幽々子がお仕置きを受けた次の日の朝、妖夢は幽々子の部屋に謝りに行っていた。
流石に気を失うほど叩いたのは申し訳なく思っており、その後感情に任せて色々やってしまったことも含めて妖夢は気まずく思っていた。
気を失ってから後の事に触れるわけにはいかないが、せめて叩きすぎてしまったことは謝っておこうと思い、幽々子の部屋にやってきたのだった。
妖「幽々子様、ちょっとお話したいことが・・・・」
幽々子と話をするべく、襖を開いて幽々子の部屋へと入る。
するとそこには、幽々子の手に掴まれてぴちぴちと抵抗する半霊の姿があった。
半「・・・・・・!!?!?!?!?」
幽「こら!逃げちゃだめよ~、じゃないと仕返しにならないわ~。」
半霊の身体に墨で書かれた「肉」の文字。でかでかと書かれたそれは途轍もないインパクトを放っていた。
他にも「罪」「ばか妖夢」などの落書きがされており、また新たな文字が幽々子の手によって書かれようとしていた。
妖「ちょっ!?幽々子様なにやってるんですか!!?ああ、半霊が落書きだらけに・・・・・!!」
幽「あら、主犯が来たわね~。うふふ、どうかしら?見事なものでしょう?」
無残な姿となった半霊を抱えてがっくりと崩れ落ちる妖夢、そんな妖夢を見て幽々子は満足げに笑っていた。
仕返しがうまくいって幽々子はとても喜んでいた。
妖「な、なんだってこんな事を・・・」
幽「あら、わからない?昨日ひどい目に遭わされたでしょ、その仕返しよ。」
幽「昨日の晩は大変だったのよ~?妖夢に叩かれたところがじんじんして、寝れないくらい痛かったんだからね~!」
落ち込む妖夢に幽々子は、昨日の夜自分が味わった苦しみを語りだした。
とはいえ、亡霊である故なのか日付が変わる頃には痛みも腫れもすっかり引いており、今は元気そのものだった。
だが叩かれた記憶は残っており、幽々子はそれに対するわだかまりをこれで発散していたのだった。
幽「さて・・・妖夢の悲しむ顔も見れたことだし、この子は返してあげるわ。きちんと洗ってあげてね?」
妖「言われなくてもやりますよ!ああ、半霊ぃ・・・・!!」
妖夢の嘆く様を見てすっきりした幽々子は、半霊を妖夢に返してやった。
まだ書いたばかりであるため、すぐに洗えば落書きを消すのにそう手間はかからない。妖夢はすぐに水場へ向かって行った。
5分ほど経って戻ってきた妖夢と半霊。帰ってきた半霊はいつも通り真っ白になっていた。ついでに妖夢も妙に爽やかな顔をしていた。
妖「ふうー・・・すっきりしたあ・・・」
幽「おかえりなさい~。なんだか妙にすっきりした顔してるわね~。やっぱり半霊が汚れてると気分悪いのかしら?」
妖「そりゃそうですよ!私の半身なんですから。」
半人と半霊、一心同体とでも言うべきこの二つの結束の強さが現れた瞬間であった。
妖「ところでまあ・・・改めて言いますけど、昨日はすみませんでした。あれはやり過ぎでしたね・・・」
幽「ええ、やり過ぎだったわね~。でもまあ、叩かれる原因そのものは私にあったんだし、やり過ぎた分の仕返しはもう済んだから許してあげるわ~。」
謝る妖夢に対し、笑顔で応える幽々子。全ての罪を洗い流すかのような彼女の屈託のない笑みに、妖夢の胸はすこし高鳴った。
また自分の中で幽々子への想いが大きくなっているのを感じて、妖夢は慌てて話題を切り替えた。
妖「ん・・・・あ、そうだ幽々子様、何か買ってきてほしいものはありますか?私からのお詫びということで、何でも買ってきますよ。」
そして妖夢は、幽々子へのお詫びということで人里に行って何か好きな食べ物を買ってくることにした。
半霊に仕返しをされはしたものの、それにしてもあまりにあっさり許されてしまって逆に物足りなく思っていたのだ。
幽「あら、もうその事はいいんだけど・・・まあせっかくだしお言葉に甘えようかしら。それじゃあ妖夢、紫から人里で一番人気の大福屋さんがとっても美味しいって聞いたから、そこの大福を買ってきてくれるかしら?もし売り切れていたらどこかでお団子を買ってきてちょうだい。」
妖「わかりました幽々子様、では行ってきますね!」
幽々子から指示を受けるや否やすぐに飛び立ち、冥界の門を通って顕界へと降り立つ。
幽々子ほどではないが妖夢も顕界に来ることは滅多にないため、人里の知識はほとんど無かった。
そのため、幽々子の言っていた人里で一番人気の大福屋というのは、現地の人に聞いて調べる他はなかった。
妖「すみません、ちょっと聞きたいことがあるのですが・・・」
道行く人に声をかけて聞いてみると、一番人気の肩書きは伊達ではないようであっさりとそこの情報を得ることができた。
早速その店に行ってみると、そこは既に売り切れで店を閉めてしまっていた。
妖「そ、そんなあ・・・仕方が無い、お団子を探そう・・・」
売り切れていたことに一瞬落ち込むものの、幽々子の言葉を思い出し、気を取り直して次は団子を探し始める。
幽々子は特に指定はしなかったが、なるべくなら美味しいものを買ったほうがいいと、妖夢は色々な店を渡り歩いて試食をし、どこが一番か調査していた。
そうして歩いている妖夢の視界の端に、凄く印象的な一軒の店が映った。
そこの看板には、「春画取扱処」とあった。
妖「しゅ、春画・・・・!?そ、それって・・・あの・・・・」
春画、それは男女の交わりを描いたもの、官能の文化である。
以前の妖夢なら気にせず通り過ぎたかもしれないが、今はそうもいかなかった。性的なものに対する興味が昨日のあれで芽生えてしまったからだ。
幽々子から仰せつかったおつかいがあるにも関わらず心臓がこの上もないほど高鳴って、足が勝手に店の方へと向かってしまう。
妖「ちょ、ちょっと見るだけなら・・・・まだお昼だし、大丈夫なはず・・・」
そして妖夢は言い訳じみた独り言をつぶやきながら、その店の中へと入っていった。
その頃幽々子は、白玉楼の縁側で茶をすすっていた。
昼間の青い空に漂う雲を見上げながら茶を飲むこの穏やかなひとときが、幽々子は好きだった。
幽「あら、あの雲おいしそうな形してるわあ~。そう思わない?」
傍らに侍る侍従の幽霊に語りかけながら、幽々子は熱いお茶をすすっていく。
喋ることのできない幽霊に対して一方的に話しかけ、話し相手のいない寂しさを適当に紛らわせていた。
そんな風にのんびりと過ごしていると、幽々子のもとに別の幽霊がやってきた。
幽「あら、どうしたの~?・・・・手紙?誰からかしら・・・」
幽霊が持ってきた手紙を手に取り、その中身を確認する幽々子。
手紙を読むその手は震え、瞳は驚きに見開かれていた。
幽「みんな、私ちょっと出かけてくるから、後の事は頼むわね。」
侍従の幽霊たちにそう言うと、幽々子は急いで白玉楼を飛び立った。
幽々子の手に握られた手紙には「差出人 博麗霊夢」と書かれていた。