「ミルクは如何でござるかー!?」
とある街中で、1人の少女がビンに入ったミルクを売っていた。
彼女は、ピンクの着物と紺色の袴を着た日本人系の容姿をした美少女だ。
その少女の名前は、
生まれ故郷であるイーシェンに私用のために戻った後、再び転生者の少年の元に帰ろうとしたものの、道中で手持ちの金が尽きたので、こうしてミルク売りのアルバイトをしている。
――というのは、もちろん、ただの設定だ。
ミルクを売っているところを転生者の少年に見つかるのはマズい。
そこで、俺の転移魔法「ゲート」を使い、少年が住んでいる町から離れた別の街で、八重に扮したイロハにミルクを売らせている。
出産を間近に控えているイロハだが、サキュバスの特性のお陰か、酷使しても流産などの危険はないそうなので、容赦なく働いてもらっている訳だ。
彼女を働きに行かせるようになってから早3日ほど経つが、イロハのミルクは非常に評判が良いらしく、予想以上に金を稼いでいる。
そもそも、ミルクはイロハの無限に噴き出す母乳なのだから、元手の金額はゼロ。
人件費も、イロハには金を払う必要がないのでゼロ。
その上、ミルクを入れるビンや、売り物のミルクを置く台すらも「モデリング」の魔法で作成した物だ。
つまりは、商売のために経費をほとんどかけておらず、ミルクの売り上げが丸々懐に入ってくる。
まあ、モデリングだけでミルクのビンを用意するには材料の調達が必要であり、これには限界があるので、ミルクを売り始めてから2日目に、1日目の売上金を使って空きビンを大量に安く仕入れておいた。
これで、当分金に困る事はない。
お陰様で、俺は次の女の捕獲に専念できる。
「冷蔵庫はこれか。」
少年達が家を出た頃を見計らって、俺はゲートの魔法で彼らの住居へ潜入していた。
目的はもちろん、調査と仕込みのためだ。
それにしても、まさか、異世界にも冷蔵庫があるとはな。
文明レベルは俺の元いた世界の中世くらいの時代と同じだと思っていたが、どうもそうではないらしい。
とはいえ、やはり全体的な文明レベルは俺の元いた世界よりは低いのは確かだ。
俺の常識がこの異世界では通用しない事は、肝に銘じておかねばな。
「このミルクと取り替えるとしよう。」
冷蔵庫の中の物が不自然に増えていれば怪しまれる可能性がある。
そこで、既に冷蔵庫の中にあるミルクを、イロハの母乳と交換。
数人で暮らしているからか、はたまた胸が小さい事を気にしている女がいるのか、ミルクは冷蔵庫に大量に入っていたので、思いの外多くのミルクを母乳と入れ替えられた。
この量なら、ユミナ以外の女もイロハの母乳を飲んでくれるだろう。
ユミナ以降の女を捕獲するための伏線になるかもしれない。
さて、一箇所に長居は禁物だ。
少年達がゲートの魔法でいつ戻ってくるか分からないのだからな。
行動は迅速に、だ。
「今日のうちに、やれる事はやっておかないとな。」
女を捕まえていけば、女が減った事を不審に思った少年達も当然警戒レベルを引き上げるはずだ。
家の中を詳しく調べられる機会は、いなくなった女が八重1人だけという状態の今しかない。
「まずは、ユミナの部屋だ。」
覗き見の魔法で、ユミナの部屋の位置は予め確認済みだ。
さて、次のターゲットのユミナの部屋には、何があるのか。
「うむ、普通だな。」
部屋の内装、タンスの中身など、思っていたより普通だ。
身分の高い娘である事はイロハからとっくに聞いていたが、その割にはあまり高級そうな物は置いていない。
服や下着はさすがに高級そうなデザインだが、他に特筆すべきポイントはないな。
「とりあえず、仕込みをしておくか。」
屋敷全体に隈なく魔法を仕掛ける事も考えたが、これはリーンなどに気付かれる可能性がある。
とはいえ、魔法を使わずに仕込みをするのは無理だ。
そこで今回俺が使うのが、以前に八重のオッパイの開発にも使用した「微弱な魔法を込められるガラス玉」だ。
この黄色く濁った色のガラス玉には、ホルシュタンが催淫魔法を込めてくれている。
せいぜい初級魔法レベルの魔法しか込められない魔道具程度なら、ユミナ以外の人間に魔道具の存在を感知されても、ユミナの持ち物だろうと見過ごしてくれる可能性があるからな。
「ここはこのくらいでお暇するとしよう。」
ガラス玉の数には限りがある。
込めた魔法が切れた後は、再利用と証拠隠滅を兼ねて速やかに回収しなければならない。
あまり多く仕込み過ぎると回収に手間取り、思わぬ事故に繋がる危険性が出てくる。
何事も程々が肝心だ。
ガラス玉を3個ほど、部屋の各所に仕掛け、ユミナの部屋を後にした。
次に向かうのは、エルゼの部屋だ。
「エルゼの部屋にも仕込みをしておかないとな。」
魔法が使えない脳筋タイプと思われるエルゼは、捕獲の難易度が低めだ。
魔法に対して耐性がないのなら、ユミナよりも堕とすのは楽かもしれない。
とはいえ、欲を張って2人同時に、では調教が中途半端になりかねないし、それどころか捕獲に粗が出る可能性もある。
そこで今回は、あくまでユミナ以降の伏線を張る程度に留める。
だから、エルゼの部屋に仕込むガラス玉は1つだけだ。
「あとは、家の中をもう少し調べるくらいにしておこう。」
今日の調査と仕込みには、この異世界における俺の調教目録の完成がかかっている。
時間が許す限り、しっかり見させてもらうぞ。
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冬夜達が自宅に帰ってきたのは、すっかり日が暮れた頃になってからだ。
八重がいなくなった事で前衛が弱くなったため、各々が二手に分かれて敵を倒すという今日の仕事には、いつもより時間がかかってしまった。
「ふあぁ~……。さすがに今日は疲れましたね、エルゼさん。」
口元を抑えながら、ユミナは欠伸をした。
すると、ユミナと同じく疲れた顔をしているエルゼが、大きく頷く。
「そうね。夕飯を食べたばかりだっていうのに、早くベッドに入って寝たいわ。」
「駄目ですよ。ちゃんとお風呂に入らないと。それに、食べてすぐに寝ると……んん。」
「ちょっと、アンタの方が寝落ちしそうになってるじゃないのよ。」
「すみません。冬夜さんが自室に行ったので、少し油断してしまいました。」
「アイツの前では、そんなみっともないところ見せられないもんね。でも、さすがにもう限界だわ。だけど、ここから動く元気もあんまり残ってないわね。」
「私もですよ。」
ユミナとエルゼは互いに笑い合う。
そこに、皿洗いを終えたリンゼがやって来た。
「お待たせしました。お風呂に行きましょうか。」
「はーい。」
リンゼに促され、エルゼとユミナはヘトヘトの体に鞭打って椅子から立ち上がる。
そんな彼女達に、リンゼは心配そうな眼差しを向けた。
「2人共、大丈夫? 凄く疲れた顔だけど……。」
「そりゃあ、アンタと違ってあたしは前衛で動き回ったもの。八重がいなくなったから、前衛が出来るのってあたしと冬夜だけなのよね。」
恨めしそうな目で、エルゼは妹を睨む。
それに続いて、ユミナもリンゼに突っ掛かった。
「私だって、本来は後衛なのに動き回るハメになったんですよ。リンゼさんは冬夜さんと2人きりだったんだから良かったですね。」
「ちょっとユミナ、それ、あたしが頼りなかったって意味?」
今日のモンスター討伐の時、冬夜と2人きりで行動していたリンゼを責めるつもりで放ったユミナの言葉が、エルゼの方に刺さってしまった。
本来であればこのような不快感を相手に与える台詞を使わないユミナだったが、今日は疲れている事も相俟って、いつもより気遣いに欠ける言葉が出たのだ。
「申し訳ありません、エルゼさん。私、決してそのようなつもりで言った訳ではないです。」
淑女たるもの、誤りは素直に認め、真摯に謝罪すべし。
己の信条に従い、ユミナは頭を下げた。
「お姉ちゃん、許してあげたら? ユミナさんだって、悪気があって言った訳じゃないと思うから。」
リンゼがユミナの援護射撃に加わった。
こうなっては、エルゼの方からこれ以上苦言を呈する事は出来ない。
エルゼは溜息をつき、踵を返す。
「分かったわよ。それより、さっさとお風呂に入りましょう。汗で体中ベトベトだしね。」
「はい!」
許してもらえた事に安堵しながら、ユミナはエルゼについていく。
魔の手がすぐそこまで迫っている事に全く気付いていない、無邪気な笑顔で。
彼女の堕落の序章は、今夜、開幕を迎えようとしていた。