初音島鎮守府が大本営に通信を試みようとしていた時、大本営。否、帝国本土はそれどころではなかった。明け方、突如として帝国軍本部たる大本営、国会議事堂、各メディア、水道局、原子力発電所、本土の各鎮守府・警備府に、所属不明の武装勢力が襲撃してきたのだ。
当初は
武装勢力の動きが、明らかに特殊部隊並の動きだったのだ。それにより、水道局、原子力発電所、各メディアは武装勢力に占拠され、大本営と各鎮守府・警備府、国会議事堂の警備部隊は劣勢を強いられていた。
「正門、状況はどうなっとる!?」
『こちら正門警備部隊! ダメです! これ以上は、バリケードが持ちません! つっ!? RPG!!』
警備兵の叫び声の直後、無線機からは轟音が響き渡り、海鳴鎮守府司令官のはやては、思わずヘッドセットを外してしまった。
しかし、すぐに装着し
「警備部隊、無事か!?」
『こ、こちら警備部隊! ダメです! バリケード完全に崩壊! 後退します!!』
「後退を許可する! 負傷者は絶対に残すな!」
『了解!』
その通信を最後に、正門の警備部隊との通信を終えた。はやては、現状に歯噛みし
「よりによって、殿下が来とるこの時に……!」
と言葉を漏らした。
なぜ、海鳴鎮守府に悠陽が来ているのか。それは、海鳴鎮守府敷地内にある食糧生産プラントの稼働5周年式典のためだった。
その式典に、政威大将軍の悠陽が参加しており、各種挨拶と食糧生産プラントの技師達を鼓舞するために来ていた。そして始まりの挨拶が終わり、技師達への鼓舞を言ったタイミングで襲撃された。
「神代少佐! 殿下の安否は!?」
『すまん、途中ではぐれてしまった! だが、そちらには独立警備小隊が着いている! まだ無事な筈だ!』
はやてが問い掛けると、新たな男性。海鳴鎮守府陸戦隊隊長を勤める
「そちらの戦況は!?」
『こちらは、辛うじて優勢を維持している! ちい、あいつらは何処からあんな装備を……つっ、対物ライフル! あれを潰せ!!』
今冬也は、格納庫で迎撃戦闘しており、そこには式典に来た一般人や政府要人が一時避難してきていた。冬也はその迎撃戦闘の指揮をしており、その途中まで殿下と一緒に居たのだ。
「なんとか戦況を打開して! こっちも援軍を送るようにするけど……」
『期待しないで待っている! 以上、通信終わり!』
それを最後に、冬也との通信は切れた。そしてはやては、戦術データリンクで得た情報から海鳴鎮守府全体の戦況を把握し、指揮していた。
「この数の戦力……何処から……!」
少なくとも、中隊規模が海鳴鎮守府に攻め威ってきており、しかも全員の動きが精鋭並に装備も充実している。
「あかん……正門とグラウンドは完全に敵の制圧下や……格納庫と執務棟、湾口はなんとか耐えてるけど……」
約300人近い敵に、約100人足らずの海鳴鎮守府陸戦隊はまさに奮戦していた。今の自分たちは、まさに日本そのものを護っていると言っても過言ではないからだ。
しかし
「はやてちゃん! 格納庫にて、敵戦力に強化外骨格が投入されたって!?」
「強化外骨格までやと!?」
はやての家族であり部下の一人たるシャマルからの報告に、はやては驚愕した。そしてモニターに、その強化外骨格が表示された。
「これは……帝国軍全体で制式採用されとる90式やないか!?」
敵が運用していたのは、帝国軍制式採用強化外骨格の90式強化外骨格だった。世界中で採用されている強化外骨格の中でも、最新式の強化外骨格で勿論だが機密的にもかなり高いランクで管理されている筈の代物だ。
しかも、一機ではなく全部で四機も運用していた。
「あかん! 他の部隊にも通達! 敵が強化外骨格を使用してきた、警戒せよと!」
「了解!」
「くっ……陸軍も襲撃されとるから、陸軍の援軍は期待出来へん……近衛軍もや……」
はやては自身の権限で帝国軍全体の動きが分かる広域データリンクを見たのだが、各地の陸軍と近衛軍の基地にも敵が襲撃しており、両軍はその迎撃に注力しており、援軍の期待は出来なかった。
『こちら高町大尉! これより、強化外骨格で出撃します!』
『同じく、フェイト・T・ハラオウン大尉も出撃します!』
「なのはちゃん、フェイトちゃん!」
高町なのは大尉、フェイト・T・ハラオウン大尉ははやての幼馴染みであり、更には海軍士官学校の同期生だ。
はやは提督コースで、なのはとフェイトは海兵隊士官コースを専攻し、三人は優秀な成績で卒業。
はやてが海鳴鎮守府の提督になると、二人はそこの陸戦隊の小隊隊長として着任した。
『相手が強化外骨格を使うなら、こっちも投入しないと!』
『人間相手は気が引けるけど、戦わないと!』
「……頼むな」
『了解!』
対人戦故に気が引けるが、今はそんなことを言っている場合ではないのは事実だった。
断腸の思いで、はやては二人の出撃を見送り、戦況の再確認を始めた。その時
「はやてちゃん! 初音島鎮守府から入電!」
「初音島鎮守府やて!?」
シャマルの報告を聞いたはやては、通信機に駆け寄ると
「初音島鎮守府! こちらはやてや!」
『八神大将、こちら第一初音島鎮守府の大淀です! 一体、帝国本土で何が起きているんですか!?』
はやてが出ると、画面に大淀の顔が表示された。
「所属不明勢力の襲撃や! しかも、本土全体で!」
『なんですって!?』
はやての報告に、大淀の横から現れた明日奈が驚愕していた。
「ちょい待ちい、祐輔はどないしたんや?」
『それが……』
はやてからの問い掛けに、明日奈は簡潔に何が起きたのかを伝えた。すると、はやてが
「電子セキュリティの強化……確かに大本営で発令されたが、電子部門第3班の管轄やない。電子部門第1班の管轄や!」
『ってことは、須郷中佐が何かしたってこと……やっぱり、止めるべきだったわ……!』
はやての報告を聞いた明日奈は、悔しそうに拳を握っている。その時、はやての居た司令室が大きく揺れた。
「何事や!?」
「前線部隊から報告です! 相手が、戦術機を使ってきたと!」
「戦術機やと!?」
「はい! 旧式のFー4タイプのようですが、それが小隊です!」
シャマルはそう言いながら、サブモニターに映像を回した。確かに、型式としては旧式のFー4型のようだ。
「この反応から察するに……型式はFー4J!」
「撃震か……! 何処で入手したんや……!」
Fー4J、撃震。アメリカが開発したFー4を日本がライセンス生産した機体で、既に帝国軍では徐々に退役が始まっている機体だ。
しかし、戦術機が配備されていない海鳴鎮守府では充分脅威となる戦力だった。
「前線部隊に対戦術機兵器の使用を許可する! 何とか、各自で対処するんや!」
『八神大将、こちらから戦力を回します! そうすれば……』
「それはあかん! そちらにも敵が襲撃してくる公算が高い! そちらに備えるんや!!」
明日奈の申し出に、はやてはそう返答した。確かに、いまだに初音島鎮守府には襲撃は無い。しかしそれは、帝国本土から離れているからに過ぎないのだ。海鳴市から最短で100km離れた初音島。そこを攻めるとしたら、船か航空機しかないだろう。今は無警戒な為に備えていないが、備えれば長年防衛の最前線を担ってきた初音島鎮守府は難攻不落の要塞と化す。
「ええな、接近するあらゆる航空機と船舶に対して攻撃を許可する! 責任は、私が取る! ええな!?」
『……了解』
明日奈が頷くと、はやては通信を切った。そして、指揮官として
「ええな、この危局……何としても乗り越えるで!!」
と指示を下した。
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