12.5事件。それが、須郷が起こしたクーデター事件の通称となった。たった一人が発起人の事件としたら、世界でも最大規模の事件だろう。
それにより、帝国は国土全域に多大な被害を被った。
特に、軍の各基地と鎮守府はその被害が大きく、建て直しには短くない期間を要することが分かった。
それに伴い、帝国発の作戦。
祐輔が須郷を殺した後だが、一気に戦闘は終息した。
その理由が、須郷の乗っていた無明が後催眠暗示の発信源で、祐輔が撃った無反動砲が艦橋を吹き飛ばしたことで発信が停止。それにより、後催眠暗示が解除され、洗脳されていた兵士達が洗脳から解放され、投降したのだ。
それにより、帝国軍は揺れた。何せ、須郷の兵士達は、全員が既に戦死扱いした者達だったからだ。
そこから、帝国軍は特別査察局を設置。須郷と繋がりが深い人物や企業の捜査を始めた。
そうして浮かび上がったのは、帝国軍全体と企業の腐敗。帝国軍に至っては、一部の将官が金銭目当てに装備や人員を横流ししていたことが発覚。
企業は帝国軍に採用してもらい易いようにと、資金援助や物資の提供等があることが発覚。それによって、一斉摘発が始まった。
その摘発の中で、明日奈が驚愕したのが、結城宗家の一人が逮捕されたことだった。どうやら、須郷に多額の資金援助をしていたらしい。個人的にやっていたようだが、それでも協力していたという事実は変わらず、近い内に何らかの処分が下されるだろうことは確実。最悪は、結城家のお家取り潰し。即ち、近衛家格の剥奪すら有り得る。
そちらは、明日奈からしたら大したことはない。明日奈が気になったのは、父親。彰三が経営している会社。レクトから須郷に機器が流れていたことだった。調査して分かったことは、それは彰三の指事ではなく、一部上役が独断でやったことだった。
しかし、会社から須郷に流れていたことは事実であり、彰三は責任を取って社長の座から辞任した。それに合わせて、上役も一新。レクトは新体制で経営が始まることとなった。
それはさておき、明日奈は今日の復旧に関する報告書を書き終わると、この執務室の主。祐輔の席に視線を向けた。今祐輔は、鎮守府どころか、初音島に居ない。
祐輔は先日本土に赴き、今回の事件に関する報告をしている最中である。
予定では、今日か明日には帰ってくる筈だ。
そして今回の事件、一般には一部の過激派の軍人達が起こしたクーデター、という風に発表されている。
まさか、須郷一人が発起人と言っても、信じられないだろう。
そしてこれは、昨日聞いた話なのだが、明日奈の母。京子が、自室に引き込もって出てこないらしい。
恐らくだが、彼女が明日奈の婚約者として推していた須郷が、国家反逆罪レベルの一大事件を引き起こした、ということが響いているのだろうと予想している。
(まあ、いい薬になるかしらね……)
そう思いながら明日奈は、コーヒー擬きを飲みながら、桜と雪が舞う外を見た。
12月半ばになって、気温はガクンと下がり、それの影響で今日は朝からずっと雪が降っている。庭やグラウンドからは駆逐艦娘達の元気な声が聞こえてくる。
「ふふ」
それが微笑ましくて、自然と笑みが溢れた。
「何か、いいことでもありました?」
そう問い掛けてきたのは、コーヒー擬きを淹れたカップを持った吹雪だった。すると明日奈は、窓から庭を指差し
「皆が元気だなってね」
と言った。それを聞いた吹雪も、クスクスと笑い
「そうですね」
と同意し、明日奈と一緒に庭を見た。庭では、雪風、時津風、夕立の三人が元気に遊んでいる。その姿は、最早犬のそれだ。
そして明日奈は、また一口コーヒー擬きを飲んでから空を見上げて
(祐輔君、本土で無理してないといいけど……)
と祐輔の身を案じた。
時は遡り、数時間前のことだ。祐輔は、大本営ではなく、江戸城に居た。江戸城の地下室の一つ。そこに、数人の人影が合った。一人は、勿論祐輔だ。しかし祐輔が纏っているのは、提督を示す白い第一種軍服ではなく、真反対の漆黒の軍服を纏っている。
否、祐輔だけでなく、二人を除いて全員が漆黒の軍服を纏っている。
「では、此度の事は……須郷元技術中佐が後催眠暗示を悪用し起こした……ということですね?」
「は、その通りにございます。殿下」
「その須郷元技術中佐に関しましては、自分が戦術機の無反動砲にて吹き飛ばしました。その後、艦橋を失い機能停止した無明は、鹵確。曳航しまして、今現在は初音島鎮守府の軍港に係留しております」
政威大将軍、悠陽の問い掛けに、初老の男性。防人武仁が頷き、それに続いて祐輔が答えた。
祐輔は今、いわゆる御前会談の真っ最中だった。
天皇を上座にその一段下の段に悠陽が座り、漆黒の軍服を纏った祐輔を含めた数人が、コの字型に座っていた。
「ふむ……その無明に、仕掛けは?」
「は……設計図には無い高性能なスーパーコンピューター。更には、強力な暗号通信機器……そして何より、数多くの生体ポッドがありました」
「生体ポッドに残されたデータを調べましたところ、その生体ポッドにて兵士達のメンテナンスと称した薬物投与を行った形跡がありました……申し訳ありません……まさか、ここまでやる男とは思わず……我が管理不届き行きにより、帝国全体に甚大な被害を与え、殿下発案の作戦を延期させてしまいました……如何なる処分をも受ける所存です」
天皇の問い掛けに、茅場大佐と巌谷少将が立て続けに報告し、二人して頭を下げた。
そこで僅かに間を置き、悠陽が
「巌谷少将、茅場大佐。此度の事は、我々全員の不始末です。貴方方二人のみの問題ではありません。数年に亘り調査していた00部隊の指揮官が、まさか技術士官とは誰も予想だにしていませんでしたから……」
と少し気落ちした声音で告げた。
そこに集うは、特務の面々だった。
「そなた等が通常業務をこなしながら特務の任を与えていること事態が、我が不徳……責を問うことはせぬ……それより、00部隊の本拠地の所在地は判明したのか?」
「そちらは、須郷元技術中佐の執務室。自宅を調査中で、未だには……しかし、必ずや見つけてみせます」
「期待します……そなた等の、より一層の活躍を」
『はっ!』
それを最後に、御前会談は一時終了。天皇が退座した後、他の面々は別の部屋でまた話し始めた。
「榊原提督、須郷元技術中佐によって二度操られたと聞きましたが……」
「はっ……後催眠暗示とアナリティカルシステムを使って、操られてしまいました……そちらに関しましては、衝撃と桐ヶ谷技術少佐が組んだプログラムにより解放されました」
悠陽が問い掛けると、祐輔は少し苦い表情を浮かべた。すると巌谷少将が
「やはり、それは危険ではないか? 脳にも、かなりの負担を強いるのだろう?」
「は……それに関しましては、界塚伊奈帆大尉から協力を得られました。彼が組んだプログラムを提供してもらい、それを組み込みました。以前より、負担が軽くなったように思えます」
「ほう、彼の……やはり、電子部門に欲しい人材だった」
祐輔の報告を聞いて、茅場大佐が関心したように頷いていた。実は茅場大佐は、伊奈帆が技術研究厰に居た時に電子部門にスカウトしたことがあったのだ。
しかし伊奈帆は、すぐに拒否。衞士で居ることを選んだのだ。
「皆さん。00部隊の指揮官は討ちましたが、未だに帝国内には不穏分子が居ます……何時でも動けるように、してください」
『はっ!』
悠陽の要請に、特務一同は敬礼した。
そうして三々五々散っていくなか、祐輔は雪が舞う空を見上げて
(早く、明日奈さんに会いたいな)
と思ったのだった。
どういう話を書いてほしいですか
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