春のうた
――あれから、何度目の春を迎えただろうか。
冬を過ぎ、桜が舞い散る季節になると、いつも俺は手紙を出す。
送り先は異国の地にいる、仲間の家だ。
拙い英語で文字を綴り、最後には絵を添えて。
あのときの約束を違えたことない。
届いているのかもわからないけど、送り続けると決めたから。
また笑顔で会えるよな、カフビさん。
「おとーさん!」
自室で手紙を書き終えると、外から小さい女の子の声が聞こえてくる。
愛しい人と育んだ、俺たちの娘の声だ。
「はやくー! 今日は遊んでくれるってやくそくしたー!」
風香に似た、元気のある女の子だ。
苦笑いを浮かべながらも、約束を守りに、部屋を出る。
あの長屋生活もなかなか楽しかったけど、風香が働いて、俺も仕事を始めたらすぐに同棲生活が始まった。
未だに、俺たちの関係がばれずにやってこれているのが、信じられないぐらいだ。
「ほーらパパだぞー! 待たせたなー!」
「もぅ、嘘つき、嘘つきぃ! すぐ来るって言ったのに!」
「ははは、ごめんな。その代わりに、なんでも言うこと聞くから!」
「ほんと! なら、えーっと、パパ、ちゅー!」
「えぇ、そんなことするのかぁ?」
「幼稚園ではみんなしてるよ!」
「うむ、なんとも危ない幼稚園児たちだな」
愛娘の要望に苦笑しつつも、しっかり応えてやる。
すると、奥からあの声が聞こえてきた。
「あらぁ~ん? 浮気なのかしら、お父さん?」
「あ、あはは、そんなわけないじゃないか」
「あっ、ママー!」
「はーい、三人で遊ぶ約束だったもんねー!」
休日、桜が舞い散る中で、俺たち三人は笑いあう。
俺がいて、風香がいて、娘がいて。
ただ、そんな穏やかな日々がずっと続いている。
「ちょっと、お父さん! なにニヤニヤしてるのよ」
「いや、別にしてないって」
「まさか、本気で娘に浮気?」
「お前なぁ、なに言って……」
「パパ、だーすきだよ!」
「はっはぁん、パパも大好きだぞ!」
「ほれ見たことか」
「あぁもう、ああいえばこういう!」
俺たちの関係を容認してくれる人はいない。
あの冬空の下で、それでも探し続けようと決意したはいいものの、やっぱりそう上手くはいかないみたいだ。
それでも、俺たちは生きている。
故郷でも見ていた光景の前で、生きているんだ。
桜の花びらがヒラヒラと落ちていく。
美しくも見えるし、はかなくも見えるそれを、ジッと見つめる。
「おとーさん!」
「ん、なんだ?」
「おかーさん!」
「なぁに?」
愛娘が俺たちに微笑みかける。
「大好き!」
セカイから認められないかもしれない。
共有できる家族もいないかもしれない。
それでも、俺たちは歩いて行かなきゃいけないんだ。
暗闇の中を歩き続けていけば、いつか必ず。
光があるんだと……。