※この作品はR-18です。

寝取りはスマートフォンと共に   作:ナツバト

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裁判、そして断罪。

 リンゼが陥落してから数日後。

 遂に、望月冬夜に審判が下される日が訪れた。

 中世ヨーロッパ風の時代に近い文化を持つこの異世界においても、罪人を裁判で裁く制度は存在する。

 今回の裁判の舞台となるのは、王宮のすぐ近くにある街の中の裁判所だ。

 そして、その裁判所の中には、既に役者が揃い踏みしていた。

 審判を下す裁判官。

 現代日本で言うところの検事の役割を務める憲兵団の人間。

 原告のユミナ・エルネア・ベルファスト第一王女と、彼女の両親にしてこの国の王であるベルファスト王・王妃夫妻。

 最後に、被告である望月冬夜。

 本来であれば、ここには更に被告の弁護士や、無実を証言するための証人などもいるのだが、今回は原告が王族の人間だ。

 現代日本のように三権分立などというものが存在しないこの地で行われる今回の裁判に、被告側の証人として出廷するというのは、つまるところ王に反旗を翻すに等しい。

 裁判に勝利し、原告を納得させられたなら無事に終わるかもしれないが、あまりにもハイリスク過ぎるために、誰も弁護や証人の役目を買って出ないのだ。

 従って、この裁判には、望月冬夜の味方がいない。

 裁判所にいる全ての人間が、彼にとっての敵だった。

 

「まずは、今回の被告の罪状を述べよ!」

 

 裁判長が、手に持った木槌を叩きながら、検事役の憲兵の方を見る。

 すると、直立不動の姿勢で背筋を伸ばして立っていた憲兵は、手に持った紙に書かれている罪状を高らかに読み上げた。

 

「被告人、望月冬夜には、不敬罪・暴行罪・強姦の3つの罪状の嫌疑がかかっております。望月冬夜は、ベルファスト王国の第一王女であらせられるユミナ・エルネア・ベルファスト殿下の婚約者でした。しかし、彼はまだ12歳の殿下に対し、連日のように性行為を強要し、更に殿下を妊娠させたと知るや、殿下を邪険にし、力尽くで屋敷から追い出したのです!」

「異議あり! 僕は、そんな事は1つもした覚えはない! ユミナ、何か言ってくれ! これは何かの間違いだって!」

 

 手錠を嵌められたまま被告人席に立たされていた望月冬夜が、憲兵の発言に食って掛かり、ユミナに同意を求める。

 しかし、妊娠によりお腹を大きく膨らませた姿のユミナは、ひどく怯えた表情を浮かべた後、顔を俯けてしまった。

 そんな彼女を、両隣の王と王妃が優しく支え、冬夜の視線からかばうために身体を傾ける。

 この一幕により、始まったばかりの裁判であるにも関わらず、冬夜の心証は既に最悪と呼べる域に達していた。

 更に、冬夜の正面の席に座る裁判長が、厳しい声で冬夜を制止する。

 

「被告人は静粛に!」

「で、でも!」

「被告人には、あとで発言の機会を与える! それまでは、そこで静かにしていなさい!」

「くっ……!」

 

 冬夜は納得していない様子だったが、唇を噛み締めながら、小さく頷いた。

 今ここで無闇に憲兵の発言を否定しても、周囲からの自分の心証が悪くなるだけだと彼は気付いたのだ。

 とはいえ、今更心証を良くしようとしても、最早手遅れだったが。

 

「――以上が、被告人の罪状となります。また、今回、彼の罪について証言してくれる者を呼んでおります。裁判長、証人達の発言を許可して頂けますでしょうか?」

「許可する。証人を前に。」

「は! 2人を連れて来い。」

 

 憲兵が、すぐ傍に待機していた別の憲兵にそう命じて、別室に待機させていた証人達を審判の場へと連れてきた。

 証人達の姿を目の当たりにした冬夜は、驚きの余り目を大きく見開いて、喉の奥から掠れた声を絞り出す。

 

「う、嘘だろ……? どうして、エルゼとリンゼまで……?」

 

 原告側の証人として現れたのは、ついこの間まで生活を共にしていたはずのエルゼ・シルエスカとリンゼ・シルエスカ姉妹だった。

 その衝撃に呆気に取られる冬夜をよそに、証言の機会を与えられた彼女達が口を開く。

 最初に口火を切ったのは、姉のエルゼの方だ。

 

「あたしと妹は、被告人の望月冬夜と少し前に知り合い、ユミナ殿下と共に、皆で1つの屋敷に一緒に住んでいました。あたし達は、冬夜の普段の振る舞いを見て、この人となら上手くやっていけると信頼していたんです。ですが、それは間違いでした。彼は外面は良いですが、家の中での振舞いは暴君そのものだったんです。ユミナ殿下だけでなく、あたし達も彼に暴力を振るわれた事は何度もありました。ユミナ殿下に対する振る舞いは更に輪をかけてひどいもので、殿下は毎日のように泣かされておりました。ですが、ユミナ殿下は冬夜との婚約を喜んでおられる王様や王妃様のために、ひどい目に遭い続けながらも必死に毎日屋敷で耐え忍んでいたんです。そんな矢先、ユミナ殿下の妊娠が発覚しましたが、冬夜は身重の殿下を何度も殴りつけ、殿下を屋敷から放り投げて追い出したんです!」

 

 エルゼがそう強く言い切ったと同時に、周囲からの冬夜に対する視線の温度は氷点下にまで下がった。

 王と王妃、憲兵達は元より、警備のために室内にいる兵士達や、王族の世話をするために控えていたメイド達や執事までもが、冬夜に強烈な敵意を向けたのだ。

 だが、これで証人の発言は終わりではない。

 まだリンゼの証言が残っているからだ。

 姉に続いて前に出たリンゼは、翡翠色の瞳に大粒の涙を浮かべながら、冬夜を睨み付けた。

 

「冬夜さんは、人として最低の人間です! ユミナ殿下に対する行為は、私の姉が先程証言した通りですが、彼は……彼は、殿下を追い出した後、私や姉を何度もレイプしました。彼の行為はとても乱暴で、言う事を聞かなかったり抵抗したりすれば、魔法で火傷させられたり感電させられるのは当たり前でした。私達の顔が膨れ上がるまで殴り付けた後、治癒魔法で証拠を隠滅するという卑劣な行為も日常茶飯事です。そのせいで、姉は二度と子供を産めない体になり、私は彼の子を身篭らされたんです。私のお腹の子は先日堕胎しましたが、罪のない赤ちゃんを殺してしまった罪悪感は未だに私の中に燻っています。こんな男を生かしておけば、また近い将来、殿下や私達のような目に遭う女性は必ず出てくるでしょう。だから、私は……彼を極刑に処すべきだと思います!」

 

 リンゼの発言に、オーディエンス達がしっかり頷いているのを冬夜は見た。

 同時に、エルゼもリンゼも、完全に自分の敵に回ったのだという事を無理矢理理解させられた。

 愕然とする冬夜に、裁判長が声をかける。

 

「被告人、望月冬夜。あなたに問います。罪を認めますか?」

「僕は、何もしていない! これは罠だ! 何かの間違いだ! だって、ついこの間まで、みんな仲良くやってきたじゃないか! ユミナもエルゼもリンゼも、一体どうしちゃったんだよ!? もしかして、誰かに操られてるのか!?」

 

 冬夜に、無実を証明する術はない。

 ユミナのお腹の子が産まれた後、赤ん坊に対してDNA鑑定を行うという手は、現代日本ほどに科学の発展していないこの異世界では不可能なのだ。

 故に、冬夜の口から飛び出したのは、苦し紛れの台詞だけだった。

 しかし、人の皮を被った魔物と化しているユミナ達に、そんな言葉が届くはずもない。

 

「お父様、お母様! 私、怖いです……!」

「何も心配する事はないぞ、ユミナ。」

「そうよ。あなたは、私達が守るわ。」

 

 怯える演技をするユミナを、王と王妃がかばい、支える。

 また、ユミナを守るため、警護についていた兵達も動いた。

 

「そこまで! 被告人、望月冬夜に判決を言い渡す!」

 

 王は善良な人間であり、無闇に権力を振りかざすような男ではないが、さすがに状況が状況であるために、彼は裁判長に視線で圧力をかけた。

 それを受けた裁判長は、これ以上の審判は不可能と判断し、木槌を叩く。

 

「望月冬夜は有罪! 懲役80年の刑に処す!」

「そ、そんな! 横暴過ぎるよ! 僕は何もしていないんだ! 僕の話を聞いてくれ!」

「いい加減にしろ、望月冬夜! お前は今から牢屋行きだ!」

 

 兵士達が怒鳴りながら冬夜の腕を引っ掴み、喚く彼を裁判所の外へと連れて行く。

 扉の外へ消える冬夜を見届けるユミナの口元には、僅かに笑みが浮かんでいた。

 しかし、ユミナが顔を俯けているために、その笑みに誰かが気付く事はない。

 

(ふふふ。これで、冬夜さんは……ん? 視線を感じますね。)

 

 ユミナはちらりと横目で自分の斜め後ろの方を窺う。

 だが、彼女の視線の先には、慌しく動き回っている兵士やメイド達の姿があるだけだ。

 それでも、ユミナには確信があった。

 

(リーンさん、見ていますね?)

 

 ユミナの魔眼が持つ「本質を見抜く力」は、サキュバス化によりパワーアップを果たしている。

 そのお陰で、透明化魔法を使い裁判所に潜んでいたリーンの存在をユミナは朧げながらも察知したのだ。

 だが、見破ったからといって、ユミナは今すぐに行動を起こすつもりはない。

 人間時代のユミナに、リーンの透明化を見破る術はなかったからだ。

 なのにここで透明化を見破った事を明言すれば、今のユミナがどういう状態にあり、どのような能力を得ているのか、一端だけとはいえリーンにバレてしまう。

 

(ここまでは、全てご主人様と事前に打ち合わせした通りの流れ。次の手で冬夜さんの人生は終わり、リーンさんは私達の仲間になる。愉しみですよ、リーンさん。あなたがご主人様に頭を垂れる日が来るのが。)

 

 遂に、主人の計画は最終段階に突入する。

 その成就を夢見るユミナは笑みを隠しながら、もう誰もいなくなった扉へと視線を戻した。

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