---司波深夜---
目の前に試験管が2本置かれている。それを嬉しそうに見つめる妹の四葉真夜。
「達也の妹と弟…達也を凌ぐ魔法師になるわよ」
達也は私の長男である。私の卵子と魔法力の量だけは多い男である夫の精子とを、人工授精させて作られた息子だ。そして、また、私の知らない間に、私の卵子と夫である男の精子で受精卵を作ったらしい。
「まさか一卵性双生児になるとは…違ったアプローチが試せるわ♪」
出産未経験である私の子供達は、私の妹の狂気の捌け口にされていた。妹は才能に恵まれた魔法師であったが、12歳の時に誘拐され、非人道的な魔法師開発の人体実験をされた挙げ句、子供を産ませる為に輪姦されたそうだ。その結果、生殖機能は失ってしまったのだが、それは彼女の精神を病ませるには充分すぎた。
狂気に飲まれた妹は、四葉家を含む全世界を恨み、世界を滅ぼす力を持つ魔導師の開発にのめり込んでいった。その材料は私の卵子…私の子供達である。私と魔法力の量だけは多い男と結婚させ、精子を提供させ、人工授精で子供達を作り出していったけど、受精卵を検査し、狙った遺伝子が無いと破棄され、達也は初めて基準をクリアして残ったのだ。
そして、また私の子供達が…
「達也は四葉の遺伝子を生かしたけど、今度の子達は、遺伝子を調整しているのよ♪」
調整体…普通の人間では無くなる。交配では決して得ない組み合わせの遺伝子を組み込み、その結果、身体的に無理がたたり、調整体は短命になりやすいのだ。
「妹の方は、達也の為の調整体にするわ。達也が暴走した時の対抗手段を持っているからね。弟の方は…達也の盾になりそうだわ。ふふふ」
ごめんなさい…私が四葉の人間だった為、あなた達に過酷な運命を…
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一人、部屋で泣き暮れる日々。達也は英才教育という名目て、私の手に戻って来ていない。
「深夜様…息子様の方だけ、信頼出来る筋に預けます」
真夜のいない時を狙って、父に仕えていた執事の葉山が、私の耳元で囁いた。
「信頼出来る筋?」
「えぇ、真夜様に仕えている身としては反逆行為になりますが、深夜様の悲しみを増長したくありませんから。極秘理に息子様は凍結保存されるそうなので、凍結される前に、借り腹に入れて連れ出します」
「凍結保存って?」
聞いていない。何をするつもりなの?
「娘様のバックアップ用途に切り替えたようです。万が一娘様がダメな場合、、性転換をさせて、入れ替える計画だそうです」
それって娘が短命だった場合、一卵性を活かして入れ替えるの?酷い…子供達は道具では無いのに…涙が零れ落ちていく。
「お気持ち、分かります。ですから、この葉山を信頼して、おまかせください。真夜様の手に渡らないようにします」
『命名:雪夜』と書いたメモを葉山に託した。
「息子の名前…せめて、名前だけはつけさせて…」
「わかりました」
---神代明---
「彼女が孕んでいる子供を養育しろと?」
旧知である四葉家先代当主の執事の葉山が、身籠もった女性をつれて、やって来た。
「神代様、あなたにしか、預けられない。魔法師と一線を画す神代家で、子供を養育してください」
葉山が頭を下げた。余程のことなんだろう。
「出生は、どんな感じなんだ?」
「深夜様の卵子と、魔法力が膨大な男との精子を人工受精して産まれた一卵性双生児の片割れです」
胎児のオーラが異常である。妙に暴れている。
「それだけで無いだろ?単なる受精では、このようなオーラは生じ無い。下手すると母体も危ないぞ」
身籠もった女性は苦しげであったので、弟子達に癒やしのオーラを注がせている。
「調整体です…能力の底上げの為、遺伝子を詰め込んでいます」
なるほど、胎児のオーラが拒否反応を起こしているのか。
「もう片割れの母体も危ないぞ」
「彼女達は、借り腹の為の調整体です」
葉山は顔を伏せた。涙を流しているようだ。
「四葉家は、神にでもなった気なのか?」
「うっ…真夜様は狂気に飲み込まれております」
「心優しい深夜様は、哀しんでいるのだろうな…」
「はい…せめて、この子だけは…真夜様の道具にはさせない為にも…どうぞ、神代家で預かって下さい。お願いします」
子供に罪は無い…しかし、産まれる前から、この子は罪を背負っているのか。
「現状で分かっている能力はなんだ?」
「『反射』と『透過』です」
カウンターとスルーか…鍛えようによっては、ラスボスクラスだな。
「わかった預かろう。葉山…彼女はダメかもしれない。それも良いか?」
母体の女性を優しく抱き締める葉山。
「えぇ、それが役目です。無事に雪夜様をお産みするのが、彼女の役目ですから…すまない…こんな役目をさせて…」
「もったいないお言葉です…葉山様…」
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雪夜は無事に産まれた。当家で産まれたので、私の実子として届け出た。雪夜を身籠もっていた女性は、雪夜に初乳を飲ませている間に、息を引き取った。とても幸せそうな顔…
その日の夜、彼女の為だけに、鎮魂の儀式を執り行った。彼女の無念…神代家で預かることにする。
産まれてしばらくすると雪夜に、能力が生まれていた。周囲の者達に安心感を与える『安堵』と、肉体、精神を治癒する『癒やし』である。雪夜の『安堵』のおかげで、息子と娘が健やかに育っていく。二人は雪夜をかわいがり、相乗効果で三人とも、キツい鍛錬を乗り越えていった。
神代家は代々、陰陽師を生業としていた。それは幼い時から鍛錬をしていくのだが、苦しくても辛くても、雪夜の『安堵』のおかげで、三人で乗り越えていった。それは、弟子達に対してもそうだった。雪夜のいない時は、根を上げる者が多かったのだが、今は誰も根を上げない。
『癒やし』はちょっとした傷くらなら、雪夜が舐めるだけで、治っていく。使えば使うだけ、能力が上がっていく。それに伴い、舐めないでも、手を翳し念を込めるだけで、裂傷程度なら治癒されていった。
小学校に上がる頃には、バックアップ要員として、神代家にいないと困るポジションになっていた。
しかし、小学校へあがってから問題が発覚した。雪夜の『反射』と『透過』が原因だった。ケンカに巻き込まれたそうなのだが、雪夜をバットで殴った者が大怪我したそうだった。雪夜は何もしていないのに…能力探査をした結果、『反射』に依る物と判明した。雪夜の『反射』はダメージを倍化させてのフルカウンターだったのだ。パッシブスキルで、雪夜が耐えられないダメージの場合、雪夜の意志に関わらずフルカウンターしてしまうようだ。
『透過』の方も調べた。こちらは、いかなる攻撃でも身体を透過して、ダメージを受けないようだった。そう…雪夜は、ダメージをほとんど受けない体質なのだ…例え核爆発を直撃しても、雪夜にはダメージがまったくないのだ。
「はぁ?チートじゃん!」
っと、次期当主の亘が叫んだ。
「チートだよね」
雪夜は落ち込む。
「亘、そういう言い方は良く無いよ!」
娘の綾香が雪夜を庇う。
「亘、綾香に頼む。雪夜に武芸を叩き込め。武芸を身に着ければ、チート能力は発動しないかもしれないからな」
「うん♪父さん、弟は僕が鍛える」
「ずるいよ~亘!私も鍛えるからね~」
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雪夜はあの事件以来、学校へ通うのを止めた。陰陽師としての仕事以外では、家から出なくなってしまった。周囲に迷惑を掛けるからと言って。不登校の雪夜の為、亘と綾香が、学校へ通うようになった。雪夜に勉強をさせる為、雪夜に勉強を教える為、二人は競うように学校で勉強をしていった。いや、二人の子供だけでは無い。門下生や弟子達も、雪夜に勉強を教えてくれた。雪夜の質問や興味の有る事柄など、訊かれれば丁寧に教えてくれた。
残る問題は、引きこもりの雪夜の悩み…友達のいないことだ。しかし、これもクリアされていく。他流試合や、合同演習などで、他家の子供達が来て、親、兄姉の用事が終わるまで、雪夜と友達となり、遊んでくれた。特に仲が良いのは、千刃流本家の千葉エリカちゃんと、古式魔法の名門吉田家の次男の幹比古君だ。
「ヒッキーのくせに流行に敏感なのはおかしい!」
「え?ヒッキーでないのに、流行に鈍感なのはどうなのよ?」
今日も雪夜とエリカちゃんの楽しそうな会話が聞こえている。幹比古君はあたふたしているようだけど…
---神代雪夜---
病床の父に、僕、兄、姉が呼び出された。三人で父の元に向かった。
「おぉ、良く来た…もう長くない…旅立つ前に、お前達に伝えないといけないことがある」
上体を起こし、僕達を見る父。父の背後には死神…いや、天からの御使いが、父の旅立ちの時を待っているようだ。
「まず、当主の座は亘に譲る。その次の当主は亘の子供か、綾香の子供、もしくは有能な者を養子にして譲れ」
「わかりました」
兄が了承した。
「次に、雪夜。お前は私の実子になっているが、お前は神代家の者ではない」
え?自然と涙が溢れていく。姉が僕を優しく抱き締めてくれている。兄も姉も知っていたのかな?
「お前は、人間では無い」
身体が震えていく…僕は何者なんだ?
「お前は四葉家が生み出した完全調整体と呼ばれる道具だ…少しでも人間の心を養えるように、神代家で預かったのだ」
道具…想定外のショックな言葉…そんな僕を見て、姉と兄は静かなる怒りを纏っている。僕の怒りが暴発しないように見守ってくれているようだ。
「お前には血肉を分けた一卵性の姉がいる。姉も残念だが、お前と同じく完全調整体である。いいか、雪夜…お前の遺伝子上の母親は、司波深夜だ。姉は司波深雪だ。お前達姉弟は母親の卵子に魔法力がある男の精子を、人工的に受精させて生まれた双子である。その後、胎児になる過程で、様々な者達の遺伝子が組み込まれて、お前達二人は完成した。非人道的な人体実験の被験者になった四葉真夜、その女の狂気の捌け口がお前達二人だ。今後どうするかは、血肉を分けた姉と相談しろ。どんな決断をしても、神代家は雪夜を見捨てない。いいな、亘、綾香…雪夜を頼むぞ」
「「はい!」」
涙が止まらない…僕の怒りはどこにぶつければいいんだ?
「司波深夜が旅立った後、お前の姉である司波深雪が訪ねてくる。封印を解く儀式は、お前の身体に刻んである。まず、封印を解き、姉とリンクしろ。何かするのはその後だ。いいな雪夜…」
「はい…」
「もし、願うことが出来るならば、魔法師達の暴走を止めてくれ。道具はお前達だけで終わりにしてくれ。神に成り代わろうとしている魔法師どもに天誅を…」
父は、静かに呼吸を止めていった。その死に顔…は穏やかだった。僕達は父からの最後の願いを受け取った。神の代理人である神代家の者として、偽神は許せないから…