3月に入り、春の暖かさで少し眠気を覚える季節。
初音島は一年中桜が咲き乱れているので気付きにくいが、帝国本土では各地で桜が咲いている。
初音島鎮守府では、一部艦娘達が中庭にて酒盛りしている。その喧騒を聞きながら、祐輔は音姫やアリアと会議していた。
「それでは、哨戒艦隊の航行ルート割り振りは、このように……次に、試作兵装の運用に関してですが……」
「はい。私たちの艦隊でも、技術研究厰から送られてきた各種兵装の試験は、順調に行っています」
祐輔が次の案件を言うと、音姫がそう言いながら大モニターにその試験で得られたデータの一部を表示させた。
「既に、試験データは共有サーバーにアップし、技術研究厰にも送信済みです」
「はい、確認しました。ありがとうございます。以前より、データの収集ペースが上がって、技術研究厰も喜んでいましたよ」
音姫からの報告を聞き、祐輔はそう答えた。
実際、祐輔に技術研究厰からの感謝の連絡が多数来ていた。以前までは祐輔艦隊のみでデータ収集をしていたので、やはりデータ量としては少なかった。
しかし、音姫艦隊とアリア艦隊が加わったことで、以前までの比ではない量のデータ収集が出来ており、それによる改修作業も効率が上がっていた。
「それで、アリア提督。保護した子達の様子はどうですか?」
「それに関しまして、私が代わりに報告します」
祐輔の問い掛けに立ち上がったのは、アリア艦隊の秋月だった。アリアも居るが、アリアから書類を渡されて喋るのが秋月の役割になっていた。
「現在、百合さんのメンタルヘルスケアのおかげで、少しずつですが海に出れる子達が増えてきています。人数としましては、50人中10人が海に出れるようになりました。海に出れるようになった子達に関しましては、祐輔さんの艦娘さん達の協力で教導を実施しています」
「そうですか……一人でも多く、癒える子達が増えるならば、こちらは協力を惜しみません」
「ありがとうございます。此方も、そのご期待に応えられるように頑張ります」
アリア艦隊の重要な役割は、ブラック鎮守府から保護した艦娘やCSARの任務中に保護した負傷から短期間での復帰が難しい艦娘の治療だった。
艦娘は人間から選ばれ、志願する者も多数在籍しており、中には訓練では平気だったが、実戦を経てトラウマになる者も出てくる。
そういった艦娘ようの療養所の一つに、アリア艦隊が選ばれた。
しかし、初音島も最前線の一つなので、療養には向かないのではないか、祐輔は最初はそう思っていたのだが、初音島だからこそ出来る方法があった。
それが、風見学園になる。
さくらの協力もあり、一部の艦娘達は学生として風見学園に通っており、さくらや風見学園の生徒達も艦娘と知りながらも普通の生徒として接してくれた。
これが、祐輔としては予想していなかった効果になった。
人としての当たり前の営みを見て、それを守っているのが自分達艦娘なんだ、そう自覚した艦娘達が居ることが確認出来た。
「さて、とりあえずこれで予定していた議題は全部終わりましたかね……?」
「はい。大丈夫です」
「終わりました」
会議が終わったことを確認した祐輔は、大モニターを消して、立ち上がり
「それでは、定例会議は終了です。通常業務に戻りましょうか」
と言って、会議室から出た。
すると、音姫が
「あ、祐輔君は明日奈さんと病院に行く時間じゃ?」
と時計を見て思い出したように言って、祐輔もポンッと手を叩いた。どうやら、忘れかけていたようだ。
「ありがとうございます、音姫さん。少しの間、指揮をお願いしますね」
「うん、任せてね♪」
「ぷいにゅー!」
「いってらっしゃいませ!」
音姫、アリア、秋月に見送られて、祐輔は一度明日奈が待つ家に向かった。家に入ると、優依と明日奈が仲良く絵本を読んでいた。
「あ、お帰りなさい。祐輔君」
「おかえり、パパ」
「ただいま」
祐輔は帰宅の挨拶をしながら、優依の頭を優しく撫でた。すると、明日奈は時計を見て
「あ、病室に行く時間ね」
と気付き、ゆっくりと立ち上がった。そして明日奈は
「優依ちゃん。私達はこれから、優依ちゃんの新しい家族がちゃんと大きくなってるか、確認に行ってくるね」
と優依に説明した。そして祐輔に
「祐輔君、優依ちゃんのことは……」
「大丈夫です。戻ってくる途中で」
「来たわよ! もっと私を頼っていいんだからね!」
説明している途中で、雷が入ってきた。面倒見の良い雷ならば、何の問題も無いだろう。
「雷ちゃん。僕達が病院に行ってる間、優依をお願いね」
「私に任せなさい!」
祐輔からのお願いを聞いて、雷は腰に両手を当てて胸を張った。そして祐輔は、軍服の上着と帽子を脱ぎ、軽く別の上着を羽織ると明日奈を介助しながら車に乗り、病院に向かった。
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