※この作品はR-18です。

罪ノ光ランデヴー 風香アフター   作:伝野てつ

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キミの話

外がいっそう寒くなり、イルミネーションが飾れるころには、カフビさんも仕事に慣れてきた。

些細なミスはあるものの、持ち前の愛嬌さと一生懸命さでなんとかやっていけている。

あの休憩の日以来、軽い絵を描いてはカフビさんに見せ続けている。

店に来たお客さんや店長、風景、色んなものを描いては、カフビさんに見てもらった。

俺の拙い絵を見るたびに、カフビさんは笑顔で、上手と言ってくれる。

彼の笑顔と言葉を受け取るだけで、自分が少しまともじゃないかと思える。

俺を縛り付けていたものが、未来へとつながっている気がして嬉しかった。

 

「カフビさん……って、店長と話してるのか」

 

ディナーも終わり、閉め作業をしていると、奥で二人が話し合っているのを見かけた。

なんだか、店長の口調が激しくて、カフビさんも表情が暗くて、揉め事があったんだろうか。

最近はミスも減ってきたのに、店長はどうして……。

 

「まったく、なんで嘘つくかなぁ」

「店長、あの……カフビさん、なにかあったんですか?」

「いやさぁ、あんまこういうこと言いたくないんだけどね」

 

カフビさんと話し終えた店長に声をかけると、眉間に皺を寄せながら、言葉を続けてきた。

 

「カフビのやつ……パスポート、偽装してるっぽいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

その夜、カフビさんと一緒に帰ることにした。

別に問い詰めたいわけじゃなかったけど、こんなときだからこそ、傍にいてあげたかった。

辛いときにひとりでいることの苦しみは、わかっているつもりだったから。

 

「寒いね、カフビさん」

「はい……」

「日本ではこの季節、お鍋とかを食べるんだけど、カフビさんは食べるの?」

「お鍋……? スープのこと?」

「スープの中に、野菜とかお肉とか入れて、煮込む料理」

「あぁ、食べます。野菜、美味しい」

「そっか。鍋を食べると、ホッとするんだよね」

「ホット? スパイシーですか?」

「あぁ、いやいや、スパイシーって意味じゃなくて」

 

苦笑いを浮かべながら、俺たちは冬の暗い道を歩いていく。

電灯が時折消えながらも、夜道を照らしていて、見上げると、星空が浮かんでいる。

なんだか物寂しくなって、ついつい喋りかけてしまうけど、カフビさんが元気をなくしているのは、火を見るよりも明らかだった。

カフビさんの家と俺の家の方向は同じだから、よくこうやって帰ってたけど、こんな雰囲気は初めてだ。

いつもは、笑い合いながら帰っているのに、今日は空気が重々しい。

しばらく、白い息を吐きながら、静寂の中を歩き続ける。

しかし、足音が一人分になってしまう。後ろを振り返ると、カフビさんが悲しそうだけど嬉しそうな瞳をこちらに向けていた。

 

「……ユウ」

「うん、どうしたの?」

「ちょっと、話、いいですか?」

 

カフビさんが、道路の奥にある公園を指差して、尋ねてくる。

二つ返事をすると、カフビさんは少し安心したように笑った。

 

「寒いし、とりあえず、これでも飲みながら喋りましょう」

 

近くの自販機でホットコーヒーを買い、カフビさんに渡す。

ふたりでベンチに座り、コーヒーを無言で飲み続ける。

身体もあったまったところで、カフビさんが独り言のように喋り始めた。

 

「……ワタシ、嘘ついてます」

「嘘……?」

「マスターがユウに言ってたこと、全部、ほんとです」

「ワタシ、この国に嘘ついて、入ってきました」

 

まるで裁判官に罪の告白をするように、カフビさんは静かに喋る。

俯きながら、時折、肩と膝を震わせ、絞首刑を待ちわびる罪人のように、ジッとして。

 

「なにか理由があるんでしょ?」

「……」

「カフビさん、悪いことだってわかってるのに、ここに居るのは、そうしなきゃいけないからだろ?」

「……五歳になる娘がいるんです。それに、ワイフも」

 

そういうと、カフビさんはポケットから財布を出し、写真を取り出す。

写真には、カフビさんに似て愛嬌のある笑顔を浮かべる女の子と、黒く長い髪の毛をした優しそうな女性がいた。

 

「ワタシの国で働くよりも、ここで働くのが稼げる」

「ワタシと同じように、イケナイけど、お金稼ぎに、この国来てる人いる」

「イケナイのわかってる、でも……家族の為には必要なことだった」

「嘘つかなきゃいけないの?」

「……そうしないと、凄いお金かかる。今よりもかかる」

 

カフビさんを見ると、少し瞳を潤ませていた。

やりきれない想いが表情に出ていて。

どこか、あの頃の、珠里村にいた頃の俺を思い出すものだった。

 

「……ありがとう」

「……?」

「カフビさん、話してくれてありがとうね」

 

あの頃の俺と同じような気分なら、こんなこと話すのも勇気がいるはずだ。

それでも、俺には正直に話してくれたことに、感謝しないといけない。

ありがとうって言って、そこから先を聞かないと。

 

「でも、なんで俺に話してくれたの?」

「……ユウ、会ったとき、ワタシと同じ目、してた」

「だから、正直に話したかった」

 

あぁ、なるほど。カフビさんは、そこまで見抜いてたのか。

俺も嘘をつき続けていることを。

許されないことをしているのを、感じ取っていたんだ。

 

「ユウは優しくしてくれる。スマイルにしてくれる」

「そんなユウに、嘘つきたくなかった」

「カフビさん……」

「ごめんなさい、ワタシ、嘘つきです」

 

そんなこと言ったら、俺だって嘘つきだ。

許されない関係を結び、村から逃げてきた。

罪に光を見出してしまって、周りを欺き、歩き続けているだけなんだ。

 

「俺は……」

 

村を出て、初めて自分のことを話したい気持ちになった。

俺も同じなんだ、許されない嘘つきなんだ。

だから、謝らないでくれ。

そう続けたかったのに、言葉は出てきてくれない。

感情が喉奥で詰まってしまったみたいで、痛くて痛くて、苦しい。

 

「ユウ……」

 

カフビさんの声が、優しく、そして寂しいものに聞こえる。

結局、俺は自分の罪を告げられず、カフビさんと別れてしまった。

胸に棘が刺さったみたいで、痛くて苦しくて、切なくて。

どうしようもなく、風香に会いたくなる夜だった。

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