『篠崎技術少佐から通達! 榊原提督は多少の負傷はあれど、無事! 繰り返す! 榊原提督は、多少の負傷はあれど無事!』
「良かった……」
大淀からの通信を聞いた明日奈は、思わず安堵の言葉を漏らした。信じていなかった訳ではないが、やはり異形のレ級と戦うというのは心配だった。
しかも、里香が無事に救出出来たということは、最優先目標だったナインテイルは討伐出来たということになる。
「後は、目の前の敵を何とかするだけ……!」
そう言う明日奈だったが、不安も感じていた。長時間の戦闘により、初音島の戦力は疲弊が強く、それは明日奈も例外ではなかった。
明日奈も先ほど、視線操作で強化装備の薬物を投与したところだ。恐らく、衞士は全員が似たり寄ったりだろう。
機体も、どんなに上手く動かしていても、一部が赤い表示を出している。
「なんとか、するしか……ない!」
明日奈はそう言って、一隻の戦艦ル級F艦艇型の艦橋に長刀を叩き込んで撃沈させた。
その時
『そおらっ!!』
と武仁艦隊の武蔵の気合いの声が、通信で聞こえた。
気付けば、武蔵が戦艦悽姫の艤装を完膚無きまでに破壊し尽くしていた。そして戦艦悽姫本体も、甚大な損傷を受けていた。
『中々楽しめたがな……これで、仕舞いだ』
武蔵はそう宣言した直後、至近距離で主砲を叩き込んだ。
その直後、深海悽艦の動きが変わった。統率されていた動きから、いっきに無秩序なものへ。統率していた戦艦悽姫が敗れたことにより、一気に指揮が崩壊したのである。
『出来うる限りで構わん! 数を減らせ!』
『了解!』
武仁の指示を受けて、武仁艦隊は合流した水雷戦隊も残敵への追撃に移行。初音島の戦力も追撃をしようとしたが
『いや、初音島の戦力は後退しろ。今まで、よく持たせてくれた……後は、こちらに任せろ……』
と武仁が制止。そこに
『遅れてすまんなぁ! 海鳴鎮守府や!』
更に、はやての艦隊が到着した。
『八神大将か……しばらく、ワシの指揮下に入ってもらうぞ』
『長官!? 何処から指揮を!?』
『なに。試作段階の空中管制機を使っているだけだ……さて、指揮下に入ってもらうのは構わんか?』
『は! 承りました!』
この数十分後、はやて艦隊と武仁艦隊の奮闘により、深海艦隊はその大部分の掃討に成功。
初音島鎮守府戦力は、帰還後に激しい疲労に襲われた。
だが明日奈は、疲労に襲われた体を押して医務室に向かった。
「祐輔君!」
「あ、明日奈さん……」
医務室に到着した明日奈が見たのは、左目辺りに包帯が巻かれていて、左足も太もも辺りに包帯が巻かれていた。
「もう、無茶して……」
「あはは……けど、あれが最善と思いまして……」
明日奈は車イスに座っていた祐輔の隣のイスに座り、祐輔の手を握った。祐輔も反対側の手を明日奈の手に重ねたが、やはり片目が見えないために、少し動きがぎこちない。
「失礼するぞ」
「長官……このような姿で、申し訳ありません」
医務室に現れた長官に祐輔は謝罪しながら頭を下げたが、それに対して武仁が
「いや……こちらも、救援が遅れてしまった。すまない」
と頭を下げた。
「長官、救援が遅れた理由は……」
「……何者かによって、大本営のデータベースが書き換えられて、初音島鎮守府の戦力が低いとされていてな……それを見た参謀総長が、救援を出さずにF666の発動を発令したのだ」
「F666!?」
長官の告げた内容に、明日奈は驚愕した。F666は、本当に最終手段であり、本来は易々と発令出来る内容ではないのだ。
「幸いにも、ワシが紙媒体で各鎮守府の戦力を更新される度にファイルを更新していたから、データベースが書き換えられていることに気付いた……それとほぼ同時に、こちらと遠距離通信が出来なくなっていてな……だから、試作機の空中管制機で前線指揮を執ることにしたのだ」
「そうでしたか……ありがとうございました……」
武仁の話を聞き終えた祐輔は、深々と頭を下げた。しかし、武仁は
「いや……八神大将が教えてくれなければ気付かなかった……」
「八神……大将……?」
祐輔は武仁の言ったはやての階級に、思わず首を傾げた。
(確か、はやてさんは中将だった筈……)
と祐輔が思っていると、武仁が気付いたらしく
「近い内、八神中将は大将になる……まあ、先行して教えた形になるな」
と告げた。どうやら、はやては階級が上がるようだ。
「榊原少将、一つ教えなければならないことがある」
「は」
祐輔が返答すると、武仁は明日奈に祐輔の車イスを押すように指示。ある場所を目指した。
そこは、武仁が乗っていた空中管制機用に割り振られた格納庫。
「……見ろ」
「……」
そこには、今もなお眠り続けている一人の女性が居た。明日奈に瓜二つの女性だが、深海悽艦特有の青白い肌だ。
「こちらで、血液鑑定し特定した……名前は、榊原百合……約10年前にKIA認定された元小間鎮守府の医務班所属だった……君の姉だ……榊原少将」
「……」
分かっていたことだが、やはり事実として認識すると驚く他なかった。
それは明日奈も同じで、言葉が出なかった。
「……彼女に関しては、ナインテイルを撃破した榊原少将に一任する……ナインテイルの尻尾は、こちらで回収させてもらうが」
そう言って武仁は、奥に視線を向けた。その先には、切断された尻尾がワイヤーで吊るされていた。
「異形とは言えども、貴重なレ級の標本だ……有効活用させてもらう……榊原少将……ナインテイルの撃破、見事だった……正式発表は先になるが、報酬が与えられるだろう……少しの間は、ゆっくりと休め」
武仁はそう言うと、連れてきた艦娘達に指示を出し始めた。どうやら、初音島鎮守府の現状の把握を始めたようだ。
そうして祐輔は、隣に立つ明日奈を見上げて
「お疲れ様でした、明日奈さん……」
と言葉を掛けた。それを聞いた明日奈は、ようやく事態が終息したと実感。体を重い疲労が襲う中
「お疲れ様、祐輔君」
と祐輔に返答したのだった。
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