IS×ライダー・鈴の音は歯車と共に 作:エタ
しばらくして、落ち着いたあたしは、亮に連れられてあたしたちの寮部屋へたどり着き、手前のベッドに座るとボソボソと、素のままさっきまでの事を亮に暴露した。
愚痴であり、暴言や不快になるような事を口走っても、亮は顔色一つ変えず、頭を撫でながら聞いてくれた。
「……ありがと。アンタがいなかったら、あたしもうどうにかなってた」
「これくらいルームメイトの為ならどうってことない。こっちこそ悪かったな、他人に触れられるのは嫌だったろう」
「そんなこと!……ない」
でもどうしてあんな事を。
そんな疑問が伝わったのか苦笑しながら「俺もさ」と語りだす。
「お前みたいに自暴自棄になった事があって、姉みたいに慕ってた人にああやって慰めてもらってたんだ。男ながら情けないと思いながら、落ち着いたし、大人しく抱きしめられてた。まさか俺がやる日が来るとは思わなかったけど」
そう言いながら、亮の目が虚ろになりつつある事に気づいて、あたしは咄嗟に手を握る。
孤独を思い出す時、温もりがないとドンドン意識が沈んでいくのを、あたしは嫌というほど知ってる。だから、さっきのお返しだ。
すると亮の目が力を取り戻し、「ありがとう」と笑いかけてくる。
「――それよりも織斑のことだ」
だがそれも崩れ、すぐに苛立たしい表情に変わる。
「鈍いというより無関心だとは思っていたが、まさかそこまでなんてな。同じ男だなんて思いたくない。本当ならぶん殴りたい気分だが……それは、鈴がやるべきだわな」
こくりと頷く。
思い続けるにしろ、諦めるにしろ、まずはあの馬鹿を殴らなければ気がすまない。
「なら、織斑に関してはノータッチでいく。が、流石にここまできたら放っておけない。だから、そうだな。鈴の相談相手になるよ」
「あたし、の?」
「そっ。愚痴を聞いたり、悩みがあったら一緒に解決法を探したりな」
その目は、真剣で頑固だった。
それを止めることは出来ない。そう確信させる男の力強い目。
「……あたし、すっごい口汚いよ?」
「それはさっきので分かってる」
「めんどくさいよ?」
「そういうのは慣れてる。むしろお前のまだ可愛い方だよ」
その時の亮の顔は、歴戦の勇士のように達観としていて……。
「苦労、したのね……」
「うん……」
気付いたら逆に慰める羽目になっていて、思わず笑ってしまう。……胸の痛みはとうに消えている。
こうしてあたしは、亮という友人を手に入れたのだ。
***
あれからというものの、あたしは一夏となにかある毎に亮へと愚痴をもらしていた。
最初の頃は遠慮とか色々あって、離れながら愚痴っていたけど、亮の話していると時々ふざけたりして笑わせてくれたりその時の嫌な気持ちを忘れさせてくれて、自然と距離が短くなっていった。
時々夜になっても帰ってこない時があったが、一夏の姉であり、一組の担任にして寮の顧問の織斑千冬に報告する事はしなかった。
ただ、その時誰もいない寮部屋が寒く感じて、あの時の亮の気持ちが分かったりした。
その時の寂しさが身に染みて、気付いたら愚痴る時だけは亮の膝に乗っているのが今の当たり前になっている。
そうしているうちに、クラスでも一緒にいる時が多くなって、気が付けば何週間も経ち、亮はあたしのかけがえのない人になっていた――。
クラス代表が集まり、ISで戦うクラス対抗戦が前日に迫ったその日。
「ただいま……亮ぉ!」
いつも通り、一夏と顔を合わせずに部屋に帰ってきたあたしは、仮面を外し、既に帰ってきていた亮に向かってダイブする。
「おかえり、鈴」
優しく抱き止めてくれた亮も、笑って迎えてくれる。
だけど、その目に浮かんでいる感情に、あたしは気付かなかった。
***
「――そうしたらね、あいつったらまーたデレデレしちゃって」
「もう様式美だな……」
「そうねぇ、あたしも何回も同じような事言った覚えがあるわ」
いつも通りあたしは、亮の温もりに包まれて、いつもと同じような愚痴をもらす。
「でも、明日はクラス対抗戦。そこで思う存分鬱憤を晴らさせてもらうわ」
その仮面をかぶるときみたいに、あたしは強気な笑みを浮かべる。
ここまではいつも通り。けど、今日は違った。
「…………亮?」
いつもなら、楽しみにしてるとか、頑張れとか、ボコボコにしてやれとか、何かしら反応してたのに、何の反応もない。
どうしたのだろう?不安を覚えたあたしはそのまま向き合ってその顔を見上げる。
その顔には、躊躇いと辛さが浮かんでいて……。
「……ごめん、鈴。俺、今からきっとお前を悩ませる」
「えっ?」
疑問が浮かぶのもつかの間、あたしは亮に強く抱きしめられていた。
「り、亮っ?」
亮らしくない。
あたしはその事に狼狽えながら、なにか言葉をかけようとして、
「――好きだ」
「――――――えっ?」
時が、止まった。
頭の中が真っ白に染まる。
「鈴は織斑が好きなのを知っているし、そもそも俺の環境は受け入れられるものじゃない。知ったら鈴だって軽蔑するって分かってるのに」
後半部分は、どういうことか理解できない。でもなんとなく非常識なことなのは理解できる。
ただそれよりも、亮があたしの事を好きだと言ったのが、信じられなくて……。
「でも、好きになっちまった。強いようで弱くて、弱いようで強いお前を、守りたいって思った」
でも、その言葉には熱がこもっている事が分かる。そしてその言葉がじんわりとあたしの胸に溶け込むようにして伝わっていく。
「……妹のように、思われてると思った」
きっとあたしの顔は、真っ赤に染まっているだろう。それほどまでに、亮の事を意識していた。
ただふと、脳裏に一夏が浮かんで、あたしを苦しめる。
「……最初は俺もそう思おうとした。いや、実際思ってた。けど、ふとした時お前を女だと思う時があったんだよ。それを忘れようとした時に、〝これ〟だ」
そう亮が指すのは、あたしが自ら飛び込んで亮に捕まっているこの状態。
寂しくて、兄のように思ってた人に甘えようとした結果。これが、トドメだったらしい。
「こんな風に甘えてくれるのが嬉しかった。弱さを見せてくれるのが嬉しかった。
……それが明日、終わりを迎えるんじゃないと思ったら怖くなった。
織斑と仲直りして、俺が必要なくなったらと思うと辛かった。
―なにより、俺の立場が織斑に取られるときが来たら耐えられない」
それは紛れもない嫉妬。それが嬉しくもあり、苦しくもあった。
「……亮の気持ちは、凄く、凄く凄く嬉しい、嬉しいの。でも、あたしは一夏が好きで、だからこの学園に入ってきたの…………」
そうは言うが、自分の気持ちが揺れている事に気付くのに、さほど時間が必要ない。
亮の存在が自分の中でさらに大きくなるのが、分かってしまう。
だが、今のままではまるで、一夏では駄目だったから迫ってきた男にした、という消去法のように見えてしまう。
かと言って一夏への想いは、今のところ怒りによって塗り潰されているから、正直、自分でも気持ちが分からないのだ。
そんな、亮をキープしているような自分に嫌気が差す。
「あぁ、知ってる。……だから――」
「ぁ……」
不意に、亮の顔が近づき始める。
まさか――何をしようとしているのか分かっているのに、上手く動けない。あたしを包み込む亮の体に力は殆ど入っていないのに、なぜか動かない。
「……駄目………だめ……………」
自分でも驚くほど弱々しい声を上げながら、近付く亮に抵抗できず。
「んぅ―――」
お互いの濡れた唇が、重なった。
ファーストキスだったのに――と思う自分もいれば、歓喜してる自分も確かにいた。
固いような、柔らかいようなものが、あたしの唇を包み込み、押し込んでくる。
「んっ、ちゅ――りょ、待っ――ちゅぅ――ふぁ、んんっ……ちゅっ」
リップ音が部屋中に鳴り響く。
時に弱く。時に強く。亮に唇を吸われ、瞬間ゾクゾクッ!と身体に快楽が駆け巡る。
――もっと。
頭の中が蕩けてしまったあたしは自然と亮とのキスを求めようとして……。
「んふぅ――!?」
亮の舌が、唇を割って入ってきた瞬間、我に返る。
唇を離し、銀の糸が途切れるのも気にすることなく、亮を強引に押し退け――
パン―――ッ!
「待ってって言ったでしょ!強引にするなんて最低ッ!」
平手打ちするあたしは、怒鳴りながら亮の顔色をみる。
その顔は、見たことがないほど泣きそうで、みているだけで胸が苦しくなる。
「……ごめん。でも、少し、考えさせて」
思わず素直に謝ってしまうが、引くに引けないあたしはそう言いながらベッドに潜り込み、目を閉じる。
「――これで、良い。これで、良いんだ―――」
そんな、小さな亮の呟きがうっすらと聞こえたのを最後に、鈴の意識は途絶えた。
軽く、ほんとうにかるーく前戯書いてみましたが、いかがだったでしょうか?
たまにあるんだけど、前戯ってさ、女性視点で書いた方がエロいんじゃねーかって思う事があって。
だから書いてみたのがこれ。