※この作品はR-18です。

罪ノ光ランデヴー 風香アフター   作:伝野てつ

20 / 23
3-3.急
光について


「風香……」

 

指定通り、高台まで歩いてきた。

曇天はさらに濁りを増し、今にも雪が降りだしそうな肌寒さ。

それなのに、風香は俯いたまま、ジッとこの場に立っていた。

 

「風邪、引くぞ?」

 

一瞬、あの廃線での出来事がフラッシュバックする。

あのときも、こんな風に、近づいて……。

いいや、あのときの俺とは違う。

俺はもう迷わないって決めた、彼女の傍にいるって決めたんだから。

一歩、迷いなく踏み出す。

その瞬間、風香がこちらにゆっくりと顔を向けてきた。

 

「優人は、幸せ?」

「あぁ、幸せだ」

 

言われてすぐに、はっきりと答える。

風香は少し嬉しそうに、でも苦しそうに笑みを浮かべる。

 

「そう言ってくれて、ありがとう」

「……俺、ここに来て本当に良かったと思ってるよ」

 

もう一歩、風香に近づく。

 

「村を出るときは、色々なものと別れなきゃいけなかった」

「風香と一緒に生きたいから、少し大切なものを捨ててきた」

「優人……」

 

さらに一歩、近づく。

 

「ここに来て、上手くいくか不安だったけど……風香がいてくれたから、なんとかなったんだ」

「だから、お礼を言うなら、俺のほうだよ」

 

そして、風香を抱きしめられる距離まで詰める。

風香は目の下を紅くし、潤んだ瞳で俺を見つめてくる。

 

「そんなの、言われる権利……」

「またその話か? もう良いって言っただろ?」

「……うん、優人は受け入れてくれたんだもんね」

「あぁ、俺も風香と同じものを背負うって決めたんだ」

 

突き放せる余裕を持ちつつ、風香を正面から抱きしめる。

彼女は拒否する動きを見せず、成すがままに俺に抱きつかれた。

 

「氷みたいに、冷たいよ」

「心が冷たいから、身体も冷え切ってるのよ」

「それ、全然間違ってる」

「なによ、私、いつも優人を虐めてるじゃない」

「本当に冷たい人間はさ……」

 

風香の身体が冷え切っていることがなにを意味しているのか。

そして、彼女の目の下が紅くなっていたことがなにを示しているのか。

そんなこと、俺にだってわかることだった。

 

「涙なんて、流せないよ」

「ぁ……」

 

風香の目から零れていた涙を指ですくうと、彼女を強く抱きしめた。

 

「痛い、よ」

「こうしてギュってすれば、すぐあたたかくなる」

「優人まで冷やしちゃう」

「構うもんか。風香があったかくなるなら、全然大丈夫だ」

「そう、じゃ……ないよぉ……」

 

弱弱しく声を漏らす風香。

そんな彼女を愛おしく思い、また強く抱きしめた。

 

「しばらく、こうしてたい。駄目か?」

「……ううん、いいよ」

 

静寂が高台を支配する。

街はライトアップされて、賑やかそうで楽しそうに映る。

ここは、そんな楽しそうな場所とは切り離されたセカイに思える。

どこにもない世界、俺たちしか存在しない世界。

そんな、優しさがない世界に感じてしまう。

 

「……私さ、友達にね、打ち明けちゃった」

「うん」

「私たちの関係、受け入れてもらえなかった」

「……うん」

「ただそれだけのことなの。だって言うのに……」

「なんで、こんなにも悲しいのかな?」

 

涙を流しながら、風香は隠していた感情を吐露していく。

 

「友達だから、受け入れてくれると思ったの。本当の私を唯一、わかってくれてた友達だから」

「だけど、間違ってるって。この関係は認められないって、そう言われたの」

「他の誰かに言われるならまだいい。でも、でも……!」

「親友に否定されて、受け入れられなかったのが、一番辛いよ!」

 

風香が俺の肩を強く抱いてくる

痛くて、切なくて、悲しくて、行き場のない風香の想いが伝わってくる。

 

「私、どうしたらいいのかな……?」

 

風香の願いは俺にもわかる。

誰かに受け入れてほしい。他の誰もない親しい人に受け入れてほしい。

自分の罪を共有できる人がほしいだけなんだ。

それができなかった苦しみ、やるせなさは……村の人たちで味わったから、わかる。

 

「……探すしかない、と思う」

「えっ……?」

「風香の友達じゃなくて、別の人で、共有できる人を探すしかないと思う」

 

だからこそ、俺はこう言えるんだ。

村から出てきたとき、風香とふたりだけで生きていければ良かった。

でも、それじゃあ、閉じられたままだ。

永遠に、ふたりきりで生きていくことになる。

きっとそれでも大丈夫なんだろう。でも、そうじゃなくて……。

 

「俺は、いたよ。共有してくれる人。でも、国に強制送還されるんだ」

「それって、バイト先の……?」

「うん、話してた人。その人も、罪を抱えていた」

「罪……?」

「大切な人を守るための、罪。俺たちと似たようなもの」

「……私の友達だって、似たようなものだったわ」

「誰も頼れる人がいなくて、ひとりで生きていくって決めて」

「親の汚名を引き受けてまで、立ち上がり、強く生きてた」

「そっか」

「それでも、私たちのことは認められないって言ってたの」

「似ていても、受け入れてくれる人なんて、少ないのよ!」

 

今、わかった。

真澄が言っていた、“罪でつながる”と言う意味が。

悲しい結末のほうが記憶に残る。いや、残されるんだ。

きっとこれは簡単なことで、難しく考えることじゃなかったんだ。

 

「いないわ、きっと私たちのこと認めてくれる人なんて」

「いるよ」

「優人は見つけたかもしれないけど、もうこの場所からはいなくなるじゃない!」

「だったら、私たち、このまま秘密を抱えて生きていけって言うの?」

「ずっと、ずっと、嘘を続けて、仮面をつけ続ければいいの?」

「苦しいよ、切ないよ……優人ぉ……」

 

風香も不安だったんだ、この新生活が。

出口のないトンネルの中を歩き続けることに怯えていたんだ。

俺と一緒だったとしても、それは確かに苦しいことだ。

だから、誰かと共有したいと思った。

大切な人には嘘をつきたくないと思ったから、打ち明けたんだ。

 

「俺だって、いないと思って、諦めてた」

「この世界には、俺と風香だけなんだって、もう他に誰もいないんだって」

「でも……違う、違うんだよ」

 

罪でつながる意味、その先に待つもの。

それが、今はっきりわかったんだ。

 

「最初から諦めてたら、出逢える人もいなくなる」

「だから、探すしかないんだよ、同じ痛みを持つ人を」

「同じ痛み、罪、傷……そういうのを持ってて、本当に共有できる人は、どこかにいるはずなんだ」

「そんなの……」

「信じるしかない」

 

例え、天文学的確率だったとしても、出逢える可能性を信じるしかない。

 

「なんとなしで、共有するのは、それこそ駄目だ」

「風香の友達はそう思ったから、一線を引いたんだと思う」

「それは……」

「多分、同じように抱えられる人が…俺たちにとって仲間なんだと思う」

「仲間……?」

「その呼び名が嫌なら、家族って置き換えてもいい」

 

血のつながりじゃない。

法律的な関係性でもない。

お互いの痛みを抱えられる、精神的な強いつながりをもつ者。

それが、きっと家族と呼べる間柄だと思う。

真澄、お前は……こういう関係を望んでいたんだな。

決して離れない、真のつながりを。

 

「風香、諦めずにいよう」

「今はいないかもしれないけど、信じていれば、出逢える」

「私は、そんな強くないよ」

「俺だって、出逢えるって思ってるわけじゃない。でも、最初からあきらめてるのは、違う」

「強くないけど……愛してる人の前では、強がりたいんだ」

「……優人ぉ」

 

例え、それで傷ついたとしても。

俺には風香がいる。

カフビさんだって、見守ってくれてる。

それだけで、十分、歩いていける勇気を貰えるんだから。

 

「雪……」

 

白い粒上のものが、降り注いでくる。

ゆっくりと、地面へと落ちてくるそれを、手で受け止めると、すぐ溶けてしまった。

 

「今年最後の雪かもしれないね」

「うん……そうね」

「な、風香……俺は離れないから」

「ずっと、ずっと傍にいる。一緒に生きて、一緒に死ぬ」

 

雪が降ってくる中、俺は永遠の誓いを再びたてる。

 

「だから、生きよう。歩き続けよう」

「優人……」

「俺は覚悟できてるからさ、もう少し……頼ってくれよな」

 

許されない罪を背負って、外れた道を歩いていく。

それは、普通の人からしたら、認められないことかもしれない。

それでも、生きていくと決めたんだから。

最愛の人と、共に歩くと。

 

「優人」

「なに?」

「ふたりだけじゃ、辛いよ」

「うん、辛い」

「だから……だから、ね。わがまま言うんだけど」

「……赤ちゃん、ほしい」

 

風香はなにか吹っ切れたように、涙を相変わらず流しながら言葉を続ける。

 

「私たちが許されない関係だったとしても……幸せの形がほしい」

「ふたりだけじゃなくて、三人、四人、広がる世界がみたい」

「こんな私のわがままは……」

「馬鹿言うな」

 

風香の唇を奪い、言葉を途切れさせる。

数秒、キスをし、彼女とゼロ距離で目を見つめる。

 

「俺だってほしい」

「優人……」

「だから、あたためよう。ここは寒いから……」

「あっ……」

 

言葉の意味を察し、風香は黙ってしまう。

こんなときになって、恥ずかしがるなんて、愛らしい。

 

「ウチに帰ろう……どこにも行ってほしくない」

「うん……」

 

雪が街を染めていく。

俺たちも一緒に、真っ白に……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。