5月末の事件
530事件では、余りにも大きな被害が出た。
帝国陸軍、海軍双方は少なくない物資の損耗を出し、人員も死傷者を出した。
幸いだったのは、民間への被害が少なかった事だ。
事件が始まってから、警察は政府からの要請で民間人の避難誘導に従事していた。その甲斐あり、民間人の死傷者は驚く程に出ていなかった。
だが居ない訳ではなく、死傷者は合わせて約150名出ている。
これに対し悠陽は哀悼の意を捧げ、政威大将軍直轄内部監査班の増員を決定。
その監査班が常に目を光らせ、憲兵隊と密に連携して、似た事件を引き起こさないようにする、と宣言した。
悠陽は会見の時、アメリカ軍の関与を敢えて公表しなかった。
実は、祐輔がアメリカ軍の潜水艦を一隻拿捕する事に成功。それにより、第6師団が運用していた潜水艦がアメリカ軍が供与したものだと発覚。
更には幾つか機密書類も入手した。
これらにより帝国外務省は、アメリカに対して強い外交カードを入手した。
そして、悠陽が一般にアメリカ軍の関与を敢えて公表しなかったのは、日本国内に少数居るアメリカ人に配慮しての事だ。
深海棲艦が現れ、アメリカが日米安保条約を一方的に破棄し、日本に居たアメリカ軍全軍と民間人を連れて、アメリカに撤収していった。
しかし、全員が撤収出来た訳ではないのだ。
撤退戦をしていた軍人、逃げ遅れた民間人、双方合わせて約500名が日本帝国に取り残された。
軍人は現在、日本帝国軍預かりとして特殊外人部隊として編成し運用。
逃げ遅れた民間人は、実は半数以上が日本人と結婚しており、今は帰化している。
しかし、もし今回の事件でアメリカが関与した事を報じていた場合、凄惨な事件が起きる可能性が非常に高かった。
それらを考慮して、公表しなかったのだ。
勿論だが、特殊外人部隊は捜査済みで、一切怪しい動きは無かった。
なんなら今回の事件中、自ら率先してアメリカ軍と交戦していた。
その理由も問い掛けたところ
『許せなかった。我々を見捨てて撤退した癖に……我々を受け入れてくれた日本で、テロ行為を起こすなど』
と怒りの表情を浮かべた。
実は残された軍人達は、ほぼ全員が日系人だった。確かにその軍人達は、産まれはアメリカだ。しかしアメリカ国内では、激しい差別を受けていた。
まだそれは、家族が居て、支えられていたから耐えられた。
だが日本で見捨てられ、強引に家族から引き離され、アメリカに残っている家族がどうなっているか分からない。
そんな矢先に、アメリカ軍が関与して、クーデターを引き起こさせた。見捨てられてから、早数年。第二の故郷と言える日本帝国で、アメリカ軍が裏で糸を引いてクーデターを引き起こさせた。
許せる訳がなかった。
だから、溢れる怒りと殺意を込めて、引き金を引いた。
彼らの活躍は凄まじく、たった一個中隊で、同規模の部隊が防衛していた施設を10分と掛からずに完全制圧。
その後、捕縛した敵指揮官からあらゆる情報を引き出した。
これらの活躍に、悠陽は近い内に報奨を出す予定らしい。
こうして、国内に大きな爪痕を残しながらも、530事件は幕を下ろしたのだった。
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