「新しい艦娘か……」
「新しい艦娘?」
「はい。イタリアの軽巡洋艦娘のアブルッツィさんだそうです。今までは海路の確保に手間取り、来るのが遅れていたそうです」
祐輔はそう言って、書類を明日奈に手渡した。
「イタリアの……」
「はい。当鎮守府では貴重なイタリア艦です。イタリアさん、リベッチオちゃんに続いて三人目ですね」
そういった海外艦娘は、大規模作戦の報酬として参加した鎮守府に与えられることが多く、作戦参加回数が少ない初音島鎮守府では海外艦娘は少ない。
イタリア艦はようやく四人目。ドイツは、ビスマルク、Z1とZ3、U511の四人。
アメリカもサラトガ、ガンビア・ベイ、ジャービス、サミュエル・B・ロバーツの四人。
フランスはコマンダンテストとリシュリューの二人
計13名となる。他の鎮守府では、多くて20人居る所もあるとか。
「まあ、ここは防衛の要衝だからね……簡単には離れられないから……」
「はい……大規模作戦参加回数は、ようやく片手で数えられる程度ですよ」
祐輔はそう言いながら、書類にサイン。その書類を処理済みの箱に入れた。
そして、新しい書類を取ったら
「あー……那珂ちゃんですか……」
と苦笑いを浮かべた。そして少しすると、何やら笛を取り出して吹いたのたが
「あれ、今鳴らしたよね? 聞こえなかったけど……」
明日奈は音が聞こえず、首を傾げた。その直後
「ほーい、呼んだー?」
と川内が、天井裏から現れた。
明日奈が驚くが、祐輔は平然と
「那珂ちゃんから、こんな要望書が」
と川内に、その書類を手渡した。それを一読した川内は
「まーた、あの子は……ライブ用のステージだなんて……しかも、今までで一番要望凄いし」
と呆れていた。
「OK、私から言い含めておくよ。ごめんね、祐輔」
川内はそう言うと、祐輔の頭を撫でてから退室した。
それを見送った明日奈は、祐輔に
「ねえ、祐輔くん……その笛は……?」
と問い掛けた。すると祐輔は、仕舞おうとしていた笛を掲げて
「いわゆる、犬笛です。うちの川内さん、どうも耳が犬並みみたいで……普通じゃ聞こえない音域が聞こえるようなんです。ですから、鎮守府内に居る時はこの笛を鳴らせば、来てくれるように頼んであるんです」
と説明した後、その笛を仕舞った。
(まるで、犬みたいな扱いだけど……川内ちゃんが納得してるなら、いいか)
明日奈は自身を納得させると、執務を再開させた。
それからしばらくして
「ん……はい。第一初音島鎮守府執務室です」
と吹雪が、受話器を取った。
「はい、少々お待ちを……祐輔さん、技術研究廠から技術者がいらっしゃったようなんです」
「? そんな予定は聞いていませんが……どこの班の方ですか?」
「はい、電子部門第三班の方だそうです」
「つっ!?」
吹雪の告げた所属を聞いて、明日奈は息を飲んだ。
「須郷中佐の……目的はなんと?」
「なんでも、大本営の指示で電子セキュリティの強化だそうですが……」
吹雪の話を聞いて、祐輔は僅かに沈黙した。実はつい先日のハッキングだが、その件に関して夕張から興味深い報告を受けていたのだ。その内容は
《ハッキング先が、技術研究廠電子部門第三班から》
というもの。
もちろん、そこを中継地にされた可能性もある。しかし、どうにも祐輔の堪が何かを囁いていた。
「……分かりました。夕張さんと一緒に、サーバールームに入ることを許可します」
少し黙考した後、祐輔はそう許可を出した。そして約二時間後に、その技術者達は去っていった。
だが、その日の夜のことだった。
「んー……見回りも、問題なし……」
明日奈は帰る前に、本棟の見回りをしていた。とは言え、問題らしい問題は確認出来なかったので、祐輔が待つ小屋です戻ろうとして、一応報告しようとヘッドセットを装着した。すると
「ん……なに、このノイズ……」
無線に、ノイズが混じっていた。別にノイズが混じること自体は珍しいことでも無いのだが、耳を澄ませば、時々トーンという音が聞こえてくる。
「……なに……?」
と明日奈が眼を細めた時、嫌な予感から明日奈は腰のナイフを抜いた。その直後、激しい火花が散った。
「つうっ!?」
何とか初撃を防いだ明日奈は、襲撃してきた相手を見て驚愕した。
「祐輔くん!?」
それは、両手にナイフを持った祐輔だった。しかしよく見れば、目に意志を感じない。
「祐輔くん! しっかりして、祐輔くん!!」
明日奈が呼び掛けるが、祐輔は何の反応も示さない。明日奈は何とか隙を突いて無力化しようと考えて、祐輔の様子を強く観察し、気づいた。
祐輔の耳にも、ヘッドセットが装着されている。恐らくは、明日奈からの報告を聞こうとしていたのだろう。
「もしかして……この音が?」
と明日奈が呟いた瞬間、祐輔の姿が消えた。
(どこに!?)
と明日奈が視線を僅かに動かした瞬間、右側の壁を蹴る音が聞こえた。
(右!?)
右に視線を向けた明日奈に見えたのは、ナイフを突き出しながら飛んでくる祐輔。
(間に……合わない!)
ナイフでの防御が間に合わないと察した明日奈は、せめて傷みに耐えようと歯を食い縛った。だが
「大丈夫ですよ、明日奈大佐」
と自身によく似た声がして、次の瞬間にはドダンという激しい音が響いた。
「貴女は、百合義姉さん!?」
「はい。嫌な予感がして、見回っていましたが……当たりましたね」
明日奈の窮地を救ったのは、両手にグローブを装着した百合だった。どうやら先ほどは、百合が祐輔のナイフを反らしてから、床に叩き付けた音らしい。
百合は両手を開き、右手を肩の高さに、左手は胸の高さで構えている。
「私にお任せを……多少、古流を嗜んでまして」
百合がそう言っている間に、祐輔は床を転がって一旦離れた。そんな祐輔を見て、百合が
「姉弟で手合わせなんて、久し振りね、祐輔……でも、今回はちょっと手加減が出来ませんよ」
と百合が言った直後、再び祐輔の姿が消えた。だが、百合は冷静に
「……華掌・刃断ち」
と祐輔が振るったナイフの刃を、折っていた。流石にナイフを折られるとは思ってなかったらしく、祐輔の動きが僅かに止まり、その隙を見逃さず
「絶・通天破」
祐輔の胸部に、その拳を叩き込んだ。その一撃で祐輔は壁に叩き付けられ、意識を失ったらしく動きを止めた。
(今の動き……元帥と全く同じ……)
と明日奈が軽く驚いていると、百合は祐輔に歩み寄り
「間違いなく、意識を失ってますね……」
と祐輔が意識を失っていることを確認した。
そして、念のために拘束すると
「しかし、何故……」
と考え始めた。そこに明日奈が
「多分ですが、これが原因かと」
と祐輔が装着していたヘッドセットを百合に手渡した。受け取った百合は、ヘッドセットを装着。
「これは……もしかして、後催眠暗示?」
「後催眠暗示って、あの?」
後催眠暗示は今や、世界規模で使われている技術で、PTSDの治療や戦意高揚等に使われている。
「聞いたことないパターンだけど、間違いないと思います……念のために、全員のヘッドセットを回収しましょう」
「分かりました」
明日奈は頷くと、祐輔を背負った。
そして、祐輔を医務室まで運んだ後に緊急事態として一度第一初音島鎮守府のヘッドセットを全部回収したのだった。
どういう話を書いてほしいですか
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