「殺風景ですが、どうぞ」
執務終了後、祐輔は明日奈を自分の部屋に案内した
「何回見ても、信じられないなぁ……祐輔君の家の見た目、物置小屋じゃない」
と言ったのは、案内された明日奈だった
それは、案内された祐輔の住む小屋の見た目だった
祐輔の住む小屋の見た目が、端から見たら農具等が仕舞ってある物置小屋にしか見えなかったからだ
「偽装の意味が強いですね。まさか、鎮守府の指揮官が見た目ボロ小屋に住んでるとは、思わないでしょう?」
祐輔の言葉に、明日奈は思わず頷いた
確かに、予想出来ないだろう
「それにこの小屋、見た目以上に安全なんですよ? 壁は妖精さん謹製のレンガが使われていて、大和型の主砲でも壊れないんだとか」
祐輔の説明を聞いて、明日奈は思わず壁を触った
見た目は、至って普通の壁だ
だと言うのに、大和型の主砲でも壊れないとは、予想出来なかった
そして明日奈は、気になっていたことを聞くことにした
「祐輔君……その……その望遠鏡は……」
と明日奈が指差したのは、ボロボロの望遠鏡だった
すると祐輔は、優しくその望遠鏡を撫でながら
「これは、僕が小学一年生になった時に、入学祝いで両親から貰った望遠鏡です……昔の僕は、星を見るのが好きだったので、買ってくれたんです」
と説明した
その表情からは、懐かしさを感じた
それを聞いた明日奈は、恐る恐ると
「だったら、その……直したりはしないの?」
と問い掛けた
すると祐輔は、拳を強く握り締めて
「これは……自分への戒めです……無力だった僕への」
と言った
そして、続けて
「何も出来なかった子供だった僕への、戒めです……」
と呟くように言った
それを聞いた明日奈は、祐輔が自分自身を呪っていることに気が付いた
自身を呪い、それで自身を戦場に縛り付けている
余りにも、綱渡りな行為
だが祐輔は、復讐による盲目になっていない
「祐輔君……」
明日奈は祐輔の名前を呼びながら、祐輔を優しく抱き締めた
見てられなかったのだ
「祐輔君……そんなに、自分を責めないで……」
明日奈が囁くように言うと、祐輔は
「ありがとうございます、明日奈さん……」
とまるで、泣いてるような笑みを浮かべた
そして明日奈は祐輔を伴いながら、ベッドに腰かけた
そうして明日奈は、祐輔に膝枕をしながら、祐輔の頭を優しく撫でた
「大丈夫……大丈夫だよ、祐輔君……」
「明日奈さん……」
明日奈はまるで、聖母のように祐輔の頭を撫でていた
祐輔はそんな明日奈に、身を任せていた
そんな祐輔を見て、明日奈は祐輔が年相応に見えた
祐輔は19歳だが、13歳から軍人として過ごしていた
本来、13歳はまだ至って普通の学生として過ごせる年である
だが祐輔は、自ら望んで軍に入って、鉄火場を駆け抜けた
本当だったら、まだ遊びたい盛りの年頃に、戦場に居た
それが、どれ程祐輔の精神を削り続けたのかは、明日奈からは想像もつかなかった
だがそれが、祐輔から本来の子供相応の精神を奪ったことは分かる
だから、今の明日奈に出来ることは
「リラックスして……ね?」
祐輔を、癒すこと
明日奈は鼻歌を歌いながら、祐輔の頭を撫で続けた
それが祐輔には、懐かしい光景に繋がった
それは、十年も前に失われた姉との眠る時のやり取り
祐輔の姉は、忙しかった両親に代わって、祐輔の面倒を見ていた
そして、祐輔を寝かせる時によく、祐輔の頭を撫でながら子守唄を歌っていたのだ
それと繋がったから祐輔は、目を閉じて小声で
「姉さん……」
と呟いた
それを聞いた明日奈は
(お姉さんが、大好きだったのかな?)
と内心で、首を傾げた
そうして明日奈は、少し恥ずかしさを堪えて
「ねえ、祐輔君……一緒にお風呂入ろうか?」
と提案した
すると祐輔は、少し意外という表情をしながら
「明日奈さん……」
と明日奈を見た
すると明日奈は
「私達、もう夫婦なんだから……ね?」
と首を傾げた
すると祐輔は、少し悩んでから
「明日奈さんが……いいのなら」
と言ったのだった
そして数分後
「あははは……そんなに見つめられると、流石に少し恥ずかしいかなぁ」
二人は、一緒に入浴していた
「あ、すいません……」
バランスの取れた明日奈の体に、祐輔は見惚れていた
そして、明日奈も祐輔の体を見ていた
確かに、祐輔が細身だということは、明日奈は分かっていた
実際、腕の太さは明日奈と大差無いだろう
だが、無駄無く鍛えられていて、筋肉質な体だった
しかしそれよりも、明日奈は別のことが気になっていた
それは、祐輔の痩身に刻まれていた夥しい数の傷跡だった
まさしくそれは、歴戦の跡だった
どれ程の激戦に、身を投じたのかが伺える
「凄い傷跡……だね」
明日奈が傷跡に優しく触れながら言うと、祐輔が
「六年も最前線に居ましたからね……当然、撃墜されたこともあります……」
と言った
確かに、祐輔の戦歴は明日奈も知っている
あの横浜も生き残ったのだ
特に、核の破壊の光に巻き込まれた
今の医療技術ならば、当然傷跡も無く治療は可能だ
だが残しているのは、それも自身への戒めなのだろう
それは、明日奈にも予想出来た
「すいませんね、こんな醜いモノを見せて」
祐輔は苦笑いを浮かべながら、そう言った
すると明日奈は
「醜くないよ……それは、祐輔君が頑張ってきた証拠なんだから……」
と言いながら、湯船に浸かっている祐輔の体を抱き締めた
そして二人は、ゆっくりと入浴したのだった
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