ユミナの放った災厄の嵐は、強烈な音と雷光で、ユミナ自身の視覚や聴覚をも激しく刺激してくる。
しかし、永遠に続くかと思われるほどの轟音も閃光も、やがて次第に弱まっていき、消滅していく。
嵐が弱まると、その嵐の中に取り込まれていた者達の姿が、ユミナにも視認できるようになった。
「やったの……?」
真っ黒い空間の見えない床の上に、赤ん坊が倒れている。
嵐の雷光が直撃したためか、赤ん坊の元々黒かった肌は焼け焦げて更に黒さを増している。
また、暴風によって切り刻まれた全身の傷からは、ドロリとした赤色の血液が流れ出ていた。
赤ん坊はピクリとも動いておらず、うるさく泣いたりもしていない。
直接触って確認などせずとも、赤ん坊が生きていないのは明らかであった。
「ごめんなさい。せめて、次に産まれる時は、善良な人の子として産まれて下さいね。」
ユミナはその場に膝を突き、両手を合わせて赤ん坊の冥福を祈った。
魔物の赤ん坊とはいえ、この世に生を受けたばかりの命をユミナは奪ったのだ。
だからこそ、慈悲深い彼女は、失われた命に対して精一杯の願いを捧げた。
もっとも、ユミナのこの行為は、他人からすれば「単なる自己満足、または自責の念から逃れるためのもの」でしかない。
特に、命を奪われた赤ん坊の母親にとっては。
「わたくしの赤ん坊を、よくも、よくもォッ!」
「!」
嵐の痕跡が完全に掻き消え、イロハが再び姿を見せた。
さしもの彼女もユミナの魔法の直撃に晒されてはノーダメージとはいかなかった様子で、全身に多数の傷を作っている。
また、纏っていた黒いボンテージ衣装も所々破けている他、コウモリのような巨大な翼の膜にも穴が幾つか空いていた。
しかし、致命傷は免れた様子で、覚束ない足取りながらもイロハは立っている。
夜叉の如く、憤怒を滲ませた凄絶な表情で。
「ご主人様の命令がなければ、ユミナ殿の首をここで掻き斬ってやるところだったのに! ですが、わたくしはご主人様の妻。だから、あなたをここで殺したりはしません。但し……!」
イロハは、地面に横たわる我が子の亡骸に、長く鋭利な爪を突き立てた。
そして、赤ん坊の腹を割き、その中から赤黒い臓物を取り出す。
「これは、わたくしとご主人様の子の心臓。人間の心臓と同じく、魔物にとっても命の源である重要な臓器。この心臓を、あなたにプレゼントして差し上げますわ、ユミナ殿。」
「え?」
イロハの台詞の意味が分からず、ユミナはポカンと口を開けたまま固まっている。
そんな彼女の口に、イロハは何の躊躇いもなく、目にも止まらぬ速さで、我が子の心臓を突っ込んだ。
「むぐうっ!?」
心臓を口の中に入れられるという予想外の出来事に、ユミナは一拍遅れて反応し、イロハを引き剥がそうと相手の腕を掴む。
だが、イロハの指先は、赤ん坊の心臓をユミナの喉奥目掛けて弾き飛ばし、見事に食道へとインさせてしまった。
赤ん坊の心臓はユミナの胃の中へ運ばれ、あっという間に胃液によって消化されて、ユミナの肉体を形作る要素の1つとなる。
サキュバスの因子を既に全身に植え付けられているユミナは、吸収した赤ん坊の心臓と共鳴し、遂にその肉体に変化を起こした。
「うっ、あっ、いやあああっ! 体が、縮んでる!?」
ユミナの手や足が、みるみる短くなっていく。
それに比例して身長も下がり、ユミナの顔立ちは、今の12歳という年齢よりも幼いものへと退行していった。
「ひゃあっ、いやっ、わたち、だめっ!」
外見が幼くなるにつれて、ユミナの言葉遣いまでもが辿々しくなる。
服や下着はぶかぶかになり、真っ黒な床の上にずり落ちてしまった。
だが、今のユミナに、自身の格好を気にする余裕などない。
否、全裸である事を恥ずかしく思う気持ちすらもなくなった、と言う方が正確だろうか。
「あっ、あっ、うっ、うええええええええええんっ!」
遂に、ユミナは完全な赤子の姿に変わり果ててしまった。
そんなユミナを、イロハは慈母の表情を浮かべながら抱き上げる。
「わたくしの赤ん坊は、あなたと融合したのですわ。だから、あなたはこれからわたくしの子供です、ユミナ殿。でも、ご主人様の命令は、あなたを立派なサキュバスに変えてからご主人様の元へ連れて行く事。今の赤ん坊の姿のままでは、連れて行けませんわ。ですから、あなたには今から、元の12歳まで成長し直して頂きます。わたくしの子として、ね。」
イロハは、片手で自分の乳房の先端、膨れ上がった真っ黒な乳輪の根元を掴んだ。
そして、長く伸びたデカ乳首を、ユミナの口の中に差し込む。
イロハの黒乳首はまるでストローのような形状をしており、赤ん坊が母乳を飲みやすいようになっている。
ユミナは、乳歯をイロハの乳首に食い込ませ、コリコリと齧りながら、乳首を啜り始めた。
「んっ、あんっ!」
乳首が性感帯であるイロハは、顔を上気させ、艶かしい声を漏らす。
しかし、赤ん坊のユミナは当然ながらイロハの反応など意に介さず、ただひたすら母乳を飲み続ける。
イロハの乳房の中では無限に母乳が生成されるため、乳首からは滞りなく母乳が噴き出し、ユミナの体内に浸透していく。
母乳は、人間の赤ん坊が産まれて初めて口にする食事だ。
幼子は母乳を飲んで成長し、体の基礎を作っていくのだ。
そして、ある程度体が出来上がったところで、ようやく他の食事を食べるようになる。
だが、イロハの母乳は、人間のそれとは当然異なり、サキュバスの姫の1人であるホルシュタンから受け継いだ魔力と、潤沢な栄養が含まれている。
このため、元々12歳であるユミナを元の年齢まで再成長させるのなら、母乳だけで事足りてしまう。
「さあ、立派なサキュバスになりなさい、ユミナ。」
母乳を飲み続けた事で、ユミナの全身の細胞の全てが、とうとうサキュバスの遺伝子によって侵蝕された。
更に、ユミナの元々持っていた魔力とサキュバスの魔力が結び付き、その魔力は、ユミナの細胞の成長と分裂を急加速させていく。
成長に必要な栄養素と魔力は、イロハの母乳によって絶えず供給され、ユミナの肉体の急激な再成長を促した。
「んむ、んむっ……。」
赤ん坊だったユミナの体が、段々と大きくなっていく。
3歳、4歳、5歳と、瞬きする間に成長していく彼女の身体には、サキュバスの子である事を示す特徴が早くも現れ始めていた。
白い肌に施された、入れ墨のような黒い装飾。
何処からともなく生成された、赤いボンテージ衣装。
頭部の左右の金髪を掻き分けて生えている、緩やかなカーブを描いて上に伸びる角。
背中にある、小さなコウモリのような翼。
更に、10歳を過ぎた辺りに肉体年齢が差し掛かると、サキュバスの血のお陰か、ユミナの身体は急激に成熟していく。
胸やお尻は、人間だった頃よりも脂肪が少しだけ増量されて、太ももの白い皮膚はムッチリと張り詰める。
そして、元の12歳にまでユミナが成長し切ると、彼女の身体の変化は止まり、同時にユミナがイロハの乳首から口を離した。
「立派なサキュバスの娘になりましたわね、ユミナ。」
イロハは、母親としてユミナに語り掛ける。
すると、ユミナは真っ赤な唇の端を吊り上げて、その場に片足の膝をつけた。
「私を育て直して頂き、ありがとうございます、お母様。ユミナ・エルネア・ベルファスト、これよりお母様の娘として、共にご主人様のため、身を粉にして尽くさせて頂く所存です。」
遂に、ユミナは人間の姫からサキュバスへと堕ちた。
だが、彼女のサキュバス化は、まだ未完成だ。
ユミナは、イロハの主人である男から一度も精を注がれていないし、イロハのようにサキュバスの姫から直接力を授かってもいない。
「ユミナ。これより、わたくしと共にご主人様の元へ戻りますわよ。準備はよろしくて?」
「少しだけお待ち下さい。出立する前に、怪しまれないよう偽装工作が必要ですので。」
「ああ、そうでしたわね。でも、ご主人様をお待たせしているのだから、急ぎなさい。」
「心得ております。」
ユミナはお辞儀をイロハに返すと、早速偽装工作に取り掛かった。
八重が連れ去られた時と同じように置手紙を書き、それをリビングのテーブルの上に置く。
その後、ユミナはイロハと共に、屋敷から出て行った。