※この作品はR-18です。

罪ノ光ランデヴー 風香アフター   作:伝野てつ

9 / 23
トロイメライ

「……気に入らない」

「は?」

 

新学期、新しいクラスになったときのこと。

名簿順で後ろの席に座っていた恵美が、睨みをきかせて私につぶやいてきたのがきっかけだった。

突然、気に入らないと言われたものだから、呆気にとられてしまったが、すぐに取り繕って、当たり障りのない返事をしようとした。

それを聞いて、恵美はさらに不機嫌になり、私に食って掛かってきたのだ。

 

「あんた、何様のつもりだよ。アタシには全部、バレバレだっつーの」

 

顔合わせでこんな調子だったから、当然、クラス内では話題になった。

ヤンキーの椿原と、優等生の椿。

どちらも容姿端麗だったからか、コンビとして扱われ、椿コンビとか言われ始めた。

私は愛想笑いを浮かべていたが、恵美はさらに怒っていたけど。

 

その一件以来、私たちはぎくしゃくした関係を続け、お互いを避けていた。

私は表面上、恵美と付き合おうとしていたけど、あっちがそれを拒否していた。

話しかけても、無視されていたし、会話なんて一切ない。

まるで喧嘩した往年の友人のような態度に、私は困惑していた。

 

そんな学園生活にも慣れた二学期。

私は恵美から放課後、下駄箱の前に来るように言われた。

誰もいない放課後の玄関口、恵美は明らかに不機嫌そうに仁王立ちしていた。

 

「いい加減にしろよ」

「えっと……どういうこと? まったく意味がわかんないわ」

「あのさぁ、アンタがそういう態度してるの、滅茶苦茶ムカつく」

「それはごめんなさい。椿原さんがイライラしないように、努力するね」

「……はぁ」

 

恵美は煮え切らない感情を吐き出すように、ため息をついた。

 

「気持ち悪いんだよ」

「え?」

「そのヘラヘラした仮面が気持ち悪いって言ってんだよ!」

 

その一言ですべてを察し、脳天を鈍器で殴りつけられた感覚に陥った。

恵美は肩を震わせ、眉をピクピクさせながら、叫び続けた。

 

「自分だけは特別みたいな面して、つまんなそうに生活して」

「なにいい子ちゃん演じてんだよ、きめぇ」

「は……」

「あのな、周りのアホどもはわかってないみたいだからいいけどさ」

「アタシは、アンタを見てるとイライラして、しょうがないんだよ!」

 

辺りに響くほどの叫び声に、身が竦んだ。

声量にではない、彼女が”私”を見ていたことに、恐怖していたのだ。

 

「……どうして?」

「あ?」

「どうして、わかるの?」

「……」

 

野々村栞として、つい接してしまっていた。

そんな私を見て、恵美は不機嫌な顔をニヤっとしたものへと変えた。

 

「いい顔になったじゃん。それだよ、そのアンタと話したかった」

「……私の質問に答えて。どうしてあなたはわかったのかしら」

「あー別に答えるのはいいんだけどさ、ここじゃなんでしょ?」

「……そうね」

 

学校で喋ることではないと、お互い察していた。

本当の自分を他人に晒すのだ、ここでは人目につくとわかっていた。

 

「とりあえず、アタシについてきなよ」

「……えぇ」

 

本当の自分を見られていた恐怖と、恥ずかしさと、怒り。

その他諸々の感情が、胸の中で渦巻いていた。

それでも、なぜだか、このときの私は穏やかな気持ちでもあった。

多分、本当の意味で自分と話してくれる人を見つけられたのだと、そう思ったからだ。

 

これが私と恵美の邂逅。

村を出てから、唯一できた、友人との思い出。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。