※この作品はR-18です。

罪ノ光ランデヴー 風香アフター   作:伝野てつ

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すべて

 

「どう、して……」

「どうしてもなにも、アタシの価値観だけど?」

 

必死に絞り出した返事も、恵美のあっけない一言に切り伏せられる。

まだ事実が飲み込めなくて、上手く言葉が出てこない。

そんな私を見かねてか、恵美は優しく微笑みながら、切り出してきた。

 

「風香と弟君が苦しんでたのもわかる。今も隠し事をしている辛さもわかる」

「村で起きたことも、さぞかし嫌なことだったろう」

「それでも、なんだよ」

「あんたたちは、決して胸を張れることをしてるわけじゃない」

 

恵美が微笑んだまま、私に現実を突きつけてくる。

胸にナイフを突き立てられるような鋭い痛みに、泣きだしそうだった。

いや、もう涙をこぼしているのかもしれない。

 

「アタシが聞き出しだしたことでもあるし、責められないことも重々承知してる」

「それでも、あんたたちは胸を張っちゃいけないと思う」

「なんで、よ……? なんで、そんなこと言うのよ!」

 

我慢できずに、感情の赴くまま、言葉を吐き出す。

 

「私と似た恵美なら、共感してくれるって思ってた!」

「例え、自分と愛する者以外が敵になったとしても、それは尊いことだって」

「許されることだって、愛し合ってもいいんだって、認めてくれると思ってた!」

「どうしてよ、恵美! あなたも普通の人と同じこと、言うの!?」

 

恵美は怒る素振りも見せず、ただ頷く。

全てを許す神の使いのように。

 

「拒絶はしない。起きてしまったことだし、当事者じゃないから」

「でも、ごめん。アタシは、同意できないんだ」

「姉弟で愛し合って、幸せになってなんて……許されたら、それこそ終わりだよ」

「終わりって……」

「物事にはルールが存在する。道徳っていう感情を、法律という名の規律でまとめあげてるんだ」

「それを破ること自体は仕方がないことさ。アタシだって褒められたものじゃない」

「でもね。破ったのなら、二度と過ちを犯さないようにするのが、人間ってものじゃないの?」

 

恵美の言うことは、破ってしまった罪の意識を持ち続けろという戒めだ。

普通のレールから外れてしまったのなら、もう一生、その道を歩み続ける覚悟を持てと言っている。

その感覚が、万人に認められない。そうあるべきでないと、彼女は言っている。

 

「恵美が言っても説得力ないよ」

「まぁ、あんたからしたらそう見えるわな、でもな」

「アタシはその覚悟を持ってる。親がぶっ殺されて、頼れるものは自分以外になにもないんだからさ」

「だから、アタシはアタシの感覚で、偽らず、風香に伝えてる」

「そんなのって……! 独善じゃない!」

「独善で結構。そもそも、善良な人間じゃねーし」

「開き直りよ」

「開き直ってるさ。だって、アタシには、あんたたちの想いは抱えきれない」

 

恵美が肩に手を当てててくる。

そっと、優しい手のひらに、なぜだか温もりを感じてしまう。

 

「友達が、大切な人が道から外れて喜べるなんて、無理だよ……」

「恵美……」

「だから、ごめん。アタシはあんたたちのこと、素直に喜べない」

「自分勝手に、好きにしろとか言ったのに影響されたのなら、謝る」

 

頭を深々と下げてくる恵美。

そんな彼女の姿を見て、私は酷く動揺してしまった。

あの恵美が頭を下げていることに、友達を悲しませてしまったことに。

 

「やめて……」

「ごめん、風香」

「やめて、やめて……!」

「ある意味、あんたに助言したアタシのせいでもあるから」

「もう、やめて!!」

 

恵美らしくない謝罪に、声を荒げてしまう。

 

「……私の、勝手な期待だったのかな?」

「いや、そうじゃないよ」

「友達なら、似たような相手なら、わかってくれると思ってた私が甘かったのかな」

「甘くない」

「なんで、こうなるのかな……」

 

涙をボロボロとこぼしてしまう。

情けない泣き顔だけど、なかなか笑えなくて、しょうがない。

 

「……ほんと、打ち明けてくれてありがとう」

「……うん」

「肯定できないだけなんだ、ただそれだけ」

 

恵美もなぜか涙をこぼしている。

泣き顔に涙を浮かべると、なぜだか美しくみえてしまう。

 

「もし……」

「えっ?」

「もし、アタシが風香の立場だったのなら」

 

恵美は笑いながら、ゆっくりと歩き出し。

 

「アタシは、あんたと同じこと、してかもしれない」

 

優しい、天使のような笑み。

その表情に魅入られてしまい、私は言葉を失う。

まるで時間がとまってしまったような錯覚に陥る。

 

「……アタシ、帰るわ。風香はどうする?」

「……ちょっとひとりでいたい」

「そっか……わかった」

 

恵美がこの場から去ろうとする。

すれ違う瞬間、肩をポンと叩かれ。

 

「あんたはどう思うかわからないし、信用できないかもしれないけどさ」

「アタシは、ずっと風香の友達だから」

 

そうして、恵美はいなくなってしまった。

 

「……友達」

 

ひとり、虚空を見上げる。

気温はさらに下がり、上着越しでも冷気が伝わるほどに寒い。

 

「……また、ひとりか」

 

廃線前のことを思い出し、苦笑いしてしまう。

あのときも、こんな風にひとりぼっちだった。

立ち尽くして、悩んで、後悔して、つっ立っていた。

 

「あのときと、なんにも変わんないじゃない」

 

弱い自分、情けない自分、偽りの自分。

また、みっともない真似を晒している。

優人がそばにいるのに、変われないままで……。

 

「優人……」

 

また、あのときのように名前をつぶやいてみる。

こんな私に愛想つかすかもしれない。

でも、私は……。

 

「……もしもし?」

 

電話をかけ、数秒後、優人が出てくれる。

声のトーンから、私と同じようになにかがあったことがわかる。

支えてあげないといけないけど、そんな余裕がなくて。

 

「会いたい」

 

ただ、その一言だけ、発していた。

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