ブラックベリーフィールズ 〜やがて女の子になる君へ〜 作:孤児郎
樹里亞がいなくなった。俺を置いてロサンゼルスに行ってしまったんだ。将来門倉グループを背負う樹里亞に跡取りを残せない俺は彼女には相応しくない。待ちに待った彼女から電話がきたけれど、俺は暴言で返してしまった。
今回ちょっとだけエッチなシーンがあるかもです。
渋いタイル張りの浴室に設えられた豪華な浴槽から、ヒノキのいい香りが立ちのぼる。湯気の向こうでは高校生とは思えない豊満なボディーの女の子がバニラの香りの泡をシャワーで丁寧に流していた。
ここは前にも泊めてもらったことがある『
そう言えばあの日、るちあはどうして風呂に入ってきたのだろう。
そんなことをボンヤリ考える。
もう今は、自分の身体を隠すこともなくふんぞり返って湯船に浸かっていた。俺の胸はあの時から比べると明らかに膨らみを増して、乳首も大きくなっている。でも、それを隠す意味はすでになくなっていた。
「東條《とうじょう》くん、ゴメンね。あたし、コレ見て知ってたの」
放課後に手を引かれて行った彼女の家の玄関で、俺は小さな液晶画面を見せられた。
仄明るい露天風呂で全裸で肩を組んだ三人の男女が写っていた。
俺だった。
温泉宿に泊まった夜、酒に酔った二人に無理やり露天風呂に連れて行かれ、服を脱がされて撮られた写真だった。泥酔状態だったせいか、あの時二人には俺の身体のことは気づかれてはいなかった。
両隣の彼らとはまるで違う、フラッシュを浴びて浮かび上がる真っ白な肌。夜気に触れて尖った淡い桃色の先端。くびれたウエスト。そして俺にだけついていない男の証明。
拉致騒ぎのドサクサで無くしてしまったと思っていた俺のカメラが、誰にも知られたくない重大な秘密を記録したまま、今頃になって出てくるなんて……。
「夕夜の荷物の中に紛れ込んでたの。あの後いろいろあったでしょ? 彼もずっと忘れてたみたいで、放りっぱなしだったバッグの中からあたしが見つけて……二人で見ちゃった」
るちあが申し訳なさそうにそう言う。
ホントならずっと黙っていた俺の方が悪いハズなのに、彼女はまるで自分が悪いことをしたような悲痛な瞳で俺を見つめる。
夕夜にはもうバレていたのか。どおりで、るちあが俺に抱きついたり纏わり付いたりしても文句一つ言わなかった訳だ。
ふと、
「今日は泊まっていって。女同士なんだから……構わないでしょぉ?」
こうして俺は柘植家の大きなヒノキ風呂にふたたび浸かることになったのだった。
風呂から上がると、以前俺が借りたパジャマと新品のパンツが用意されていた。るちあにドライヤーで髪を乾かしてもらいながら、家に外泊の連絡をする。
女子高生として通学するようになっても俺の中身にそれほど変化はない。それは家族も同じで『今夜友達の家に泊めてもらう』という連絡に対して帰ってきた返事は『ご迷惑にならないようにね』の一言だけだった。
断食目的だった前回と違って今日は遠慮なくご馳走になった。お手製のビーフストロガノフでお腹はいっぱい。ヒノキ風呂にゆっくり浸かってポカポカした気分のまま、キングサイズのベッドにダイブした。
前はあれほど饒舌に喋り倒した彼女が今夜はほとんど口を開かない。聞きたいことがたくさんあるだろうに、俺に気を使ってくれているんだろう。その優しさに甘えて、俺ももうしばらく口を閉ざす。
樹里亞がロサンゼルスに行ってしまってもう何日も経つというのに、相変わらず俺の頭の中はグチャグチャのカオス状態で、未だに心の整理がつかないままだ。なにをしたいのか、なにをして欲しいのか自分でもまるでわからない。
「おやすみなさい」
明かりが消えると彼女の両腕がゆっくりと伸びてきて俺の頭を掻き抱く。そのまま流されるように彼女の巨乳に鼻先を埋めた。女性の身体で最も柔らかい部分が、俺の顔を挟み込んで形を変える。ノーブラだ。深く息を吸い込むと、鼻先と胸の谷間のごく狭い空間がるちあの匂いで満たされる。
聖母のような優しさにもっと包まれたくて彼女の胸により深く顔を埋める。いつの間にかパジャマの胸が肌蹴ていて、頬に柔らかな突起の感触があった。
るちあはどうしてこんなにも俺の中に踏み込んでくるのだろう?
あの校舎裏の小道で初めて姿を見せた時、彼女は俺を女だと思い込んでいた。いや、今から思えばそれは正解で、学校も両親も俺自身でさえも自分が男だと信じて疑っていなかった時に、ただ一人るちあだけはそれ見抜いていたのだ。
そう言えば彼女は、俺と友達になりたいと言っていた。そしてあらゆる悪意や偏見から俺を護ると……。
俺はるちあに甘えてもいいのか。
そう考えると俺の胸にわだかまっていたものが少しずつ溶けていく。
迷いながら彼女の乳首を唇で包み込む。
頭上からかすかに息を飲む声が聞こえた。
ゆっくりと舌を這わせてから無心なって吸い付く。るちあの呼吸は荒くなり、ついに俺の頭をギュッと抱きしめた。
「はぃ! もうおしまい。これ以上はダメ……」
そう言って彼女は笑った。
◇◇◇
「それで? お前は俺に何をして欲しいんだ? 東條。今は取り込み中なんだ……俺の言ってる意味、わかるだろ?」
空き教室に置かれた椅子にふんぞり返った 『モエモエ王子』こと
ヤツは手足を投げ出したままなにもしていない。しかし、今が取り込み中であることは一目でわかった。
ドアを開けてくれた女生徒が早瀬のもとに戻り、だらしなく投げ出したヤツの両脚の間にひざまづく。早瀬の制服の胸は完全に肌蹴ていて、大きくて形の良い乳房が両方とも顔を覗かせている。スカートは大きく捲り上げられ、ブルーの下着が片脚の途中に引っかかったままになっていた。その脚の間に座り込んだ女生徒の頭が、早瀬の股間に潜り込んでいる。
一瞬、二人がなにをしているのかわからなかった。
ええと、これって……。
夕夜の家で観たAVにこんなシーンがあった。ビデオの中で椅子に座っていたのは男だったけれど……。
つまりこれは『そういうこと』の真っ最中ってこと?
え?
ホントに?
だってここ、学校だよ!
「東條。お前も……やってみるか?」
「ちょっとぉ?!」
早瀬の何気ない言葉に、ひざまづいた女が抗議の声を上げる。
ヤツは女の手をとって立ち上がらせると、激しく抱きしめてその耳元に何か囁いた。女は不満そうな顔で自分の制服の乱れを直しながらゆっくりと空き教室の入り口まで歩き、鬼のような形相で俺を睨みつけてから音を立ててドアを閉めた。
以前、女子トイレで見かけたことがある王子親衛隊の一人だ。名前は知らない。
あれ?
でも、あの子が出て行ったってことは……どういうこと?
確かにあんな状況じゃあ落ち着いて話もできないけど。
「ほら、東條。いつまでも突っ立ってないでこっちへこいよ。ここに座れ」
椅子から立ち上がって、早瀬は俺に手招きする。ヤツが座っていた椅子は普通の生徒用の椅子じゃなくて、いったいどこから調達してきたのか背もたれが高くて後ろへ深くリクライニングするオフィスチェアだった。
まさか、さっきの続きを俺とするつもりなのか?
「違うんだ、早瀬。俺はただ話をしたくて……」
「わかってるさ、東條。俺と……『話』を……したいだけなんだろう。じっくり聞いてやるよ」
そう言うとヤツは真っ直ぐ俺に向かってくる。
俺は話がしたいんだ。だから別にさっきの女を追い出さなくても良かったのに……。
そんなことを考えてるうちに、早瀬がすぐ目の前にきてしまう。俺の背中になにかが当たる。ヤツの気迫に押されて無意識に教室の壁際まで後ずさっていたようだ。
早瀬の片腕が俺の顔のすぐ横に突き立てられる。人生三度目の『壁ドン』である。初めては
早瀬の顔が数十センチの距離に近づく。まるで赤ん坊の熱を計るみたいに額が俺の額に押し当てられた。ヤツの髪の香り、それから微かに汗の匂い。
伏せていたまぶたがふいに開いて、真っ直ぐな瞳が俺の目を射抜く。
まつ毛が長い。
まるで少女のような——ていうか早瀬は実際に高校二年生のレッキとした少女なのだが、なぜかこんな言い回しがピッタリとはまる——幼さの残る整った顔立ちは、化粧っ気がまるでないにも関わらず美しくて、唯一バランスを崩しているちょっと太めの眉でさえ、ヤツの魅力を損なってはいない。
息が掛かるほどの距離までそんな綺麗な顔に近づかれたら、きっと誰だって平静ではいられないだろう。
「さぁ、俺とどんな『話』がしたいんだ?」
早瀬の唇が俺の耳元で囁く。
熱い息が耳たぶを、首筋をなぞっていく。
低音を出すために抑えた声音は変声期前の少年のように凛々しくて、あやうく本来の目的を忘れてしまうところだった。
そう。俺はコイツと話をしにきたのだ。
るちあの家に泊まって、あの大きな胸に甘えてようやく気づいた。俺は樹里亞を失った寂しさを無意識のうちに埋め合わせようとしていたのだ。
樹里亞が自由になるために身を引いたつもりになっていた。でも、物心ついた頃から一緒にいた彼女のことをキレイさっぱり忘れるなんてカンタンなことじゃない。
るちあだって俺にとって大切な友達だし、女性としては十分すぎるほどの魅力を持っているけれど、樹里亞の代わりにはならなかった。当たり前だけど……。
そんな自分の弱さを自覚してしまった今、俺はどうすればいいのかアドバイスが欲しかったんだ。
るちあは俺が樹里亞の帰りを待つと思ってるみたいだから、こんなこと相談できない。そこで早瀬だ。ヤツを選んだのは、友達の中で一番恋愛経験が豊富だろうと判断したからだ。
俺は、そう考えた経緯を正直に早瀬に話す。
目を閉じて真剣に俺の話を聞いてくれていた早瀬は、まるで話が終わるのを待っていたように俺の唇にキスをした。
え?
一瞬、自分がなにをされたのかわからない。
俺の脳が状況を認識してもなお、頭の中は疑問符で一杯だった。
なんで? どうして俺、キスされてるの?
時間にしておよそ数秒。された時と同じように唐突に早瀬の唇が離れる。壁に押し付けられて顎を引いていた俺は、離れていく早瀬の唇を追ってしまう。
「なっ……!」
脳の言語野がまだ巡航速度に達しない。
「……にしやがるんだぁ!」
やっとそれだけ言葉にできた。
はっと気づいて片手で唇を押さえると、もう片方の手でヤツの顔を押し返した。
しかし、早瀬は指の間からこっちを見たままニタニタと笑っている。
「なにって、東條……お前がして欲しいことをしたんじゃねぇか」
「誰がキスしてくれって言ったんだよ!」
嫌らしい笑顔にカチンときて、俺の怒りが沸騰する。
こっちは樹里亞と別れてイラついている。そんな俺にケンカを売るとはいい度胸だ!
「お前なぁ、
「なに言ってんだ、早瀬? 振られたら同性の友達に慰めてもらうもんだろう? なんで俺がお前なんかと……って言うか俺はレズじゃねぇ!」
「突っ込むトコはそこかよ」
早瀬が空いた方の手のひらを天井に向けてポーズをとる。
「よく聞け、東條? お前は好きな女に振られた『女』で、相談相手の俺も『女』だ。まぁ、お互い言い方にはいろいろ思うところはあるだろうが、ハタから見れば俺たちは女同士だ。俺の言ってることがわかるか?」
言われてみれば確かに、俺もレズみたいなものかもしれない。
でも、だからと言って……。
「キスなんか望んでないぞ!」
早瀬の顔を押し返したまま叫ぶ。
そうだ。そこのところを誤解してもらっては困る。
「なに言ってんだ? 柘植 るちあに慰められても満たされなかったんだろう? 別れた彼女がいなくなってポッカリ空いた穴を、どうにか埋めてくれる誰かを探しにきたんじゃないのか?」
そう言われてハッとする。
るちあは慰めようとしてくれた。でもそれは俺が思ってたのと違っていて……って、俺が求めてたのってエッチなことなの? さっき早瀬とあの女がやってたみたいな事をやりたいってこと? 俺が? 早瀬と?
それはナイ。
ナイナイ。
ナイナイナイ。
絶対にアリエナイ!
「俺……うもぁ!!!」
言いかけて俺の口がふたたび塞がれる。
キスで黙らされるだなんて少女漫画の中だけの話だと思ってたけど、実際にやられるとビックリして声が出せなくなってしまう。
顔を押し返していた腕は早瀬に掴まれて壁に押し付けられていた。体勢を崩されて脚を踏ん張ることもできない。
誤解なのに。
俺はこんな事を望んでいる訳じゃないのに……。
さっきよりもずっと長い。でも、不思議とイヤじゃなかった。
「お前は門倉に傷つけられたんだ。癒されたいと思うのは当然だろ?」
え? 傷つけられた? 誰が?
「自分が傷ついてるの、わからないのか?」
早瀬が俺の目を覗き込む。
そこにあったのはいつものいたずらっ子のような顔じゃなくて、すべてを任せても構わないと思えるほどに頼れる『男』の相貌だった。
女だけどね……。
なにも言えずに俺は早瀬の瞳を見つめ返す。
三度目はゆっくりと唇が近づいてきたけど、どういうわけか身体はそれを避けようとしない。
早瀬の唇が俺の唇を軽くついばんで、それからまた静かに押し当てられる。
抑えられた腕から自然に力が抜けていくと、柔らかく尖ったものが前歯の間から押し入ってくる。
こんなキス……樹里亞とだってしたことない。
俺って、傷ついてたのか……。
自分でもよくわからない。でも、早瀬にキスされながら、涙が頬を伝うのを感じた。
「他でもない親友の頼みだ。今夜は俺がずっと一緒にいてやるよ」
そう言って早瀬はオトコマエに微笑んだ。