※この作品はR-18です。

罪ノ光ランデヴー 風香アフター   作:伝野てつ

15 / 23
こわくない

俺たちのことをひとしきり話し終えるころには、身体はすっかり冷え切っていた。

近くの自動販売機で温かい飲み物を買い、カフビさんと一緒に飲む。

今まで飲んできた飲み物の中で、一番美味しいと思えた。

 

「ごめんね、カフビさん。ずっと黙ってて」

「いいです、いいです。謝らないで」

「これでお相子……フェアだよ。俺たち、お互い謝らないでいい」

 

カフビさんは、黙って俺の話を聞いてくれていた。

なにも言わず、ただじっと、俺の懺悔に耳を傾けてくれていた。

細かい日本語はわからないかもしれない。

それでも、全部、一言、一言、大切に聞いてくれたように見える。

 

「……でも良かったです、ユウ、話してくれて」

「ありがとう、ユウ。ワタシ、嬉しい」

「カフビさん……」

「本当は、ユウのこと、最初から見てました」

「寂しそうな目してて、ワタシと同じじゃないかって」

 

それは俺も思っていた。

見た瞬間、この人もなにかを隠しているんじゃないかと思った。

直感、という曖昧なものかもしれない。

それでも同じ似たようなものを抱えていると、なんとなく思っていたのが事実だ。

 

「だから、あのとき、教えてくれなかったこと、ショックだった」

「ワタシ、ユウの味方になれなかったって、ショックだったよ」

「……ごめんな、本当に。俺、ビビリでさ、言えなかったんだ」

「ビビリ……? おぉ、チキンのことね」

「まぁ、そうとも言うね」

「ふふふ、良いですよ。こうしてユウは教えてくれた」

 

カフビさんはすっかり泣くのをやめ、笑い声をあげている。

良かった、悲しい想いをしなくてすんで。

 

「ユウの辛いこと、わかったよ」

「いや、それは……」

「育った場所から出てくるの、ほんと辛い。ワタシ、それこの国にきてよくわかった」

「それでも、大切な人のため、頑張ってたんだね」

「うん、カフビさんもそうだよね」

「はい、頑張りました。でも……もう、帰らなきゃいけない」

 

カフビさんはブランコからたちあがると、空を見上げた。

曇天の夜空、今にも雪が降りだしそうな寒さだ。

 

「最後に、ユウの話、聞けてよかった。ありがとう」

 

カフビさんが、深々と頭を下げて、行ってしまう。

彼の後ろ姿が、あのときの、事故が起きたときの風香と重なってしまって。

自然と、カフビさんの歩みを妨げてしまう。

 

「また、会えるよね?」

 

カフビさんは背を向けたまま、ピクリとも動かない。

しばらく、沈黙が続き、ようやく喋り出す。

 

「……あっちで捕まって、どうなるかわかりません」

「……待つよ、カフビさんが出てくるまで、俺は」

「あはは、ダメですよ。ユウは、あの可愛いガールフレンドと一緒にいないと」

「ガールフレンド……であり、シスターのね」

「……でもっ!」

 

言葉を吐き出す瞬間、カフビさんは振り返ってきた。

クシャクシャに顔を歪ませ、涙をこぼしている。

 

「ユウは大切な人の傍にいなきゃ、ダメです」

「ワタシ、それできないから」

「俺、俺は……!」

 

悔しくて、悲しくて握り拳を作ってしまう。

そんな俺の手を、カフビさんはそっと握ってくる。

優しく、あたたかい手のひらに、なにかのつながりを覚える。

きっと、これは、似た者だけが紡げるつながり。

決して、同じ罪ではないけれど、同じ想い同士が結べる縁。

罪の光でつながるもの。

 

「ひとつ、約束してください」

「約束……?」

「これ、ワタシの家です。ここに、ユウの絵を送ってください」

 

手渡された紙には、文字が記載されている。

カフビさんは、涙交じりの笑顔で優しく言葉を続ける。

 

「写真も。ワタシのワイフと娘の絵、送ってください」

「俺の絵を?」

「はい、ユウの絵を」

「きっと、ワタシのファミリーも喜ぶと思います」

 

下手くそな絵なのに、素人の絵なのに、喜ぶと言ってくれるのか。

 

「だって、ユウの絵、ワタシ好きです」

 

カフビさんはそれだけ言うと、再び俺に背を向ける。

本当にこれでお別れなんだと思うと、急に引き止める言葉が見つからなくなる。

それでも、最後にこれだけ言わないと。

 

「カフビさん! 約束、守るから!」

「俺、送るから! カフビさんの家に、家族のところに!」

「友達の、大切な人のところに!!」

「……さようなら、ゆうと」

 

カフビさんは最後まで振り返らず、公園をあとにした。

胸の奥にはすっかり穴が空いてしまった感覚だけが残っている。

それでも、失った痛みはなく、なにかあたたかいものがある気がした。

それがなんなのか、どう明言したらいいかわからない。

それでも、大切なものだと思える。

失ってはいけない、尊い、なにか……。

 

「あっ」

 

携帯に着信がかかる。

液晶には風香の名前が映されていた。

 

「もしもし」

 

電話先の相手は、ただ一言。

会いたい、と伝えてきた。

声のトーンから、なにかあったことを察する。

 

「うん、俺も……会いたいと思ってた」

 

彼女がどこにいるかを聞いて、電源を切る。

ここから少しかかる、あの場所。

この街が一望できる、あの高台にいるらしい。

急がないと、身体が冷えてしまう。

 

「行こう」

 

俺はゆっくりと歩き出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。