それから、僅かに時は過ぎて10月の中旬のある日。
祐輔と明日奈は病院に居た。本来の出産予定日は10月末の予定だったのだが、予定より早く陣痛が来たので、祐輔が急いで病院に連れてきたのだ。
そして、明日奈は初産なので無痛分娩なのだが、完全に痛みが無いというわけではない。
しかし、普通の分娩とは違って力みやすく、落ち着いて出産出来るのが利点だ。
「赤ちゃんの頭が出てきましたよ! もう少しです!」
「明日奈さん、頑張って!」
祐輔は明日奈の手を握って、一生懸命に応援していた。水越病院に来たのが、前日のお昼少し手前の事だ。それまで祐輔は、何時も通りに艦隊の運営をしていたのだが、ある時に姉の百合から内線が掛かってきて、明日奈の陣痛が始まったのを知った。
予定より早かったので油断していた祐輔だったが、急いで明日奈を病院に連れていき、手早く入院の手続きと出産の手続きをして、一度鎮守府に戻って服やらなんやら用意し、病院に戻った。
そうして、色々と医師から話を聞き、予定を聞いて、その日は病院に泊まった。
病室の前のベンチに座った状態で居て、何時でも動けるようにしていた。そして翌朝、分娩第一段階から第二段階に入ったのが確認されたので、分娩室に運ばれることになって、祐輔も一緒に入った。
入って、約二時間が経とうとした時、元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえて
「産まれましたよ! 元気な男の子です!」
二人の子供が産まれた。
そして、翌日。
「わあぁぁ! 可愛い!」
「本当に小さいね!」
病室には、百合とさくらの姿があった。
百合は最近、少しずつだが肌の色が戻ってきている。そのため、少しずつ外出することも増えてきていた。
定期的に検査は行い、結果は海軍本部の研究所に送っている。一応は元帥が認めた者以外は閲覧出来ないようになっているので、情報漏洩は大丈夫だろう。
それはさておき、百合とさくらの二人は祐輔と明日奈の子供を見て、フニャフニャとした笑みを浮かべている。
「なんで、赤ちゃんの握る力って強いんだろうね」
「本当だねぇ……こんなに小さいのに」
赤ちゃんに指を掴まれた二人は、優しく赤ちゃんの頭を撫でている。そんな様子の二人を見ながら、明日奈は
「どんな子供に育つかな」
「僕達で、道を外さないように育てましょう」
と祐輔と会話した。それから、数時間後。祐輔が水越病院の食堂でお昼を食べ、百合とさくらが帰った後
「産まれたと聞いたぞ!!」
「見に来たわ!」
と彰三と京子の二人が現れた。
祐輔はこの時、トイレに行って離れていたが
「お父さん!? お母さん!?」
確かに連絡したが、予想外な早さで来たので、明日奈は驚いていた。特に京子は、また大学の教授職に復帰したので、忙しい筈だった。
「お父さんは良いけど、お母さん。帝都大学の仕事は?」
「助教授に任せてきましたよ! 娘が子供を産んだのだから、来ないという選択肢はありません!」
明日奈の問い掛けに、京子は力強く答えた。因みに、京子の助教授の事は明日奈も知っており、中々に頭の切れる人物だったのを覚えている。
すると彰三が
「近い内に、浩一郎も来ると言っていたぞ」
「兄さんは近衛軍でしょ……何処の部隊だったかしら……」
「浩一郎は第16近衛大隊よ」
「斑鳩大佐……」
斑鳩大佐の事は明日奈は知っており、自分が楽しむ為ならわりと洒落にならない事も平気でやる人物である。
恐らく、笑いながら許しただろう。
因みにだが、祐輔も斑鳩大佐とは顔見知りである。技術研究厰で何回か会談した事があるのだ。
それはさておき、彰三と京子の二人は寝ている赤ちゃんに近付き
「ふふ……浩一郎や明日奈が産まれた時を思い出すわね……」
「ああ……二人の成長に、ワクワクしたものだ……」
やはり、二人も子供が産まれた時は胸を踊らしたらしい。その時、ドアが開いて
「え、お二人とも、もう来ていたんですか?」
と祐輔が、室内に居た二人を見て驚いていた。
「おお、祐輔くん。久しぶりだね」
「二人の子供を見に来たわ」
「はい、いらっしゃいです」
祐輔は驚きから二人を迎え入れ、二人の分の飲み物を買いに行った。それを見た彰三は
「む、気を使わせてしまったか」
と頭を掻いた。そして京子は
「子供の名前は、考えているのかしら?」
「私と祐輔くんで色々考えてるよ」
京子からの問い掛けに、明日奈は手帳を京子に見せた。どうやらそれに、子供の名前候補が幾つか書かれてあるようだ。それを何個か確認した京子は
「どれも良い名前ね……そのまま、二人で決めなさい。二人の大事な子供なんだから」
と明日奈に手帳を返しながら、そう助言した。
その後、二人の分の飲み物を祐輔が買ってきて、二人は鎮守府の宿舎に泊まる事になり、祐輔が電話した。
そして、子供の名前は決まった。
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