「子供……か……」
唯依は自室で呟いていた。祐輔と明日奈の報告と幸せそうな顔を思いだし、感慨深い様子でため息を吐いた。
唯依も年頃なのと、今は部下でもあり臣下たる尚人と婚約関係なために、迷いが無いと言ったら嘘になる。
篁家と神田家の先を考えたら、子作りしないといけない。
特に篁家と神田家は近衛の中では疎まれている家な為に、その必要性は高いと言わざるをえない。
その理由の一つは、深海艦の大規模侵攻の際に主家たる崇宰家の当主を守れなかった事。
つまり、崇宰家は御家断絶の危機にあるのだ。今現在、崇宰家は直系の血筋を引く唯依か唯依の母親を当主にしたいようだが、唯依の母親。
どちらにせよ、難しいのだ。それに悩んでいると、漸く戻ってきた尚人が
「どうしました、唯依?」
と唯依に声をかけた。その段階になって漸く、唯依は尚人が戻ってきたことに気付いた。
「ああ、いや……その……先の事を考えていてな……しかし、私服のようだが……」
「ああ、はい……実は、初音島のフェリー港まで行ってまして……」
「フェリー港に?」
唯依が首を傾げると、尚人は懐に手を入れて
「鎧衣課長から、これらを預かりました」
と唯依に、数通の手紙を差し出した。
「鎧衣課長!?」
まさか、帝都の怪人と呼ばれる鎧衣左近の名前を聞くとは思わず、唯依は驚愕した。鎧衣左近は帝国情報省外務二課を束ねる立場の人物だが、余りにも神出鬼没にして言動が読めない人物だ。よく見れば、尚人は疲れた様子なので、振り回されたのだろう。
「しかし、私宛に……?」
名前は知っているが、余り関わった事の無い人物からの手紙。その手紙の内の一つを裏返し、名前を確認して固まった。
(祐輔だと……?)
なぜ、同じ鎮守府内に居る祐輔から手紙が来るのか。話が有るなら、直接話せば済む話である。
(一体、何が……)
唯依はとりあえず、その祐輔の手紙から見ることにした。そして、再び固まった。
『これを読んでるってことは、唯依のお兄さん。ユウヤ・ブリッジス少尉の事が解決したという証左。実は、僕、鎧衣課長、殿下はユウヤ・ブリッジス少尉の事で色々と根回ししていたんだ。詳しくは、殿下からの手紙に書かれてます』
何故、祐輔が兄たるユウヤを知っているのか、唯依は困惑したが、急いで次の手紙の名前を確認した。次のは、母の栴納の名前。
『つい先日、我が家にユウヤ・ブリッジスと名乗る日系人の青年が鎧衣課長達と共に来て、話を聞きました。裕唯さんには文句を言いたいけれども、今は我が家の一室にて過ごしています』
もう既に、ユウヤが実家に居る。それを知った唯依は、思わず天井を見上げた。鎧衣課長までは分かるが、祐輔も関わっているとなると予想外も過ぎた。
(一体、どうやって知ったんだ……)
そう思った唯依だったが、考えるのは止めといた。どうせ考えたとしても、答えは分からない。そして唯依は、更に手紙を読み進めた。
『殿下からの書状、そして唯依が彼に持たせていた緋焔白麗。これらにより、彼を次期当主と認めることになりました。詳しくはまだ決まっておりませんが、一度戻ってくるように』
最後まで読んだ唯依は、再び天井を見上げた。
(母様、怒ってるだろうなぁ……)
唯依がそう分かったのは、最後の一文。一度戻ってくるように、の部分が太くなっているからだ。
栴納は確かに厳しいが、怒鳴ったりする訳ではない。
どちらかと言ったら、静かに訥々と言い聞かせる方だ。だから手紙とはいえ、栴納がこんな風にしてきたということは相当に怒ってるということになるだろう。
しかし、有る意味では仕方ないのかもしれない。唯依がユウヤに渡した刀。緋焔白麗は、篁家当主を示す身分証明書になる。それを如何なる理由だろうと、当時アメリカ軍の衛士だったユウヤに渡した。
怒らない理由は無いだろう。
そして最後の一通、確認すれば悠陽の名前。
それを読み進め、唯依は驚きで目を見開いた。
まず、最初に書かれていたのは、悠陽から唯依へ改めてのXFJ計画完遂の賞賛の言葉が書かれてあり、これにより日本帝国の技術力の向上が見込め、より発展すると書かれてあった。
それ自体、喜ぶことだ。まさか、悠陽から誉めてもらえるとは思っていなかったからだ。
それよりも、予想外だったのは
『まだ本決まりではありませんが、貴女には崇宰家の当主になってもらうことになるでしょう』
この一文だった。
(まさか、考えていた一つのが本当になるなんて……)
しかも、更に予想外だったのは
「あの、唯依……?」
流石に心配になったのか、尚人が唯依に声を掛けてきた。すると唯依は、少し間を置いてから
「どうやら私は、崇宰家の当主に成りそうだ……」
「は、はい……?」
唯依の一言に、尚人は困惑した様子で首を傾げた。そうして唯依は、手紙の内容を纏めて尚人に話した。全て聞き終わった尚人は
「……唯依が崇宰家になるというのは、納得出来ます……しかし、お兄さんが居たんですか……」
「腹違いの兄だがな……お父様が一夜の過ちで出来た子供らしい……」
唯依の説明を聞いて、尚人は頷いた。そして
「しかし、自分との婚姻は無いる、ですか……それでは、慣習は……」
「一部は認めようとしないだろう……だが、殿下と斑鳩大佐は近衛の改革を少しずつ進めている……古くから続く慣習のみに囚われていては、発展など出来ないと……」
「殿下と斑鳩大佐が……」
まさか、五摂家の現当主たる悠陽達がそう考えていたとは思わず、尚人は少し驚いていた。だが、尚人も少なからずは同意する気持ちはある。近衛としての矜持は確かにあり、慣習も大事だとは思う。しかし、慣習を大事にし過ぎて、時々重荷に感じてしまう。発言力がその一例になるだろう。
「しかし、そうなると自分との婚姻が認められるというのは……」
五摂家の婚姻は、五摂家同士かそれに近い家柄に限定されてきた。此もまた、近衛の古くから続く慣習の一つだろう。神田家は、白の家系に当たる。本来ならば、五摂家当主になるだろう唯依と婚姻など出来なくなる。
「殿下と斑鳩大佐は、それも変えるおつもりなのだろう……尚人も知っているだろう? ……最近、五摂家だけでなく近衛全体での出生率の低さ」
「……ええ……恐らくは、遺伝子異常だろうとも聞いてます……近しい家柄だけですと、遺伝子が濃くなり、遺伝子異常が起きやすくなる……そういった研究結果が出ていると」
第二次世界大戦後からになるが、近衛全体での出生率は年々低下の一途を辿っている。第二次世界大戦直後はまだ3.05ほどだったが、ここ10年ほどは1.18までに低下している。
これの理由と言われているのが、近しい家柄同士での婚姻の繰り返しだとされている。それにより遺伝子が何らかの異常を起こし、それが出生率の低下に直結しているらしい。
実際それにより、御家断絶した家柄も多数ある。篁家の家臣も、実は一つ消えているから他人事ではない。
「恐らく、お母様が篁家に嫁いできたのもそれなのだろう……」
「そう言われたら、納得出来ます……」
実を言えば、篁家はどちらかと言えば斑鳩家に近い家柄になる。そこに、崇宰家の長女だった栴納が嫁ぎ、唯依が産まれた。唯依の父たる裕唯は軍人だったが病弱な体質だったが、唯依は至って健康体だ。
それも、遺伝子異常なのかもしれない。
「だから、私達の婚姻は認められたのだろう」
「なるほど……」
尚人が納得していると、唯依は寝間着として着ていたワイシャツのボタンを一つ外しながらベッドに座り
「だから……来てくれ、尚人」
と尚人の方に、両手を広げた。
次回、唯依と尚人のです
どういう話を書いてほしいですか
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