機動戦士ガンダム MSV エリオット・レムの記憶 作:翔田美琴
「エリオット・レム社長」
「何だ?」
「今夜は接待があるんでしたよね?」
「ああ。あまり気乗りはしないが、な」
ここは地球最大規模の軍需産業会社・ジオニック社。
あのジオン独立戦争で勝利を収めたことで、一気にこの会社の名前は認知された。
そして、そのジオン公国の勝利の立役者となったこの会社・ジオニック社は新しい社長が就任したことでも知られている。
元ジオン公国軍・技術中佐であり、そして史上初めてのモビルスーツ・ザクを生みだした高名な技術者、そしてそのモビルスーツの初のパイロットでもあったパイオニア的存在の人物。
そのあまり見ない銀色の短髪と端正な眉毛と口髭が特徴的な紳士でもある人物だ。
彼は今では大軍需産業の会社の社長となり、技術者から経営者へとその立場を変えた。
自らの秘書に愛妻・アネットを傍に置いた彼は、毎日のように接待やら会食やらに駆り出される役目を担うことになった。
だが、今回の接待は正直あまり気乗りはしない。
それは……今回の接待は場所が場所だった。それに明らかに今回の接待は恐らくは自らの身体を重ねる行為も含まれているからだ。
愛妻も今回の接待は秘書としても妻としても、あんまり参加はして欲しくないと思う。
それはエリオット・レムも同様だ。
何せ、お酒の相手の後は……もれなく夜伽役の女性がいるという話だから。
「わかるよ。アネット。君の言いたいことはわかる。私がそのセックスで心を奪われないか心配だと言うことが」
「だが、私はキスは交わさない。口づけを交わすと心まで私は許していることになることは知っている。だから、この接待が終わったら、すまないけど改めて相手を頼む」
「何だか、最近そういう接待が増えてきたわね。相手は多分あなたを狙っているのね。そうやって”快楽”を提供して”金”を貰おうという算段ね」
「ああ。前のジオニック社の社長もそうだったのかな……。私にはその辺の事情は知らない」
「今夜も…どうせただの”恋愛ごっこ”さ」
そうやって彼は社長室から見える景色を見てため息をついた。
今の彼の姿は濃紺の上下のスーツに朱色のネクタイ。ハンカチも朱色で、それには自らの名前も入っている。
真っ白なワイシャツ、あまりにも細い腰には黒いベルト。相変わらず表情はすましたあの技術士官の顔だ。
ただ憂鬱そうに輝かせて、あの綺麗な紫色の瞳が輝いていた。
時間が刻一刻と迫っている。今夜の6時にその夕食の接待があり、そして一夜をその夜伽と過ごす。
もちろん彼はその場で”快楽”の報酬として、その相手に支払うことになっている。一夜過ごした報酬として。例え望まぬセックスでも。
そして…夕方5時。
彼は、社長室から出てリムジンに乗りこんで、そして問題の場所へ向かっていった。
まさか、宇宙世紀になってまで、いわゆる”吉原遊郭”があるとは思ってなかった。
大昔の金持ちは自らの権力の証に”遊郭”で金を湯水のように使うのがそこでのルールだった。
もちろんいきなり花魁クラスの人間と遊べることはない。花魁はその遊郭に於ける高級娼婦。徹底して決まりを守らない客と寝たりとかしない。
金持ちもそう。花魁クラスの遊女と遊ぶにはまず自らの権力を見せてやらないといけない。湯水のように金を使い、ルールを守り、信用を得なければ、まともに相手もしてもらえない。
しかもその花魁と寝るには非常に手間暇が必要なことも。まずはお茶の相手、そこから将棋や碁などの遊戯、踊りの鑑賞、そうやって信用を得てやっと寝ることが出来る。
さらに他の女にほだされると裏切りと取られて、もう出入り禁止となってしまうのだ。
だが、宇宙世紀の現在ではそういうのはない。ただの”遊郭”であり、ある意味では”淫売宿”とも呼べるのだ。
リムジンに乗りその”吉原遊郭”に向かう彼は、また一つため息をついた。
リムジンが10分ほど走り、今夜の接待場所へ到着した。
入り口には彼を待っていた先方の客が一人の女性を連れて待っていた。
彼がリムジンから降りる。高級感漂う黒い革靴が見えた。濃紺のズボンも。
今は夜。彼の銀髪も妖しく輝いて、誘惑的な銀色に光っていた。
「こんばんは。エリオット・レム社長。ようこそお越しくださいました。今夜はわざわざ我が会社の接待にご参加いただいてありがとうございます」
「こちらこそ、今晩は楽しみに待っていたよ」
「そう仰っていただけると嬉しいです。では、どうぞ……」
接待役の男性社員が彼を”吉原遊郭”へと招いた。
彼はそして、その”吉原遊郭”へ脚を踏み入れた。
その中は、様々な日本らしい三味線だったり、琴だったりと音楽が聴こえてくる。風情があるいい音だった。割とこういう音は嫌いではない。
中の雰囲気は赤い壁が印象的な日本的な造りの建物。扉も障子の紙で出来た横に引くタイプの扉で、目にも鮮やかな装飾が綺麗だった。悪くない光景だ。
そうして案内されたのは、恐らくエリオット・レム社長クラスの人間でなければ使用が出来ない高級感漂う部屋だ。
きちんと高級な金色の装飾が入った華美な座布団が彼の為に用意されている。
彼がその座布団に腰を下ろすと、接待が始まる。
彼が座る目の前では日本舞踊が踊られ、優雅な三味線と琴の音に沿って踊る。
その間も彼は傍らの着物の女性から、酒を注がれて飲む。
先方の人物はとことん彼に奉仕するようにご機嫌を取ろうと必死な様子だ。
あからさまに自分に対して媚びを売るような接待だったが、彼は表情を楽しそうな顔にしてその接待を受けた。
彼の周りにはその遊郭に於ける、遊女たちが色目を自分に対して使っている。
だが……その中でたった一人、控えめに彼の相手をしている見た目はまだまだ十代のあどけない少女がそこにいた。
何故か…エリオット・レムはその子が気になって仕方ない。笑顔でいるが、何だか心底の笑顔ではなくどことなく憂鬱そうに彼の相手をしている。
そうして…表向きの夕食の時間が終わり、今夜の夜伽を決めるよう促されるエリオット・レム。
そこで彼はその気になる少女を今夜の自らの相手に選んだ。
そうして、その愛を交わす専用の部屋へ二人きりになった……。
彼女は彼と二人きりになっても、少し恐怖を抱いているのか怯えた目で彼にお酒を注いでいた。真っ赤な遊女独特の胸元が大きく開いた着物。腰帯も緩めに巻いている感じだった。
そんな彼女に、エリオットは優しく声をかけた。
「どうしたの?そんなに怖いかな?私が」
「い、いいえ…。そういう訳では……」
彼女がか細い声で答えてくれた。そして、彼に告白したのだ。
「じ、実は…初めてなんです……。こういう男性の方との…セックスは」
「本当?そうなんじゃないかって思っていたけど、まさかまだ処女なのかな?」
「は、はい…。だから…まさかこんな所で、あなた様のような方に抱かれるなんて思ってなくて…」
色々気になった彼は、何故こんな”淫売宿”のような”遊郭”にいるのか尋ねてみた。
「君…見た目からして十代に見えるけど、ここにはどんな理由で来たの?」
「母親が私を売ったんです。そうじゃないと家庭がやっていけないからって。私が厄介者だったんです」
「厄介者…?」
「母親は毎日のように私に暴力を振っていました。温かい夕食も食べたこともない…。その前に食べ物をかすめ取ることを覚えました…。そして男の相手が出来る年齢になった私はここに売られてきました…」
「そう言えば君の名前は?」
「紫苑…シオンです」
「シオン…か。確かに君の目は綺麗な紫色だ。まるで、私の目みたいに、ね」
「あ……」
シオンと呼ばれた子は改めてエリオット・レム社長の瞳を見る。彼も綺麗な紫水晶の目をしていた。場合によっては銀色にも光る独特の目だ。
彼はその出されるお酒を飲みながら、しばらく話を聞いてあげることにした。どうせ、今夜は一晩彼女と共にするのだ。あせらなくとも抱く時がくる。
「で、ここに来て日は浅いのかな?」
「まだ、来て一週間も経っていません。あなたが初めてのお客様です」
「なるほどね……。でも、初めてで私の相手というのも運がいいと思うよ」
「普通は来て一週間の新参者をあんな場所で働かせないはずだと思う。ここが人手不足とは到底思えないし、それなのに私の接待の席にいた」
「でも、まさか私を指名するなんて」
「思ってなかったのだろう?だけど……私はどうせ素肌を重ねるなら君がいいと思ったんだ」
「まだお互い時間はあるし、君の話を聞きたいな。聞かせてくれるかい?話したくないことなら話さなくていいから」
「私、いつも思うんです。何で生まれてきたのだろうって。お母さんは私に暴力ばかりを振って、お父さんは酒浸りになっているし、何でこんな世界で生まれてきたのかなって?」
「きっと望まれて生まれてきたわけじゃないのかな……私は思いました」
「……」
彼は黙って彼女の話を聞いている。少し、憂鬱そうに輝かせて、その目を。
「街でお金持ちの家が美味しそうにご飯を食べる光景を見ると、羨ましいなって思っていました。街でパンとかいろんな物を泥棒していたから。時折警察に捕まれば、その度、母親は私に暴力を振ったんです」
「温かいご飯なんて出なかったから。うちでは。羨ましかった。みんなは当然のように温かいディナーを食べているのに…我が家は冷たいパンばかり。カビまで生えていたことすらあった」
「挙句の果てにははした金で売られて、男性の相手をして一生を過ごしていくんだって思っています」
「その一生の商売の初めての客が、私ってわけか」
「君はそんな一生を本当に過ごしたい訳?一生、男の肌を味わって好きでもない男に抱かれる一生を送りたい訳……?私は出来るならそんな一生を送ってほしくない。こんな淫売宿で病気にでもなったらどうするんだい?」
「そんな一生、嫌です。でも仕方ないんです。それが、私の運命だから」
「なら、その運命を変えてみないか?私に抱かれて?これはチャンスなんだよ。君にとって」
「チャンス?」
「私を満足させてもらえるなら、代価としてジオニック社の社員として君を雇ってもいい。何が君に出来るかわからないけど、仕事はいろいろあるから」
「せっかくのチャンスをここで棒に振る?それとも……このチャンスをものにする?君次第だよ?答えが出せるのは?」
「私を満足させる人材なら、私は君を抱いてここから連れて帰って、温かいランチを食べさせてあげたい」
「どう?今君ができるチャンスの時だよ。怖いなら、私に任せてくれてもいい。きちんと基本から教える。性のことなら少しは教えられるし」
「あなたは……一体?」
「愛妻もちの子供が一人いる男だよ。きちんと妻には処女を捧げてもらった身だ」
彼は酒を飲むとゆっくりと布団へ身体を転がして、着ている濃紺のスーツの下のワイシャツのボタンを外し始めた。
「いつでも準備は出来ているから……私を満足させてくれ。こっちに手を出してごらん…?ほら」
彼は右手を差し出した。そして、指先で軽く手招きをする。唇がにこやかに微笑んでいる。
あまり期待していなかった今回の接待で、こういう事情の子に会えるとは思ってなかったから、それを何とかしてあげたらここに来た理由も行為も無駄にはならないと思った。
かりそめの恋人ごっこの夜でも…。
彼女が遠慮がちにその手を伸ばす。そして左手を置いた。彼はその繊細な左手を優しく握って自分に引っ張り寄せる。
初めて素肌を合わす子に彼は様々な教授を始めた…。
彼女が自分のスーツの胸に抱かれている。彼はそこでまず抱き締めてあげた。そして、自らが纏うこの濃紺のスーツを彼女の手で脱がせてもらえるように促す。
彼女の細い腰回りに己の腕を絡めた。
不意に彼は質問をした。
「こんな…親父にまさか抱かれるとは思ってなかっただろう…?最初の君のやることは私のこのスーツを脱がせて、私をその気にさせること。出来るかな…?やってごらん…」
自分を遠慮がちに触れる彼女の両方の手がまるでさまようように自分のスーツを一枚ずつ脱がしていった。
上に着ている濃紺のジャケットを脱がす。自分のワイシャツのボタンを一つずつ丁寧に外している。下の方まで外したら、そのワイシャツを広げた。彼の若々しい乳白色の肌に覆われた肢体が露わになる。
彼女が少し驚いている。ワイシャツの下には肌着を着ていないことに。ジャケットが床に落ちた。
彼は黙っている。彼女にまずは自分で出来ることまでやらせてみる。
彼女が今度は、腰に巻いてあるベルトを外してみせる。空気に揺れるようにワイシャツが畳の床に落ちた…。
彼は進んで床に敷かれた布団に横になる。仰向けに上半身裸で彼女の薄い紫色の瞳を見つめた。
赤い着物の彼女が、そのまま着物を乱れさせる。肩から下ろして彼女のふくらみが露わになる。綺麗な薄紅色の乳首が尖っている。
口づけを交わそうとした瞬間……彼はそこで止めた。
「キスはダメ…。心までは私はあげない。この先はわかる?」
「どうすればいいのかわからない…教えてください…」
「じゃあ…こっちに横になって…?私が、君を抱いた方が話は早そうだな…」
「う…ううん…この…感じは…」
彼が目の前の処女を抱き始めた。上半身裸の彼の舌が這うように身体をさまよう。まるで彼女の上で奇妙な踊りを披露するように彼の舌が処女の身体にまとわりつく。
首筋…鎖骨…二の腕…脇…乳房…あらゆる性感帯を彼は舌で刺激を与えた。その手は赤い着物をどんどん脱がしている。
すると、シオンはそこで下半身に刺激を感じた。まるで弱点を知っているみたいにその場所へ指を滑らかに操っている。
彼が確認するように指をまだ蕾のままにしている処女の花びらへ挿入した。
彼女が少し呻く。
「本当だ…。まだ蕾のままなんだね…。今夜はそれが花になって咲くんだ。私の目の前で…」
「エリオット…社長…っ」
「これが男の舌の感触だよ…。どうかな…?」
彼が薄紅色の乳首を思い切り吸いこんだ。
「ああん!こ、これは…!」
「もう一回、いくよ。今度はこっちだ…」
「ああっ…!すごい…っ」
「感度は良好だね…。合格だな…。日本の遊女は色気がいいね…。乱れた着物姿がとても扇情的に見える…。この緩んだ腰帯とか…この欲望を煽る赤い着物とか…」
「全部は取らないで、そのまま抱いてみるのも一興だな…」
少し彼は楽しんでしまっていた。目の前で今夜、もう一度自分が処女を奪う夜が来るとは思ってなかったからだ。
しばらく、その部屋は彼が己の舌と指で処女を責めている光景があった。
彼が微笑を浮かべて、彼女が下着を穿いたままの状態で、ゆっくりと蕾を愛撫し始める。
自分の右手の指に流れる温かい蜜。しっとりと彼女が濡らし始める。滑らかに指を絡めて、初めて感じる感触に苦悶する処女を見つめた。
「なんですか……?この感じ…?内側から何かがなだれこんでくるみたい…」
「感じているんだよ。君が。君も一度くらいなら自分で慰めたことがあるなら、それが答えだよ」
「”快感”ですか…。ああっ…あん…ううん…!」
「そうだね。そうとも言うね」
「でも、自分で慰めた時とはまた違う感じじゃないかな…?」
「気持ちいい……!こんな身体を売る、お金でやり取りするものなのに…」
「舐めていいかい…?」
「そ、そんなところを…」
「基本だからね」
彼は一言だけ言葉にすると、まだ蕾の場所を今度は舌を這わせ始める。着物を着させたまま、裾を開いて、その股の間の聖域へ己の舌を這わした。
まだ自分は下の濃紺のズボンを穿いたまま、だけど、密かな欲望がいきり立っているのを自覚した。
恋人ごっこの夜が激しさを増している。
彼女が喘いだ。初めて男の目の前で激しく喘いで、甘い吐息を吐いている。
その間も男の舌がまとわりつくように花びらの蜜を賞味している。彼も切なく喘ぐように甘い吐息を絡め始める。
やがて、男が自ら、濃紺のズボンを下ろして脱いで、下着だけになった。その下着が脱がれる。全部の肌を晒した。
畳の床の上に彼の衣服が乱れるように置かれている。
やがて、充分に濡らした蕾にそれを当て、その蕾を彼が艶やかな花にして咲かせた。鈍く貫く。
悲鳴を上げるシオン。
「ああーーっ!!」
「さすがに初めてでこれは痛いかな…。でも、充分にいい感触だよ」
汗が滲みだして、彼は優しく声をかけた。
「少し動くよ」
「あうっ!ううっ…!あうっ…!」
自然とシオンは彼の身体を…細い首に腕を絡めた。そして、不思議な銀髪に触れる。
恥ずかしそうに頬を染めるシオン。呻くように喘いで…彼を受け入れようと…自分も腰を密着させてきている。
可愛いな…。こんな少女のヴァージンを奪えたなんて……。
彼は最大限の褒美の言葉を口にした。
「君はいい子だ。気持ちいいよ……例え、金でやり取りするセックスでも、君を相手にして良かった…」
彼が激しく腰を揺らして、目の前の少女を絶頂へ導こうとしていた。
自分も、満足するために。例え愛のないセックスでも、今夜は身体を重ねて良かった。そう思えた。
彼がしっかりと綺麗な紫水晶の瞳で見つめて、彼女の記憶に自分を刻んでもらおうと、優しく、激しく、腰を揺らして、熱い瞳を向けた。
シオンも初めての男性を心に刻もうと自分を見つめている。その目を潤わせて。涙が微かに滲んでいる。
最後に彼は一言、謝罪の言葉を口にして……シオンの唇を奪った。
「すまない…アネット」
「んっ…!んんっ…」
彼が瞳を閉じて自分の唇に彼女の唇を重ね、貪り合うように口づけを交わし始めた。
シオンからすれば…まるで頭の芯から溶けてしまいそうな程…素敵な口づけだった…。
彼はそこで初めての少女の中で…果てた。
もう、夜は明け始めている……。
一通りの行為をした後…エリオット・レム社長は彼女を肩に抱き、そしてこう囁いた。
「合格だ…。君を買ってあげるよ。君の住み家はこれからあの月の都市かな」
「本当…ですか?」
「ああ。満足したよ。だから、一緒に帰ろう?そして、これから君はあの月の大地に住むんだ」
「私からは君のことは新入社員として入れることにするから。そこで、ジオニック社の社員として働いて、君なりの”答え”を探してみるといい」
そうして……夜伽として彼の相手をしたシオンを連れて帰ることを、取引先の会社に言うと、彼らは驚いた顔をしていた。
あのまま、エリオット・レム社長にはその夜伽の報酬として莫大な金を頂戴しようとしていたのに。そのままシオンには遊女として働いてもらおうと思っていたのに。
彼はもちろんその夜伽の礼金は払ったが、連れ帰るとは思ってなかった。
彼はすました顔でこう返答を返したのだという。
「悪いね。この子はいい才能を持っているから、わが社で働いてもらうことにするよ」
そう言って、リムジンにシオンを乗せ、彼は足早に”吉原遊郭”から去った…。
月面都市・グラナダに本社を置くジオニック社。
夫がそこに戻ってきた時、見かけない女の子を連れて戻ってきた。
彼は傍らの愛妻にこう声をかけて、彼女に寮に案内するよう手配を頼む。
「アネット。あの子なんだけど、新入社員だ。社員寮に案内してあげてくれ」
妻は直感でわかった。夫はその子と身体を重ねたのだと。
そんな愛妻が少し怒っている様子に見えたので、彼は黙ってただ…愛妻を見つめていた。
彼女は必要な手続きを手配した後……夫に平手打ちを一発した。
彼はただ黙って、その平手打ちを喰らって、社長室の椅子に座って、窓の外を眺めていた。
「恋人ごっこの夜に吐息を甘く絡めて……悲しいくらいに感じた…吉原、今日も雨……か」
江戸の町は今日も深く夜の帳かけてゆく
鏡を向いて紅を引いて 応じるまま 受け入れるまま
橙色の 輝いた花 憧れていた望んでいた
いつのまにか藍色の花
けれど私安くないわ
此方では ただ一人の女として咲いていたかったのだけど 運命は私の自由を奪い 歯車を回していくのでありんす
偽りだらけの恋愛 そして 私を抱くのね
悲しいくらいに感じた振りの 吉原 今日は雨
あなた様 どうか 私を買っていただけないでしょうか?
咲きだす傘の群れに 濡れる 私は……雨
行き交う群れ 賑わう声がひしめき合い もつれ合い
願うことは どうかいつか鳥籠の外に 連れ出して
この度は行くあてなどなくなりました
けれども 此方の 籠の中の景色は 私を癒して くれるので ありんす
偽りだらけの恋愛 そして私を 買うのね
私に咲いた花びら 濡れる 心に降るのは 雨
貴方様どうか一度限りの戯れを
望むシミの数が 鈍く 心に刺さる
憂いを帯びた花 望む果てるまで
恋人ごっこの夜に 吐息を 「アッ、あっ」と 鳴かせて 悲しいくらいに 感じたふりの 吉原今日も雨
偽りだらけの恋愛 そして私を 抱くのね
悲しいくらいに感じた振りの吉原今日は雨
貴方様どうか私を買っていただけないでしょうか
咲き出す傘の群れに 濡れる 私は雨
どうか わたしを……
THE END