---神代雪夜---
開会式を兼ねた歓迎パーティーと言う名の夕食。立食形式だ。食べたい物をテーブルまで持って来て食べる。立ち食いのビュッフェと言えば良いのか?
「一条将輝がこっちをチラチラ見ているな」
レイモンドが呟いた。
「姉ちゃん狙いみらいだな。姉ちゃんに惚れたなんて許せない!」
「雪夜、私は雪夜以外、お兄様にしか落ちないわ。ほら、食事は楽しく食べましょうよ」
兄ちゃんはスルーしている。
「後、警戒すべきやつは?」
レイモンドに訊いた。
「プリンスの相棒の吉祥寺真紅郎かな?」
「『カーディナル・ジョージ』か?」
兄ちゃんが訊いた。
「そう、ソイツだ。あのコンビは凶悪だぞ」
「お兄様と雪夜よりも?」
「う~ん…凶悪さのレベルが違うかな。アッチは紳士ぶったスパイパー。こっちは変人ぶった鬼畜だろ?」
「なんか、分かり易い表現だな」
って、リーナ。
「まぁ、アッチは戦略級では無く、あくまでマーダーレベルだ。大量殺戮は無理なタイプだよ」
誉められているのかな?
「ゆっきや~っくん♪」
呼ばれたので振り向くと、ウェイトレスの姿をしたエリカがいた。
「なんで…いるんだ?」
「そんなに驚くこと無いだろ?美月とウェイトレスのアルバイトだよ。衣食住付きで、仕事の無い時間は観戦も出来る、選手に選ばれなかった者に斡旋されるバイトなんだよ♪」
「そうなのか…」
「勝てそうなのか?」
「反則にならなければ…」
不安を隠せないあのCAD…ルールブックの反則項目に触れていないけど…
「あぁ、やらかしたんだな、お前!」
エリカに凹まされている僕を見て、含み笑いをしている仲間達…う~ん。
「じゃ、またな。サボりすぎると解雇されるから♪」
エリカが立ち去っていった。
「エリカさんの前では、冷酷にはならないんだな」
って、レイモンド。
「あぁ、アイツの前では愚か者でいたい。それだけだ」
一条と吉祥寺がこっちをちらちら見ている。姉ちゃん以外にリーナも狙っているのか?しばらくすると、一条将輝が近づいて来た。そして、姉ちゃんの横に立ち、
「三高の一条将輝と申します。あなたのお名前は?」
「すみません。彼氏がいるのでお答えはできません!」
ばしっと言い切る姉ちゃん。
「ふっ!俺は一条家の者ですよ。そんな彼氏は止めなさい。俺と一緒になれば、あなたを幸せにしますから」
堂々とナンパする将輝。
「彼を悪く言うような方は、近寄らないで欲しいです」
「ならば、その彼氏の実力を見てみたいです。その彼氏へ決闘を申し込みます」
紳士ぶったナンパ野郎が、姉ちゃんに食い下がる。
「三高の一条君ですよね?堂々とナンパですか?みっともない!」
真由美がキレ気味で言い放った。
「うん?すみません。あなたとは話しておりません」
「いやっ!やめてぇぇぇぇ~!」
将輝が姉ちゃんの手を強引に握ろうとして、姉ちゃんが叫んだ。みんな、将輝に視線を向けた。姉ちゃんは僕の背後に隠れ、僕の肩に手を置いた。
「ほぉ~、君が彼氏か?おい、彼女を賭けて決闘をしろよ!」
「悪いけど、彼女は物では無い。賭の対象にしない。失せろ!紳士ぶったナンパ野郎が!」
「はぁ?師族のプリンスにそのような事を言うか?貴様は!」
偉そうな事を並べている将輝。兄ちゃんも姉ちゃんも、万が一の場合に備えている。リーナはレイモンドを護る様に立っていた。
「すみません。師族では無い僕には、その価値はわかりません。そもそも師族って何者ですか?エライんですか?」
「あぁ、一般人かぁ。死にたくなければ、そこをどけ!」
「お前に殺す権利は無い。そもそも、僕を殺せるほど強いのか?」
将輝の目は怒りの色に染まっていく。
「一般人が、このような場所にいるのは場違いだ!」
「なぁ、一般人の定義は何だ?お前は何様なんだ?」
徐々に僕達から距離を置き始めた、真由美を含む一高の生徒達。
「深雪、里奈、防御を頼む。達也は遊軍だ。礼、真由美の傍へ行け!」
皆指示通りに陣形を整えていく。
「ほぉ~、俺と戦うのか?一般人風情が?お前はバカなのか?」
「うごっ!」
吉祥寺真紅郎の声が響いた。僕に荷重攻撃をしたようで、フルカウンターを真面に受けたようだ。真紅郎を中心に半径10メートルくらいの床がすり鉢状にめり込んだ。
「何?ジョージ!大丈夫か?貴様がやったのか?」
CADを取りだして僕に向けて構えた将輝。チャックメイトだ。CADから術式部分を抜き取った。ついでに将輝の能力と魔力を奪い去っておく。
僕の手の平に球体の物が現れると、一高のみんなは談笑し始めた。危機が去ったことがわかったから。
「おい、撃てもしないのに、CADを出して居直り強盗かよ」
将輝の能力を封じ込めた球体を大切にしまっておく。将輝は震える指で、引き金を引いた。しかし、奪った後故、CADは何も発動しない。
「何?貴様!何をした!」
「はぁ?一般人にわかる訳ないだろ?権力を振りかざすナンパ師さん♪」
将輝はジョージの元へと走り寄り、惨状を目にしただろう。
「おい!ジョージ!しっかりしろ!」
すり鉢へと降りて、ジョージ君を介抱している将輝。
「まさか、一条を囮にして、吉祥寺が撃ち込むとはなぁ」
十文字先輩が僕の後ろにいた。万が一の際に備えてくれたのだろう。周囲に被害が及ばないように。
「フルカウンター持ちにケンカを売るからだよ」
「だよね♪」
笑顔の姉ちゃんが抱きついて来た。
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部屋に戻ると、黒羽姉弟が泣いていた。
「助けて下さい…」
姉の方が助けを求めた。スルーする。僕の後ろから姉ちゃん、兄ちゃん、リーナ、レイモンドが部屋に入った。
「えっ!達也さん…」
「雪夜、彼らは?」
兄ちゃんに訊かれた。
「深雪と里奈と添い寝を、覗き見ていた輩だよ。大会期間中はここにオブジェとして置いておく」
「そうか…」
「達也さん…何で…助けてください…」
「雪夜を狙ったのか?」
「なぜ、ソイツを庇うのですか?深雪さんも…」
「あぁ、兄ちゃん、そいつらの能力と生殖機能は奪った」
「そうか…なら、解放でも良いんじゃないか?」
「スパイだよ!スパイに拷問は憑き物だよね?」
「で、一条は問題無いのか?」
兄ちゃんが話題を変えたので、黒羽姉弟の顔が歪んでいく。
「能力と魔力は奪った。生殖能力は、対戦したら奪うよ」
「あなた達!雪夜の下僕になりなさい。そうしたら、助けてあげますよ」
姉ちゃんが、黒羽姉弟に条件を提示した。
「深雪さん…目を覚ましてください」
「洗脳も催眠術も掛けられていませんよ。亜夜子さん、姉が弟を護るのは不自然ですか?」
はっとした黒羽姉。
「彼って、深雪さんの弟なんですか?だから、達也さんも…」
「秘密だぞ。もしリークすれば、お前達に物理的に消えてもらう」
兄ちゃんの脅し言葉。それだけ充分なようだ。陥落した黒羽姉弟。兄ちゃんの怖さを知っているようだった。陥落したので、拘束を解いて上げた。
「まぁ、能力も無いし、これからは、普通の中学生として生きろよ♪」
「能力を返してください」
泣いて縋る黒羽姉。脱がした服はいいのかな?
コンコン!
ドアがノックされた。姉ちゃんが応対すると、夕歌と澪さんだった。
「あれ?黒羽姉弟…全裸ってことは、敵かな、雪夜君」
夕歌に訊かれた。
「今、陥落させたところ。服従させるにはどうすればいいんかな?」
黒羽姉弟は、夕歌と澪さんを見て、驚いていた。
「夕歌さん…後、確か、五輪澪さん?」
「初めまして、五輪澪です」
澪さんが車椅子に座りながら、頭を下げて挨拶をした。
「どうして…師族の敵じゃ無いんですか?」
夕歌と澪さんが、僕の抱えている、避けられない問題以外を説明した。
「そうだったんですか…お願いします。能力を返して下さい。雪夜さんに協力をしたいです」
と、黒羽姉に懇願され、能力を返還した。
「じゃ、明日からの競技中の監視を頼めるか?」
「まかしてください…後…脱がした服も…」
あぁ、返すのか…彼女の服を、彼女に手渡した。後ろを振り返り、恥ずかしそうに着衣をしていく黒羽亜夜子。
「夕歌は澪さんに付いていてくれるかな?部屋は兄ちゃん、案内してくれるか?」
「あぁ、わかった」
「わからないことは、レイモンド経由で夕歌に送るから、調べてくれるかな?」
「わかった。じゃ、達也さん、案内してくれるかな?澪さんが疲れているのよ」
三名が部屋を出て行った。
「亜夜子達は、ここの部屋を使え。僕はどうするかな」
「雪夜…浮気はダメよ~」
って、姉ちゃんが僕を抱き締める。そんな姉ちゃんの姿を、目を見開いてみている黒羽姉弟。こんな大胆不敵な司波深雪の姿は初めて目にしたのかな?
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夜の偵察と称して、姉ちゃんの部屋から逃亡した僕。誰の部屋に行くかな?一応、明日の試合会場を点検しに行く。見た目異常は無いなぁ。罠も無さそうだな。そんなるとリアルで何かをするのか?
ホテルの周囲も偵察。途中、服部先輩と出会った。
「お前も見回りか?」
「まぁ、見回りしながらの逃亡ですね」
「あぁ、そういうことか」
空気の揺らめきを感じ、服部先輩をはね除けた。次の瞬間、50メートル先くらいで呻き声がした。
「なんだ?雪夜!」
「実弾です。フルカウンターして、相手に当たったはずです。警戒レベルをあげてください」
「わかった」
先輩は無線機に指示を出した。何者かが襲ってきた。近接攻撃か?応戦をする僕と先輩。致命的ダメージな攻撃は、総てフルカウンターしていく。透過すると先輩が危険だし。
「雪夜、もう少し頑張れ!うっ!」
先輩が刺された。くそっ!先輩の方へ駆け寄り、僕の能力で先輩を護る。しかし、敵の攻撃が終わらない。なので、最後の手段に出ようとすると、敵が消滅していく。兄ちゃんとリーナだ。
「雪夜、大丈夫か?」
「服部先輩が刺された!」
「治癒をしてくれ。俺達がガードする」
治癒能力を発動すると、反射能力が使えない。2つの固有能力は同時使えない僕。先輩の傷口に手を当てて、治癒能力を全開にしていく。思ったより出血量が多いし。
「大丈夫か!」
十文字先輩達の声が聞こえて来た。襲撃者達が逃げていく。
「服部がやられたのか?」
「まだ、動かせないです。治癒出来るまで、ガードをお願いします」
「わかった。おい!索敵出来るやつは、フルに索敵しろ。雪夜と服部を護りきるぞ!」
十文字先輩の心強い声が聞こえた。
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翌日…グッタリとして、起き上がれない僕。エネ切れで有る…姉ちゃんが、朝飯を持って来てくれた。ソレを姉ちゃんに食べさせてもらう。
「ねぇ、口移ししてあげようか♪」
「手で摘まんでください。口移しはダメです」
以前、口移しして貰ったのだが、口紅味のサンドウィッチになったという。今日の姉ちゃんは濃い目の口紅だし。
「え?残念♪」
「口紅無しの時にお願いします」
「う~ん、お化粧したから…今日はダメかぁ…」
昼近くになって、起き上がれるようになって、姉ちゃんの肩を借りて、一高の本部テントへと向かった。テントの中は慌ただしい。何かあったようだ。
「真由美!何か遭ったのか?」
「レース中に事故。摩利が巻き込まれて、脳震とうの上、骨折よ。雪夜君、出来る?」
頷く僕。姉ちゃんに摩利の病室に連れて行ってもらった。ベッドの上には意識の戻らない摩利が横たわっていた。まず、頭に手を翳して、能力を全開にする。
頭蓋骨は問題無い、脳みその損傷は無い…脳みそが揺れている。これが原因か。脳みその振動を徐々に止めていく。次に全身を探査して、損傷部分を治癒させていく。
右腕骨折…肋骨も2本いっているなぁ。まず、肋骨をくっつけていく。その後、腕の治癒。骨をくっつけて、神経、血管、筋肉の損傷を治癒させていく。エネルギーがマズい…あぁ、そうだ。将輝から奪った魔力があったなぁ。魔力を補填して、治癒を続けていく。
総ての治癒が終わったのは、夜更けだった。ダメだ…動けない。その場に崩れるように倒れる僕。
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目覚めると真由美の妹達が添い寝をしていた。
「お兄ちゃん、目がさめたんだね」
お兄ちゃん?誰のこと?
「泉美、お姉ちゃんに知らせて来て」
「うん、わかった」
一人が部屋から出て行った。
「なぁ、何で、僕をお兄ちゃん呼びしたんだ?」
残った方の妹に訊いてみた。
「だって、お姉ちゃんの彼氏だよね?お兄ちゃんから見たら、お姉ちゃんは愛人かもしれないけど」
そんな立場なのか?
「それでいいのか?」
「お姉ちゃんが、それでいいって…一緒にいると幸せな気分になれるから、それ以上は無理に望まないって。離れて行かれるのは困るから。私達もお姉ちゃんの言っている意味が分かってきました。一緒にいると、イヤなことが消えていく。不思議な能力ですよね?」
笑顔で話し掛けてくる真由美の妹の一人。この前、果たし状を送って来たヤツとは思えない変貌ぶりである。不思議な能力の正体は『癒やし』だろうな。兄ちゃんの見立てでは、近くにいる者の精神ダメージを緩和、消滅させているらしい。
「雪夜君、大丈夫?」
真由美が部屋に走り込んできた。はぁ、はぁっと荒い呼吸だ。
「まだ、怠い…起きて話すことは出来る。動けるかは…問題あるかな?エネルギー切れなのは確かだよ。そうそう、摩利はどうなった?」
「お医者さんが驚いていたわ。一晩で完治する怪我では無かったはずってね♪」
「深雪は?」
「今、試合中よ。このまま行くと、深雪さん、雫さん、ほのかさんでの優勝決定戦になるかも…」
「あのCADは検査を通ったのか?」
「うん♪達也君が、検査場へ持ち込んで、コンセプトを説明してくれて、通過できたの」
兄ちゃん、ナイスジョブだな。
「試合会場に行かないと…」
ベッドから降りるが、床に抱きついた僕。うっ、立つ体力すら無いのか…
「大丈夫?じゃないか…」
七草3姉妹の手により、ベッドに戻された僕。う~ん、治癒術を効率的にしないとダメだなぁ…
うん?将輝から奪った能力の玉が無い?盗まれた…誰に?残留思念を読み取る。摩利の治癒後、ここに運ばれて…意識の無い僕から、九島の爺の手下に奪われたようだ。で、将輝に戻されたのか…
「真由美!達也に連絡を頼む!」
「もうすぐ来るわよ」
「試合中だろ?」
「司波さんが、雪夜君の警護を頼んだのよ」
しばらくすると、兄ちゃんがやって来た。
「雪夜、どうだ?」
「将輝の能力が戻っている。9が暗躍している。能力の玉の存在も知っているようだ」
「老師が神代家を調べあげているのか。モノリスコードで俺達を潰すつもりだな」
「たぶん…返り討ちにしよう。姉ちゃんをナンパする将輝を精神的に潰す。人殺しには成りたくないからね」
「そうだな」
そんな僕達の会話を、身震いをして恐そうに聞いている七草3姉妹。