IS×ライダー・鈴の音は歯車と共に 作:エタ
目を覚ます。咄嗟に横のベッドをみるが、そこに亮の姿はない。
(いつもなら朝食と登校を一緒にしていたのに……)
確かに昨日の事は、勿論亮が一番悪い。だがそれでも拒めなかったアタシも悪いし、なにより亮に避けられたという事実がアタシの胸を酷く締め付ける。
(……今は――今はこれを、閉じ込めておかないと。今日は、クラス対抗戦、なんだから)
泣いて塞ぎこみたい自分を、仮面で隠す。
そうして一夏の強気な幼なじみ・鳳鈴音を表に出す。
「――さっ!今日こそ一夏にギャフンと言わせて、謝らせてやるんだから!」
自分を奮い起たせるように言って、部屋から出た。
だがそれも、すぐに崩れ落ちる事となる。
***
クラス対抗戦が、始まる前。
俺は観客席に向かうことなく、ぼんやりと、アリーナの中を歩き回っていた。
今日一日中、こうだったような気がする。教師には怒らせてしまったようだが、今だけは許してほしい。
「好きな人にフラれるように仕向けるのは、思ったより、きっついなぁ……」
誰もいない廊下で足を動かしながら、独り言は酷く震える。
――俺が本来いるべき場所は、鈴にとって……いや、殆どの人にとって敬遠するべきものだ。
もし、鈴が俺を受け入れてくれるとしたとしても、そしたら鈴は必然的に巻き込んでしまう事になるのは間違いない。
確実に普通の生き方が出来なくなる。だったら、鈴を幸せにするには、こうする他なかったのだ。
同業者達も、中には全てを断ち切った者もいる。俺のような存在は、そうなる運命なのだろう。
『――――!!』
『――――――!!』
「…………なんだ?」
二人分の怒鳴り声が聞こえる。気になった俺はそこへ――Aピットへ赴き、圧縮した空気が抜けるような音と共に扉が開く。
そこには、マズい、と言った真っ青な顔をする織斑一夏と、取り巻きと化している篠ノ之箒とセシリア・オルコット。
そして、キレているような仮面を着けているが、それは壊れかけで、今にも泣きそうな素が見え隠れする鈴がいて……。
ブチッ
――気が付けば俺は鈴の前に立ち、織斑を全力です殴ろうとしていた。
***
アタシは、もう一度チャンスを与える為に、という名目で、時間を作って一夏のいるAピットに来ていた。
「ねぇ、一夏。もう一度だけ、謝るチャンスをあげる。そしたら、少しは手心を加えてあげてもいいわよ?」
そういうアタシの頭の中は、亮の事でいっぱいだ。でも、それでもアタシは一夏が好きなのだと、それをかき消そうとする。
――本当に?
「はぁ?なんで俺が謝らなきゃいけないんだ?約束は覚えていただろうが」
その言い訳するような、自分を疑わない態度にイラッと来る。
(亮ならそんなことしない。亮ならきっと……)
――亮ならって、なに?
「意味が違うって言ってるのよ!あんたどんだけ発想力ないの!?」
「そこまで言うならその意味を教えろってんだ!説明してくれてそれで俺が悪いなら謝るっつーの!」
「そ、それは……」
それは、出来ない。だって今は亮が……亮が?
――もうとっくに気付いているんでしょ?
さっきから、アタシの中で呟くような声がする。
いや、声ではない。きっとこれは、アタシの本心。
でも、良いの?何年も想い続けてきたものを捨てて、いま心に燻るものに飛び込んで……それじゃあまるで、すぐに乗り換える軽い女じゃない。
「き、聞きたかったら、もう少ししたら始まる対抗戦でアタシに勝ってみなさい!そうすれば話してやるわよ。その代わり、アタシが勝ったら言うことを一つ聞きなさい。良いわね!」
「あぁ、良いぜ。あれこれ言ってるよりずっと分かりやすい」
――それも、もう分かってるはず。
……アタシ自身の、一夏に対する想いが薄れているということは、分かっている。
こういう態度を取るのは、一夏にとっての〝鈴〟を、演じる仮面をつけているから。
「言ったわね?もう取り消しなんて出来ないわよ?今のうちに謝る練習でもしておいたら?」
「なんでだよこの馬鹿」
「なっ――」
あぁ、確かにアタシは馬鹿だ。
もうとっくにアタシの心は決まっている。だけど、どうしてもその人を想うたびに、一瞬、一夏がちらつくのだ。本当に良いのかっと。
そんな優柔不断なアタシに、亮は釣り合わない。もっと良い人がいるに決まってる。
「ば、馬鹿とはなによ馬鹿とは!馬鹿はアンタでしょ!アホ!間抜け!朴念仁!」
だとしても、それをバカ一夏にだけは言われたくなくて、亮を散々困らせたであろう口の悪いアタシは喚き散らす。
だが、
「うるさい貧乳!」
「――――――……」
それも、アタシのコンプレックスを刺激されて黙り込んでしまう。
一夏はヤバいって顔をするし、『アタシ』もブチキレた表情へと変える。
――だけど本心は、泣きじゃくりたい自分を抑えるのに必死だった。
(そう。アタシは貧乳。しかも小柄で、亮を満足させられる部分なんて一つもない。性格だって最悪なアタシじゃ、亮を不幸にするだけ)
好きと言ってくれた。抱きしめてくれた昨日を思い出す。
その温もりは、アタシが一番欲しかったもので……今、アタシの傍にないのが、辛くて。
それがどこかの誰かに取られると思うと、寒気がする。
目尻に涙が溢れそうになって、咄嗟に俯く。
――仮面にヒビが入る。
(嫌だ……もういや、もう独りはいやなの……っ!助けて、傍にいてよ……)
――亮っ………!――
「鈴ッ!」
「えっ………?」
まるでアタシの心の声が届いたかのように、求めていた声がいなかったはずのアタシの前から聞こえる。
顔を上げれば、心配そうな顔でアタシを見ていて……。
目尻に溜まったものをみた瞬間途端、彼の表情が強張り、殺意すらこもったような目で一夏を殴ろうとする。
「亮、駄目……っ!」
流石にそれは駄目だと、アタシはその背中を抱き締めて止める。
――暖かい、アタシの求めた温もり。アタシの大好きな、亮の背中。
アタシの声が届いたのか、拳は寸止めに留まる。
殴られる、という恐怖からか、それとも亮とアタシの仲の良さに驚いたのか、目を開いてアタシ達をみている。
けどそんな事、今のアタシにはどうでもいい。
「……覚悟しておきなさい、一夏。もう謝ったって手加減してあげない。――全力で、アンタを叩き潰すから」
そう言い切ったアタシは、亮の手を引っ張ってアタシの待機地であるBピットへと走っていく。
(あーあ、捕まえられちゃった)
もう、アタシの脳裏に、〝初恋の相手の一夏〟がちらつくことはなかった。
***
「…………」
「…………」
Bピットのベンチに座ったアタシと亮は、ただ沈黙する。
自分の事はしっかりと自覚した。でも、いやだからこそ、昨日の事を思い出して、アタシ達は気まずくて黙り込んでしまう。
そんな中、アタシはチラッと亮の顔を盗み見る。その表情は、複雑そうだ。
昨日、アタシが眠る寸前に聞こえた呟きと関係があるのだろう。……けど、アタシが一番気になったのはそこじゃなかった。
(そういえばアタシ、亮とキス、しちゃったのよね……)
視線が引き寄せられるのは、亮の唇。
そしてこっそり自分の唇に触れて、昨日の事を思い出す。……今思い出すんじゃなかった。
膝を擦り寄せるようにモジモジしながら、アタシの顔が赤くなっているのに気付く。
深呼吸して心と身体を落ち着かせる。
……考えはまとまった。よ、よし。
「あ、アタシね?」
口を開くと、亮の身体がピクリと反応する。
不安なのだろうか、震える息がもれているのを聞き取る。
「昨日の事は、も、もう怒ってないの」
安心させるように亮の膝に手を置いて言うと、亮は驚いた表情でアタシの顔をみる。なんだか凄く恥ずかしい。
「だって、ああ言ったけど、嬉しかったから。き、気持ちよかったから。ただ、ちょっと驚いただけで……」
「でも……」
亮が懸念しているのは、きっと一夏の事もあるだろうけど、大半は亮が時折もらしていたナニカ。
それは危険な事で、そして普通やってはいけない事。
粗方でも、聞いていればなんとなく内容に察しがつく。代表候補生として、〝戦い〟の話は聞いていたから、尚更だ。
「それで、ね?昨日、亮と一緒にいない間考えたの」
――でも、アタシは目の前の狼さんに捕まっちゃったから。
「あのときの返事。でね、その返事、一夏との試合が終わった後に、二人きりでしたいの」
一夏なら気付かないであろう、この言葉。
でも、そこまで鈍くない亮はより一層驚いた顔をする。
「――アタシは勝ちにいく。一夏をコテンパンに殴る。それは変わらない。でも、万が一の事もある、から」
どれだけ素人染みていても、どれだけ鍛練を積んでいなくても、一夏はまるで主人公のように、都合よくいつも立ち回れていた。
だから、もしかすることもあるかもしれない。
「だから、勝てるようにアタシにおまじない、ちょーだい?」
なんて、単なる言い訳を並べながらアタシは亮を抱きしめ、顔を少し上げる。
「……良いのか?」
「うん」
躊躇いなく頷くと、少し躊躇うように、数秒。
「後悔するぞ?」
「それでも、アタシは〝ここ〟にいたい」
「――馬鹿野郎」
「知ってる」
その言葉を区切りに、亮の左手は自然にアタシの右手を掴み、余裕なさげに指を絡ませる。
「……絶対普通に終わらないから、ちょっと細工するか」
と、その時なぜか亮がここで指パッチンをする。きっと亮の隠し事に関係があるのだろうと思いながら、今は気にすることなくどちらからともなく、二人は顔を近付け――
「んぅ……んふぅ………」
そのままキスを交わした。
柔らかな感触が触れ合い、時折押し付けあって、音が鳴る。
ただそれだけの行為なのに、どうしてか気持ちいい。
だけど、ここで終わりじゃない。アタシは緊張気味に次の行動に――昨日出来なかった行為に移る。
(今度は、アタシから……)
「んむぅ……」
「んん!?」
こっちから舌を割り込ませると、亮は驚いて目を見開く。
それが面白くて愛しくてアタシは目を細めながら、亮の舌と絡み合わせる。
ゾクゾクッ――!
生々しい音と共に、身体中に甘い刺激が迸り、身体が震える。
「んむぅ、れろぉ……ふぅん……ちゅぅ、はぁふ……むぁふぅ………」
すると亮の舌も次第に動き始め、互いに唾液を交換し合い、舌は口の中に自らをマーキングする。
この時亮の目は血走っていて、今にもアタシを押し倒してしまいそうなほど。そんな亮がちょっと怖くもあり、また自分を求めてくれているのだと思って嬉しくもある。
「――んっ」
アタシ達の身体が妙に汗ばむ中、ついに亮の手がアタシの身体を這い始める。このあとの事もあるからか、下手な場所は触らず、太ももや背中を触ってくるだけ。それもまたアタシを高ぶらせて、不意に目線を下へと移す。
(ぁ……)
そこで、不自然に一部だけ膨れ上がっている亮が履くズボンが目に入る。
(ズボンの上からでも分かるくらいおっきい……アタシで興奮してくれてるんだ……)
コンプレックスしかない自分が好きだというのが、偽りがないのが一つ分かって、胸の奥から暖かいものが沸き上がってくる。
(やっぱりアタシ……)
興味と興奮が重なって、こちらも空いた手を伸ばす。
ただ力強くやるのは駄目だとしか分かっていないアタシは恐る恐るズボンの膨れ上がった部分に指で撫でるようになぞる。
「!?」
ビクンッ、そこが震え、ちょっと驚く。
そしてすぐに気持ちいいのだと分かると、同じ事を何度も繰り返してみる。
「――んぅ……!?んん、ちゅっ、りょ――れろ、んぱっ、ふぁ、はげ――んんんんんんんっ!?」
――途端、キスが激しくなり、主導権は完全に亮に握られる。
アタシの口内はなす術なく貪られ、唇で舌を加えられ、勢いよく吸われる。
強い刺激がアタシの身体を蹂躙し、軽く跳ね上がる。身体に力が入らなくなり、崩れ落ちそうになるのを亮が抱き留める。
(駄目、だめ、だめだめだめだめ!イく、キスでイく!!)
「ん――ゥゥゥゥゥウンンンンンッッッッ――――!!」
加減のないキスに、身体を大きく震わせ、下着の大部分がビショビショに濡れていった。
舌の動きを止め、そのまま大きな波が収まるのを待つと、亮から離れていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……はっ、ん……りょ、の、ばか…………」
「ごめん。でもこのままこっちがやられると処理も大変だし、癪だし」
「もぉ……」
そう言って亮は優しく頭を撫でてくれて、何か言いたげにしながらも、アタシはその心地好さに身を委ねていた。
……本当はここのキスシーン、ここまで長くする来なかったんや。
ディープキスさせる予定ではあったけどいかせるつもりはなかったんや……。
くっそたれぇ、予定が崩れたわ。
というわけで次、もしくは次々回は怒りの戦闘シーンです(唐突)