大規模作戦は、無事に終了した。
祐輔の艦隊も、多大な戦果を挙げて帰還。アリアと音姫は、深海艦隊の本土奇襲を見事に撃退した。
今回の作戦、初音島鎮守府は多大な貢献をしたことは間違いない。
その後、初音島鎮守府は3日の休暇が与えられ、それぞれゆっくりと過ごすことにした。
祐輔は明日奈と優衣の二人と親子水入らずで過ごすことにした。
「ママ……ここに、私の新しい家族が居るの?」
「そうだよ? ゆっくり触ってみて」
明日奈の言葉を聞いた優衣は、明日奈のお腹に手を当てた。ちょうどそのタイミングで動いたらしく、優衣はビクッとして
「動いた!」
と嬉しそうな笑みを浮かべた。優衣のその反応に、明日奈だけでなく、祐輔も笑みを浮かべた。
最近では、本当に久しぶりにゆっくりとしており、優衣は祐輔の近くで絵本を読んでおり、明日奈は揺り椅子に座りながら編み物をしている。
そして祐輔は、自分の机で本を読んでいた。しかも珍しいことに、至って普通の本。星座に関する本である。
祐輔の数少ない趣味と言えるのが、天体観測である。
古いのは壊れたままだが、最近新しいのを一つ買い、時々優衣や明日奈と一緒に見ている。
しかも優衣は知的好奇心が強い子のようで、色々聞いてくるので、祐輔も思い出す意味で本を読んでいるのだ。
三人がゆっくりとしていると、部屋に据え付けられていた電話が鳴ったので、祐輔が取り
「はい、どうしました?」
『榊原提督、門番です。只今、結城彰三氏が来ました』
「へ? 彰三さん?」
門番が告げた内容に、祐輔は思わず困惑した。
須郷の事件の後、彰三は責任を取ってレクトの社長を辞任。請われる形で名誉技術顧問になり、時々だが技術者に助言する立場になった。
そして結城家だが、家格の降格となり、色は山吹色から白色になった。更には、結城宗家の長老達とその息が掛かった人員を宗家から追放となった。
事件の規模から考えると、温情と言えるだろう。
これは、結城家のこれまでの経済発展及び、技術発展への貢献が大きい。そうでなければ、近衛からの追放すらあり得ただろう。
それはともかく、祐輔は彰三とのアポイントメントも無いのを再度確認してから
「わかりました。今からそちらに行きます」
『わかりました』
門番に指示すると、祐輔は受話器を置いてから明日奈の方に向いた。
「明日奈さん、彰三さんがいらっしゃったようです」
「え、お父さんが?」
明日奈も彰三が来るとは知らなかったらしく、驚いている。祐輔は、軽く首を傾げながら
「はい。ですので、僕はちょっとそちらに行ってきますね」
と言って、優衣の頭を撫でてから部屋を出た。
正門に向かうと、門番達の詰所兼休憩所に彰三の姿を見つけた。以前来た時はスーツ姿だったが、今回は完全に私服姿だ。
益々来た理由が分からず、祐輔は困惑しながらもそこに入り
「すいません、お待たせしました。お久しぶりです、章三さん」
と章三に声を掛けた。すると、彰三も立ち上がり
「いや、急に来てしまってすまないね」
と頭を下げてきた。
そして祐輔は、彰三に
「一応、場所を移しましょう。着いてきてください」
と促して、歩き始めた。
そして祐輔は、歩きながらだが
「歩きながらに失礼しますが、今日はどういったご用件で
と章三に問い掛けた。
「うむ……君と明日奈の子供が出来たと聞いてね……祝いの言葉と、手土産をね」
彰三はそう言って、右手に持っていた紙袋を掲げた。
どうやら、純粋に祝福する為に来たようだ。そう気付いた祐輔は
「そうでしたか……ありがとうございます。本来なら、此方から伺うべきでしたが……」
「いやいや……初音島鎮守府の提督が、簡単に離れられないのは分かっているよ……」
祐輔が謝罪すると、彰三は朗らかに言った。
そして、部屋に到着して
「明日奈さん、彰三さんが来ましたよ」
「お父さん、いらっしゃい」
「こんにちは!」
「ん、この女の子は……」
部屋に入った彰三に、明日奈と優衣が挨拶したのだが、優衣を見て彰三が首を傾げた。すると、祐輔が小声で
「僕と明日奈さんが保護責任者になっている子なんですが……優衣ちゃんですが、須郷元中佐が、非合法に生み出した子でして……」
「……クローンか?」
「複数の艦娘の遺伝子から生み出した子のようです……更に、深海細胞を使った爆弾にしてました……どのように使う気だったかは分かりませんが、初音島の漁師さんが保護し、その後は僕と明日奈さんが保護責任者として引き取りました」
祐輔の話を聞いて、彰三は僅かに歯を噛みならした。
どうやら、須郷に怒っているようだ。しかし、直ぐに表情を戻して
「はじめましてだね、優衣ちゃん。私は、結城彰三。明日奈のお父さんだ……優衣ちゃんからしたら、お爺ちゃんになるね」
と優しく、優衣の頭を撫でた。撫でられた優衣は、不思議そうに彰三を見上げて
「お爺ちゃん……?」
と首を傾げていた。すると、明日奈は持っていた棒針を机に置いて
「お父さん、来た理由は?」
「おお、そうだった。子供が出来たと聞いたから、おめでとうと言いに来たのと……京子や総一からも土産を預かってきたんだ」
明日奈が問い掛けると、彰三は紙袋を祐輔に手渡した。受け取った祐輔が、中を見ると
「わ、赤ちゃん用の服やベビー用品が……ありがとうございます!」
「いやいや……私達からしても、初孫だからね」
中を軽く確認した祐輔は、紙袋を明日奈に渡しながら彰三に頭を下げた。中身を確認した明日奈は、少し呆れた表情で
「もう……産まれるのは、もう少し先なのに……でも、ありがとうお父さん」
と感謝の言葉を告げた。そして、気になったのか
「それで……お母さんは?」
と尋ねた。すると、彰三は
「うむ……あの事件から少し塞いでしまったが、仕事には行ける位にはなったから、大丈夫だとは思うが……」
と少々言葉を濁していた。すると明日奈が呆れた様子で
「そこをフォローするのが、お父さんの役割じゃない」
と苦言を呈した。
京子だが、帝都大学で講師を勤めており、結構有名な講師なのだ。
「う、うむ……近いうちに、京子の誕生日もあるから、その時に何とかするつもりだ……」
「お願いね、お父さん」
流石に、娘から言われると弱いのか、無言で頷く彰三だった。一連の光景を見ていた祐輔は、ふと時計を見て
「彰三さん、お昼はどうなさいますか?」
と彰三に問い掛けた。
すると彰三は、もうお昼時と気付いて
「いや、こちらは急に来たのだから、気にしなくても……」
「いえ、今なら、まだ電話すれば一人前位は増やせますよ」
祐輔がそこまで言うと、彰三は少し悩んだ。そして
「……そこまで言われたら、無下には出来ないね」
と頷いた。それを聞いた祐輔は、受話器を持ち上げて
「あ、間宮さんですか? すいませんが、こちらに持ってくる食事を一人分追加してもらっても大丈夫でしょうか? 実は今、お客さんが来てまして……はい、お願いしますね」
と言ってから、受話器を置いた。
そして、彰三に視線を向けて
「ということで、少々お待ちくださいね」
「いや、本当にすまないね。しかし、噂に聞く間宮の料理を食べられるとは、思っていなかったよ」
祐輔の言葉に頷きながら、彰三は居間の机の椅子に腰掛けた。その後、間宮が四人分の料理を運んできて、四人で料理を食べたのだが、間宮が作った料理の美味しさに、彰三は驚いたのであった。
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