IS×ライダー・鈴の音は歯車と共に 作:エタ
――これは、夢だ。
俺は今の光景をみて、すぐに確信する。
生い茂る森林。その中央に三人の仮面の戦士が立っている。
一人は紫の鎧の鍵の戦士。一人は天使のような藍色の鍵の戦士。
そしてもう一人は、青と黒の人狼のような、少し膨れ上がったような歯車の戦士。
そこに、二人の女――千冬さんと、束博士が近付いてきていて……。
映像が切り替わる。
愚痴をしながら酒を煽る千冬さんに同じく酒を飲む一人の男が寄り添う光景と、宇宙について目を輝かせながら語る束博士の話に聞き入る男の光景が目に写る。
――そういえば、こんなこともあったっけ――
俺は懐かしく思いながら、その光景をみる。
この時に俺は二十歳になって、酒が好きになって、それから俺のISに非武装浮遊部位……翼を付けないように頼んだんだっけ。
俺のISは束博士も認めた完璧な兵器。ISであってISじゃないから。
名目上、少なくとも混乱を避けるためにシュミクラム型〝IS〟と称しているが、俺も束も、これをISと呼ぶのは避けたいと別の名前を考えている。
早送りされ、続いて映し出されたのは戦場だった。
様々な者達の血が蒔かれ、四肢が切り離され、臓腑がぶちまけられた死で満ちた地獄。
そこを作り出していたのは、一人の男。人狼と化した歯車の戦士。
肩や腹に穴を開けながら、様々な人や化け物を殺して殺して殺して殺して殺し続けていた。
いつ死んでも可笑しくない傷を負いながら、男は嗤い嘆き、慟哭にも似た悲願を洩らす。
……嗚呼。この地獄は、いつになったら終わるのだろう――――
***
―――ザザッ。
一瞬のノイズが走り、チャンネルが変わる。
……悪夢の終わりらしい。目の前には俺と鈴が笑っていた。
いや、良く見たら俺が驚いている。これはきっと、初めて鈴が俺の膝に乗るようになった時のモノだ。
ああやって、無邪気に甘えられたりしたのは初めてだった。
戦場に赴く事になる前は、〝姉さん〟含めて、周りは年上ばかりで甘えられる事はなかった。
その後だって、甘える、甘えられるような状況は殆どなく、あったとしても悲しみや絶望も相まって、戦場の中で生まれた燃えるような恋と錯覚した性欲によるもの。
だから、なのかもしれないし、違うかもしれない。
少なくとも、この時がきっかけで自覚したのは違いなくて、同時に罪悪感に苦しんだ。
……何故、というと失礼かもしれないが、俺を好きだと言ってくれる人が数人いる。
その人たちを差し置いて、別の――しかも他の人が好きな人に恋をするなど、裏切りにも等しいものだろう。
『――良いんじゃない?』
だというのに、〝初めて〟の相手でもあり、弱音を吐ける――今となっては――唯一であり、その中の一人であるはずの相棒・ティアは肯定した。
『そりゃね。思うところがない、というと嘘になるけど、あんたの気持ちをあれこれ口出しする方が間違ってるでしょ。
……私としても、そっちの方が良いって思ってるし。
だって、私はあんたを叱れない。愚痴を聞くことは出来るし、慰める事もできるけど、駄目なものを駄目だって言うことはできない。今の立場は、あんたに共感しか出来ないところにまで来てるから。
だから、普通を良く知ってる、間違っているものをしっかり間違ってると言ってくれそうな娘なんだったら、一番を譲れるって思ってたのよ。
私はあんたが、リョウが好き。だからこそ、あんたを正してくれる、あんたを幸せにしてくれる人と一緒にいるのが、何よりも嬉しいのよ』
その言葉は、何よりも俺を案じてくれているもので、好きだと言ってくれているもので。
感謝と申し訳なさで一杯になって、思わず涙しそうになったものだ。
けど、もう一つ、懸念があった。
好きだからこそ、離れるべきだと思ったのだ。
『確かに、あんたの言うことももっともよ。だけど……そうね。一つ試してみるのはどうかしら?正直互いのためにさせたくないけど、そうも言ってられない』
そう言って提案したのが、あの最低な行為だった。
『これをしてもその娘が貴方の傍から離れなかったら、脈有りだし、どんなことがあろうとその娘の本質は変わらず、きっと貴方の傍に居続けようとするはずよ。
どれだけの苦痛を知っても、貴方のために叱ってくれるはずよ。
だから――』
視界が真っ白に染まり、目を瞑る。―――反転。
***
夢は終わり、現へと浮上する。
瞑った目を開くと、そこは逢魔が時。
窓から差し込むオレンジの光で照らされる医務室に、俺はいた。
「……っ」
身体のあらゆる部分が再起動し、それに伴い痛覚が甦って、節々と、穴が空いた腹に激痛が走り、鈍痛が続く。
が、まぁこの程度はいつものことだ、問題ない。
そう体を起こそうとして、ドア側、つまり左腕の重みに気付く。
「……鈴」
そこには、左手で俺の手を握ったまま、俺の腕を枕にして寝ている鈴の姿があった。
(ずっと、ここにいてくれていたのか)
恐らく、そうだろう。でなければ枕にされた腕に張り付いた感触と痺れが襲うはずがない。
その事に、鈴への愛しさがさらに膨れ上がる。戦場にいた時のものとは違う感情に戸惑いを覚えつつも、悪い気分ではない。
「……鈴、起きろ」
とりあえず、こんな毛布もなしに寝たら風邪を引くと思って、鈴を優しくゆさる。
「うー……」
可愛い声を上げながらもにゅもにゅと口を動かし、起きる気配がない。
そんな彼女に苦笑しつつ、その耳に口を近付け、一言。
「――起きないとキスしてあげないぞ?」
「はい起きた!」
その言葉に反応して、飛び起きた鈴は寝ぼけた目を正すように何度も瞬きする。
しばらくして、頭も冴えたのか目がしっかりと開かれる。
そして起きた俺を見ると、どんどん涙が溢れだし……。
「こ、の……バカーー!」
俺の胸に飛び込んできて、腹に触らないようにポカポカと殴り始めた。
どうしよう、とあたふたする俺に気にすることなく、鈴は俺をバカだバカだと罵る。
一旦落ち着かせようと引き離そうとして、
「もっと、もっと自分を大事にしてよッ!他人を守る前に、自分を守りなさいよ!!――アタシを、泣かせないでよぉ……!」
(……………あぁ)
その手を止め、彼女を包み込むように抱き締めた。
千冬さん辺りにでもなにか聞いているだろうに、この傷の動きを見ているだろうに。怯えもせず、困惑すらせず、真っ正面から俺にぶつかってきてくれている。
怒って、叱ってくれている。
それがどんなに嬉しいことなのか、鈴は分からないだろうけれど。俺にとってはそれが特別なことで、そして心を完全に掴まされて。
(あー、駄目だ。離したくなくなっちまった)
泣きながら俺に抱き締められている鈴の頭を撫でながら優しく上を向けさせる。
目を真っ赤にして涙を流す鈴をみて、どれだけ悲しませたのかが分かって胸が痛む。同時にこの顔を他の誰にも見せたくないという気持ちがふつふつと沸き上がってくる。
(もうどこにもいかせたくない。織斑なんかに負けるものか。鈴は、鈴は俺のものだ。絶対に、絶対に誰にも渡さない)
「ばか、りょぉ……」
自分勝手な想い。だけど本物を知らなかった男の、精一杯の表現で。
泣きじゃくっていた鈴は舌ったらずな声で俺を呼び、そのまま唇を交わした。
***
鈴は俺に抱き締められたまま、冷静になったのか少し恥ずかしそうに黙り込んでいる。
だが時折此方に目線を寄越してはジト目になり、ぷい、と不機嫌そうにあらぬ方向へ向く。
(あの人達なに言ったんだ……)
棚の上に置かれている三つのハンドルからして、博士……いや、束が来ていたことは明白。
「あー、と。じゃあ一つずつ秘密を明かしていこうかな」
とりあえずこのままじゃ埒が明かないと、此方から話し始めたのだが……。
「秘密って?今までのえっちの経験のこと?」
「ホンッッットーになに話してんの!?」
別にそんなこと話さなくても良くない!?
「ふん、別に怒ってないけどね。亮は大人だし、そういうことがあっても不思議じゃないから」
だったらなんで不機嫌そうになんだよ、とは聞かない。俺は織斑じゃないし。
逆の立場なら、俺だってこうなるだろう。怒るのは筋違い。だけど嫉妬がその思いを複雑にさせる。
とにかく。この拗ねている猫ちゃんをなんとかしないと…………あっ、そうだ。
「鈴…………いや、スズ」
「――ふぇ?」
呼び方を変えると、鈴――スズは可愛らしい声を上げて俺の顔をみる。
「あの、さ。鈴って呼び名って他の人達が言ってる愛称だろ?えっと……織斑とかさ。だから、その。俺だけの呼び名っていうの決めたいなぁって思って」
この話をするのは後にしようと思っていたのは内緒。
しかし……うん。口にしてみてもやっぱり、
「ちょっと重いわね」
「うぐ……だよな。嫌だったよな」
「でも……亮になら、良い。というか、嬉しいっていうか、特別って感じがして……あーもう!亮だけだからね!」
「……分かってるよ」
そういう彼女の顔は弛んでいて、頬はさっきよりも赤くなっている。可愛いなぁ。
「――っと、かーなーり、脱線しちゃったけど、本題に移ろうか。えっと、魔法使いだって事は話して……後スズが知ってるのは俺が人間じゃないって事くらいかな?」
スズは頷く。
「それじゃあ、質問とかは後にしてささっと内容だけ全部言うけど……
まず、俺は軍人。今は傭兵紛いの事をやってる。
次に、俺のISは本当はISとは呼べない代物で、後こいつと魔法以外に戦う術を持っている。
だから……まぁ、人だって殺した事があるし、それ以外の色んなモノと戦って、殺してる。
今もたまに学園から出て、戦うべき化け物と戦っている、事はまぁなんとなく勘づいてるか。
えっと、じゃあそうだな。これが一番の秘密かな。
俺はこの世界にいてはいけない存在なんだ」
「亮、あんた――」
「おっと、質問は後だって言ったろ?それにこれは言葉通りなんだ。だって俺は〝この世界に生まれたヒトじゃない〟
別の世界から来た、イレギュラーなんだよ」
秘密という秘密をざっと話し、一息。
絶句……というより、俺の話している内容に頭が追い付いていない。理解できないという風に見てとれる。
……先にこの話から説明していくか。
「えっと、つまりな。異世界というのは本当にあって、俺はそこから来たってこと。地球もあるにはあるから、平行世界から来たとも言えるな」
平行世界。
様々な可能性から基づいた生まれた似て非なる世界同士のこと。
「まだ理解できてないっぽいから簡単に言うと、俺の世界ではISは存在しないし、逆に言えば、この世界ではどう探しても魔法はない。
そして、この世界には本来俺はいないし、また俺のいた世界にはスズはいない。
あるものがない世界と、ないものがある世界がある。そういうのを互いに、平行世界って呼ぶんだ」
俺がこの世界に来なければ、俺とスズが会うことは決してなかっただろう。
俺達がこの世界にきた時点で、この世界は本筋から外れた平行世界になるのだ。
【悲報】亮の秘密として書くのがこれだけだったか覚えていない。悲しいなぁ
そしてまたエロシーン書けなかったなぁ。でもこういう話今のうちに消化しておかないと後の戦闘&エロシーンに支障をきたす恐れあるしなぁ。
あっ、でも本筋は覚えてるから無問題だな!