機動戦士ガンダム MSV エリオット・レムの記憶 作:翔田美琴
パーティ会場へたどり着くとそこには政財界の大物や政治家たちがタキシードやらを着こんで、賑やかなパーティの席に出席している姿があった。
目につく人物たちは皆一様に大物ぞろいだった。
中にはザビ家の者達まで参加している様子が見えた。
我ながら驚きの表情を浮かべていることだろう。
そして、その中には当然、あのすみれ未亡人やバートン3姉妹まで…と思ったが一人人数が足らない。
誰かはわかった。シオンだ。きっとあの子のことだから、姉であるスカーレットに先ほどはこっぴどく怒鳴られて部屋に閉じこもってしまっているのだろうか?
残る、スカーレットやレティス、そしてすみれはさながらホステスのように客の接待をしているに違いない。
そんな風に思いを巡らせているとだ。
こいつが、来るんだよ。
「何をボケっと突っ立っている?さっさと仕事をしたらどうだ?」
「ただし、お前だと大事なお客様に粗相することは目に見えているからな。せいぜいお前は汚れたグラスや皿を下げる仕事でもやっていろ。後はカクテルをお配りする仕事も、な」
つまりはボーイの役割を技術屋の俺にしろって訳だ。
まあ仕事だから別にいいがね。ボーイの仕事は俺の専門外だが。
ここに集まった今夜の客達に、今夜、ここで仕えるメイド達は生贄に捧げられることになっているという。
淫らな獣たちに乙女の花びらが蹂躙される夜が来るのだ。はっきり言って、胸糞悪い宴だ。
そこには彼女…エミリも含まれている。ナンバー『264』の女として……。
何だって寄りにもよって、性欲は枯渇してはいないが、精力は枯渇しているような男にあんないい女たちが弄ばれなければならないんだ?
その前に……。いつの間に俺はこんなにもモラリストになったのだろうか?
どうやら、抑圧された禁欲の中にいるとこうなる様子だな。
教訓、その1。抑圧された禁欲生活をしていると急進的なモラリストが出来上がる。以上。
そんな歪んだ思いが注意力を散漫にさせていたのだろう。
あろうことか、厄介な女に、俺は失態を演じてしまったのだった。
白ワインがトレイに乗ったカクテルグラスを持った俺とパーティ会場のドアを開けようと思った瞬間だった。
「きゃっ!!」
ある女性とぶつかってしまったのだ。
「何すんのよ!」
ぶつかった女はあろうことか、スカーレットだ。ちっ。よりにもよってこの女にぶつかるとはな。
「ドレスが汚れてしまったじゃない!どうしてくれるのよ?これ、高いドレスなのよ!」
ヒステリックな嬌声がパーティ会場へ響く。
あのな、お嬢様。仮にも社長令嬢なんだから、もう少し品よく注意ができないかな?
「早くハンカチで拭きなさいよ」
「できないっての?」
「……わかりました…」
しかし、白ワインをかけてしまった場所がまた運が悪い。何せ女性の股間をびっしょり濡らしてしまっているのだ。
これでは大衆の面前で痴漢行為みたいじゃないか。
だが、ヒステリックに騒ぐこの女を黙らせないと、ますます面倒なことになる。
俺は遠慮がちに、その部分に触れざるを得なかった。
「失礼いたします……」
「ちょっと、待ちなさいよ。あなた、その恰好で拭こうと思っている訳?もっと跪いて恭しくやりなさいよ?」
「……!」
そこまでやる義理なんてない。少し怒りが宿ってきた俺は、その言葉は無視して、注意深くドレスのワインを拭き取る。慎重に…。
そこで不意にこの女は俺の正体を知っているかの如く”ある名前”を言ってきた。
「あなた……あの金庫番、セントの息子でしょう?」
セント…だって?その名前に思わず俺は顔を向けてしまう。
奴は勝ち誇ったように、こう言い募る。
「やっぱり、あのセントの息子なんだ。私達に隠したって無駄よ?”エリオット・レム”だなんて偽名まで使って…」
それは違う。エリオット・レムは自分の本名だ。ただし、ファミリーネームのレムは母親の姓を使っているが。
彼女はそこでその”セントの息子”がいるということで態度を幾分か軟化させて、こう言った。
「後で私の部屋に来て頂戴?このドレスの染みを取って貰うから」
そう言って、カクテルグラスを片手に、まるで自分の細い腰と豊かな尻を強調するように腰を振り、パーティ会場へ消えていった…。
まるで、腰を振ってのエロダンスを見せつけるみたいな歩き方。
まあ、そんなことはどうでもいい。これで3姉妹に近づく口実が一つ出来た。
これが吉と出るか凶と出るかはともかく足掛かりは手に入れたかな。
そんな不愉快なパーティが続くこと一時間。
パーティ参加者たちは満足そうな顔を浮かべて三々五々己が今夜泊まる部屋へと下卑た笑いを浮かべて去っていく。
パーティの最中にはセクハラ行為に及んだ奴もいたらしい。
まさに、モラハラセクハラパーティだ。
あ~あ。疲れた。余程MS開発の方が仕事が楽だ。
そんな俺を見かけたすみれ未亡人が、とても綺麗なドレス姿で今日の働きをねぎらいに来てくれた。
「お疲れの様子ね」
「すみれ様…」
「こんな夜中まで働いてくれるなんて頑張り屋さんなのね?」
「一日でも早く、仕事を覚えたいと思いまして。もちろん、あなた様方、バートン家の皆さまの為にも」
「感心だこと」
「疲れている所で悪いのだけど、先程の約束、覚えているかしら?」
「は、はい」
「なら、そうね…」
すみれは外車一台分は買える豪華な腕時計を見て、さらりと呟いた。
「今から30分後に来て頂戴。いいわね。待っているわよ」
そう言って、やはりあっさりと背中を向け去って行った。
……何だか、急に人気が出てきたぞ。徐々にカードが揃い始めた…。
だけど、すみれは危険な女だ。せいぜい俺もその色気に狂わないように気をつけないとな。
さて…。
パーティも終わったことだし、あのスカーレットに下に向かうか。
そう思って、この妖艶なる塔を歩くと…見覚えがあるナンバーを付けたメイドがある部屋の前で立ち尽くしているのを発見してしまった。
あの子は…エミリだ…。
彼女は今にも泣きそうな顔で部屋の前で立ち尽くしてしまっている。
そんな時、タイミングよく俺に出会ってしまう彼女。
「エミリ?どうしたの?」
「あ、エリオット様!」
「おいおい。いきなり胸に飛び込んで…一体どうしたの…?」
「やっぱり、わたし…わたし…できません…!」
「魅力も欠片も感じない老人の相手は、嫌だと言うんだね…」
ここまで頼られてしまっているなら仕方ない。
「なら…ここは俺に任せて」
「え!?」
「エミリを指名したお客様の部屋番号は?」
「605号室です」
「605号室だね。とりあえず、まずはそこに向かってみよう…」
605号室は知っている。VIPルームで最大級の部屋だ。そこには大変有名な代議士が今晩の宿を取っている。
ザビ家ほどではないが、それなりにジオン公国では名前は知られた存在。
「大丈夫…でしょうか…?」
「しっ…。君は黙っていた方がいい…」
インターホンを鳴らした。すると、油ぎった欲に満ちた傲慢な男の声が聴こえたよ。
「おうおう!来たか!待ちかねておったぞ!中に入り給え」
「申し訳ありません…。私、エリオット・レムと申しますが」
「何だ、男か。何の用だ?」
「264番の女の子が体調を崩してしまいまして……。急に生理が来たということでとても御前には姿をお見せすることはできないと申しております」
「何だ、そんなことか。構わんぞ、儂は。どうせその女は今夜は儂に処女を捧げて血まみれになるのじゃ。何なら、その血を舐めてやってもいい」
「ですが、とても出血が激しくて、こんな姿ではあなた様の機嫌を損ねてしまうと言われてまして…」
「なら、代わりの女は用意させてあるだろうな?」
「はい。何名用意いたしましょうか?」
「3人だ」
「3人?」
「鈍い奴だな。気に入った女がダメになったんだ。なら代わりに3人の女を用意しろ。三輪車くらいはさせてもらわない元が取れないだろうが」
「わかりました」
これで、エミリの危機は去ったが、今度はメイド3人か。
ここは、アネットに相談かな。
その場を離れて、人があまりいない場所でアネットのスマホに連絡を入れた。
「何?エリオット?寝酒の誘いは断るわよ」
「いや。それじゃない。実は605号室のお客様に3名のメイドを寄こさないといけなくて、何とかなるかな?」
「605号室に3名のメイドね。ええ。すぐに手配できるわよ。任せて」
「すまない。感謝する」
「……で、その隣のエミリちゃんはどうするつもり?」
「は?」
「605号室でわかったわよ。あの代議士の先生、エミリちゃんをいたく気に入ってらしたから。一つ、注意しておくわよ。エミリちゃんはレティス様のお気に入りなの。変な真似して処女をいただくようなことはしないこと。いいわね」
「それをしたらどうなるんだ?」
「最悪、生命がないわね。最良でもクビは間違いなしよ」
「最良でそれかい?気を付けるよ」
そして、二、三確認した俺とアネットは電話を切った。
ふう。この場は何とか収集した…わけでもないか。次はこの子をどこかに…って場所は一つしかないが。
「エリオット様?」
「よし。これでエミリに危険な虫は寄ってこないな。とりあえず、俺の部屋に来るかい?しばらくは身を隠した方がいいし…」
「はい!」
そうして、しばらくの間、彼女はこの部屋に世話になるのだが、彼女は俺の部屋を見渡して感想を呟く。
「まだ、そんなには汚れていませんね」
「そうだね。パーティ会場へ飛んでいったからあのまま」
さて。どうやって寝るかだが。部屋はシングルだから、当然ベッドは一つ。だが、他にベッドの代わりになりそうなものは…ソファがあるな。
このサイズのソファなら、どうにか、腰をかがめれば眠れるかな。当然、ベッドは彼女に譲るとして。
「エミリ。今日は疲れただろう?そこのベッドで休んでいいから。俺はこっちのソファで寝るよ」
「でも、ここはエリオット様の部屋で」
「いや。でも女性がいるなら、ベッドは女性に譲るのが礼儀って奴だろう。このままでも俺は寝れるよ。何せデスクで腕枕して眠り込んでしまうくらいのこと俺は出来るんでね」
「でも…」
「これ以上、エミリが拒否すると、俺、床で寝ちゃうかも知れないぞ」
「え!?」
「とにかく、俺はこの後も仕事があるからね。君はもう休みなさい。働き過ぎは身体に悪いよ?いいね?」
そう言って、俺は改めて、スカーレットの部屋へと向かった…。