後悔はしてない
明日奈達が配属されてから、時は経ち4月
祐輔は、一枚の書類を見ながら目をパチクリとさせていた
すると、処理が終わった書類を箱に詰めていた明日奈が
「どうしたの、祐輔君?」
と祐輔に問い掛けた
あの一件以来、明日奈の祐輔に声を掛ける頻度が上がり、更に雰囲気が柔らかくなっていた
恐らくは、そちらが本性なのだろう
すると祐輔は、持っていた書類をヒラヒラとさせながら
「実は、新しい提督が来るらしいんですがね……その人のデータが変なんですよ」
と言った
すると明日奈が近寄り
「どれどれ?」
と祐輔と一緒にその書類を見た
その書類に書かれていたのは、名前と訓練校での成績
そして、初期艦だった
「初期艦が……秋月? 珍しいね」
明日奈は初期艦の名前を見て、そう言った
普通、初期艦に選ばれるのは駆逐艦である
一部の提督は、教官役を務めることが多い大井が初期艦として就くこともあるが、それは稀である
しかし、その提督の初期艦は秋月
秋月は防空駆逐艦という艦種で、数が少ない艦種である
その秋月が初期艦というのは、かなり特殊だった
「どうやら、大本営の手違いで初期艦が足らなかったらしいみたいですね。で、諸事情で空いていた秋月ちゃんが宛がわれたんですね」
と祐輔が説明すると、明日奈も納得したらしく頷いた
しかし
「でも、写真が無いね」
「そうなんですよ」
明日奈の言う通り、顔写真が無かったのだ
それに、名前も書かれているがプロフィールが書かれていない
余りにも、不備が目立ちすぎた書類だった
「どうなってるんだろ」
と祐輔が首を傾げた時、ドアが開いて
「祐輔、第三艦隊が帰還したそうだ」
と唯依が入ってきた
その手には、一枚の書類があった
「あ、うん。ありがとう」
祐輔はお礼を言いながら、唯依から書類を受け取った
そして唯依は、祐輔が机に置いた書類を見て
「なんだ、この書類は?」
と怪訝な表情を浮かべた
「不備だらけではないか……大本営の連中は、どうなっている」
と唯依は言いながら、その書類を持って眺めた
近衛の唯依からしたら、信じられない書類のようだ
そして唯依は、立て続けに
「それに、書かれてる名前もふざけてるとしか言えない。なんだ、この名前は?」
と言いながら、書類を軽く叩いた
書かれてる名前は《アリア・ポコテン》である
すると、書類を返却してもらった祐輔が
「また、大本営の人達の嫌がらせですかね」
と言いながら机に肘を突いた
すると、ドアがノックされて
「失礼するわよ」
と一人の艦娘が入ってきた
吹雪と似た意匠のセーラー服に、胸元に付けられたⅢというバッジ
そして短く切り揃えられた茶髪が特徴の駆逐艦娘
雷だった
その見た目は、響と同じように中学生くらいである
ただし、何処とは言わないが一部がかなり大きい
なお時々、それが理由で姉妹喧嘩が起きるのだが
閑話休題
この雷を一言で表すなら、幼母だろう
何かと母性本能が強く、同じ艦娘だけでなく提督の世話をするのが好きな艦娘なのだ
一部の提督なんかは
『雷は、私の母になってくれるかもしれない人なのだっ!』
とすら言ったという
なお、そんな雷に《ダメ提督製造機》という不名誉なあだ名が着いてしまった
これは、面倒見のいい雷に甘えてしまい、ダメになる提督が出たからである
とはいえ、雷になんら非はないだろう
なお、この雷は駆逐艦寮の寮長を勤めている
閑話休題その2
「どうしたの、雷ちゃん?」
と祐輔が問い掛けると、雷は珍しくオドオドした様子で
「え、えっとね……新しい提督さんって人? が来たんだけど……」
と言った
珍しい雷の様子に、祐輔内心で首を傾げながら
「あ、もう来たんだ。入ってもらって」
と促した
すると雷は、ドアを開けて
「どうぞ」
と言った
そして少しして入ってきた相手の姿を見て、明日奈と唯依は硬直
祐輔は
「あらま」
と呟いた
なにせ入ってきたのは、普通のより倍近く大きいが猫だったのだ
しかしその猫の頭には、提督を示す白い帽子がある
その猫に僅かに遅れて、頭に《第六十一駆逐隊》という刺繍が施されたハチマキを巻いた艦娘が入ってきて
「本日付けで初音島鎮守府第二提督の初期艦として配属された、防空駆逐艦の秋月です!」
と名乗りながら、敬礼した
明日奈と唯依は反射的に返礼するが、祐輔は平然と
「もしや、貴方がアリア・ポコテン少佐でしょうか?」
と猫に問い掛けた
すると、その猫
アリアが
「ぷいにゅ!」
と鳴きながら、頷いた
それを見て、明日奈と唯依は混乱の極みに達しそうになった
猫が提督の帽子を被って現れただけでも驚きだったのに、その猫が明らかに祐輔の問い掛けに返答したのだ
驚くな、と言われても無理だっただろう
すると、そんな二人の気持ちを察してか
「驚かれる気持ちも、分かります……これを」
と言って、脇に抱えていた大きめの茶封筒を祐輔に差し出した
それを受け取った祐輔は、中から書類を取り出した
そこには
『アリア・ポコテン少佐を見て驚いているだろうが、気を確かに聞いてほしい。アリア・ポコテン少佐は、人間並みの知性と知能を有している猫である。しかもその知能は、下手な高等科卒の学生よりも遥かに上である(証拠に、同封のテストの答案用紙を参照のこと)それを受けて大本営は、以前より人材不足の打診。並びに、新たな提督の着任を兼ねて、アリア・ポコテン少佐を初音島鎮守府第二提督とすることを決定した』
と書かれてあった
そして祐輔は、封筒の中から同封されていた答案用紙を出して机の上に並べた
驚いたことに、全て満点である
しかも、卒業試験にて行われる教官との机上演習の結果は文句無しのS判定だった
つまり、教官に勝ったようだ
それを見た明日奈と唯依が完全に固まっていると、祐輔は微笑みながら
「中々優秀な方のようですね。見習いたいです」
とアリアを誉めた
するとアリアは
「ぷいにゅ!」
まるで、どうだ! と言わんばかりに胸を張った
それを見た祐輔は内心で
(微笑ましいなあ)
と思った
そして、雷に視線を向けて
「雷ちゃん、二人を第二庁舎に案内してあげてくれる? それと、手空きの子を何人か連れていって、掃除の手伝いをお願い」
と言った
すると雷は、ニッコリと笑って
「この雷に任せなさい! もっと頼っていいんだからね!」
と言って、二人の案内を始めた
その雷の後を、秋月がアリアを抱えながら着いていった
それを見送ると、明日奈が
「祐輔君……よく、冷静に対応出来たね」
と驚いた様子でそう言った
それには唯依も同意らしく、唯依も頷いていた
すると祐輔は
「前例を知ってるので」
と答えた
この時祐輔は、二足歩行と喋ることが出きる犬提督と兎提督を思い出していた
それを聞いた唯依が
「他にも居るのか、動物提督が……」
と言葉を漏らしていた
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