ここは、陸軍大本営参謀本部。
その一室に、十数人の高級士官が集まっていた。全員が一様に厳しい表情を浮かべていた。
「この数年間、我々陸軍の予算は減り続けているが……」
「今年は、更に大幅に減る! それだけでなく、新しく入る人員もいよいよ千人を割った! 殆どを海軍に持っていかれた!!」
彼らは今の陸軍の窮状を憂い、何とか打開しようと集まったのだ。しかし、予算の大幅削減と人員も少ないと、出来ることは非常に少ない。
「だが、我々は此度の大戦……深海との戦いで、沙程の戦果も上げられていない……あの榊原とかいう小僧が海軍に移ってしまったばかりに……!」
「そうだ! なぜ、あの小僧は提督になるのを選んだのだ!? あやつ程の実力ならば、今頃師団長も確実だ
! 好きなだけ報奨も与えたものを!!」
「どうやら彼は、初音島に住んでいたことがあったらしいからな……確かに、初音島には陸軍基地は無い……」
正確には、今は無いである。第二次世界大戦期までは、今は鎮守府となっている場所に、陸軍飛行場があった。それを終戦後引き払い、深海大戦が始まってすぐに海軍が鎮守府としたのだ。
「それに、技術研究廠も独立してしまった! 過去に色々と優遇して回してやった恩を忘れて……!」
「巖谷の奴が責任者になった際、我々と繋がりが強かった人員を排除したのは痛かった……おかげで、陸軍のみの兵器開発だけではなくなった……」
技術研究廠だが、巖谷が責任者になるまでは陸軍のみの兵器開発をしていた部署だった。戦術機、戦術機の武装、強化外骨格とその武装。それらを中心に開発していたのは、陸軍が人員や
しかし、巖谷が責任者になった時、一部の人員を追い出し、陸軍のみの状態から海軍、近衛軍、航空宇宙軍の兵器開発も開始し、三軍からは独立した指揮系統となった。
「だが、あの技術研究廠が開発した兵器は、以前よりも優秀だ……以前は威力は凄いが、扱い難い物ばかりだった……」
「確かに、扱い易さが上がったのは思わぬ副産物だったが……だが、それでも陸軍の戦力増強が止まったのは事実だ! 今だからこそ、我々は国民に……いや、世界に示さなければならないのだ! 帝国陸軍、ここにアリと!!」
一人の男が、興奮した様子で語りながら机を強く叩いた。統帥派の不始末で統帥権が無くなったことにより、彼らに好き勝手出来る方法が無くなってしまった。
故に、今の彼らには取れる手法は少ない。
「しかし、12、5事件から新たな査察局が設置され、常に目を光らせている……奴ら、政威大将軍に絶対的忠誠心を持っているから、切り崩しも出来やしない……」
「金で買収しようした奴が、逮捕されていたな……」
「あれは、新木がバカだっただけだ」
実は少し前に、悠陽が設置した特別観察局を切り崩す為に買収しようとした輩が居たのだが、即座に逮捕されていたのだ。
そうして、将官達が会議していると
「……今の我々の現状を、英霊達が見たら何と申されるか……嘆かれるだろうな……」
と初老の将官が呟いた。
「黒鉄《くろがね》大将……いささか、他人事のように仰られるな?」
「そうですぞ、大将。まだ、陸軍の戦力を取り戻す方法はある!」
黒鉄正俊《くろがねまさとし》大将の言葉に、他の将官が食ってかかった。
帝国きっての軍の名家、黒鉄家現当主。黒鉄正俊、御歳80歳。本来なら退役している年齢だが、政威大将軍の悠陽に請われて、未だに陸軍の大将の席に座っている知将である。
深海大戦が始まった際、真っ先に海辺に住む人々の疎開を提案し、数多の陸軍将兵の犠牲を出しながらも民間人の犠牲を少なくした立役者の一人である。
しかしそれでも少なくない犠牲が出てしまっており、その際には責任をとって実は元帥から大将まで降格するのを悠陽に自ら進言したのだ。
「……今貴様らは、陸軍の窮状を憂いたようなことを言って、如何に自分達の力を得ようとしているのかしか考えていない」
「貴様!」
「流石に聞き捨てなりませんな、
高城参謀長は長年の間黒鉄大将を支えた名参謀で、まさに右腕と呼べる人物である。
そして高城は、薄く開けた目でその将官達を見て
「貴様らは、今の戦いの中心は海と理解しているのか? 陸戦が発生する方が、最早稀……陸型の深海は鬼姫級と呼ばれる個体が多く、我々の戦力で太刀打ち出来ぬ……」
「だからこそ、強力な兵器をなんとか開発し、その威力で……」
「兵器に頼って、軍人の本懐を忘れたか? 我々軍人は、民に無用な犠牲を出させない事にある」
一人の将官の言葉に被せ気味に、高城が静かに告げた。その言葉に、何人かの将官は歯噛みした。
その時、黒鉄大将が腕時計を見て
「すまんが、ワシと高城は別件の会議がある……ここで退席させてもらう」
と言って、高城と一緒にその会議室から出た。
少し離れると、黒鉄大将が
「高城、虫は仕掛けたか?」
「抜かりなく」
黒鉄大将の問い掛けに、高城参謀長は一つのイヤホンを差し出した。それを受け取ると、黒鉄大将は迷わず耳に装着。
『クソっ! あのジジイ共め!!』
『老人には、我々の崇高な考えなど理解出来まい!』
『未だに求心力が高いのが、理解が出来ん……若手の兵士達は、なぜあんな老人共に着く!』
と先ほどの会議室の声が聞こえた。それは、椅子の背もたれに隠した盗聴器からだった。超小型で、イヤホン側の電源を切ると自動的に盗聴器側の電源も切れる優れ物だ。
高城はその盗聴器を、自分が座っていた椅子の背もたれのボタンに仕込んでいたのだ。
二人は会議に居た将官達が、クーデターを考えていることに気付いて、内偵しているのだ。
黒鉄はイヤホンを外すと
「何時ものように、特別観察局に差し出しておいてくれ」
「承知しました」
彼らもまた、誇り高き軍人である。
故にこそ、民に無用な犠牲を出させないように動いていた。
どういう話を書いてほしいですか
-
戦闘多め
-
日常多め
-
エロ多め