「百合さん、どうですか?」
翌日早朝、祐輔が運ばれた医務室に明日奈は居た。明日奈の他には、唯依、直哉、吹雪、古鷹、里香の姿もある。
「間違いありません……後催眠暗示です。それも、かなり特殊な」
「後催眠暗示か……」
「しかし、それなら俺たちにも影響が出るのでは?」
百合の断定に唯依は腕組みし、直哉は思わずといった風体で問い掛けた。すると百合は
「どうも、アナリティカルシステムを使っているようです……それに、祐輔に有って私達には無いことがあります……」
「私達には無くて、祐輔さんに有ること……?」
百合の言葉に、古鷹は首を傾げた。
「……00部隊」
と明日奈が呟くように言うと、唯依が
「00部隊だと? あの、軍非公式の捨て駒部隊という?」
と明日奈を見た。
「00……部隊……?」
直哉が疑問を感じて吹雪を見るが、吹雪は首を振った。知らない、という意味だろう。
「噂ではなかった……と?」
「そうよ……祐輔は……00部隊からの唯一の生還者……」
唯依の言葉に、里香がそう答えた。
「00部隊……各軍から弾き出された爪弾き者達が集められて、編成された……祐輔は、死神として……何度も部隊を全滅させたから……厄介者として、明星作戦で死んだことにされた……」
「アメリカ軍の核投下……それを利用し、祐輔が死んだことにして、その00部隊に入れられた……と?」
「しかし、部隊の全滅なんて……運と戦況次第では……」
直哉がそう言うが、明日奈は首を振り
「結構ね、居るんだ……ジンクスを気にする軍人って……誰々と何回出撃したら、部隊が全滅する……とか」
と告げた。明日奈が知っているのは、そう言った根も葉もない噂を信じて、出撃する前に暴行して負傷させたという事件だった。結果、その衛士は負傷して出撃出来ず、その負傷を不審に思った整備員からの連絡が理由で、調査が入り暴行が発覚。
暴行した衛士二名と止めなかった隊長が懲罰部隊送りとなった。
「しかし、祐輔がその部隊に居たのは、既に三年近く前の筈だ……それに、誰がその後催眠暗示のパターンを無線で流した? 知っている人物は、居ないはずだろう?」
唯依の指摘は事実だった。祐輔が00部隊に居たのは、約三年近く前の話しで、そして何よりもこの鎮守府に居る誰も、件の後催眠暗示パターンを知らない筈である。
誰もが沈黙していると、里香が
「そういえば昨日、技術研究厰から電子部門の技師が来たわよね……確か、セキュリティの強化……だったかしら?」
と明日奈に視線を向けた。
「ええ……技術研究厰電子部門第三班から……」
「電子部門第三班? 確か、須郷伸之中佐の……待て、確か……彼がアナリティカルシステムの開発者では?」
唯依のその指摘に、明日奈は思わず、あ、と言葉を漏らした。半ばまで忘れていたが、確かにアナリティカルシステムは須郷が開発した物だ。つまり、須郷ならばアナリティカルシステムを使ったプログラムを組むなど容易い筈である。
「……だけど、確実にやったという確たる証拠が……」
古鷹のその言葉に、全員黙ってしまった。結局は、推論に過ぎないことは否めない。
「しかし、昨日来たというその技師のことは怪しいですね……一度、大本営に問い合わせましょう」
吹雪がそう言うと、全員は頷いた。
その時
「あの……僕は何故、医務室に居て、拘束されてるんでしょうか……」
祐輔の声が聞こえて、全員の視線がベッドで寝ている祐輔に向いた。いつの間にか目覚めていたらしく、困惑した表情を浮かべていた。
なお拘束していた理由は、後催眠暗示は一度何らかの強いショックや気絶を経れば解除されるのだが、極稀に解除されない場合も確認されているのだ。それを危惧し、いきなり暴れられるのを防ぐために、拘束していたのだ。
「祐輔くん、昨日の夜のこと……何処まで覚えてる?」
明日奈が問い掛けると、祐輔は少し間を置いてから
「確か……執務を終えた後は、部屋で掃除をしていて……途中で、明日奈さんから報告があるかもと、ヘッドセットを装着して……そこからは……」
思い出すように言いながら、最後は首を振った。どうやら、ヘッドセットを装着した後は記憶が無いらしい。
それを聞いた百合は、
「いい、祐輔……落ち着いて聞いて」
と祐輔に、優しく語り始めた。聞き終わった祐輔は、驚いた表情で
「僕が……明日奈さんを……!?」
と狼狽していた。やはり、身に覚えは無いようだ。
「私の見解では、後催眠暗示が使われたようなの……それも、かなり特殊なやつを……」
百合がそう言うと、祐輔は呆然としながらも
「けど、鎮守府内で後催眠暗示を流す必要なんて……」
と呟いた。基本、初音島鎮守府では余程のことがない限りは後催眠暗示は使用されない。過去には戦闘で酷い負傷を負って、それが理由でPTSDになりかけた艦娘に使用し、精神的負荷を和らげる目的に使われたが、それ位である。
「その後催眠暗示なんだが、私達全員が聞いたが、祐輔以外には何の効果も現さなかった」
「僕……だけ……」
唯依の話しの内容を聞いて、祐輔はまさか、という表情を浮かべていた。その表情を見た里香が
「祐輔、00部隊の後催眠暗示じゃないかしら?」
と問い掛けた。
「なっ……」
「言っておくけど、一応この場に居る全員は00部隊のことを知ったわ……それを前提に話すけど、あたし達と祐輔の違いは、そこよ……あの後催眠暗示が効いた祐輔と効かなかったあたし達の違い……」
祐輔が驚くが、里香は構わずにそう告げた。
「祐輔くん……」
「……確かに、それしか……あり得ませんか……」
明日奈が呼び掛けると、観念した様子で祐輔は呟いた。そして、何かを考える様子で
「しかし、いつの間にそんな後催眠暗示パターンが……」
と呟いた。そこに、吹雪が
「昨日来た、電子部門第三班の技師……それしか、可能性はありません……それまで、一切流れませんでしたから」
と言った。確かに、それしかないだろう。
だからか、明日奈が
「吹雪ちゃん、夕張さんと昨日技師が触ったサーバーを確認。古鷹さんは大淀さんと一緒に大本営に、本当にセキュリティの強化を命じたのか、問い合わせして」
と二人に指示を下した。その指示を受けて、二人は退室。それを見送ると、明日奈は更に
「直哉君は裕也君達に警備の強化を打診し、更に強化外骨格を何時でも投入出来るように、里香と一緒に確認してきて。唯依さんは、何時でも動けるように、待機をお願いします」
と続けて指示を出した。
「明日奈さん……」
「今は、念の為にゆっくり休んで……大丈夫だから……百合さん、祐輔くんをお願いします」
明日奈はそう言って、先に指示されて退室していったメンバーの後を追うように退室していった。そして、医務室に残ったのは、百合と祐輔の二人だけ。
「祐輔……辛い思い、してたんだね……」
「姉さん……」
百合は泣きそうな表情を浮かべながら、祐輔の頬を優しく撫でたのだった。
どういう話を書いてほしいですか
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