※この作品はR-18です。

機動戦士ガンダム MSV  エリオット・レムの記憶   作:翔田美琴

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満月に向けて満ち始めるその月夜の夜。激しい愛の交換をしたエリオットとアネット。だが、そこに思いもがけない展開が彼を待っていた。


第十夜 月光 ~Tsukikage~

 満月になるまで、後五日となった静かな月光の夜。

 レム夫妻は、激しい愛の交換の後、寄り添って眠りに入っていた時だった。

 そこに、唐突に彼らが寝る寝室のドアを三回叩く音が聴こえた。エリオット・レムは、軽いめまいを感じながら起き上がる。

 余程、急いでいるのだろうか?もう一回、少し早く三回、ドアをノックされる。

 何事だろうか?彼はそう思いつつ、薄いシャツを着て、彼らがいる寝室のドアを開く。

 そこには、真っ青な表情を浮かべたアリシア・クロフォードが彼に助けを求める声が聴こえた。

 

「だ、旦那様!今、旦那様のお知り合いのスカーレットさんが、血まみれになって屋敷に戻ってきたのです!!」

「何だと!?今すぐ行く!」

 

 ベッドの上で薄い毛布をかけたまま、全裸で寝ていたアネットが、飛び起きる。そして血まみれになった女性のことを彼に訊いた。

 

「何かあったの・・?エリオット?」

「らしいな。アネット。君はそこにいた方がいい。スカーレットの身に何か起きたらしい」

 

 彼は軽く身支度をして、そしてアリシアの先導で屋敷の玄関に向かう。

 そこには・・血にまみれたスカーレットの姿があった。

 かなりの重傷を負っている。彼女の細身の身体からはあらゆる所に傷が見るも無残に刻まれている。腕から、腰から、ズボンに隠された細い脚まで全身にわたってナイフで斬り刻まれたスカーレット、弱弱しい微笑を浮かべて、玄関の床に倒れていた。

 思わず彼女に寄り添うエリオット。そして傷を診る。

 そして、専属医師・ガブリエルを呼んでくるように命じた。

 

「ガブリエルを呼んでくれ!早く!」

「エリオット・・!」

「ここで。応急処置はしておくぞ。スカーレット」

 

 彼はそこでアリシアが持ってきてくれた救急箱に入っている医療道具で彼女に応急処置を施す。

 彼女は見るも無残な血まみれの状態で苦痛に顔を歪ませる。激しく痛みによる喘ぎ声を上げている。

 その激痛に顔を歪ませながらもエリオットに今までの戦闘の経緯を話す。

 彼女は今、壁に寄りかかり、エリオットの応急処置を受ける。

 

「うっ・・!!くっ・・!エ、エリオット・・!奴は・・アレシアは危険だ・・!!平然と・・私を殺そうと男たちを・・!!うあっ・・」

「酷い傷じゃないか。どうして、お前はそこまでになってまで、私に「月待ちの儀」を受けさせまいとするんだ?こんなになってまで・・!!」

「アレシア・レムは・・レム家を支配しようとしている・・!!そして・・このレムレースの神になろうとしている・・!その為にお前という”穢れ”に満ちた”器”を必要としている・・んだ・・!うあっ!!」

「何て酷い傷なんだ。ナイフで切られたのだな。幸い、血管までは傷ついていないようだが・・!!」

「ううっ・・!!」

「急いで止血しないといけない!」

 

 彼は傷が深い場所へ念入りに消毒すると、傷痕にガーゼを当てて包帯でこれ以上出血しないように固定する。

 彼女は全身傷だらけだが、それを彼は全部、その場で応急処置を施した。

 そして、彼女の血液型を聞く。

 

「お前、血液型は?」

「A型だ。ただしマイナスが入っている・・。RH-(マイナス)Aだ」

「RH-Aか。あまり、マイナスのA型の血はないかもしれないが、ラファエルの病院ならあるかも知れないな」

 

 彼女は激痛と葛藤しながらも、彼に、エリオット・レムに「月待ちの儀」には出るなと忠告をする。

 

「エリオット・・!お前たちは・・意地でも逃げろ・・!意地でも月面都市へ逃げるんだ・・!そうしないと・・お前が・・」

「他人のことを心配をしている場合か?今はそんなこと言っている場合じゃないだろう。お前こそ月へ逃げるんだ」

「この・・傷が癒えたらそうする・・よ」

「こちらです!ガブリエルさん!」

「こ、これは酷い・・!!緊急搬送でラファエルの病院で緊急手術を依頼しましょう!彼なら緊急手術を引き受けてくれるでしょう」

「頼む。早くしないと、出血大量で命の危険があるかも知れない」

「エリオット様。彼女の血液型は?」

「RH-(マイナス)Aだ」

「RHのマイナスA型?その血液型はあまり聞いたことはないですね」

「何なら、私の血を使ってくれ。実は私も彼女と同じなんだ」

「輸血ですか?」

「ああ。私もRH-Aだ」

「・・・そうするしかないですね。すぐに準備を整えます」

「エ・・エリオット・・」

「良かったな。すぐそばに同じ血がいて?私の血を使え。スカーレット、いいな?」

「す、すまないな・・」

「謝る必要はない。今まで持ちつ持たれつの関係だったろう?これからもそういう関係さ。とにかく君は傷を癒すことだけを考えろ。いいな?「月待ちの儀」についてはこちらでどうにかする」

 

 彼らが会話を交わしている間に、ガブリエルはその場でスカーレットにエリオット・レムの血を輸血する準備を整えていた。

 その間にアリシアが救急車を呼んで、エリオット・レムの従弟が院長を務める病院へ、ラファエルに電話をかけていた。

 彼女が事細かに確認をしている。

 

「ガブリエル様。後十分ほどでこちらの屋敷へ来るらしいです。それまでは輸血は続けろとのことです」

「わかりました。では、エリオット様。あなたの血液を彼女に輸血します。少しでも痛みを感じたら仰ってください。それから輸血後は充分に水分補給と休息を怠りなくしてください。もちろん性交渉は厳禁です」

「わかっている・・」

「では・・」

 

 ガブリエルが、そのままエリオット・レムの左腕に注射針を刺す。そして、そのまま血管へと刺し込んだ。さすが医師だけに一発で彼の血管へと注射したガブリエルは、そのままその血をスカーレットへ輸血する。

 エリオット・レムもその場に座り込み、静かに己の血を彼女に渡す。

 輸血している彼に代わり、ガブリエルがスカーレットの傷に応急処置を施す。しっかりとこれ以上出血しないように止血し、そして遠くの方向から救急車のサイレンが聴こえるのを皆で確認した。

 すぐにアリシアが、玄関に出て救急隊を屋敷へ入れる。

 そのサイレンに気付いたのだろう。アネットとジェニファーも駆け付けてきた。

 アネットは自分の夫が今はこの旧知の女性に輸血している様子を見つめている。ジェニファーは思わず父に寄り添う。

 

「お父さん」

「見ての通りだ。今、彼女に自分の血を輸血している・・」

「お父さんの血液型、あんまりないって聞いたよ?」

「ああ。この女性と同じだ。でも、かえって良かった。彼女の血液型はお父さんと一緒だ」

「酷い・・。どんな目に遭っちゃったの?」

「お父さんたちを守ろうと思って、こんな目に遭ってしまったらしい」

「優しいんだね。この人・・」

「ああ。だから・・この人は死なせたくないんだよ」

「しばらくの間は、夫婦の営みは出来ないな。アネット。すまない」

「いいのよ。今は・・その女性の命を繋いであげて?」

「ああ」

「では、行きますね。エリオットさんも彼女にそのまま同行をお願いします」

「はい」

 

 スカーレットが担架で運ばれると同時に、エリオットも彼女にそのまま輸血を続ける。そして、従弟・ラファエルの病院へと救急車は走っていった。

 けたたましいサイレンを鳴らし、救急車はラファエルの病院・・”セント・ジョーンズ総合病院”へと向かった。その病院へ到着すると既に病院内にあった輸血用のRH-A型の血液が用意をされている。彼の左腕から注射針がそっと抜かれる。そのまま彼は自分の傷口を止血する。

 スカーレットはそのまま緊急手術を受けた。彼は少しめまいを覚える。かなりの量を彼女に輸血したから、多分その影響だろう。すると近くのナースが彼にもベッドに横になるよう促した。

 少しずつ遠くなる意識の中・・彼の心には今は煮え滾るマグマのような感情が噴き出すのを感じる。

 

『あの・・女・・!私の友人を・・よくも・・!』

 

 だが、彼はそのまま瞳を閉じ・・そのまま横になり・・その意識を深い眠りへと落としていった・・。

 

 数時間後・・少し青味を帯びたまだ夜明け前の病室で彼は目覚める。

 ゆっくりと起き上がる。だが、やはりまだ眩暈を感じる。彼の左腕には点滴で水分を補給されている様子だった。自分の左腕に今は点滴用の注射針が刺されている。

 ふつふつとまるでマグマのような噴き出す怒りの感情が湧いて出てくる。

 旧知の友人をあんなになるまで傷つけたあの・・アレシア・レムが許せない・・。

 だが、あいつは悪霊だ。拳銃を持って発砲したところであいつが死ぬはずがない。いや、既に死んでいるから殺害は出来ない。

 なら、どうするか?

 その時、彼は思いだす。

 あの「月待ちの儀」が冥界の神への供犠のための儀式であるという言葉・・。彼の脳裏にしっかりと焼き付いている先祖からのメッセージ。

 つまり、冥界の神・・死者を管理する死の神へ生贄を用意すれば、その儀式で奴は冥界へ旅立つのではないのだろうか?

 彼は青味を帯びた月光が照らす病室で、考えていた・・。

 そして、唐突に涙が溢れた。そのまま頬を濡らす。

 自分の為に彼女は傷を負い、それでも自分達に”逃げろ”と忠告した彼女・・。

 何故、自分にこんな煩わしい血が流れているのだろうか・・?

 一体、何人の人間があの儀式の犠牲になったのだろうか・・?

 彼の心には・・余りの怒りと・・悲しみで、揺れていた。

 

「スカーレット・・!!こんな・・私の為に・・君は・・!本当にすまない・・。巻き込んだのは私だ・・」

 

 アレシア・レム・・!例え、私の先祖だとしても貴様のことはこの俺が成仏させてやる。

 冥界へ行き、死の神の制裁を大人しく受けるがいい。

 その為なら・・俺はこの「月待ちの儀」を行ってでもそうする。

 生贄なら・・丁度おあつらえの人間がいるからな・・。

 あのアリエルとアリシア。そして、このレムレースのストリートガール・・。彼女達を生贄に捧げればいいことだろう。

 

 その時・・残酷な月の狂気が・・彼に宿った。

 徐々に満月に満ち始める銀色の月。

 冥界の神への供儀・・「月待ちの儀」。彼は月光が指す静かな病室で静かな決意を固めた・・。

 逃げようと思っていた、時代遅れの”儀式”。だが、彼はその儀式へやはり参加する運命だったのを感じたのであった。

 大事な存在を守るために。

 そして、そもそもの元凶を滅ぼすために。

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