※この作品はR-18です。

寝取りはスマートフォンと共に   作:ナツバト

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闇の福音、そして決着。

 闇の聖母マリア。

 リーンにそう呼ばれた、修道服を纏うサキュバスは、呪文を唱える。

 彼女はどうやら、リーンと魔法を競うつもりでいるらしい。

 だが、リーンもこの世界の魔術師の中では最上級クラスの存在だ。

 異世界最高峰の実力者同士の戦いは、果たしてどのような決着を迎えるのだろうか。

 

「紅き月よ、世界に淫らな夜宴をもたらせ! クリムゾン・フルムーン!」

 

 マリアが唱えた呪文は、俺の聞いた事のないものだ。

 もしかしたら、以前スマホで見た魔法の一覧にあったのかもしれないが、よく覚えてはいない。

 一体どんな魔法なんだ?

 

「これは……!」

 

 マリアの魔法が発動すると、明るかった青空が急に暗く染まっていく。

 太陽は落ち、代わりに昇るのは、真紅の満月。

 

「まさか、時間でも操っているのか?」

「いいえ。これはおそらく、幻術ね。」

 

 俺の独り言に、リーンが答えた。

 彼女の口調や表情は冷静そのものだが、ほんのりとした汗の匂いが風に乗って俺の鼻腔に届いている。

 リーンは戦闘中あまり動いていなかったようなので、おそらくこれは冷や汗の匂いか。

 

「幻術とやらは、こんな規模の大きい事も出来るんだな。」

「ここまでのレベルの幻術は、そうそう使える人はいないけれどね……。」

 

 おや?

 リーンの顔が、少し赤く見えるな。

 もしや、これはマリアの魔法の効力か?

 

「この程度の幻術で、私を倒せると思っているの?」

「あら? 強気な態度で、わたくしの目を誤魔化せるとお思いなのでしょうか? 女の匂いがしますけれどね。」

「……勝手にそう思い込んでいればいいわ。それより、次はこちらの番よ。」

 

 今度は、リーンが魔法を唱え始めた。

 

「光よ穿て! 輝く聖槍、シャイニングジャベリン!」

 

 魔物に対して恐らく最も有効であるだろう光属性の魔法か。

 この状況下で、リーンは未だ的確な判断力を保っているようだ。

 一方のマリアはといえば、微笑を讃えたまま、全く動く気配がない。

 相手の攻撃を防ぐ魔法障壁を、彼女は既に展開しているのか?

 俺がそう推測した直後、リーンの放った光の槍は、無防備なマリアの胴を貫いた。

 

「お、おい、マリア!」

 

 お前は俺の切り札なんだぞ!

 そんなあっさりやられてどうする……ん?

 

「手応えがないわね。」

 

 リーンの呟き通り、マリアは、胴に槍を刺されたにも関わらず、表情を変えない。

 それどころか、そのままの状態で不敵に口元を綻ばせた。

 

「夜をもたらすこの魔法が幻術だと分かっているのなら、何故わたくしに攻撃が効いていないかも理解しておられるのでしょう?」

「ええ。今のあなたの体も、幻って事ね。」

 

 マリアはリーンの台詞に笑みを返し、スーッと姿を消していく。

 どうやら、本当に幻だったみたいだな。

 だが、いつの間にマリアは幻と入れ替わったんだ?

 魔法陣から登場後、彼女は一度もその場から動かず、俺もリーンも姿を視認し続けていた。

 何より、リーンですら、攻撃を放つまでマリアが幻だとは気付いていなかったのだ。

 この事実だけで、マリアが他のサキュバスの姫とは別格だという事は明白であった。

 

「だったら、広範囲を攻撃する魔法を使えばいいだけの話よ。ここにいるのは、私以外みんな敵なのだから。」

 

 至極当然な発言をした後、リーンは再び魔法を発動する構えに入った。

 しかし、それをさせる訳にはいかない。

 マリアは、自分の姉妹は守ってくれるだろうが、俺の奴隷達まで守る範疇に含んでいるかは分からないからな。

 俺は地面に伏した状態のまま、呪文を唱える。

 

「炎よ舞え! 渦巻く炎、ファイヤー・スパイラル!」

「!」

 

 俺の魔法に気付いたリーンが、後ろに大きく飛び退いた。

 そのため、俺が手から放った螺旋状の炎は、リーンには当たらない。

 でも、これで充分だ。

 リーンとの距離が空いた事で、俺が立ち上がる余裕が出来た。

 加えて、マリアが仕掛ける時間も稼げたのだ。

 いつの間にかリーンの背後に立っていたマリアは、リーンの背中に向けて新たな魔法を放った。

 

「闇よ、全てを喰らい尽くせ! グリーディ・イーター!」

「これは……!?」

 

 リーンの足元から暗い光が沸き上がり、リーンの両足を覆った。

 その瞬間、彼女の表情に苦悶の色が滲み出る。

 

「うぐっ! 私の足を食べているというの……!?」

「降参してわたくしの玩具になると宣言するなら、解除して差し上げますよ?」

「ふっ、随分と舐められたものね。こんな程度の魔法で、私を倒せると思っているのかしら? 光よ集え! シャイン・フォース!」

 

 白い光を自身の元へ掻き集め、リーンはそれを爆発させる。

 聖なる光はリーンの足を喰らっていた闇を切り裂いたが、露になったリーンの足は、膝から下が失われていた。

 

「きゃっ!」

 

 爆発の衝撃で、足がないリーンは地面に転がる。

 彼女は確か妖精族だったが、背中の羽は退化していて飛べないんだったか。

 浮遊魔法で衝撃を軽減する余裕はあったようだが、足がなくては着地できないため、リーンは両手を地面に突き、マリアを見上げた。

 

「伝承通りの力ね。この私がここまで追い詰められるとは……。」

「わたくしの事を知っているなら、無様に逃げるべきだったと思いますけれどね。」

「悪いけど、それは出来ないわ。例えどれほど不利な状況に追い詰められたとしても、私は退く訳にはいかないの。来なさい、ポーラ!」

 

 リーンが召喚魔法を行使し、地面に魔法陣を出現させた。

 そして、魔法陣から、彼女が使役する熊らしき人形、ポーラが姿を見せる。

 

「ポーラ、マリアを攻撃しなさい!」

 

 リーンから命令を受けたポーラは、胸に抱えられる程度のサイズから一気に巨大化し、およそ2メートルはあろうかという体格に変化した。

 その巨体に似合わぬ機敏な動きでポーラはマリアに詰め寄り、腕を大きく振り被って拳を叩き込む。

 しかし、ポーラの拳は、マリアの体をすり抜けた。

 

「また幻という訳ね……! でも、あと少し時間を稼げれば!」

 

 ポーラが戦っている隙に、リーンは治癒魔法を唱えていた。

 リーンの足に光が集まり、失われた足が再生されようとした瞬間――

 

「甘いですね。グリーディ・イーター!」

「あっ!?」

 

 地面に突いたリーンの両腕に、影から伸びた黒い光が纏わりつく。

 リーンは、腕を喰われる激痛によって集中力を著しく削がれたらしく、詠唱中だった魔法の発動に失敗した。

 その結果、リーンの足に集まっていた光は霧散し、痛々しい姿を再び晒す。

 

「このくらいでいいでしょうか?」

 

 またしてもいつの間にかリーンの後ろに立っていたマリアは、小首を傾げながら指をパチンと鳴らした。

 すると、リーンの両腕に群がっていた闇は一瞬にして掻き消える。

 闇が消えた後、やはりと言うべきか、リーンの両腕は肘から下が失われていた。

 

「うっ、ぐっ……よ、よくも、やってくれたわね……!」

 

 両腕と両足を失った激痛故だろう、リーンは歯を食い縛った苦悶の表情で、マリアを睨む。

 それに対してマリアが返すのは、清々しいほどに邪気を感じさせない笑顔。

 

「少しはわたくしのペットらしい姿になりましたね。心配しないで下さい、これでもわたくしは慈悲深いのです。あなたが素直に従えば、苦痛はもう与えませんから。」

「そんな事、私が本気で信じると思っているの? あなただけは、必ず……ここで、殺す!」

「!」

 

 リーンの額に光が集まり、それが目にも止まらぬ速度で放たれた。

 こんな状況下で、リーンは呪文を唱える事なく魔法を放つ術を残していたのだ。

 しかし、マリアに攻撃を撃っても、どうせまた避けられ……

 

「うおっ!?」

 

 リーンの放った白い光が、俺の胴体を貫いた。

 強烈な衝撃を味わいながらも、俺はリーンの行動の真意を悟る。

 

 召喚された魔物は、召喚主が倒れれば強制的に帰還させられる性質があるのだ。

 リーンは、マリアを完全に消滅させるべく、今までマリア本体に対して攻撃を行ってきた。

 だが、現時点でマリアを倒すのは最早不可能と判断した彼女は、その召喚主である俺を倒し、マリアを一時的にこの場から遠ざける選択肢を取ったのだろう。

 そして、然るべき場所で治療を受けた後、再び仲間を集めた万全の体制でマリアを倒す術を考える。

 それが今のリーンに出来る最善手である事は間違いない。

 また、俺はマリアとリーンの一騎打ちに見入っていたため、リーンにチョップで一度倒されて以降、己を守る防壁魔法などは使っていなかった。

 故に、リーンの魔法が俺を直撃したのだ。

 これで俺が意識を失えば、召喚魔法は無効となり、俺が呼んだサキュバス達は強制的に帰還させられる。

 しかし、そうは問屋が卸さない。

 

「ぐふっ、こほっ! 何とか、耐えられたな……。」

 

 俺はお腹を押さえながらも、その場で踏ん張り、倒れずに済んだ。

 そんな俺に、リーンは驚愕の眼差しを向ける。

 

「どうして? 今の手応え、間違いなく直撃だったはずよ? なのに、何故……!?」

「ああ、今のは危なかった。このコートを着ていなければ、やられていただろうな。」

 

 俺は自分の着ている白いコートをバサリと翻し、リーンに見せ付ける。

 リーンは俺のこの言動に、目を大きく見開いた。

 

「まさか、あなたのそのコート、冬夜の……!」

「正解。これは、望月冬夜のコートを、洋服屋に仕立て直してもらった物だ!」

 

 望月冬夜の白いコートには、着た者の魔法適正に応じた耐性を与える効果がある。

 奴は神から貰った力のお陰で全属性の魔法の適正を有していたため、コートを着用する事で全属性の魔法に対する耐性を得ていた。

 そして、奴と同じく転生者であり、神から加護を受けた俺も、同様の理由で全属性の耐性を得られる訳だ。

 ここに来る前に、イロハにこれを洋服屋から引き取ってきてもらっておいて正解だったな。

 

「お喋りはそのくらいで宜しいでしょうか? そろそろ、わたくしが主催する宴を開演させてもらいますよ?」

 

 万策尽きて作画崩壊した顔のリーンに、マリアがにこやかな笑みを添えて声をかけた。

 思っていたのとは大分予定が変わってしまったが、これでリーンもこちらの手に入ったのだ。

 いよいよ、淫魔達のパーティが始まる。

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