※この作品はR-18です。

罪ノ光ランデヴー 風香アフター   作:伝野てつ

11 / 23
2-3.破 
月日ノート


カフビさんと別れて、家に戻ってくると、風香が待っていてくれた。

遅くなるから、帰ったほうがいいと伝えてはいたけど、律儀に待っていてくれて、少しありがたかった。

今、この胸が痛むときは、風香と一緒にいたい。

そうじゃなきゃ、不安で押しつぶされそうだから。

カフビさんの、あの眼差しが、表情が、俺の心を揺さぶってくる。

本当に、言えないままで良かったんだろうか。

そんな後悔を残したまま、帰宅したのだった。

 

「それで、これは?」

「……見て、わからないの?」

 

テーブルの上にあるお皿には、黒い物体がのせてある。

匂いから、なにかを炒めたのはわかるんだけど、いかんせん焦げているから、材料がなんなのかわからない。

そもそも、料理して、焦がすって、ドジとかそういうレベルじゃない気がする。

 

「なによ、言いたいことははっきり言いなさいよ」

「……最初のころに比べたら、マシか」

「優人のくせに、生意気」

「痛いって、頬っぺたつねるなよ。少しからかっただけだろ?」

「……今日は、あんた以外にもからかわれたから、余計にムカつくのよ」

「それは俺、関係ないだろ、まったく……」

 

こんな軽口を言い合う時間ですら、今の俺にとっては優しい時間だった。

穏やかになって、笑顔になって、落ち着く瞬間。

 

「とりあえず、いただきます」

「ふん、どうせ不味いとか言うんでしょ」

「まぁまぁ……」

 

黒い物体を咀嚼する。

舌触りも、噛み応えも最悪なものだけど、味付けはまだしっかりしている。

 

「うん、別に食べられなくはない」

「な、なによ、その上から目線」

「だって事実だろ。えっと、魚をフライパンで焼いて、焦がしたから、醤油とかで誤魔化そうとしたんだよね?」

「うっ……! ドンピシャな意見を」

「そこから、色々混ぜて……うん、和食を頑張ろうとしたことはわかった」

 

がっくりとうなだれる風香を見て、苦笑いを浮かべる。

残念がらなくても、俺にとっては全部、嬉しい食事だ。

成長しようと、努力してくれてるし、なにより一生懸命だから。

それだけで、美味しさとかじゃない、なにかが俺を満たしてくれる。

 

「ごちそうさま」

「うぅ……ギャフンと言わせてやるつもりが」

「あとちょっとかな。頑張ってカバーしようとしてるのは、成長の証だね」

「……ねぇ、お腹にまだ余裕ある?」

「ん、まぁ食べられるけど……」

「なら、ちょっとだけ待ってて! リベンジするから!」

 

こんな遅くにさらに食べるなんて、罪作りな話だけど、風香がそこまで言うならと思い、待つことにする。

キッチンから何かを焼く音が聞こえ……。

 

「はい、これなら、大丈夫」

「ん……」

 

お皿に上には黄色い四角形のものが。

見た目と匂いで、どんな料理か一発でわかった。

 

「卵焼き?」

「これだけは、恵美にだって認められたの。だから、ほら、食べてみてよ」

「はいはい、それじゃあ」

 

箸で卵焼きを掴み、口に入れる。

甘味強めな味付けだが、しつこくなくて……。

 

「美味しいよ」

「ほ、ほんと!?」

 

今まで見たことがない風香のビックリした顔に、こっちまで驚いてしまう。

そこまで喜ぶことだろうか、と思いつつ、もうひと切れ、口にする。

風香が作ってくれた料理の中で一番の出来だ。

 

「うん、凄いじゃないか。これ、なんで隠してたの?」

「それは……」

「内緒にすることでもないだろ? いつもみたいに正直に言えばいいものを」

「……だって」

「だって、本当はちゃんとした和食セットで、振る舞いたかったんだもの」

「こんな、不格好な形で……優人には食べてほしくなかったの」

 

完璧主義というか、変なところで不器用というか。

そんなところも、可愛らしいんだけど。

 

「気にしないよ、俺は」

「私が気にするのよ、馬鹿」

「そうか? なら、いつか完璧なものを食べさせてくれ」

「……いっぱい、失敗しちゃうかもしれないけど?」

「うん、失敗したものも、全部、俺が食べてあげる」

「というか、他のやつに食べさせたくない。俺だけ食べていいことにして」

「……この、お馬鹿」

 

赤面する風香の頬に手をあてる。

風香は嫌がる素振りを見せず、ただじっと、潤んだ瞳で俺のことを見つめていた。

なにも言わず、お互いの唇と唇の距離を縮めていき、重ね合わせた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。