「すまんの。手違いでお主を死なせてしまって、本当に申し訳ない。」
「いえ、気にしないで下さい。」
警察から逃げている途中、俺はトラックに轢かれ、意識を失った。
俺が目を覚ました時、空に浮かぶ部屋の中に俺はいつの間にか座っていて、目の前には「神」を自称する老人が俺に頭を下げていた。
訳が分からないながらも、俺は相手に話を合わせ、これからの事について考える。
この状況が現実なら、俺は死んでいる事になる。
警察にもう追われる心配はないが、俺が前世でした事を踏まえれば、俺はこのまま地獄行きだ。
しかし、この神様の爺さんの言うように俺が死んだのが手違いだというのなら、まだ手はあるだろう。
「ところで、俺が死んだ事に対する保証はあるんでしょうか。」
「もちろんじゃ。お主は前世でボランティアをしたり、命の危機も省みずに子供を助けたりするような男じゃったからな。お主のような善人を手違いで死なせてしまったんじゃから、相応の保証はしようとも。」
どうやら、この神様とやらは、俺と誰かを間違えているようだ。
俺は生まれてこの方ボランティアをした事も、自分の命も省みずに人を助けた事もない。
しかし、勝手に勘違いしてくれているのなら、これを利用しない手はないだろ。
「では、保証としては一体どんな事をしてもらえるんですか?」
「お主を生き返らせてやろう。ただ、天界の規定で、元いた世界に生き返らせてやる事はできんのでな。お主には、異世界で生き返ってもらう。」
「異世界ですか? どんな場所か分からない未知の土地で、俺のような定年間近の中年男がどうやって職を得て生きていくんです?」
「お主が異世界で苦労する事のないよう、身体能力を引き上げよう。あと、異世界には魔法という概念が存在するが、お主の魔法の資質も最大レベルに設定する。それと、これは以前に手違いで死なせてしまった少年にもやった事なんじゃが、お主の持っておるスマートフォンとやらを異世界でも使えるようにしよう。」
「異世界でこれを使えるようにされても、正直困ると思うのですが?」
「そんな事はないとも。何だったら、今言った少年に会って話を聞いてみると良い。少年の住居の近くにお主を送ろう。」
「分かりました。」
スマホなんて使えるようにしてもらったところで、一体どうしろと言うんだ。
そう言いたい気持ちは山々だが、相手は神様だ。
俺が迂闊な発言をすれば、俺を誰かと勘違いしている事に神様は自力で気付くかもしれない。
それに、スマホはともかく、身体能力と魔法とやらは最大レベルに設定すると言ってくれているからな。
異世界がどんな場所なのかは分からないが、とりあえず神様の言っていた少年に接触を図って情報を仕入れれば良いか。
「では、お主をこれより異世界へ送る。心の準備は良いかね?」
「はい。いつでもどうぞ。」
俺の第二の人生は、ここから始まる。
どんな世界なのか、楽しみにさせてもらうとしよう。
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「ここが異世界か。」
神様の放った光に包まれた後、光が晴れて俺の目に見えてきたのは、何処かの草原だった。
のどかな緑の草や木々と、澄み切った青い空。
異世界という割には、俺の元いた世界と大して変わらない光景だ。
「本当に異世界なんだろうな?」
確か、この世界では魔法があるんだったか。
で、俺は魔法の資質を最強レベルに設定されているはず。
だったら、魔法の呪文を唱えれば魔法が撃てる……おい、待て。
「呪文なんて分からんぞ!」
魔法の資質を手にしたところで、魔法の使い方が分からなければ全く意味がない。
くそっ、あのジジイめ!
「魔法の使い方なんて、誰かに聞くか、自分で調べるしか……そうか、スマホがあるな。」
スマホがこの世界でも本当に使えるのなら、こいつで調べ物をする事だって可能じゃないだろうか。
そう考えた俺は、スマホの音声AIに向かって話しかける事にした。
「魔法の使い方を教えろ。」
俺の声に反応し、スマホがピコンと音を鳴らす。
その直後、スマホの画面には、何と「魔法の呪文の一覧」が表示されたのだ。
「炎よ来たれ、ファイヤー・ボール!」
試しに、初級魔法の欄に書かれていた呪文を唱えてみる。
すると、前にかざした俺の手から、煌々と燃え上がる火の玉が射出され、近くにあった木をあっという間に燃やし尽くした。
「おお、本当に魔法が使えた! しかも、初級魔法とやらでこれほどに威力があるのか!」
いや、もしかしたら、これは俺の魔法の資質が最大レベルに引き上げられているからかもしれない。
たかが初級魔法でも、今の俺にかかれば相当な破壊力を出せるという事だろう。
「とりあえず、魔法が使える事が分かったのは収穫だな。あと、スマホも。」
では、ここから重要なのは、魔法をどのように活用し、生計を立てていくのかというポイントだ。
神様が言っていた少年とやらに接触して、ここでの生き方を尋ねるとしよう。
「確か、その少年の住居の近くに俺を送ると言っていたな、あの爺さん。」
だとしたら、近くに見えている街らしき建物の群れの中に、少年の住居がある可能性は高い。
しかし、「かもしれない」で行動を起こして無駄足に終わるのは腹が立つ。
そんな不確定な行動をせずとも、俺には手がある訳だからな。
「転生者の少年の居場所を教えろ。」
俺は再び、スマホで検索をかけた。
すると案の定、スマホに地図が映し出され、光る点によって俺の現在地と目標の所在が示された。
「やはりあそこに見える建物の群れの中か。よし。」
俺は自分の着ているグレーのスーツを整え、歩き始める。
この異世界で生計を立てるために。
そして、この世界で「獲物」を見つけるために。