530事件の後始末に奔走しつつも、何とか少しずつ日常に戻りつつある6月半ば。
祐輔はある日、朝から病院に居た。とは言っても、祐輔の体調は問題無い。明日奈が朝早くから検診があったので連れてきたのだ。
「ふむ……問題は無さそうですね。胎児も順調に育っています」
「良かった……」
「安定期にも入りましたから、流産してしまうリスクも一気に減ります。しかし、無理は禁物ですよ」
「はい、分かりました」
明日奈が妊娠して、約半年が経過。
お腹の中の子供はスクスクと育ち、性別も分かった。
二人は診察室から出て、会計待ちしてる時
「ふふ……男の子だって」
「どんな見た目の子供でしょうか」
祐輔と明日奈は優しく二人で明日奈のお腹を撫で、近い将来産まれる子供に思いを馳せた。
会計を済ませ、祐輔は明日奈を補助して車に乗せた。
そして、鎮守府に戻る前に芳乃家に向かった。
やってきた二人を、さくらは温かく出迎えた。
「よく来たね! おぉ! こんなにお腹が大きくなってるね! もう子供の性別は分かった?」
「はい、男の子だそうです」
祐輔が教えると、さくらは満面の笑みを浮かべて
「二人の子供なら、頭の良い子になりそうだね! それに、運動神経も良さそう!」
と言って、明日奈のお腹を優しく撫でた。
すると、明日奈が
「あ、さくらさん。先日は子育てに関する本や道具、ありがとうございました」
と告げた。
つい数日前、さくらから子育ての本や哺乳瓶、粉ミルクなどを幾つか送られてきたのだ。
少し気が早いとは思うが、ありがたいのは確かだ。
「にゃはは! 実は結城家と一緒に色々買ったんだ。多分、近いうちに結城家からも届くと思うよ」
「お父さんからもですか?」
明日奈の問い掛けに、さくらは頷き
「彰三くん。初めての孫だから、張り切ってたよ」
と語った。
須郷が起こした事件の後、結城家は自ら家格の降格を申し出て、引責降格として受理された。
譜代武家の山吹色だったが、今は白の家格となっている。実は彰三からは、近衛としての格の返上すら打診されていた。
しかし、結城家が世界大戦期から商業で日本を支えてきた功績から、白の家格への降格で許されたのだ。
そして彰三は、経営から離れた後は家で悠々自適に過ごしながら、時々意見を求められては助言をしている程度のようで、明日奈が妊娠してからは度々手紙を送ってきている。
母の京子は、須郷の件で一時期は自室に引き込もっていたようだが、それを見かねた彰三が京子の実家の跡地。そして、家族に会わせてからは持ち直し、今は学歴だけでなく、性格を見極めるようになってきているらしい。
「そういえば父さん、兄さんによく早く結婚しろ、って言ってたわね」
明日奈は実家に居た頃を思い出したらしく、クスクスと笑っている。
そしてさくらは、祐輔を見て
「祐輔くん。生きてて良かったでしょ?」
と問い掛けてきた。それは祐輔がさくらに引き取られたばかりの頃、祐輔は生きる気力が無く、何回か死のうとした。死んで、死んだ家族に会いたいとさくらに言ったことがあった。
だが、それをさくらや義之、音姫達が何回も止めた。
そして、さくらが言ったのが
『大丈夫。これから祐輔くんには、生きてて良かったって思える日が必ず来るよ』
だ。
それを思い出して、祐輔は
「……本当ですね。生きてて良かったですよ……生きる理由になりました」
と告げた。
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