霊夢の元から帰ってきた次の日の朝、幽々子は完全に疲れも取れ、爽やかに目覚めていた。
昨日帰ってきたとき、玄関先に妖夢がいて少々焦ったが、幽々子のあまりに憔悴した姿を見るなり布団を用意してくれたのである。
おかげで今日の彼女の体調は絶好調だった。
幽々子の帰りが遅くなった理由についても何故かこれといって追及されることはなく、そのまま有耶無耶になった。
というより、妖夢が自分の部屋に閉じこもって幽々子と一切会話をしなくなっていたのである。
それはそれで心配すべきことであるが、今は答えづらい質問をされなかったことを素直に喜んでいた。
嫌な事は忘れ、今日はゆっくり過ごそうと思う幽々子だったが、そんな彼女の前に突然の来客がやってくる。
霊「・・・・おはよ、幽々子。昨日はよく寝れた?」
幽「・・・・・・っ!?」
やってきたのは、今まで散々自分を酷い目に遭わせてきた者、霊夢。招かれざる客の来訪に、幽々子の表情が強張る。
今までされてきた嫌な記憶が蘇り、不安な気持ちで胸が埋め尽くされる。
幽「きょ、今日は何をする気なの・・・・?」
完全に警戒態勢に入っている幽々子に対して、霊夢はその不安を取り除こうと優しく話しかける。
霊「ああ、安心して?今日はそういうことしに来たわけじゃなくて・・・・ちょっと、祭りのお誘いにね。もちろん無理にとは言わないけど、できれば来てほしいの・・・・」
幽「・・・・変なこと、しない・・・?」
霊「しない!絶対しないから!!だからお願い・・・!!」
今までの経験から、霊夢に対して疑いを抱く幽々子を必死に説得する。
その態度は真剣そのものであり、ほんの少しだけ幽々子の警戒心も緩んでいく。
幽「・・・・そういうことなら・・・・じゃあ、お金の用意を・・・・」
霊「ああ、今日は私が出すから大丈夫!幽々子には一銭も出させないわ!!」
幽「本当に大丈夫?私、けっこうたくさんお買い物するけれど・・・・」
霊「だ、だいじょうぶだいじょうぶ!あんた一人分くらいどうとでもなるわよ!」
顔を引きつらせながら、精一杯の虚勢を張る。貧乏神社の全財産を投入したガマ財布一つだけで、随一の食事量を誇る幽々子を満足させることは、果たして可能なのか。
たとえできなかったならば、最終手段の決行もやむを得ない。霊夢はそれだけの覚悟を以って今回の祭りに臨んでいた。
霊(もし足りなかったら・・・・もし足りなかったら、売るしかない・・・!幻想郷にはびこる変態どもに、私のドロワーズを・・・・!!)
悲壮な決意を抱き、霊夢は幽々子を連れて冥界を後にする。
なぜここまでするのか、霊夢にはよくわからない。だが何となく幽々子に嫌われたくない、嫌われない為なら何でもする覚悟はある。それは霊夢が幽々子に対して、何らかの特別な感情を抱いている何よりの証拠だった。
霊(お願いガマちゃん・・・・!なんとか・・・なんとか持ちこたえて・・・!!)
ガマガエルの姿をしたガマ口財布を握り締め、必死に祈りを捧げる博麗の巫女。自身の仕える神にではなく、お金に対して渾身の祈りを捧げる巫女の姿からはある種の悲哀さえ感じられる。
しかし、彼女がこれほど真剣に祈っても、残酷な現実は容赦なく降りかかる。
幽「あ、これおいしそうだわ~。一箱もらえるかしら?」
幽「これもいいわねえ・・・・10個くださいな。」
幽「あ、これも・・・・」
数軒にわたって店主を驚愕させる量の買い物を続けていき、霊夢のガマはみるみるうちに痩せ細っていく。
徐々に気分が盛り上がっていく幽々子の隣で、乾いた笑いをこぼすことしかできなくなるほど霊夢は追い詰められていた。
幽「うん、どれもこれも今までにないような味でとってもおいしいわ~♪」
霊「そ、そう・・・・よかったわね・・・・・」
財布の中に残っている金額はおよそ5000円。普通の人が祭りを楽しむには申し分ない金額だが、相手が幽々子ではあまりに心もとない。
やはりアレをするしかないのかと、霊夢の脳裏を不吉な予感がよぎる。
幽「あら、あれは・・・・!」
そう思った先から幽々子は屋台に向かっていく。それは、かつて彼女が挑戦するも全く上手くいかなかった金魚すくいの屋台だった。
今日はじめての食べ物以外の屋台に、霊夢は少しだけ安心する。食べ物でないのなら、幽々子でもそれほどの心配はないだろうと。
しかし、事態は霊夢の予想を大いに上回るものだった。
最初の挑戦で失敗した幽々子はすぐさま次に挑み、それが失敗するとまた次に挑み、一度も成功しないまま9回も挑戦したのだ。
まさかここまで連続で失敗するとは思っていなかったし、これほど粘るとも思っていなかった。精々5~6回くらいでやめると思っていたのだ。
店主「あー、また失敗だあ。もっかいやるかい?お譲ちゃん。」
幽「もちろんやるわ。このままじゃ終われないもの~!」
霊「つ、次で絶対決めてよ!!絶対だからね!!!」
次で10回目の挑戦である。失敗しようが成功しようが、このあたりでやめてもらわなければ財布が危ない。
なんとしてでも、ここで幽々子に満足してもらわねばならない。
店主「ふむ・・・いいだろう、そこの必死な譲ちゃんに免じておじさんがコツを教えてやろう。」
幽「あら、いいの?」
店主「ああ、何回も失敗続きじゃあ可哀相だ。それに、べっぴんさんが相手とあっちゃあこっちも張り切るってもんよ。」
幽「あら、べっぴんさんですって。よかったわね霊夢!」
霊「・・・・・・・・・え?」
何度となく挑戦したことで店主と仲良くなった幽々子は、店主にコツを教えてもらい、10回目の挑戦をする。
その結果は、今までより遥かに良くなりはしたものの残念な結果に終わってしまった。
幽「ああ~・・・・もう少しだったのに・・・・」
店主「うーん惜しい!もうちょっとだったなあ!」
幽「う~ん・・・・もう一回!次で終わらせるわ!!」
店主「俺としちゃあ別に構わねえんだが・・・・あっちの譲ちゃんが凄え顔で睨んでるぞ?」
幽「あら・・・・・」
次は許さない、と言わんばかりに睨む霊夢の気迫は凄まじく、流石にこれ以上はやらせてくれそうになかった。
後ろ髪を引かれる思いで金魚すくいの屋台を後にし、幽々子は再び祭りを回っていく。だがさっきまでのような勢いはなくなっていた。金魚すくいのことが引っかかっているのだ。
その残念そうな顔を見ていると、また霊夢の中に罪悪感が芽生えてくる。
霊(あ~・・・やらせてあげればよかったかな・・・・一応、今日は謝るために来てるんだし・・・・でも、もうお金もほとんどないし、あそこで使いすぎるわけにも・・・・・)
霊夢も幽々子もそれぞれ引っかかるところがあり、ほとんど会話もないまま何をするでもなく祭りをめぐっていく。
気まずい空気が二人の間に漂い始めたその時、突如として響き渡った大きな声が二人の間に漂う微妙な空気を吹き飛ばした。
紫「あたしの歌を聴けええっ!!」
ステージの上で露出度の非常に高い衣装を身に纏った紫が、会場にいる多くの人々の声援の中で歌い、踊り始めた。
二人は知らず知らずの内に、紫のライヴ会場に紛れ込んでいたのだ。
会場に漂う異様な熱狂、そして仮にも賢者と呼ばれる者とは思えないその振る舞いが霊夢を凍り付かせる。
霊「・・・・・・・・何あれ・・・・・?」
引きつった顔で霊夢が指差すのも無理からぬことだった。彼女にとっても紫は親睦の深い存在なのだから。
紫が何を思ってこんな事をしているのか、霊夢にはまるで理解できなかったのだ。
(罪)「ご存知ないのですか!あれこそが今幻想郷で一番人気のスーパーアイドル、超時空妖精スキマフェアリーゆかりんです!!」
霊「あ、ああ・・・・そう・・・・・」
幼少期からそれなりに付き合いのある紫のこの様な姿は、霊夢にとって余りにもショッキングなものだった。
しかし、彼女の正気度を削る要素は、紫がアイドルをやっていることだけではなかった。
霊(あの歌と踊りは百歩譲って許すとしても・・・・あの馬鹿デカイのは何なのよ!!?)
霊夢の視線の先にあるもの、それは全長9メートルほどある巨大な紫だった。
紫の姿を象った巨大な舞台装置の手のひらの上で本物の紫が舞い踊り、歌う。それはファンならば感涙ものの光景だった。
紫「みんなー!今日は『メガゆかりん』の初お披露目ライヴに来てくれて、どうもありがとう!!」
霊「メガゆかりんて何よ・・・・何なのよホント・・・・・」
紫がアイドル活動を始めてからおよそ二週間、その間に数回ライヴをしているが、回数を重ねる度にその舞台の装飾や演出は派手になっていった。
その進化していく演出の一つの到達点と呼べるものがこの「メガゆかりん」。河童のエンジニアと鬼たちの協力を得て建造された、幻想郷において屈指の技術力の結晶である。
3トンはある巨体を支える骨組み部分を鬼が、紫を手のひらに乗せる上で重要な間接部の駆動系を河童がそれぞれ担当し、完成した夢の超大型舞台装置。それがこのメガゆかりんなのである。
しかし霊夢にとってそんな事はどうでもよく、目の前にある巨大な紫を前にただただ度肝を抜かれていた。
だが、紫と親しい者は霊夢だけではない。それどころか霊夢など足下にも及ばないほど永い付き合いの者が、この会場にいる。
幽「ゆかりーーーん!!!」
しかし彼女は霊夢とは逆に、至って普通に楽しんでいた。
霊「えええええ!!?」
幽「あら霊夢、どうしたの?」
霊「いや、なんかこう・・・・なんかないの!?あのデカイやつとか、あの格好とかこう・・・・突っ込みはないの!!?」
幽「ああ・・・・すごい迫力よねえ。感心するわ~」
霊「いや、だから・・・・!」
彼女らは二人とも紫と親しいが、今の紫を見た感想はまるっきり逆で、だからこそ二人の会話は噛み合わない。
紫と親しい者なら、今の姿に違和感を覚えて然るべきだと霊夢は思っていた。
幽「まあ、色々とびっくりはしたけれど・・・でも、これだけのことをやってのけるのは紫が頑張ってるからよ。霊夢は、どうしてお祭りが復活したのか知ってる?」
霊「まあ、一応は・・・主催はウチの神社だし・・・」
幽「なら、わかるでしょ?紫も紫なりに、神社のことを心配してるのよ。きっとこれも、何か意味があるんだと思うわ。」
霊「神社の、ために・・・・」
幽々子に言われて、霊夢も少しだけ紫のライヴの意義を考える。
仮にも賢者と呼ばれる者が、ただの自己満足でこれだけの事をするとは思えない。ここまでの労力をつぎ込むからには、なにかしらの意味があるはずだ・・・と。
そう考えると、このライヴの見方もほんの少しだけ変わってくる。
霊(もしかしたら・・・もしかしたら、ここでウチの神社を宣伝するつもりなのかしら・・・?こんだけ人がいるなら、きっと効果も抜群だし・・・そういうことなのかしら?)
霊夢も、ちょっとだけ紫のことを見直し始めた。
紫「いっくわよーー!!きらりんっ☆」
しかし、そんな雰囲気は他ならぬ紫自身によって打ち砕かれた。
霊「・・・・ゴメンやっぱ無理・・・頭痛がしてきた・・・・」
紫の決めポーズにより、霊夢の正気度は瞬く間に削り取られ、今や頭痛を訴えるまでになってしまっていた。
幽「あら、大丈夫?少し休む?」
霊「・・・・あんた、よく平気でいられるわね・・・・」
今までの紫のイメージを根底から覆すこれらの行動を目にしても幽々子は平然としており、それもまた霊夢を孤立無援にしていた。
このライヴ会場で、これほどのダメージを受けているのは恐らく彼女だけだろう。霊夢の気持ちをわかってくれる者は、この場には一人もいないのだ。
しかし、今は平然としている幽々子だが、ある曲が流れると同時にその表情は一気に凍り付く。
紫「それじゃいくわよー!新曲『Spider net』!!」
曲が流れ始めると、メガゆかりんの目にあたる部分からホログラムが投影され、紫の眼前に大きな蜘蛛が姿を現した。
その蜘蛛を見た途端、幽々子の様子は一変する。
大蜘蛛が動く度、「ひっ」や「う・・・」など小さく呻き声をあげ、その都度身体を強張らせる。
その様子を、霊夢は見逃さなかった。
霊(もしかしてこいつ、クモが嫌いなんじゃ・・・)
なるべく周囲に悟られないよう抑えてはいるが、時折覗かせる恐怖の表情から霊夢は確信を深めていく。
今までのやりとりの中で初めて見えた幽々子の弱点。それを気付かれないよう我慢している姿は、何だかとても可愛らしく見えた。
霊(・・・ちょっとだけ・・・)
どうしても悪戯をしたい気持ちが抑えられなくなり、幽々子の首筋をそっと撫でる。
幽「ひゃあああああ!!??あっ・・・・・!お、おどかさないでよ~・・・・!!びっくりしたじゃない・・・」
霊「ごめんごめん、そんなにびっくりすると思わなくて・・・クモ、苦手なの?」
幽「・・・まあ、ちょっとだけ・・・ね。」
霊「じゃあ、ここから離れない?お互い、そっちのがいいと思うんだけど・・・」
苦手なものがあるせいか、幽々子も素直にこの提案を受け入れ、二人はライヴ会場から離れていく。
ある程度落ち着いて話せる状況になったところで、霊夢は幽々子に質問をぶつける。
霊「ねえ幽々子?クモが苦手っていうけど、何かあったの?どう見ても様子が変だったけど・・・」
幽「・・・・それ、言わなきゃだめ・・・?」
霊「できれば教えて欲しいわね。なんか凄く気になるのよ。」
あまり思い出したくないのか、その話をするのを渋る幽々子だったが、最終的には霊夢の押しに敗けてしまった。
幽「・・・あれは、ちょっと前・・・50年くらい前だったかしら?紫がね、珍しい食べ物って言って大きな蜘蛛の素揚げを持ってきたのよ。」
霊「ああ、それ知ってるわ。タランチュラって言うらしいわね。無縁塚に落ちてた本に書いてあったわ。」
幽「・・・それで、私がそれを食べたんだけど・・・食べたん、だけどね・・・・」
その時の感覚が甦ってきたのか、身震いしながら幽々子は少しずつ話を続けていく。
幽「その蜘蛛、ちゃんと火が通ってなかったみたいで、口の中で・・・・」
霊「・・・・まさか、生き返ったの?」
幽「そうなのよ・・・・で、口の中でわさわさ~って暴れて、なんだかちくってしたと思ったら、気絶しちゃって・・・しばらく起きれなくなったのよ~・・・」
霊「うわ、それはホント・・・ご愁傷さま・・・確かアレって毒を持ってたんだったわね・・・多分口の中を噛まれた時にやられたのね。」
幽「紫・・・そんなものを私に食べさせようとしたのね・・・」
猛毒を持つ大蜘蛛、タランチュラ。世界のどこかでは普通に食べられているこの生き物は、きちんと調理してさえいれば問題ないが、料理経験の皆無な紫が調理してしまった事が悲劇の引き金となってしまった。
幽々子にとっては相当に苦い経験であり、その出来事は心に深いトラウマとして焼きついてしまった。
幽「・・・・・なんだか、あのときのこと思い出したら、気持ちが悪くなってきたわ~・・・・何か食べて気分転換したいわねえ・・・・」
霊「も、もうお金もほとんどないから控えめにしてほしいんだけど・・・・でも、しょうがないか・・・・私が聞きたくて聞いたんだし、そのせいで気分悪くしちゃったんだしね。じゃ、行きましょうか。」
こうして、二人はすぐ近くにあった屋台へ向かっていく。
その屋台は祭りにしては珍しいヤツメウナギを扱う屋台で、非常に香ばしい匂いを漂わせていた。
その店の名は楼麗頼(ローレライ)。近所で評判の女性店主が経営する最近人気の店である。
店主の明るく可愛らしい性格と、本格的な味わいのウナギ料理が評判の店である。
店主「いらっしゃいま・・・・・せ・・・・・・」
二人が暖簾をくぐるなり、明るい声で挨拶をする小さき店主。しかし、幽々子の顔を見るなりその顔からは血の気がみるみる引いていった。
しかしそれも無理のない事である。その店主と幽々子とは、切っても切れない深い因縁があるのだから。
幽「ミスティアちゃん・・・・・・!?」
店主の名はミスティア・ローレライ。かつて幽々子が異変の解決に乗り出した際、その道中に現れあえなく餌食となった妖怪である。
捕食者と披食者。この二つが出会ったとき披食者に待ち受けるものは、悪夢のみである。
ミ「いやあああああああああああ!!!お店の商品食べないでええええええええ!!!!!」
相手がミスティアだとわかるや否や、幽々子は怒涛の勢いでその場にあったウナギを平らげていく。
先ほどまで常連客との和やかな話し声のしていた小さな屋台からは、もう悲鳴しか聞こえない。
幽「あら、じゃあ貴女が代わりになってくれる?」
ミ「ひいっ・・・・・・!!!」
必死に止めようとするミスティアだったが、魂の奥底に刻まれた食われることへの恐怖が、彼女の戦う意思を奪っていく。
そして十分も経過した頃には店中のウナギはすべて食い尽くされ、常連客は全員逃げてしまい、ミスティアは隅の方ですすり泣いていた。
ミ「ひっく・・・・!ひっ・・・・!えぐっ、えぐ・・・・!!うなぎが・・・・常連さんがあ・・・・・うわああああああああん・・・・・・・・!!!」
霊「うわ、あんたも結構エゲツないことするわねー・・・・」
この惨状を見て流石の霊夢も酷いと思ったのか、幽々子を軽く茶化す。
幽「あら、大丈夫よ~。ちゃんとお金は払うから。
霊「え?誰が?」
幽「あら、霊夢が払ってくれるんじゃないの?今日は貴女のおごりでしょ?」
霊「・・・・・・・え?」
帰ってきた答えを聞いて、霊夢は目の前が真っ白になった。幽々子が食い尽くしたウナギの支払いすべてを受け持つには、霊夢のガマ財布10個分、すなわち全財産の10倍は少なくとも必要になる。
そんな金など、当然持っているわけがない。
霊「いや、ちょ、待って幽々子・・・・ないわよ?私、こんな大金持ってないわよ?」
幽「あら、ないの?・・・・なら、今度私のおやつ代から出しておくわ~。そのうち払いに来るから待っててね、ミスティアちゃん。」
霊(・・・・・おやつ代で払えるんだ、これ・・・・・・)
ミスティアと、そして霊夢の心に浅からぬ傷を残して幽々子は屋台を後にしていく。
誰もいなくなった後の屋台で、ミスティアは一人悲しみに暮れていた。
ミ「・・・・・・怨み晴らさで・・・・・おくべきか・・・・・・!!」
そしてその悲しみは、憎悪に変わろうとしていた。
そんな事など露知らず、幽々子と霊夢の二人は祭りに戻っていた。
しかしもはや霊夢の所持金は底をつきかけていて、祭りに戻ったところでやれることはほとんど無く、屋台が立ち並ぶ中を何もせずにうろつくだけの微妙な状態になっていた。
霊(あーどうしよ・・・・もうそろそろ言わなくちゃだめよね・・・このままだと多分、する事ないから帰ることになりそうだし・・・でもなあ・・・)
そんな中で霊夢は一人悶々と考え込んでいた。
腹が満たされたことで幽々子はもう祭りにいる理由はほぼ無くなっていて、そう遠くないうちに帰ろうとするのは容易に想像できた。
そうなる前に、霊夢は今日の目的を果たす必要がある。しかし、なかなか踏み切れずにいた。
霊(言わなきゃ、謝らなきゃ・・・!でも、でも・・・!もし許してくれなかったら・・・・駄目だったらどうすればいいのよ・・・・!!)
もし失敗したら、という想いが霊夢を尻込みさせる。
決心が付かず、霊夢は謝る機会を完全に見失っていた。
幽「ねえ、霊夢・・・ひとつ、聞いてもいいかしら?」
霊「ふあ!!?なっ、なに?」
そんなとき、幽々子の方から話を振られ、霊夢は驚きのあまり声を裏返らせてしまう。
幽「今日はどうして、私をお祭りに呼んでくれたの?今日は今までと違って、凄く優しいのはどうして?」
この質問は、幽々子にとって非常に大事なことだった。
今日1日の間で、幽々子から見た霊夢の評価は随分と見直されていたのだ。
今までは酷いことをされていたが、根は悪くないのかもしれないと、幽々子は思い始めていた。
だからこそ、ここではっきりさせておきたかった。霊夢がなぜ幽々子を呼んだのか、その意味を。
霊「あーいや・・・・その・・・・それはね・・・・・」
霊(言うならいま!今がチャンス!!)
この質問は霊夢にとっても非常に大事な、千載一遇のチャンスだった。
ここを逃せば、恐らくもう二度と謝るチャンスは巡ってこないだろう。踏み切るのは、今しかない。
霊「その・・・・あの、ひ、ひとこと・・・あやまり・・・・たくて・・・・あの、今まで酷いことしてきてごめん!!」
何度もつっかえてしまいながらも、霊夢は自分のいちばん言いたいことを言うことができた。一度謝ってしまえば、後は堰を切ったように言いたいことが溢れ出る。
霊「ほんとは・・・・ほんとはあそこまでするつもりはなかったの!ただちょっと、あんたのハダカ見て、触ってみたいだけで・・・・あんなにするつもりなかったの!!でも・・・・なんだかあんたを見てたら、ぞくぞくして・・・・自分をうまく制御できなくなって・・・・」
幽「そうなったのは、どうして?どうして私の・・・その・・・・裸・・・見たいって思ったの?」
霊「いや、それはその・・・・あれよ・・・・私、女の子が好きだし・・・・」
幽「・・・・・じゃあ、誰でも良かったの?たまたま都合が良かったから私を狙っただけ?」
霊「それは・・・・・・!」
初めのうちは、確かにそうだった。弱みを握っていて、自分の言うことを聞かせられる都合の良い相手だというだけだった。
しかし、行為の中で霊夢は徐々に幽々子のことを知り、年齢にそぐわない無知ぶりというギャップに少しずつ惹かれていっていた。
そんな彼女のはしたない姿を見たいという欲求が、霊夢を暴走させたのだ。
霊「誰でもいいとかそういうわけじゃなくて・・・・あんたが・・・・その・・・・・可愛いから・・・・」
幽「え・・・・・・・?」
霊「だ、だから・・・・あんたが思ってたより可愛かったから、だからああいうことしたくなったの!」
幽「私が・・・・かわいい・・・・・・?」
可愛いと霊夢に言われ、幽々子は驚きの余り固まってしまう。
霊夢がただの悪意でああいったことをしていると思い込んでいた幽々子は、霊夢が自分のことをおもちゃ程度にしか思っていないと考えていたのだ。
しかしそれは、大きな間違いだった。
そのことを知り、幽々子はとても安心していた。そしてそれと同時に、この上ない喜びを感じていた。
幽「か、かわ・・・いい・・・・・!霊夢、もう一回言って!私のことどう思ってるの?」
霊「え?いや、だから可愛いって・・・・・」
幽「かわいい・・・・かわいい、かわいい・・・・・!!ふふふっ、かわいい!!」
可愛いと言われたことがよほど嬉しいのか、幽々子はその場でくるくると舞い踊り始めた。
霊「ちょ、幽々子どうしたの?なんか・・・なんか変よ?」
幽「うふふふっ♪だって、そんなこと言われたの初めてなんだもの~♪かわいい、だなんて・・・・うふふ!」
幽「紫も妖夢も、私がどんなにおしゃれしたって何にも言ってくれないのよ~!髪型を変えても、いつもと違う服を着ても知らんぷりで、こっちを見てもくれないの・・・・」
霊「うわ、酷いわねそれ・・・・一回も言われたことないってありえないわよ。あんたなら・・・・」
幽「だから、霊夢がかわいいって言ってくれてとっても嬉しいわ~!!ここ何十年かの苦労が報われたみたいで・・・・・!」
可愛いと言われたことへの喜びが、霊夢に対するわだかまりの全てを吹き飛ばしていく。
ずっと言ってほしかった言葉を言ってくれたことが、二人の和解の決め手となった。
幽「・・・・・決めたわ!今から白玉楼にお金を取りに戻りましょう!」
霊「え・・・・・どうしたの?何か買いたいものがあるなら、私が・・・・」
幽「あんまり嬉しいから、今度は私がおごってあげる!だから、一緒に来てほしいの。」
霊「え、でも・・・・」
幽「私、あんまり飛ぶのが速くないの。でも、貴女が引っ張ってくれれば冥界なんてひとっ飛びよ。だから、私と一緒に来て?」
そう言って、幽々子は霊夢に手を差し出す。
かつて霊夢がしたのと同じことを、今度は幽々子の方から。
それは、幽々子なりの仲直りのしるしだった。
霊「・・・・・・・・うん!」
かつて霊夢が手を差し延べたとき、幽々子はその手をとらなかった。だが今は・・・違う。
しかと繋がれた二人の手。それは、二人の新たな関係の始まりを告げていた。