※この作品はR-18です。

罪ノ光ランデヴー 風香アフター   作:伝野てつ

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君の大切なこと

カフビさんが来てからは、嵐のような日々が続いた。

オーダーミスや、日本語の不理解。

上手く回らない店の流れに、店長が苛立ち、以前よりも怒鳴る回数が増えていった。

もちろん、俺もできる限りのフォローはしている。

それでも、未だ慣れない異国の地で、カフビさんは苦闘していた。

 

「……ふー」

 

ランチ営業が終わり、休憩時間になった。

賄いも食べ終え、店内のソファーに腰をかけ、ひと息つく。

店長は、今日も荒れてたし、なんだか疲れるな。

 

「……店長とお弟子さんは買い出しか」

 

カフビさんの姿は見えないが、どこか休みに出ているのだろうか。

夜の営業に間に合えば問題はないけど、前に遅刻をやらかしているしな。

それにしても、あんな怒られ方したら、心が折れそうなものを、よく続けている。

そこまでして働かなきゃいけない理由があるんだろうか。夜学生の俺にはその理由が思いつかない。

 

「……強い人か」

 

なぜだか、その言葉を口にすると、出会ったころの風香を思い出す。

不機嫌そうに睨んでいて、見てるだけで身が竦むような雰囲気。

それでいて、見つめるだけで、胸が穏やかになっていて。

 

「……こんな感じだったっけ」

 

テーブルに備え付けられているナプキンを取り、ポケットにしまっていたボールペンで線をとっていく。

小さくて描きにくいけど、確か、こんな感じの表情だった。

 

「……なんか柄悪く見え――」

「美しい人、ですね?」

「……え、カフビさん?」

 

いつの間にかカフビさんが隣に座っていて、ニコニコと風香の絵を見ていた。

急に気恥ずかしくなって、ナプキンをくしゃくしゃにしてしまう。

 

「あぁ……どうして」

「あ、いや、その……」

 

残念そうに見られても、困ってしまう。

絵を描くことは、珠里村を出てから一度もなく、見られて動揺してしまったからだ。

 

「美しいのに、どうして」

「あはは、ちょっとした落書きで」

「ん? ワタシ、その日本語わからない」

「あぁ、えっと……ちゃんとしたアートじゃないんです、今のは」

「ユウはアーティストだったんですか?」

「いや、そんなんじゃないです」

「そうですか? 凄い上手かったのに」

 

ユウ、というニックネームで呼ばれるのも慣れたな、と苦笑しつつ、返事をする。

 

「今の女の人は、ガールフレンド?」

「……はい、そうです」

「いいね、うつくしい人、ガールフレンド」

 

恋人であり、血のつながっている家族なんだが。

その事実を隠しながら喋ると、未だに胸の奥がきゅうっと痛くなる。

未だに負い目を感じているのが、我ながら女々しくて、情けない。

そんな俺をよそに、カフビさんが明るい口調で言葉を続ける。

 

「ユウ、もっと絵、描かないの?」

「うん、描かないかな」

「どうして? 上手なら、描かないと」

「……うーん」

 

どうして、カフビさんは食い気味なんだろうか。

もしかして、絵を描いていたとか……いや、そんな風には見えない。

あんな走り描きの絵を褒めるなんて。

 

「……ワタシ、このお店きて、いっぱいミスしてる」

「マスターに怒られて、ショックばっかです」

「でも、ユウのスマイルみて、頑張れます」

「そのユウが、さっきの絵を見て、スマイルしてた」

 

その一言で、自分が笑っていたことを気づかされる。

 

「ユウがスマイルするの、いいことです」

「ワタシもハッピー、ユウもハッピー」

「だから、絵を描いてほしいです」

「カフビさん……」

 

元々、絵を描くことは村長に教わったことだった。

手持無沙汰の俺に、なにかやるようにと。

それ以降、惰性で書き続けてきていたかもしれない。

真澄に逢うまでは。

 

「……描き続けるかどうか、わからない」

「なんで……」

「……でも、もしかしたら、また描いてるかもしれない」

「おぉぉ」

 

過去を悔やむのは、もういい。

絵を描くことが、俺にとってなにか良い効果があるなら、やってもいいかもしれない。

あの日、珠里村を離れた日以来、絵を描くことを避け続けていたけど。

こうして、カフビさんも嬉しがって、心の支えになってくれるのなら、良いことだ。

 

「ユウ、ワタシがんばる」

「うん、俺も頑張るよ」

 

カフビさんのため、自分のため、そして、風香のため。

また一歩踏み出せそうな気がした。

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