確か……音姫ちゃんと由夢ちゃんは家に居るはずだから、教えにいったら? お兄ちゃんは確か、老人会に行ってると思うけど」
「あ、そうなんですか?」
「うん。後は、配属の紙が来るのを待ってるんだって」
そこまで聞いた祐輔は、鎮守府に戻ろうとした予定を変更し、朝倉家に向かった。
朝倉家に到着し、呼び鈴を鳴らすと
『はーい、今出まーす!』
と中から、音姫の声が聞こえた。それから、数秒後
「はい……って、祐輔くんに明日奈さん! 今日休暇なんだ! どうしたの?」
と出迎えてくれた、音姫が首を傾げた。
「えっとね、音姫さん。実は……」
「私達に、子供が出来たの」
明日奈がお腹に手を当てながら言うと、音姫は最初は驚き、その後は満面の笑みを浮かべ
「そうなんだ! おめでとう! それは、本当におめでたいね!!」
「お姉ちゃん、どうしたの?」
音姫が喜んでいたところに、由夢が現れて、首を傾げた。すると、音姫は由夢を手招きしながら
「由夢ちゃん! 祐輔くんと明日奈さんに、子供が出来たんだって!!」
「え!? 本当ですか!?」
音姫の言葉を聞いた由夢は、ドタドタと二人に駆け寄った。
「はい、本当です」
「今日、水越病院で確認しました。約一ヶ月だそうです」
「おめでとうございます!」
由夢は嬉しそうに、明日奈の手を握った。
「ありがとうね、二人共」
明日奈が微笑みながら言うと、音姫が
「今度、何か送りますね!」
と約束し、由夢も頷いた。この後、明日奈は両親にも電話で伝え、父親からは祝いの言葉を聞いた。母親は、一言
『何時でも頼りなさい』
とだけ告げた。兄には手紙を送ることにして、鎮守府に戻る二人。二人は車の中で、静かに手を繋いだのだった。
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