※この作品はR-18です。

罪ノ光ランデヴー 風香アフター   作:伝野てつ

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2-1.破 優人side
その周辺


「ありがとうございました」

 

ランチ最後のお客も掃け終えて、一息つく。

休日のランチは混むから、余計なことを考えずに済むから好きだ。

 

「野々村君、お疲れ。片して賄い食べちゃって」

「ありがとうございます店長」

 

汗だくの男性が、腕で額を拭いながら、キッチン奥から顔をのぞかせる。

高校生の自分がアルバイトをやれるのも、この店長のご厚意があってこそだ。

 

いや、低賃金で働いているのだから、お互いウィンウィンの関係に過ぎない。

店長は安く、面倒が少なそうな俺を雇う。

俺は、生活費を稼ぐために働く。

新聞屋で働くのも考えたが、勉学がおろそかになってしまうほど激務だから、最終的にはここでお世話になることになった。

忙しいのは悪いことじゃないし、接客業で学ぶことも多い。

人の機微に敏感になること、視野を広げること。

少なからず、俺に影響を与えているものだ。

 

「片付け、終わりました」

「ありがとう! キッチンも終わったから、賄い食べようか」

 

キッチン奥から、店長とお弟子さんが出てきて、賄いを温め始める。

今日の賄いは、スパイスで炒めた鳥肉チャーハンだ。

 

「いやー野々村君がバイト入ってから、もう三か月ぐらいだっけ?」

「はい、そうですね」

「最初は不安だったけど、テキパキ動いてくれて、助かるよ、ほんと」

 

店長はチャーハンを食べながら、笑顔でそんなことを言ってくれる。

嬉しいのだが、食事ぐらいはゆっくり静かに食べたい。

 

「ほんとさ、最近の若い子って、すぐ辞めちゃうし、責任感がないっていうかさぁ」

「あははは、そうですね」

「だから、野々村君は真面目にやってくれて、ありがたいんだよ」

「ほんと、野々村君は“まとも”な若い子で、安心した」

「……ははは」

 

店長の言葉に、胸が痛くなる。

本当は“まとも”でもなんでもないのに、そんな風に言われると作った笑みが剥がれそうだ。

喉につまったチャーハンを、水で一気に流し込む。

なんだか胸やけがしそうな味だ。

 

「……あ、そろそろ時間だ」

「時間って、なにかあるんですか?」

「こないだ働かせてくれって電話があったんだよ。それの面接」

 

人の出入りが激しい飲食業で、新しい働き手は嬉しいはずだ。

それにしては、店長の顔が苦いのはなぜだろうか。

そう考えていると、閉まっていたドアが開く。

人影は、小さく、少し丸みを帯びていて……。

 

「はじめ、まして。ワタシ、ここではたらきたい、のです」

「あーはいはい、面接希望の人ね」

 

明らかに日本人の顔立ちではない。

喋り方もたどたどしく、不自由で、海外の人だと一目でわかった。

肌の色から、インドやネパールの出身に見える。

 

「あ、え、と……」

「はいはい、とりあえず、奥行こうか。私、ここのマスターです」

「あ、マスター、さん! こんにちは!」

「はい、こんにちは」

 

店長は、礼儀はわかるみたいだな、とつぶやき、店の奥へと面接希望の人を連れて行く。

おそらく事務所で面接するんだろう。狭いところだが、立てば二人入るぐらいのスペースはある。

 

「……どう思いますか?」

 

お弟子さんに聞いてみても、返事はない。

この人は職人気質で、口下手なほうだから、自分が口出しする必要はないと思ったんだろう。

最低限の生活費分、働かせてもらえるなら、俺はなんだっていいのだが。

 

「あ、野々村君、まだいたね」

 

賄いを食べ終え、食器を片したところで店長に呼び止められる。

どうやら、あの人の面接が終わったみたいだ。

 

「この人、明日からウチで働いてもらうことになったから」

「あ、はい……」

「それじゃ、挨拶して」

 

店長の後ろから、その人はヌっと姿を現す。

目はクリっと丸く、毛先がクルリとして短い黒髪。

どこか、愛嬌があるような笑みで、こちらをじっと見つめている。

挨拶されると思い、相手が喋り出すのを待っているが、なかなか喋り出さない。

ニコニコし続けて、俺のことをじっと見つめて……。

なにかおかしなことでもしてしまったかと思っていると、ようやく、相手が喋り出した。

 

「明日から、よろしく、おねがい、しまします」

「しましま……?」

「ワタシの名前は、カフビと、いいます」

「あなたのお名前、なんですか?」

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