「……気に入らない」
「は?」
新学期、新しいクラスになったときのこと。
名簿順で後ろの席に座っていた恵美が、睨みをきかせて私につぶやいてきたのがきっかけだった。
突然、気に入らないと言われたものだから、呆気にとられてしまったが、すぐに取り繕って、当たり障りのない返事をしようとした。
それを聞いて、恵美はさらに不機嫌になり、私に食って掛かってきたのだ。
「あんた、何様のつもりだよ。アタシには全部、バレバレだっつーの」
顔合わせでこんな調子だったから、当然、クラス内では話題になった。
ヤンキーの椿原と、優等生の椿。
どちらも容姿端麗だったからか、コンビとして扱われ、椿コンビとか言われ始めた。
私は愛想笑いを浮かべていたが、恵美はさらに怒っていたけど。
その一件以来、私たちはぎくしゃくした関係を続け、お互いを避けていた。
私は表面上、恵美と付き合おうとしていたけど、あっちがそれを拒否していた。
話しかけても、無視されていたし、会話なんて一切ない。
まるで喧嘩した往年の友人のような態度に、私は困惑していた。
そんな学園生活にも慣れた二学期。
私は恵美から放課後、下駄箱の前に来るように言われた。
誰もいない放課後の玄関口、恵美は明らかに不機嫌そうに仁王立ちしていた。
「いい加減にしろよ」
「えっと……どういうこと? まったく意味がわかんないわ」
「あのさぁ、アンタがそういう態度してるの、滅茶苦茶ムカつく」
「それはごめんなさい。椿原さんがイライラしないように、努力するね」
「……はぁ」
恵美は煮え切らない感情を吐き出すように、ため息をついた。
「気持ち悪いんだよ」
「え?」
「そのヘラヘラした仮面が気持ち悪いって言ってんだよ!」
その一言ですべてを察し、脳天を鈍器で殴りつけられた感覚に陥った。
恵美は肩を震わせ、眉をピクピクさせながら、叫び続けた。
「自分だけは特別みたいな面して、つまんなそうに生活して」
「なにいい子ちゃん演じてんだよ、きめぇ」
「は……」
「あのな、周りのアホどもはわかってないみたいだからいいけどさ」
「アタシは、アンタを見てるとイライラして、しょうがないんだよ!」
辺りに響くほどの叫び声に、身が竦んだ。
声量にではない、彼女が”私”を見ていたことに、恐怖していたのだ。
「……どうして?」
「あ?」
「どうして、わかるの?」
「……」
野々村栞として、つい接してしまっていた。
そんな私を見て、恵美は不機嫌な顔をニヤっとしたものへと変えた。
「いい顔になったじゃん。それだよ、そのアンタと話したかった」
「……私の質問に答えて。どうしてあなたはわかったのかしら」
「あー別に答えるのはいいんだけどさ、ここじゃなんでしょ?」
「……そうね」
学校で喋ることではないと、お互い察していた。
本当の自分を他人に晒すのだ、ここでは人目につくとわかっていた。
「とりあえず、アタシについてきなよ」
「……えぇ」
本当の自分を見られていた恐怖と、恥ずかしさと、怒り。
その他諸々の感情が、胸の中で渦巻いていた。
それでも、なぜだか、このときの私は穏やかな気持ちでもあった。
多分、本当の意味で自分と話してくれる人を見つけられたのだと、そう思ったからだ。
これが私と恵美の邂逅。
村を出てから、唯一できた、友人との思い出。