機動戦士ガンダム MSV エリオット・レムの記憶 作:翔田美琴
深く・・深く・・潜る。
深く・・深く・・たゆたう・・。
私は・・あなたにもう一度・・出会う為に・・ここにいるのだから・・。
そう。私は・・あなたに未練があって・・そして・・この街に来た。
あなたに・・エリオット・レム様・・あなたに抱かれる為に・・。
「何をなさっているのです?お嬢様・・」
穢れを溜める泉の中から・・全裸のアリエルがはい出てくるのを見るジェニファー。そう。その穢れの泉は・・現世に呼び戻す”悪霊の棲む街”レムレースの街の伝説の泉・・”悪霊の泉”だった・・。
”悪霊の泉”。現世に強い未練を残してこの世を去った人間を、呼び戻す悪霊の泉。その”悪霊”こそアリエルだった・・。
「見てはなりません!」
「何・・?彼女・・?」
医師をするガブリエルはそこでジェニファーをかくまうようにして、”悪霊の泉”から生き返ったアリエルを見て、こう呟いた。
「何か・・とんでもないものを呼びよせてしまったようですね・・」
「・・・悪霊が棲む街・・だから・・」
ジェニファーはその信じられない光景を見て、父が言った言葉を口にした・・。
ここは、”悪霊が棲む街”。レムレース。この世の穢れを集める・・淫魔が棲む街。
「はあっ・・はあっ・・旦那様・・!もっと・・激しく・・私を抱いて・・!」
「あはあっ!!エリオット様・・!!」
彼が後ろからアリエルの大輪の花びらに己を入れて、人が変わったように彼女を夢中になって抱いている。
両方の腕を掴んで、リズミカルに腰を動かし、巧みに彼女をじっくりと味わう。
やがて・・アリエルは身体ののけぞらして、大きな豊かなふくらみを・・薄紅色の乳首を尖らせて・・誘惑的に揺らしている。
彼もまた、華奢な彼女の身体を上下に振って、巧みな腰捌きでそのアリエルを自分の虜にさせる・・。
アリエルは何かに憑りつかれたように・・どんどん・・深い奈落に堕ちていく。
(もっと・・もっと・・私を満たして・・!)
そうして・・彼がアリエルとの情事に身を溺れさせている頃・・
アネットは庭師のアズラエルに豊かなお尻を平手打ちされて、悲痛な叫び声をあげる。何度も何度も冷酷に彼女に折檻をする。
そして、アズラエルが不意にその”儀式”の秘密を明かすように彼女に話す。
「奥様は何故、こんな儀式をするのかイマイチわかっていない様子ですな。あれは、レム家の女性の通過儀礼みたいなものでしてね。レム家の男性を虜にする”魔性”を呼び起こすものなんですよ」
「”魔性”?」
「お聞かせしましょうか?奥様・・?」
そこでアズラエルが何か鈍器みたいなもので頭を殴られた。さっきまで女性同士の愛の交換をした彼女に・・。
「何をする!?アリシア!」
そこに、驚くべきことが起きる。あのアレシアがまるで幽霊みたいにいきなり部屋に現れたのだ。彼女の背後から、いきなり。
彼女は無表情だが、独特の色の瞳で冷淡に彼を見据えていた。
「こ・・これは大奥様・・!」
「何をしているのです?アズラエル」
「いいえ。ですが、このままでは旦那様が可哀相に思えて来ましてね、初めての女を少し慣らせようと思いまして・・」
「そんなこと、誰が頼みましたか?」
そこでアレシアは声の響きを一段と冷酷にする。そして・・何かの魔力をその繊細な人差し指に宿すようにアズラエルを指さし冷徹に言ってのけた。
「駒は駒らしく、大人しくしていればいいのです」
そこでアズラエルが急に苦しみだした。頭を抱えて苦痛に呻く。アネットからして見ればそれは到底理解しがたい光景だった。
そう。目の前で起こっているそれは、この宇宙世紀で最も縁が遠い力・・”魔法”としか考えられない出来事だから。夫はもちろん”魔法”なんて信じていない。
宇宙世紀で名を残す一流の技術者がそんな非科学的なものには一切の興味は持たない。それよりも、日々進化を続けるモビルスーツに興味を抱いて今も研究を進めている。
だが、この街・・レムレースは目に見えない何かの”力”がある。
それをアネットも夫のエリオット・レムも感じている様子だった。
やがて・・呆然とその光景を見ていたアネットが聴いたアレシアの言葉に不思議な感覚を覚える。
「奥様が話相手を捜している様子です。行ってあげなさい。アズラエルさん・・」
苦しみから解放されたアズラエルの表情が一変していた。そして・・さっきまで自分に折檻をしていた男性とは思えない程、従順になりその部屋から去った・・。
「はい。大奥様・・」
アレシアはそこで、全裸で呆然としているアネットに、囁くようにして彼女に何かの”魔法”をかけた。こう囁いて・・。
「アネットさん・・。その苦しみも切なさも、疼きも、渇きも、癒してくれるのは・・エリオットだけですよ・・?」
そこで、アネットの瞳が虚ろになった。彼女はそのまま、屋敷の部屋に飛び込むようにして入った。
夫がいつも寝ている寝室だ。彼女がそのベッドに倒れ込む。そして彼にいつも染み付いている香りが、彼女の嗅覚に訴える。上品なムスクの香水・・。彼が愛用している女を口説く時に染み込ませる魅惑の香り・・
(ムスクの香り・・。あの人の・・)
「エ・・エリオット・・!」
その頃・・アリエルとの情事に身を溺れさせている、夫のエリオットは荒い息をあげて・・彼女と庭の一角で、頭の中から抜ける・・麻薬のような快楽の余韻に浸っていた・・。
「はあっ・・はあっ・・」
「エリオット様・・」
彼女の豊か過ぎるふくらみに顔をうずめ・・抱き締めるエリオット。
「わかっているよ・・。アリエル・・」
彼がため息のように甘い吐息を吐いて・・その瞳を今は閉じていた。
そこで・・彼はようやく正気に戻った様子だった。
(一体・・私は・・どうなっているのだろうか・・?このところ・・際限なく・・女を求めている・・。ジオンにいた頃はこんなではなかったはずなのに・・。一体・・この街はどうなっているのだろうか・・?このままでは・・あの子まで抱いてしまいそうだ・・)
レムレース。・・・悪霊が棲む街・・か。
その夜。もう真夜中の一時を回った頃・・夫婦は自分達の身の回りに次々起こることに語り合う・・。共にベッドの中で、夫婦で寄り添って。
「ねえ?ここにいると自分が自分じゃなくなるみたい」
「私もだよ。ここに来て・・正直自分に戸惑っている。こんなに・・淫乱ではないと思っていたのに、屋敷にいると正気が無くなって、いつの間にか女を抱いている・・。あの大きな庭園に咲く真紅の椿を見ると・・記憶が無くなってしまうんだ。そして気付いた時には女を抱いていた。君や・・アリエルを・・」
「ねえ・・?アリエルって亡くなってしまったはず・・よね。私達の結婚が決まった時に」
「そのはずだ。なのに・・実体を持ってそこに存在している。実際にあの子を抱いた。どうやら・・少し調べる必要がありそうだな・・。この街・・レムレースのことを」
「お互いに正気が無くなりそうで怖いわね・・」
「・・・そうだな・・。最悪の場合・・ジェニファーをせめて、この街から出れるようにしておこう・・。まさか・・こんな時に、あのグラナダで住んでいたもう一個の家が役に立つとはな」
「グラナダに避難させるの・・?」
「少なくとも、あそこなら安全だ。「月待ちの儀」の全容が解明出来たら・・私達も折を見て逃げよう・・」
「エリオット」
「私は別に血族については、こだわりは持っていない。別に自分の一族が古くからの血脈を引いていても・・関係ないさ・・。もう少し、我慢してくれないか・・?アネット・・」
「後、満月になるまで、十一日間もある。その間に全てを調べに行ってくる・・」
「じゃあ・・せめて、キスだけでも今は頂戴?」
そこでレム夫妻は、激しくキスを交わした。そのまま・・なだれこむように・・愛を確かめるように・・身体を重ねだす・・。
後・・「月待ちの儀」まで約十一日。
彼らは・・伝統的な儀式から逃走を図る為に・・それぞれ行動を密かに起こすことにした・・。
この狂った性の饗宴から・・まっとうな世界へ・・戻る為に・・。
出来れば・・宇宙の月のグラナダへ・・戻る為に・・。
その夫婦が決意を固めた夜。彼の旧知の友人・スカーレットは、庭に落ちている椿の花びらを拾って・・一人呟いた。
「この庭園に咲く真紅の椿・・この街の穢れを糧にしているようだな・・。なるほど。悪霊が棲む街に咲く花としては見事にぴったりな花だな」
アリエルはエリオットとの行為で乱した服装を整えている様子だった。
そんな彼女に、スカーレットは声をかける。
「さしでまかしいようだが、あのエリオット・レムは止めておけ。あの男はただの男性ではない。あの男は・・」
そう言いかけた瞬間、アリエルの身に何かが宿った感覚を覚えるスカーレット。
それは・・”陰”の気だった。スカーレットは不思議に思った。
(このメイドの女・・何者だ・・?まさか・・”悪霊”か・・?)
「す、すみません・・。見ていらしたのですか・・?」
彼女はそう言いかけると、何かを求めるように屋敷へ戻っていった・・。
スカーレットは自分の掌を見る。どうやら・・自分にも、力が戻ってきている様子だ。
そして・・スカーレットも、彼ら夫婦と同じ決意を固める。何としても、エリオット・レムには絶対にあの儀式は受けさせない。
それぞれが決意を固め始める・・決意の月夜。
上弦の月が徐々に満ち始める頃合いであった・・。