※この作品はR-18です。

亡霊お嬢様の受難   作:フォカヌポウ

25 / 40
触手編IF~脱出~

幽々子が触手に犯され気を失ってからおよそ半日の後、目を覚ました幽々子と妖花の二人は触手を警戒しながらではあるが穏やかなひとときを過ごしていた。

 

幽「はい、それじゃあ私の言うことを真似してみて?おはよう」

妖「お・・・・おあよー・・・・・」

幽「うんうん、上手よ~。それじゃあ次は、こんにちわ」

妖「こ・・・・こん・・・・ち・・・・?」

幽「あら、これはちょっと難しかったかしら?」

 

身体の成長こそ早いものの、まだ生まれて間もない妖花に幽々子は言葉を教えていた。5~6歳相当の肉体ではあるがその実彼女は生後1日程度でしかないのだ。

ゆえに彼女はまだ自分の名前を除いて一切の言葉を覚えてはいなかった。そこで幽々子は、彼女に言葉を教えることにしたのである。

肉体が早く成長しているだけあって生後一日としてはありえない速さで言葉を習得してはいるが、それでもなお彼女の言葉遣いはたどたどしいものだった。

 

幽「まあ、ゆっくり覚えていきましょう?じゃあもう一回、こんに・・・・」

妖「うー・・・・・・・・・」

幽「あらあら、どうしたの?そんなに怖い顔をしたらいけないわ。ほら、笑って~」

妖「ううー・・・・・・!!」

 

幽々子が妖花に言葉を教える途中、妖花が突然機嫌を損ねて唸り声をあげはじめた。

肉体のみが早く成長し、それに対して精神の成長は追いついていない。そんな妖花の機嫌は苦手な言葉の練習で早くも悪くなってきていた。

そして妖花は言葉を教えようとする幽々子の下を離れ、広い場所で駆け回り始めた。しかもただ走り回るのではなく、体操選手のような動きを交えながらである。

バク宙、ムーンサルト、空中三回転ひねり・・・・・妖花が空中で見せた技はいずれも、5~6歳の子どもには到底できない高等技術ばかりであった。

触手の遺伝子を持つ妖花は、人間のような見た目をしてはいるがその実常人を遥かに上回る身体能力を幼いながら有していたのだ。

 

幽「あら、あらあら・・・・すごいわあやちゃん!身軽なのね~」

 

その幼さに対して素晴らしい身体能力を目にした幽々子は、妖花を満面の笑みで褒めて頭を撫でた。わが子の見せた素晴らしい技の数々に心打たれたのだ。

そして妖花も、母の腕に抱かれて満足していた。幼い彼女は苦手な言葉の練習よりも、得意なことをして幽々子に褒めてもらいたがったのである。

なにしろまだ生まれてから一日。幽々子と妖花の触れ合いはあまりにも少なかった。妖花にしてみれば言葉を覚えることなどよりも、幽々子の腕に抱かれていたかったのだ。

 

幽「あら・・・・・ごめんねあやちゃん、あなたの気持ちをわかってあげられなくて・・・・」

妖「・・・・・・・・・・・・・・・・」

幽々子の腕を放さないように、ぎゅ、としがみつく妖花。そんな娘の姿を見て幽々子は、妖花が何を欲しているか察した。

妖花の望むままに、幽々子は妖花を優しく抱きしめる。母の腕に抱かれて、愛しいわが子を抱きしめて、二人は互いに幸せな時間を過ごす。

 

それから幾ばくかの時間がすぎて、妖花は幽々子の腕を引いてある場所へと向かっていった。それは触手の肉壁によって閉ざされた、蔵の出口だった。

最重要地点ゆえにそこの守りは極めて厳重であり、他の部分と比較して分厚い肉の壁で閉ざされている。さらにその上にそれなりに強力な結界が張られていた。その守りの厳重さは、現在の幽々子ではたとえ今出せる最大火力の術を以ってしても歯が立たないと見ただけでわかるほどだった。

 

幽「・・・・・だめよあやちゃん。私が元気ならどうにかなるけど、今の私じゃ・・・・・」

妖「・・・・・・・・・・・っ!!」

幽「え・・・・・・・・・・」

 

次の瞬間、幽々子は自分の目を疑った。妖花は自分の手刀でもってその結界と、分厚い肉の壁を一瞬で切り裂いたのだ。

己の右腕に妖力を集結させて刃と化し、結界ごと切り裂く。訓練を受けた人間ですら困難なことを妖花はわずか生後一日にしてやってのけたのだ。

 

幽「これ・・・・・は・・・・・!」

妖「・・・・・・・っ!・・・・・・っ!!!!」

 

しばらくぶりに見る太陽の光。まさか再び見ることができるとは思ってもみなかった。

そんな予想外の事態を前に固まっている幽々子を、妖花はぐいぐいと引っ張り外へと誘う。

妖花は母のために、父に反旗を翻したのだ。

 

妖「うー・・・・・・・!!うーっ・・・・・・・!!」

幽「あ・・・・・・わ、わかったわ!行きましょうあやちゃん!!」

 

幽々子がそうであったように触手もまた、外への道が開かれるなどとは思ってもいなかった。それゆえに触手の対応は遅れていた。千載一遇の好機が訪れたのだ。

妖花の想いを無駄にしないために、幽々子は急いで外へと脱出する。しかし触手も二人を逃すつもりは毛頭なく、蔵の外へ触手を伸ばして追いすがる。

 

妖「はあっ・・・・・・・はあっ・・・・・!」

幽「どうにか神社まで行ければ・・・・・!!頑張ってあやちゃん!!」

 

触手の猛追をどうにかして逃れようとする幽々子と妖花。しかし逃げる妖花の足取りは覚束ない。

先ほどの斬撃を繰り出した際、妖力の消耗が思ったよりも大きかったのだ。それが疲労となって妖花を蝕んでいた。

いくら成長が早く、また外見に不相応な力を持っているといえども妖花はまだ子どもだった。それが致命的な弱点となってしまった。

 

妖「あっ・・・・・・!」

 

逃げる最中、転がっていた石に蹴躓いてしまう妖花。その隙を触手は逃さなかった。

捕らえられてしまった妖花を見上げ、幽々子は今の自分の無力さに歯噛みした。術を使うにも、能力を使うにも今の幽々子は弱りすぎていた。そのせいでわが子さえ救うことができないのだ。

しかしそんな中にも一縷の望みはあった。幽々子には不可能でも、この神社にはかの博麗の巫女がいるのだ。彼女の助力さえあるなら、この程度の妖怪は一瞬でひき肉と成り果てるだろう。

 

幽(待っていてあやちゃん・・・・!!いま助けるからね・・・・!)

 

霊夢さえいれば状況は逆転する。そう信じて神社へと駆ける幽々子。

しかし神社にたどり着いた幽々子を待ち受けていたのは残酷な現実だった。

なぜか神社にあるすべての入り口や窓は閉ざされ、誰かがいそうな気配はなかった。そして正面にある戸には張り紙が張られていた。そこにはこう書かれていた。

 

「ちょっと月まで行ってきます」

こう霊夢の筆跡で書かれた紙を見たとき、幽々子は最後の希望が潰えたのを悟った。

 

幽「そん・・・・な・・・・!?こんなのって・・・・・・」

 

そしてそんな幽々子の前に、触手が迫る。もはや抗う手段はなく、大人しく捕まる他はない。と、思われた。

じりじりと地を這いながら迫る触手を前に、幽々子の脳裏にあることが閃く。

 

幽(・・・・そういえば、このうなぎもどきって飛べるのかしら・・・・?もしそうでないのなら、いえ、もし飛べるとしても・・・・やらないよりは・・・・!)

 

幻想郷に多くいる人型の妖怪ならば概ね備えている飛行能力。しかし眼前にいる地を這う巨体に飛ぶ能力があるようには見えなかった。

これは、最後の賭けだった。力を消耗した幽々子はそう早く飛ぶことはできない。もし触手が飛べたならその瞬間幽々子の敗北が確定する、あまりにも不利な賭け。

しかしそれでも、これが幽々子にできる唯一の足掻きだった。

 

幽(おねがい、追ってこないでっ・・・・!)

 

そしてその賭けは、結果として良い結果に終わった。触手はその見た目の印象通り飛ぶことはできず、幽々子は触手の追撃を逃れることに成功したのだ。

とはいえこれで幽々子が触手に完全に勝ったわけではない。捕らえられている妖花を救うまでは、勝利とは言えない。

しかし今の状態で妖花を救いに行ったところで結果は目に見えている。そうなることは妖花も望まないだろう。母のために身体を張った娘に対して幽々子にいまできること、それは無謀な突撃をすることではない。

 

幽(あやちゃん・・・・絶対に助けるからね・・・・・・!)

 

地上を離れ、遥か天上の冥界へ向かう最中、幽々子は固く決心していた。身体を休めて力を取り戻し、必ず娘を助けに戻ると。

早く白玉楼に戻って食事を取り、失った霊力を取り戻そうと幽々子は帰路を急ぐ。

 

その頃、触手の体内に連れ戻された妖花は父である触手を睨みつけていた。

愛する母を傷つける父に、彼女は強い怒りを以って対していたのだ。

自分に対しても母に対しても何一ついいことをしてくれない父に対しての反逆。大事な餌にして苗床でもある幽々子を失わせた小さな反逆者。そんな妖花に対して触手もまた強い怒りを以って接する・・・・かに思われた。

しかし以外にも触手は妖花に対して何もしてはこなかった。妖花がかつて触手の妨害をしたときのように腹を殴ったりするかと妖花は思っていたが、何もおきないのである。

 

妖「・・・・・・・・・・?」

 

首を傾げる妖花をよそに、触手は蔵の奥にある自身の居場所へ戻っていく。妖花に対して仕置きのひとつもすることなく。

それにはある理由があった。幽々子が逃げたとしてもなんの問題もない理由が。

もしも逃げていたのが妖花の方であったなら、触手は慌てふためいていたであろう。まだ幼いのに結界ごと肉壁を両断するような存在がもし逃げていたならば後に大きな障害となるためである。

しかし危険度でいうならば無事に回復した幽々子の方が遥かに危険である。それでもなお問題はないと言い切れる確信が触手にはあった。

そしてそれはこの後、幽々子は嫌と言うほどその身を以って知ることとなる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。