IS×ライダー・鈴の音は歯車と共に 作:エタ
――――彼女を初めてみた時の事は、今でも一時間……いや、数分前の事のように思い出せる。
このIS学園にきて、肩身狭いながらも、隣のクラスのもう一人の男子・織斑一夏と必死に頑張って、漸く慣れてきたところだった。
転校生と、教室に入ってきたのは、小柄で長い髪をリボンでツインテールにした少女。
その彼女の目は、実に強かだった。同時に、自然と鍛えられた目は、その奥底にあるものを見定めた。
彼女は「凰鈴音」と名乗り、瞬く間にクラス代表を前クラス代表から奪い取った。……まぁ、前クラス代表だった俺が、譲ったからなんだが。
名乗った俺には、あまり関心を持つ事なく、凰鈴音は休み時間に成るや否や、すぐに織斑のいるクラスへと足を運んだ。
「頑固」「自信」「憤怒」「無関心」「喜び」「期待」「怯え」――「孤独」
この短い間だけでそれらを感じ取った俺は、凰鈴音は放っておけない存在となった。
そんな俺が、放課後。寮の男子という事で、織斑とは違い与えられた一人部屋の自室へ〝久々に〟帰ってきたところから、俺、リョウ・イガラシ……いや、五十嵐 亮は、出るつもりのなかったこの世界の表舞台へと足を踏み入れる事となる。
***
「――あら、アンタがルームメイトだったのね」
「……凰?」
自室に誰かいる――気配を感じ取った俺が警戒して中に入ると、思わず警戒を解き、目をぱちくりさせる。
そこにいたのは、今日転校してきたばかりの少女・凰鈴音がいたからだ。
なぜここに――とは、聞くまでもなく凰が答えを教えてくれる。どうやら一人部屋ということと、手間を省きたいということでルームメイトとされていたらしい。
「めんどくさいから鈴で良いわよ、五十嵐」
「いきなり愛称よびは気が進まないが……それなら俺も亮でお願いしたいな」
「そっ。なら、亮。 一夏の部屋ってどこか知ってる?」
そう聞く凰――鈴は、相変わらず「俺」を見ない。関心は全て織斑に持っていかれているようだ。
「……まあ、同じ男子だし、知っているが」
――気に入らない。
実のところ、俺は織斑の事をあまり好きではない。
イケメンだから、というわけじゃない。目が鋭いのが難点だが、顔の偏差値なら、俺も整っているから。
そうではなく、あの図々しさや、だれそれを守る豪語しておきながら、訓練に対してやる気のない態度。
まるで自分は特別だと思っているような姿勢に――そして、彼に想いを寄せる女の子達のアプローチに対する、無神経な返しに腹が立つ。
俺も全てが上手くいっているわけじゃないし、そういうことに関して悟いわけじゃないが、流石にあれはみていて辛い。
「じゃあその部屋を教えて。あぁ、部屋の事は安心しなさい。アンタの既に出来上がったプライベートルームに割り込んだりしないから」
鈴もその被害者になるのか――いや、既に噂として彼女も一組にいる篠ノ之と同じく、織斑の幼なじみと聞く。既に被害者ということか……やっぱり気に入らないな。
「どういうことだ?」
「簡単な話、一夏と同居しているルームメイトに、変わって貰おうと思ってるのよ。あたしの方がアイツの事よく分かってるしね」
「……そうか」
ちょっと残念そうにしていると、鈴は変なやつを見るような目で「俺」をようやくみる。
「変なやつ。女学園で数少ない男なんだし、一人部屋の方がいいはずでしょ?」
「そうでもない。娯楽ものとかは持ち込んでないからつまらないんだ。それに、独りは嫌いでね。ルームメイトの。しかも転校生ときたら、これを機に仲良くなりたいと思ったんだ」
「ふぅーん……」
常に気を張っていた目の力が抜け、柔らかくなっていく。独りが嫌いと本音を一つもらしたおかげか、少し関心を得れたようだ。
「……あんたの言うことはわかったわ。でも悪いわね」
それでも、彼女は止まらない。
それを悟った俺は、ため息混じりに織斑のいる部屋番号を教える。
それを聞くと、「それじゃあまた」と言って、そそくさと出ていってしまった。
「……なんか、嫌な予感がする」
去っていく鈴の背中を見ていると、なんとなくそれを察知した。
けれど、それがなにか分からないし、なによりだからと言ってそれをばか正直に彼女に告げるのはさっき手に入れたなけなしの信用を失うだけだ。
「といっても、放っておけないし、なにかあれば、その時対応しよう」
そう呟く俺は、シャワーでひと浴びするや否や、懐からバックル取り出して腰にベルトとして装着しながら、三階の窓から跳びだし――
「――変身」
【ローディング!】
***
夜。
役目を終え、帰ってきた俺は、誰にも見つからないように三階から跳び、開けたままの窓から部屋に入る。
相変わらず誰もいない部屋に、少し寂しさを覚える。
こうしていると、昔の事を思い出してしまいそうになる。だから、嫌いなのだ。
「こんな時、ティアでもいれば」
野暮用で隣にいない相棒が恋しいと弱音を吐きながら、今度は扉から部屋をとびだす。買い忘れたコーラを買いに、自販機へ。
辿り着いた俺は、思わず立ち止まる。
「……鈴?」
そこには、泣きじゃくる鈴の姿があったから。
***
――あたし、凰鈴音はなんとなく想像はしていた。
最初の男性IS起動者・織斑一夏。
あたしの、最高にして最愛の幼なじみ。
あたしは、中学の時、日本にいた。けど、離婚した両親の母方の方へ……中国へ引っ越す事になった。
嫌だった。慣れ親しんだ日本から離れるのが。友達と離れるのが。なにより――一夏と離れるのが、嫌だった。
でも、子供のあたしがわがまま言ったところで無力だ。けどなにもしないのは、嫌だった。
だからあたしは、一夏に告白した。
『一生酢豚を作ってあげる』
これがあたしなりの、精一杯の告白だったのだ。
でも、伝えたかった意味は伝わってないのが、はっきり分かった。
それでも、いつか気付いてくれると信じて、中国へ飛び立った。
――そのあと、あたしが感じたのは、孤独だった。
母以外に気軽に話せる人がいなくて、我ながらキツイ性格しているあたしは、あっという間に孤立した。
それを紛らわしたくて、泣きたくなるのを隠したくて、ISで暴れまわっていたら、気付けば代表候補生になっていた。
そんなものに興味はない。ただ友達が欲しかった。
このまま一生孤独で生きていくのだろうか、と思っていた矢先、テレビをみて驚いた。
一夏がISを動かしたのだ。
懐かしく、それでいて記憶のものより大きく成長した彼。
どうしても、会いたくなった。だから、母を説得して一人で日本に行き、一夏が通うこととなったIS学園にやってきた。
久しぶりに会った彼は、あたしの事を覚えていた。相変わらず女を虜にする彼の周りにいた女二人が少しうっとおしかった。
嬉しかった。千冬さんに叩かれても、その懐かしさに涙しそうになった。それを表に出す事はなかったが。
だから、一緒にいたくて、一夏の部屋に飛び込めば、ファースト幼なじみとかいう篠ノ之箒が邪魔をしてきた。
まぁ、そこは仕方ない。思わずいろんな人に強気で言ってしまったが、本当に無理なら部屋を変わらなくても良い。
それよりもなによりも、あたしは聞きたかった事があった。
あの時交わした約束。
覚えているのかを聞いてみれば、ちゃんと覚えていると言った。
だから胸を高鳴らせた。期待、してしまった。
忘れていたのだ。彼が鈍感だってこと。
ただの鈍感などではなく、どんなアプローチにも気付かない女の敵だってことを。
百歩譲って、覚えてないなら仕方ない。
だが正しい意味を理解できていないどころか、奢ってもらえるとかどういうことだ。
分かっていたつもりだったけど、聞いた瞬間、頭が真っ白になって……気付いたら、あたしは自販機横のソファーに座っていた。
……酷いことをした気がする。でも仕方ない。一夏はあたしの恋心を弄んだのだ。それも無意識なのだからたちが悪い。
「…………っぅ」
だというのに、目の前が潤んで見えなくなる。
分かっていたというのに、一夏への想いを胸に頑張ってきたあたしは名にもかも否定されたように錯覚している。
……あたしは独りなのだと、強く意識してしまう。
あぁ、駄目だ。このままだとあたしは壊れてしまう……でも、その方が良いのかもしれない。
ずっとこのままならいっそ――
「…………鈴?」
その時、一夏のものではない、男があたしを呼び、聞こえた方向を向く。
そこには、あたしのルームメイトとなっているもう一人の男性IS起動者で、どこかあたしと似ている目をしている五十嵐 亮だった。
***
こいつ――亮は自販機から二つほどジュースを買い、一つあたしに寄越してくる。
「……いらない。それよりもどっか行ってくれる?邪魔だから」
鼻声ながら、あたしはいつも通りの鈴を演じるように強く当たってしまう。
でも本心ではあった。こんなところ見られたくなかったから。
「悪いが、今にも壊れそうな女の子をそのままにしておくほど、俺は薄情じゃない。……あらかた想像はついてるが、愚痴は聞いてやれるぞ」
「いら、ない」
「そんな強気の仮面つけて、しゃっくり上げながら言われてもね」
「いらない、って、言ってる、でしょ…………!」
頑ななあたしに呆れたのか、亮は深くため息を吐く。
それでいい。――また嫌われた――胸の痛みは気のせい。――また独りだ――そう、あたしは一人で――誰か、助け――
「――悪い」
「………え、っ?」
知らない、久しぶり感じる誰かの温もりが、あたしの体を包む。
亮があたしを抱き締めていたのだ。
「……離、して。今日会った、ばっかの人に、こんなことされたく、ない。セクハラだって、叫ぶわよ……」
――温かい――
「離し、てって」
――落ち着く――
「は、な……っぅう………!」
仮面は壊れ、涙腺は崩壊する。
泣き声を上げたくなくて、涙を見せたくなくて、そのままその胸に顔を押し付ける。
肩を震わせて泣くあたしを、亮はただ黙って優しく抱きしめ、頭を撫でてくれていた。
――ここで、鈴の運命は別たれる。
決まった道から外れ、ひび割れた鈴と壊れかけの歯車は、本当の意味でようやく出会った。
この先、鈴がキャラ崩壊が激しくなる可能性ありです。ご了承ください。