グラーフが祐輔の二番機を勤めるようになり、少ししたある日。執務室の電話が鳴り
「はい、執務室です……はい、分かりました。祐輔さん、外部からお電話です」
と吹雪が告げてきた。それを聞いた祐輔は、受話器を持ち上げてからボタンを押して
「お電話代わりました。榊原祐輔です」
と出た。
『あ、祐輔君? 私だよ』
「おや、音姫さん。お久しぶりです」
電話を掛けてきたのは、祐輔や義之にとって家族同然の女性。朝倉音姫だった。
「それで、どうしました?」
『あ、うん。正式にはまだだけど……私と由夢ちゃんは、初音島鎮守府に配属されることが決まったよ!』
「おや、それはおめでとうございます! ということは、僕の後輩ということですか」
『うん、そうなるね。弟君は元気?』
「はい、元気ですよ。つい先日に中尉に昇進しまして、小隊を率いれる立場になりました」
『わあ! 弟君、昇進したんだ! やっぱり、前の作戦?』
「ですね。あの作戦で、彼は重巡と戦艦級を沈めました。それが、昇進の決め手になりました」
『そっかぁ……うん、今度会ったら褒めてあげないとね』
祐輔の話を聞いて、音姫は心の底から祝福していた。それほどまでに、音姫は義之を溺愛していたのだ。
しかし、帝国は徴兵制度を設けており、義之が訓練校に行くのを止められなかった。
だから音姫は、せめて義之の近くに居ようと思い、近くに行ける可能性の高かった基地司令の立場たる提督になる事を決めた。
それは妹の由夢も一緒で、由夢の場合は医務官になって傷を治療出来たらと考えたのだ。
しかし、祐輔を含めた衛士は、陸海問わずに全軍人の中ではダントツに戦死率が高いのが実状だ。
祐輔と義之が生きているのは、腕もあるだろうが、運が良いだけだ。
過去には少佐にまで階級が上がったが、一発の機銃弾がコクピットを貫通し戦死したという例すらある。
だから、その時の運が悪ければ呆気なく死ぬだろう。
「それで、着任日は何時ですか?」
『えっとね……来月の1日。二週間後だね!』
「分かりました、お待ちしてますね。由夢ちゃんにも、お伝えください」
『うん、またね!』
その会話を最後に、音姫との通話は終わり、祐輔は受話器を置いた。すると、病院に診察に行った明日奈の代わりに執務を手伝っていたグラーフが
「何やら親しそうだったが、知り合いか?」
と問い掛けた。音姫のことを知らないのだから、無理からぬことだった。
「はい。僕や義之にとって家族同然に育った人ですよ。再来週には、新しい提督として着任する優秀な人ですよ」
「ほう……祐輔が言うのだから、さぞ優秀な人材なのだろうな。会うのが楽しみだ」
祐輔の話を聞き、グラーフは笑みを浮かべながら書類整理に戻った。硬いイメージのグラーフだが、時々笑みを浮かべることもあるのだ。
それはさておき、そろそろかな? と祐輔は時計を見た。時間は、正午に差し掛かろうという所だ。
時間を確認した祐輔は、一度軍服の上着を脱いでからコートを羽織り
「僕はそろそろ、明日奈さんを迎えに行ってきますね」
と告げた。明日奈は朝から病院に向かっていて、予定ではお昼には診察が終わる筈だ。
「はい、いってらっしゃい」
「気を付けてな」
吹雪とグラーフに見送られて、祐輔は明日奈の迎えの為に執務室から出て駐車場に向かった。実は最近、祐輔は私用の車を購入しており、つい先日に納車されたのだ。
子供が産まれることを考えて、乗り降りしやすいタイプだ。色は明日奈の強い推しで蒼だ。
「さてと……安全運転で迎えに行きますか」
祐輔は一人呟くと、車を静かに進ませた。
車の窓から見えるのは、何時もと変わらない街並みと元気に走る子供達。
未だに終戦が見えない中、確かに時間は進む。
そして祐輔は、少し前。元帥の一年の始まりに言った言葉を思い出した。
『今を戦う若者達よ。諸達君に、戦う術しか教えられなかった我等を許すな。諸君達を戦場に送り出す我等の無能を許すな……願わくば、諸君達の挺身が平和な世の礎とならんことを……』
という、言葉。それを思い出しながら、祐輔は元気そうに手を振る明日奈を見つけた。
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