幽「ぅ・・・・・・んぅ・・・・・」
幽々子が永琳のところで治療を受けてから5時間、幽々子はずっと眠り続けていた。
今は霊夢の部屋で、手厚く看護されている。
罪悪感を感じている霊夢は、幽々子のそばを片時も離れず看護に撤していた。
霊「・・・・ごめんね、幽々子・・・・色々と調子に乗りすぎてたわ・・・・」
優しく頭を撫で、心配そうに幽々子の寝顔を見つめる。
じっと幽々子の目覚めを待つその表情に、後悔が滲む。もう少し、自分をうまく制御できていたらと。
それなりの経験と知識を持っている自覚と自信を持っていた彼女にはそれが許せなかった。
相手はまだ、こういう事に触れてから一週間しか経っていない。今回のようなハードな責めはあまりにも早すぎた。そんなことはわかっていたはずなのに、と。
霊「はあ・・・・・なんであんなことしちゃったんだろ・・・・」
異変を解決した疲れで判断力が鈍っていたからか、それとも欲求が溜まっていたからか・・・
それらの要素もあるにはあるだろうが、それだけではないような気がしていた。
しかしそれがなんなのか、わからない。
だが、考えてみるとこんな風に悩むことそのものが今までにないことだった。
今までの彼女にとって妖怪とは、ちょくちょく異変を起こす面倒くさい存在以外の何者でもなく、これといった愛着を抱くことなどなかった。
弾幕勝負で手心を加えたことは弱小妖怪相手でも一度もなかったし、例えやり過ぎても相手の生命力は人間とは比較にならないから、特に気にしたことはなかった。
でも、今回は違う。やり過ぎたことをこの上なく悔いている。妖精たちを襲って泣かせたとしても眉ひとつ動かさなかった霊夢にしてみればあり得ないことだ。
もしかすると、そこに答えがあるのかもしれない。
幽「ぅ・・・・・んん・・・・・・ここは・・・・・・」
霊「あ・・・・起きた?ここは私の部屋よ。気絶したあんたを、ここに運び込んだの。その・・・・・ええと、何か欲しいものとかあったら・・・言って?なんでも持ってくるから。」
看病していた相手がようやく目を覚ますが、気まずさと申し訳なさからかその目をまともに見ることができない。
いつも自信と余裕に満ちていた彼女にはあり得ない、とてもしおらしい姿を見せていた。
幽「お・・・みず・・・・おみず・・・・ちょうだい・・・・」
掠れた、蚊の鳴くような声で幽々子は水を欲しがる。
霊夢はそれを聞くや否や、すぐさま立ち上がった。
霊「わかったわ!すぐ持ってくるから!」
神社の井戸から汲んだ水をひしゃくに掬い、幽々子のもとへ急いで持ってくる。
幽々子はそれを一瞬で飲み干したが、まだまだ足りない様子だ。身体中の水分を限界を超えて出してしまった彼女には、この程度ではまるで足りなかったのだ。
そこで霊夢は、たらい一杯に水を汲んできた。これだけあれば足りる、どころかむしろ余ると思われたが・・・・
幽「んぐ・・・・んぐ・・・・ぷはぁ!!んん・・・・・!生き返るわあ・・・・・」
霊「あ、あり得ない・・・・・!あんた、どんだけ飲むのよ・・・・」
博麗神社にあるたらいの容量は35リットル。重さにすると霊夢の体重の3分の2より少し多いほどの量。それを幽々子は容易く飲み干したのだ。
勿論、水分の枯れた幽々子の身体が、砂漠の砂のように水を吸収したのもあるだろう。だが、それにしてもあれだけの量を身体に収められる幽々子の胃袋は霊夢を驚愕させた。
幽「ふう、ちょっと元気になったわ~。さて、それじゃあ帰らない・・・・と・・・・」
水を飲むなり布団から起き上がるが、まだ回復していないのかふらついてしまう。
霊「だ、大丈夫?もうすこし休んだ方がいいんじゃない?」
幽「でも、あんまり遅いと妖夢が心配するわ。ただでさえ帰りが遅れてるのに、これ以上遅くなると・・・・・ね。」
霊「そう・・・・なら、送っていきましょうか?今のあんたじゃ不安だし・・・・」
幽々子の身を案じて手をさしのべるが、幽々子はその手を取らなかった。
幽「・・・・・だい・・・じょうぶよ。冥界なんて、そんなに遠くないから・・・・」
霊「強がらないで。冥界が近いわけ・・・・」
そこまで言って、霊夢は幽々子が自分の手を借りたくない理由に思い至った。
最早かける言葉が何も思い付かず、黙って幽々子を送り出す。幽々子の去った後で一人になった霊夢の表情は、少し悲しげだった。
霊「・・・・・嫌われちゃった・・・・かしらね。まあ当然か、あんな事しちゃったんだから・・・・信じられるわけ、ないわよね・・・・」
助けの手を拒まれた理由、それは他でもない。霊夢が嫌われているから。信用されていないから。
今まで散々意地悪してきた者が急に優しくなったところで、相手の信用を得られるわけなどない。そんなことはわかっていても、何故だかとても悲しかった。
霊「・・・大嫌い・・・かぁ・・・」
幽々子を責めていたときに言われた言葉が、霊夢の胸に突き刺さる。
霊「・・・・やっぱり、ちゃんと謝らないとだめよね・・・」
自分が悪いことをした、相手を傷付けた時は、きちんとけじめを付けなければならない。
いますぐというわけにはいかないが、幽々子の体力が回復した後にでもしっかり謝ろうと、霊夢は決意を固めた。
その為の準備をするべく、霊夢は箪笥を漁りはじめた。
箪笥の奥に僅かに入っていたお金を震える手で取り、愛用のがま口財布の中に入れる。
後は明日、人里で催されるイベントに幽々子を連れていくだけと、霊夢は全財産を投げうつ覚悟を決めた。
霊「・・・さようなら、私の貯金・・・・」
全てを賭ける覚悟を胸に、霊夢は明日へ向けて2日ぶりの休息を取る。
布団の中で、明日会ったときどんな話をするか考えながら、霊夢は眠りについた。